一般的なサラリーマンに比べると、医師は転勤する機会が多いと言われています。
確かに、医局に所属する医師にとって転勤はつきものです。一方、医局に所属していない医師であれば、転勤とは無縁の生活を送っている場合もあるでしょう。
引っ越しを伴う転勤は、生活面でも仕事面でもなにかと負担が大きいものです。そのため、医局に所属する先生のなかには、転勤族としての生活や転勤ありきのキャリアパスに不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、医局に所属する医師に転勤が多い理由や転勤のメリット・デメリットなど、医師のリアルな転勤事情について退局・転職にも言及しながら解説したいと思います。
医師のリアルな転勤事情とは?
一口に医師の転勤と言っても、大学医局に所属しているか否かでその実情は異なります。こちらでは、医局に所属する医局員の転勤事情を中心に解説いたします。
医局所属の医師なら転勤は当たり前
医師は大きく分けると、大学医局に所属している医師と、大学医局に所属していない医師の2種類に分かれます。医局に所属している医師の場合、転勤(人事異動)は必ず発生するといっても過言ではありません。基本的に転勤辞令を断ることはできないため、辞令が下れば医局の指示に従って準備を進めることになります。
一方、医局に所属せず勤務先と直接雇用契約を結ぶ医師の場合、基本的に転勤はないと考えて問題ありません。法人の規模によって全くないとは言い切れませんが、転勤の可能性があるか否かは入職前に確認することが可能です。
転勤は医局が決める
大学医局の人事異動において、誰がどの病院に転勤するかは人事権を持つ医局上層部が決定します。医局員は事前に書面や面談などで希望を聞かれる場合が多いですが、希望がどの程度配慮されるかはその医局の基本方針や上層部の価値観によるところが大きいです。
基本的には医局の都合が優先されるため、個人的な希望は通らないと考えた方が良いでしょう。医局側も個々の希望まで配慮する余裕がないというのが実情で、特に若手医師の希望は通りにくいと言われています。ただ、将来的なキャリアや学びたい内容を伝えると、転勤先を調整してもらえる場合もあります。
医局人事のタイミング
医局人事はだいたい転勤の半年前~3ヶ月前くらいに決まることが多いです。実際に転勤する時期は4月もしくは10月がほとんどですが、急な欠員など事情によっては臨時の異動もありえます。
医師の転勤が多い理由
では、医局に所属する医師はなぜ転勤が多いのでしょうか。こちらでは、医局員の転勤が多い理由を解説いたします。
地域医療・へき地医療への支援
医局人事には、大学病院や関連病院に適切に人員を配置するという目的があります。医局医師が派遣される関連病院(ジッツ)は、地方やへき地にも存在します。多くの医師は都市部の病院を希望するため、遠隔地の病院は人手が不足しがちです。
そこで、地域医療・へき地医療を維持するため、医局が人事権を行使して定期的に医師を派遣しているのが現状です。地方やへき地の病院において、医局人事は安定した診療体制の維持に大きな役割を果たしています。
医局医師の教育
医局人事には、医局に所属する医師の教育という側面もあります。同じ病院にずっと勤務していると、経験できる症例が限られたり、メンバーの固定化により視野が狭まったりと、どうしてもスキルや思考に偏りが生じやすくなります。そこで、転勤によって幅広い経験を積ませることで、医局員に医師としての成長を促す目的もあるのです。
若手医師の場合、1~3年に一度は転勤となるのが一般的です。転勤頻度は医局内での地位が上がるにつれて落ち着く傾向にありますが、医局に所属している限り全くなくなるということはありません。
医師が転勤するメリット
転勤は負担が大きいというイメージがありますが、悪いことばかりではありません。こちらでは、転勤のメリットを解説いたします。
キャリアパスを形成しやすい
医局員の転勤には、キャリアパスが形成しやすくなるというメリットがあります。例えば、あらかじめ「専門医を取得したい」といったキャリアの最終目的を伝えておけば、転勤先やタイミングは自由に選べないものの、医局はその目的が叶えられるように勤務先を調整してくれます。
一時的にキャリアと関連しない病院に転勤することもありますが、長期的には希望のキャリアパスを形成することができるでしょう。
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経験・実績が手に入る
異なる病院や診療科目で働くことにより、さまざまな症例や手術を経験できるというメリットもあります。転勤ではなく転職で同じような経験を積みたいと思うと、頻繁に転職活動をして自分で次の勤務先を探さなければなりません。しかし、転勤であれば自動的に次の勤務先が決まることに加え、頻繁に転職を繰り返しているというマイナスなイメージもつかないという利点もあります。
転勤で多くの経験・実績を積み重ねれば、医局を離れて転職する際にも有利に働くでしょう。
新しい環境で暮らせる
地方に転勤した場合、好条件の物件に格安で住めたり、通勤時間が短くなったりすることもあります。新しい土地で暮らすことでリフレッシュできたり、コミュニケーション能力が向上したり、人脈が広がることもあるでしょう。
また、仮に人間関係に悩んだとしても、数年ごとに転勤があれば「次の異動までの辛抱だ」と割り切って考えやすいというメリットもあります。
医師が転勤するデメリット
転勤には一定のメリットがあるものの、やはりデメリットもあります。こちらでは、転勤のデメリットを解説いたします。
給与が下がる恐れがある
医局所属の医師の給与は、勤務先の給与体系に準じます。そのため、転勤によって勤務先が変わると、給与が下がってしまう可能性もあります。実際に私立病院から公立病院に転勤する場合、年収が50万円ほど下がるケースもあるといいます。
また、医局員が転勤する場合、勤務先からは一度退職という扱いになります。そのため、勤続年数がいったんリセットされてしまい、退職金がたまらないというデメリットもあります。病院では通常勤続3年以上が退職金支給の対象となるため、支給条件を満たせない場合も多いです。
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転勤辞令は原則断れない
健康上の理由や介護など、やむを得ない事情がなければ転勤辞令は断れません。滅多に無いことですが、たとえ1週間前など急に転勤を言い渡されたとしても、それに従う必要があります。転勤を断ることは医局から離れることと同義であり、場合によっては除名を宣告される可能性もあります。
医局と揉めるとその後のキャリアパスに悪影響が及ぶ可能性もあるため、転勤を理由に医局を離れる場合でも、なるべく円満退局となるよう慎重に動く必要があります。
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人間関係で苦労しやすい
転勤で職場が変わると、人間関係も一から構築しなければなりません。転勤先によっては上司や同僚に馴染めず、苦労する可能性もあるでしょう。やっと職場に慣れたというタイミングで再度転勤となってしまう場合もあり、深い人間関係が築きにくいというデメリットもあります。
また、家庭を持っている場合、家族にも同様の負担がかかります。パートナーの仕事や子供の学校の関係で単身赴任せざるを得ないケースもあり、家族と離れて暮らすことにストレスを感じる場合もあるでしょう。
忙しい職場に派遣されやすい
医局人事では、人手不足を解消するために転勤を命じるケースも多いです。その場合、前の職場より忙しくなる可能性が高く、激務で辛い思いをすることもあるでしょう。転勤直後は環境の変化でただでさえストレスを感じやすい状態のため、無理をし過ぎて身体を壊すことのないよう注意が必要です。
【医師の転勤】医局人事に不満があるなら転職も検討しよう
何度も転勤を繰り返していると、心身に大きなストレスがかかってしまうこともあるでしょう。転勤が続くことに不満を感じるなら、無理をせずに医局を離れて転職するのも一案です。医師としてどう働きたいのか、最終目的は何なのかなどを踏まえて検討すると良いでしょう。退局後のキャリアを見越して、「専門医の取得まで」「学位の取得まで」など、自分のなかで辞め時を考えておくのも良策です。
実際に転職活動を始める場合には、転職エージェントを活用するのがおすすめです。転職エージェントを利用すれば、自分に合った求人を探してもらえるほか、まだ退局すべきかどうか悩んでいる場合でも相談に乗ってもらえます。転職活動全般をトータルサポートしてもらえるため、多忙な中で転職を成功させるための一助となるでしょう。
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まとめ
今回は、医局人事を中心とした医師の転勤事情について解説しました。
医局に所属する医師にとって、転勤は避けて通れない道です。転勤には地域医療・へき地医療の維持や若手医師の教育といった目的があり、派遣先は医局上層部が決定します。若手医師であれば数年おきの転勤も珍しくなく、原則として断ることはできません。
転勤には一定のメリットがあるものの、少なからずデメリットもあります。
< 転勤のメリット >
- 長期的なキャリアパスを形成しやすい
- さまざまな病院で幅広い経験・実績を積める
- 新しい環境でリフレッシュできたり人脈が広がったりする
< 転勤のデメリット >
- 給与が下がる可能性や退職金がたまらないおそれがある
- 不本意な転勤であっても断ることができない
- 転勤の度に一から人間関係を構築しなければならない
- 忙しい職場にばかり派遣される可能性がある
転勤で得られるメリットよりもデメリットによるストレスの方が深刻だと感じれば、退局・転職を考えるのも一案です。医師にとって退局は大きな決断ですが、医局を離れても主体的にキャリアを形成することは可能です。迷っている場合には、まずは転職エージェントに相談してみるのも良いでしょう。
医師ジョブでは、退局を伴う転職サポートにも実績がございます。無理に退局を勧めるようなことはございませんので、是非お気軽にご相談ください。