"J.S. Bach : The Goldberg Variations BWV 988" (2002) |

1. ARIA
2. Var. 1 - Courante
3. Ver. 2 - Trio
4. Ver. 3 - CANON in Unison
5. Ver. 4 - Passepied
6. Ver. 5 - 2 part Invention
7. Ver. 6 - CANON at the 2nd
8. Ver. 7 - Gigue
9. Ver. 8 - 2 part Invention
10. Ver. 9 - CANON at the 3rd
11. Ver.10 - FUGHETTA
12. Ver.11 - Gigue
13. Ver.12 - Inverted CANON at the 4th
14. Ver.13 - Chorale
15. Ver.14 - Toccata
16. Ver.15 - Inverted CANON at the 5th
17. Ver.16 - OVERTURE
18. Ver.17 - 2 part Invention
19. Ver.18 - CANON at the 6th
20. Ver.19 - Minuet
21. Ver.20 - Toccata
22. Ver.21 - CANON at the 7th
23. Ver.22 - ALLA BREVE
24. Ver.23 - Toccata
25. Ver.24 - CANON at the Octave
26. Ver.25 - ADAGIO
27. Ver.26 - Sarabande
28. Ver.27 - CANON at the 9th
29. Ver.28 - Concerto
30. Ver.29 - Toccata
31. Ver.30 - QUADLIBET
32. ARIA
JSバッハの有名なハープシコード用の楽曲である「ゴールドバーグ変奏曲(ゴルトベルグ変奏曲)」のオルガン版である。アレンジはすべて一音一音に対してヒュー自身の手で行われた。もともとは2段鍵盤のハープシコード用であるが、それをここではペダル・ベースを含めて教会オルガン(ヒューはこの楽器を『最も信頼のおけるマルチ鍵盤楽器』だという信念を持っている)向けにアレンジしている。このアレンジによって楽曲のもつ明晰さ・明瞭さを、連続するカノンと、しばしば両手をクロスさせることの両方の要素において強調することを可能とした。
録音は、一部をヒューの経営する教会オルガン製作会社の研究開発用のスタジオで行い、一部をヒューの住んでいる運河ボートハウス兼スタジオで行ったとある。高解像度のMIDI録音機材が用いられた。ここに収録された楽曲はすべて2段鍵盤+ペダル・ベースのデジタル・オルガンで演奏されたものである。そのオルガンは、もちろんヒューの設計によるもので、サンプリング音源は一切使用されていない。すべての音はリアルタイムにコンピュータを駆使して作り出されており、教会オルガンのストップやボイシングを完全にシミュレートしている。それは本物のパイプ・オルガン独特の空気が送り込まれるときの微妙な風切り音や余韻まで緻密に計算されたアルゴリズムに基づいて創り出されているというのだ。ちなみに、このアルバムに用いられたオルガンのハードウェアはヒューのオルガン・ワークショップ社のH.B's Full-Size Church Organ に用いられているものと同じモジュールを使用しているのだそうだ。それらを特別に組上げているのだという。
こうした特別な楽器の素晴らしい特性を、さらに最大限にCDの上に記録するために一つ一つの音を分離するためにマルチ・トラックで録音されている。それにより、通常のパイプオルガンの録音では絶対に得ることのできない音の明晰さ・明瞭さが得られているという。
ブックレットは厚手の紙に印刷されており、ヒューの気合の入り具合が見て取れる。ジャケットは実際の絵画をモチーフに制作された実際のステンドグラスをモチーフにしたポール・リダウトの手になる黒を基調としたデザインになっている。ブックレットにはヒューのペンによる解説が3つのパートに別れて掲載されておりそれらは「ゴールドバーグ変奏曲の神話と歴史」「ゴールドバーグ変奏曲の構造」「ゴールドバーグ変奏曲の録音」と題されている。中央の見開きには自作のオルガンを演奏するヒューの白黒写真が載っており、おそらくはそのオルガン(録音に用いたもの)のストップ/ボイシングの音色だと思われるリストが重ねられている。ブックレットの裏表紙には小さく彼の運河ボートハウスの写真もあり興味深い。また、ケースの裏ジャケット部分にはヒュー・バントンの略歴のような紹介文が載っている。
このおよそ68分に及ぼうかというアルバムは、ヒューのファン、バッハのファンともに楽しめるものではないかと思う。ヒューの原点は教会オルガンを習っていた子供のころに遡ることができ、ヒューのルーツのひとつがこういう形で発表されたというのは非常に嬉しいことである。願わくはもうひとつのルーツであるポピュラー・ミュージックの方の掘り起こしもぜひ聴いたみたいものだと思う。
by BLOG Master 宮崎