"Godbluff" <Van der Graaf Generator> |
1. The Undercover Man
2. Scorched Earth
3. Arrow
4. The Sleepwalkers
すでに同時代に同じカテゴリーだと分類されていた多くのバンドが、VdGGが解散していた間にその全盛期を過ぎたと看做され、迷いや妥協によって低迷を始めていた、あるいは解体・解散していた1975年、VdGGは突然復活を果たす。ロックがポピュラー音楽産業の中に急速に取り込まれつつあった時期である。彼らは1974年の8月からバンドとして活動を開始している。そして本作を含め3枚のアルバムをたった12ヶ月の間に発表したのだ。ゆえに俗に言う『後期三部作』は一塊の作品群であることは間違いない。本作のレコーディング・セッション(1975年6月)では次作に収められることになる「La Rossa」を含めた5曲が録音されている。なぜ1曲のみ次に持ち越されたのか、その理由を知るには次のアルバムが出るまで待たなければならなかった。
初期・前期のアルバム4枚がすべてジョン・アンソニーのプロデュース、ロビン・ケーブルのエンジニアリングであったのに対して、本作からプロデュースはVdGG名義となる。これは、プロとしてのキャリアを積んだピーターを中心にいかにバンドが充実していたかを示してはいないだろうか。バンド名義のプロデュースとなっていることは、ピーターにとっては、バンドとソロの明確な区分であったに違いない。これは断じてソロ、あるいはソロの延長ではないということを示したかったのだろう。そして、それは見事に成功した。
「The Undercover Man」:静かなフルートの囁きで始まるこの曲は、前作までの音とは完全に異なるものだ。それはピーターのソロアルバムともまったく違っており、まさにバンドの音である。より強靭に、よりしなやかになったVdGGが姿を現した瞬間である。完成度という点からは、前作までとは素人とプロの差があると言ったら怒られるであろうか。それほどまでにこの曲は圧倒的である。付け入る隙がないのだ。
「Scorched Earth」:1曲目のエンディングから違和感なくこの曲のイントロへと移行するのだが(もちろん曲間はちゃんと空いている)、まるで映画を見ているかのような臨場感と緊張感が持続している。いやむしろ高まっている。タイトルどおりの焼け焦げた大地に立っているかのようだ。言葉通りに言えば焦燥感にも似た緊張感が堪らない。
「Arrow」:今でもとても人気の高い曲。風の音に混じってテンポの速い展開を予想させるドラムスとベースの絡み合う中、サックスが咽ぶように入ってくる。それを引き止めるかのようにゆっくりと時を刻むようにエレクトリック・ピアノが入ってくるイントロはいつ聞いてもゾクゾクとさせられる。吐き出すように歌われていくメロディは全て切り裂くかのような鋭さに満ちている。この感じ、切なさのかけらもなく、自らを逃げることのかなわぬところへと追い詰めていくような厳しさが心地よい。
「The Sleepwalkers」:デヴィッドによる上下に激しく振れるソプラノ・サックスのリフが特徴的な曲である。この曲もまた歌詞のテーマは「The Undercover Man」と同様戦争であるという。その一方で「テーブル上のチャチャ」と彼らが呼ぶお遊び的な部分をさしはさむなど茶目っ気も忘れていない。そしてアルバム中もっともドラマチックな展開を見せる後半はアルバムのラストにふさわしい。
このアルバムではもちろんベーシストはヒュー・バントンである。ライブではオルガンの方が圧倒的に多かったようだが、なかなかどうしてベースの腕前もたいしたものだと思う。もちろんテクニカルなことはほとんどしないのだが、ベースラインはよく練られており、本作から積極的に導入されたピーターの弾くエレクトリック・ギターとともに効果を挙げている。もちろんオルガンとEピアノで絡むときが最も魅力的ではある。
VdGGの作品の中でもっともストレートにハードなロックを演奏している作品だといわれることも多い本作は、そのストイックさにおいて抜きん出ていると個人的には思っている。ゆえにこれは私にとってのVdGG最高傑作であると言わせていただきたい。それゆえ私はあまりにも語るべき言葉をもてないでいる。このアルバムは私の中にあまりにも深く染み付いてしまっているのだ。いまでもこのアルバムだけは聴くたびに特別な緊張感が沸き起こってくる。そこに理屈はない。
一方で、このアルバムは他の作品に比べて幾分無機質だという批判があるのも事実だろう。ここでのピーターの歌があまりにもソリッドで、センチメンタルな感情移入がしづらいというのが理由かもしれない。しかし、このアルバムでは敢えてそういう曲を集めたのかもしれないという疑問が起こる。それは次作を知っているからかもしれないが、比較してみるとこの解釈は妥当に思える。わずか半年後に録音された4曲に「Godbluff」セッションから1曲を加えた「Still Life」はこのアルバムと表裏一体の関係にあるといえるのかもしれないが、その話は次に譲ろう。
エンジニアリングはパット・モーランであるが、これはVdGG空白期間中のピーターのソロ・アルバムでのエンジニアである。バンド用の楽曲のソロ・バージョンを一部納めた「サイレント・コーナー」「カメレオン」「ネイディアズ・ビッグ・チャンス」での楽曲経験が本当のバンドでの録音に見事に生かされている。前作までの音響よりもかなりリアルな手触りが後期三部作の特徴である。それがバンドの音楽性とあいまって効果を挙げている。
2001年の来日時だったかピーターにこのアルバムがVdGGのベストだと思うと言ったことがある。同時に「A Black Box」がソロでのふぇいばりっとだと。ピーターはただ笑ってうなづいただけだった。これらはともに黒地にタイトルとアーティスト名が書かれただけのシンプルなジャケットがデザインの共通になっており、それはおそらく意図的なものだろうと思っている。彼自身の中に確信がある作品にのみこの黒いジャケット・デザインを用いているのではないだろうか、と。もちろん、これは個人的な思い入れのひとつでしかない。異論はあまりにも多い。
By BLOG Master 宮崎