IKKON STYLE
「燗酒ノ城」店主前田洋志さん
2020.01.14
「燗酒ノ城」店主、前田洋志氏に聞く IKKONで楽しむ燗酒の世界(第4回)
IKKON SAKE WARMER(陶製の卓上酒燗器)とともに味わう燗酒の世界。全国から燗酒ファンが訪れる福島市の居酒屋、「燗酒ノ城」店主の前田洋志氏に語っていただくシリーズ第4回です。
「燗酒ノ城」店主 前田洋志さん
徳島県生まれ。子供のころから身近に日本酒がある環境で育つ。一度は企業に就職するも、日本酒好きが高じて酒造りの世界へ。京都や鳥取、三重、東京などで通算10年ほど蔵人としての道を歩む中で、あらためて燗酒のすばらしさに開眼。その後、作り手ではなく売り手として日本酒業界に貢献できる道を選び、長年の夢だった自分の店を持つことに。2016年9月、奥様のご実家のある福島県福島市にて「燗酒ノ城」を開業。
前田さんプロデュースのお酒もトライ!
――最後は鈴木酒造店の「磐城壽」ですね。「燗酒ノ城」には福島のお酒はほとんどないとおっしゃいましたが、ここはもともと福島県浪江町にあった酒蔵(現在は山形県長井市)です。こういうラインナップのお店にはほぼ必ず置いてある銘柄ですよね。
作り手の鈴木大介さんは関西で修業しておられたこともあるせいか、ある意味、「福島っぽくない」お酒といえるでしょう。また、1年半くらい熟成しておいしくなるような造りをされているようで、とてもお燗に向きます。
――「そらみずつち」というのは、その中でも特別な銘柄ですか?
これは東日本大震災後に私が企画したお酒なんです。当時、私は福島市街の飲食店で働いていましたが、原発事故の影響で飲食店だけでなく農業も酒造もぜんぶダメージを受けました。何かしなければと思って始めたのが、(例年通りの作付けができなくなってしまった)田んぼを活用して酒米を作り、それでお酒を造ってみんなで飲んで元気になろうというプロジェクトです。
そこで、大阪の蔵元さんから山田錦の種籾を譲りうけ、福島市内の知人の農家さんのところで栽培していただき、それを山形に避難した鈴木酒造店に持っていって醸してもらったのが、この「そらみずつち」です。
――鈴木酒造さんが浪江にあったときからのお知り合いだったのですね。
ええ、浪江にはよく訪ねていました。福島県には燗にあう酒が少ないので、もっと骨太で燗に向く酒を作れないかと、鈴木大介さんとは飲みながらよく話していたものです。大震災の年の3月初め、大介さんから、そんな「燗向きのいい酒ができたよ」という電話があって、じゃ来週の日曜日に行きますねって約束していたんですよ。そうしたらその2日前の金曜日に大震災が来て、(海岸近くにあった鈴木酒造店は津波で)ぜんぶ流されてしまった。
そんな思いも引き継ぎながら、福島市で育てた酒米でお燗に向くようなお酒を仕込んでもらったのが、この「そらみずつち」。「人間は太陽と水と大地によって生かされている」といった意味ですね。亡くなった父が病床で筆をとって書いたこの言葉を思い出し、この酒にふさわしいと思って名づけました。
――では、いただいてみましょう。
IKKON SAKE WARMER の湯せん器にぬるめのお湯を内側の線まで注ぎ、そこへお酒を入れたちろりを静かにおさめます。6分ほどかかって47度まで上昇しました。
――お湯が沸騰していなかったので、先ほどよりは温度の上がり方が遅いですね。
こうやってじわじわと温めた燗はおいしいですよ。こうしてじっくり40度になったものと、一度50度まで行ってから40度まで冷めたのでも味が違うので、後で比べてみてください。ご自宅では一度にたくさんの種類の飲み比べはできないでしょうが、ひとつのお酒を温度を変えて楽しむのもいいですよ。
ここで湯せん器に沸騰したお湯を足してみると、余熱もあったことから3分余りで60度まで上がりました。
――常温で飲んだときとは別のお酒のようです。
かなり熱くなりました。先ほどと全然違いますね。ベタっとしない。キレる。これはおいしい(笑)。
――最初からこういう燗酒に親しめば、若者の日本酒離れもなくなるのではないでしょうか。
うちの店は大学が近いので学生さんもよく来ます。若いうちからお燗に親しんでもらいたいので、「学生さん燗酒セット」というメニューも作っています。ここで日本酒のおいしさを知ってくれて、就職先に酒蔵を選んでくれる学生も出始めているんですよ。人材育成というと大げさかもしれませんが、そういう面から日本酒業界に貢献したいというのも、店を始めた理由のひとつです。
――学生アルバイトの「燗番娘」もいらっしゃるとか。
はい。文字通りお燗の番をしてもらっていますが、おもしろいことに同じ酒を同じ温度で飲んでも、燗をつける「つけ人」によって味が違うんですよ。なぜなんでしょうね。不思議ですけど、これは本当です。
――燗酒の世界はまだまだ奥が深そうです。どうもありがとうございました。
(了)
[聞き手=松永武士、文・写真=中川雅美]