カマク村の人たちは主食のドングリを集めるために、
年に一度、村ごとパロマ山へ繰り出すならわしです。
老いも若きも村人すべて、病人も担架に乗せて、
大事な行事に団結し、残るのは空っぽになった家だけです。
だれもその頃、泥棒の心配なんてしてませんでした。
(まだ白人なんてやって来てないころの話です。)
その頃、隣村のアホヤから、すっからかんになったこの村に、
旅人が一人やってきました。彼は村がこういうことになっている
理由を知っていましたので、一人の友人にも会えないことも
先刻承知でした。
彼は、ここで夜を過ごして、翌朝出かけようと決めました。
誰の家にも入らずに、彼は、粉を貯めておく大きな籠を取り、
それをひっくり返しましてその下に這い込みました。
(山から集めたドングリは、石臼で挽いてパンにするので、
大きな籠はどこの家にもあります。)
そこに入っていれば、いやな風にも当たりません。
そんなわけで、彼は眠り込んでしまいました。
夜更け前、もうとっぷりと暗闇にあたりが覆われたころ、
彼は人々を踊りに呼び出している声で目を覚ましました。
最初、彼はカワクの人たちが
ドングリ集会から戻ったのだろうと思いました。
しかし、年取った彼は、もう長いこと前に死んでしまった、
知人たちの声に気が付きました。
その声は、死者の霊だったのです。
カワクの人たちは遠く離れていましたが、
死者たちは戻って来て、踊り始めたのです。
老人は籠の中に静かに横になって、
すべての人たちの声に耳を傾けました。
過ぎ去った日々の思い出が蘇ってきました。
かつて知った女性が岩の中から、
彼女の歌とともに帰ってきました。
かつて知った男性が岩を手でえぐって、
歌いながら出てきたのを聞きました。
この村にもう一度、大昔のすべての
人たちが戻ってきました。
老人は、もうじっとしていられませんでした。
何時間もこれを聴いていた後では、
彼は若いころに知っていた人たちや、
古い話でしか聞いたことのなかった人たちの
顔を見たくて仕方がなくなったのです。
彼は籠を払いのけ、死者たちが踊っているところを見ました。
しかしそこには、鳥の群れしかありませんでした。
そして、籠のひっくり返る音に驚いて、彼らは一斉に
飛び立ちました。
彼らのいたあとには、死者たちが夜通し鳴らしていた
亀甲のガラガラがひとつ、残されていました。
いま、それがあった場所には一輪、カスミ草が生えています。
老人は死者の踊りを見ることはできませんでした。