"Patience" <Peter Hammill> |
1) Labour of Love
2) Film Noir
3) Just Good Friends
4) Jeunesse Doree
5) Traintime
6) Now More than Ever
7) Comfortable?
8) Patient
Kグループとしての2作目、ソロとしては12作目となる本作は「我慢、忍耐、辛抱強さ、根気」という訳語となるが、楽曲としては「Patient」つまり「患者、病人」。どう受け取るかは音楽を聴いてから。さて、前作とついになる作品と紹介されていたこのアルバムはKグループとしては2作目となります。前作同様デヴィッド・ジャクソンが参加。デヴィッド・ロードも本作ではエンジニアとしてだけでなくプロフェットVを演奏しています。注目すべきはスチュアート・ゴードンが初めてゲストとして登場していることでしょう。DLとともに3曲目で演奏しています。ソファ・スタイルとバンド・スタイルとのハイブリッドだと言っていた前作と比べると全曲ともバンド楽曲で占められている印象を受けます。PHの弾くシンセもかなり入っているし、コーラスワークなど多重録音を駆使しているのですが、バンドならではのパワーのほうがより印象強いからでしょうか。
1曲目は、前作同様ユーモアさえ感じるシンセのフレーズが印象的な「Labour of Love」。その軽いフレーズと重いフレーズでの展開部分が非常に深いコントラストを生み出している。ライブではピアノで弾くためかよりリズムのアクセントが強調されている。後半ではギターとサックスによるフリーキーなアドリブが絡む場面もあり非常にスリリングである。次は、「エンターK」のところで紹介したシングル・カット曲「Film Noir」は、1曲目の最後が余韻を引きずるような終わり方のため、突然の怒涛のギターのフレーズに驚かされる。アップテンポなこの曲ではバンドのタイトな一面がよく出ており、シングル・カットされた理由もその辺にあるのではないだろうかと思われる。曲中に挿入されるシャッター音が疾走感を煽っている。3曲目「Just Good Friends」では一転してピアノとアコースティック・ギターのユニゾンがクラシカルな印象さえ与えるが、実際にはこれもPH言うところのネオ・バラッドである。ライブでも定番化しているので人気がある。歌詞を下手に訳してしまうと歌謡曲のようにも見えるが、実際の歌はまったくそういう風には聞こえないところがPHならでは。A面最後は再びアップテンポな「Jeunesse Doree」では、途中でのブレイクとそれに続くヘヴィなメロディ展開がVdGG想起させる。末期VdGは、実はこういうところを目指していたのかもしれないと思うのは私だけではあるまい。メンバー4人中3人がVdGであり、ヴァイオリンの替わりに、よりハードエッジなギターを用いたKグループはまさにVdGでの遣り残したことをやるためのバンドだったのかもしれない。
2001年のライブでその圧倒的な存在感を再認識させられた曲が「Traintime」であった。ライブでの重くゆっくりとしたピアノでのイントロと違い、スタジオ録音ではかなりはやめのテンポでボレロ風のスネアが特徴的。ライブを聞いた後ではむしろあっさりしているようにすら感じるが、こちらには作りこまれた完成度の高い美がある。次の「Now More Than Ever」では、前作からのシングル「パラドックス・ドライブ」のB面として収録されたバージョンに比べてフレーズのスタッカートが強烈になっており、そのためリズムの切れが抜群に向上している。それにより曲の存在感も増したと言える。ここでも緩急を付けた展開がすばらしい。そして「Comfortable?」ではドラムスも含めてさらにリズムが強烈に展開される。どちらかといえば押さえたメロディで始まるため、前作での「ハッピー・アワー」のような展開を一瞬思い浮かべてしまうのだが、これがまったく裏切られ、激しくドラマチックな展開に圧倒される。この曲でこのアルバムは終わってしまうのではないかと思うくらいのすばらしさ。そして最後の曲。タイトルとの関係も意味ありげな「Patient」だが、歌詞からすると「患者」が短絡的に出てくるタイトルの訳語である。前作での「ハッピー・アワー」に相当するヘヴィーな1曲である。やはりライブでも数多く演奏されている。さびの部分でのブレイクは、ライブ会場で始めてこの曲を聴いたファンの誤った拍手を誘うこともあり、どうもPHはそれを楽しんでいるようでもある。
このアルバムは前作「エンターK」と比べ、ソロ・ライブで取り上げられる楽曲が5曲と多い。歴代のアルバムの中で「シッティング・ターゲッツ」と肩を並べるのはこのアルバムだけである。つまり、この作品もまた楽曲としてPHの中では特別な位置を占めるものだということだろう。「うたもの」としての完成度はむしろこちらのほうが高いのかもしれない。それゆえか、アルバムのクレジットには、通常「Produced by Peter Hammill」とあるべきところを「a K production」と誇らしげに書いてあり、それはLPのレーベル面にも記載されている。また、本アルバムは1991年にリマスターされたものがCDとしてFie!レーベルからリリースされている。リマスターはテラ・インコグニタ・スタジオで行われた。ジャケットの写真はギタリストのジョン・エリスが撮影したもので、1991年のCD化に際してポール・リダウトによって「リカバー」された。個人的な感想としては、「ザ・フューチャー・ナウ」から始まった一連の音楽的探求は、本作でひとつの区切りを迎えたのだと思っている。それを証明するかのように本作後、しばらくは試行錯誤とでも言うべき時代に入ることになる。
by BLOG Master 宮崎