DXというキーワードが登場して以来、DX推進組織のトップが集まる場で、課題解決のファシリテーションをしてきたが、先行している企業での悩み事の多くが、デジタル技術「そのもの」ではなかった。
では、なにが問題だというと、タイトルの通り「横串にと作られたDX組織が、縦割り組織に活動を邪魔される」というものだった。
未だ同じ悩みに囚われている方が多くいらっしゃることがわかったので、この記事ではこの問題の理由と解決策を深掘りしていく。
経営層の理解が低く丸投げ
まず、縦割り以前の問題として、DX推進がうまくいかない理由は、「経営層の理解が低く丸投げ」であるという場合が一番多かった。
ITによる、ビジネスリエンジニアリングが流行していた30年くらい前も、そう言えば同じような感じだった。
そもそも、経営層が「デジタル技術を自社のビジネスモデルやビジネスプロセスに取り込む」ということがどういうことかを理解しておらず、「なにかソリューションを入れればよい」と考えていたり、どこかのセミナーで「横串の組織を作ることが重要」と聞いてきて、中身を自分で決めず、丸投げしているケースがこれだ。
これを回避するために、経営層に対する教育を綿密に行った例として、とある製造業の事例を紹介する。
この企業では、これまでのIT推進に関しても、丸投げにされてきた経緯があったため、DXに関しても「きっと丸投げされるに違いない」という懸念を、DXがバズワードとなった当初より感じていたのだという。
それで、「丸投げされる前に経営層に理解をしてもらうことが重要」と考え、社内勉強会などを開催。
ただ、ここで、問題がまた発生する。
勉強会を開いても、前向きに取り組もうとしない経営層がいるということだ。こういう上席者に対してできる手はないのだろうか、諦めてしまったら終わりだ。
重要性を理解していない人が舵取りをする企業では、いくらミドルマネージメントが立派なDXのアプローチを考えたところで、大きな結果は生まれない。
上席者は納得させるのではなく、巻き込む
この争点について、とあるメーカー企業のDX推進の方とお話をしていた時、「なるほど」と思った手がある。
まず、経営層はDXというと、ビジネスモデルを変革するというより、不確実な社会に機敏に対応することができるように、データで会社の状況を可視化したいというケースが多い。
可視化したいという経営層の思い自体は、新型コロナウィルスの問題や自然災害の問題、半導体不足、米中貿易摩擦と、予測不可能なことが起きる昨今では当然な感覚であるとも言える。
ただ、問題は可視化したところで燃え尽きて、活用されないため、いつまで立ってもデータドリブンにならないことだ。
これでは、DXについて大鉈を振おうと思っても、抽象的な議論にしかならず、せっかく何かの情報システムを導入したとしても、宝の持ち腐れとなる可能性は大きい。
そこで、このDX推進担当の方はどうしたのかというと、「経営層が希望するデータを見れるようにする代わりに、かならず会議でそのデータを使ってもらう」ことにした、という。
多くの無関心な経営層がおかしがちなのが、初めだけ口を出して、実際には取得されたデータを使って意思決定をしていない、ということ。
ダッシュボードですぐみれるようにしたにも関わらず、いつまでも部下に紙のレポートを要求するような経営者にありがちな態度だ。
しかし、そもそもDXにおいて、経営者が果たすべき役割は、DXによって得られたデータを活用して意思決定を行うこと以外にない。
新しいビジネスモデルを試すにせよ、新しいビジネスプロセスを作るにせよ、なんにせよまずは「見える化だ」と言われ続けてきたが、見える以上なんらかのフィードバックが必須になるのはいうまでも無い。
指示を出して現場に任せているだけでは、デジタル化はすすんでも、DXを実現することはできないのだ。
そこで、この事例のように、上席者が参加する会議で、「見れるようになったデータを見ながら話してもらう習慣にする」ことで、「会社全体の意思決定の根拠がデータで見れるように」なり、さらなる改善も進むようになる。
なにより、勘や経験で指示を出さなくなるようになっていくことが嬉しい。
縦割り組織の横串なDX
ところで、本題の縦割り組織が、横串なDXを実現できるのか、という問題だが、私の答えは「イエス」だ。
どこの会社でも、発言力のある部署や人物がいる。
大企業であれば歴史もある分、当然だ。
こういった人物が、DX推進組織にいてくれるだけで、縦割り組織を動かすことができる。
しかし、その人物が、結局は経験や勘だよりの意思決定をする人物である場合は、「データ」が意味をなさなくなる。
つまり、この人物は、先ほどまで書いてきた「データを見ようとしない経営層」となるわけだ。
一方、多くの企業において、発言力のある人物は長年の「これまでの成果」からそのポジションに立っているだけに、そういった人物の「これまでの考え方」を変えるのは一筋縄ではいかない。
覚悟のある人物が会社を変える
こうなってくると、最後はデータを見て意思決定をする考え方を持ち合わせる、「覚悟のある人物」がDXを推進しているのかどうかが重要になる。
覚悟が必要なのは、前述したように、DXがつまずく大きな原因の一つが、たった一人の発言力に依存することが多いからだ。
どんなに教育していこうと、どんなに巻き込んでいこうと、変わらない人にはある種の信念を感じさえする。
そこを突破するには、その人物に認められ、任されるような行動や覚悟を持っていることが必要になる。
あと10年待って、代替わりが起きるのを待つのも良いが、高齢化社会の日本では、国は定年退職の時期をどんどん遅らせようとしている。
待つことは、近い将来「死」を意味するのかもしれない。
そう考えると、デジタルトランスフォーメーションと言えど、最後はデジタルというより、突破力のある人物が推進しているかどうか、その人物に経営層や現場の理解を得てどのように巻き込んでいく能力があるか、そういった実行能力が重要になるのだ。
本当は、経営層がそんな人物であれば、DX推進担当者は苦労する必要もないわけだ。
「そんな苦労をするくらいなら別の会社で頑張ろうと」優秀な人材が思わないうちに、データに疎い経営者は自身が変わる必要があることに気づき行動すべきなのだ。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。