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]]>そんな同市では「すべての人にやさしいまち」を目指し、「インクルーシブな子ども広場」の導入が進められているのをご存じだろうか。
「インクルーシブな子ども広場」を、福岡市は「誰もがお互いを理解し安心して笑顔で自分らしく遊ぶことができる場所」と定義。障害の有無にかかわらず、すべての子どもが楽しめるよう、遊具や動線、サイン表示などに工夫が施されている。
福岡市百道中央公園 インクルーシブな子ども広場(以下、公園写真はすべて百道中央公園にて筆者撮影)。
2022年度からはワークショップやアンケートなどの各種調査を実施し、検討委員会を経て『インクルーシブな子ども広場 整備指針(2023年)』を取りまとめた。そして、2026年春までに市内全区の公園7か所に「インクルーシブな子ども広場」が誕生する予定である。2024年5月末には一部が供用開始され、現在3か所が工事中、さらに3か所が計画段階にあるという大規模なプロジェクトが、今まさに進行中なのだ。
今回は、「インクルーシブな子ども広場」づくりに携わる福岡市住宅都市局公園部整備課の古賀佳代子さんと甲斐航平さんに話を伺った。すべての人にやさしいまちづくりを実現するには、何が必要なのか。その答えを探る中で、ハード面を重視していた職員が、市民や当事者の声に触れることで考えを改め、「対話」を大切にする姿勢が浮かび上がってきた。
福岡市住宅都市局公園部整備課の古賀佳代子さん(左)と甲斐航平さん(右)。(福岡市役所にて)
福岡市役所職員(造園職)。両名とも令和4年度より公園部整備課に異動となり、市内の公園の設計や整備、技術管理などを担当することに加え、公園におけるインクルーシブな遊び場の検討に着手、令和5年1月に「インクルーシブな子ども広場整備指針」を策定後、市内の7区全てにインクルーシブな子ども広場の整備を進めている。公園・造園を専門とするが、教育・障がい福祉・療育・子どもの遊びなどの知識は専門外であり、日々新たな知識に触れながら、情報や意識を更新していく毎日を過ごしている。
福岡市は2012年から「ユニバーサル都市・福岡」として、地下鉄のバリアフリー化やバス停のベンチ設置などを推進してきた。そうした取り組みが積み重ねられるなかで、「インクルーシブな子ども広場」づくりも始まった。
その背景には、障害のある子どもがブランコなどの従来型の遊具では遊びにくいという課題があった。障害のある子どもにも配慮した遊具を作れば、みんなが遊べるはず──しかし、古賀さんは次のように反省を込めて、そうした認識がいかに不十分だったかを振り返る。
古賀さん「何かバリアフリーに配慮したものを作ればいいのだろう、くらいに思っていました。でも、それだけではだめなんだと気づかせていただいたんです」
市の指針策定が本格化し、実施したアンケートに寄せられたのは、当事者からの「切実な声」だった。課題は遊具の有無だけではなく、トイレなどの周辺設備、そして何よりも「公園に行きにくい」という心理的なハードルにあったのだ。その声を受け、市職員の認識は大きく変わっていった。
古賀さん「アンケートで、障害のあるお子さんや保護者の方の生のご意見を伺ったんです。例えば、特別支援学校の方に配ったり、公園でユニバーサルデザインの遊具を体験できる場にQRコードを設置したりして、アンケートを行いました。すると、『遊具だけじゃなくて私たち(当事者)が行くには駐車場が大事』、『トイレが整備されていないと利用しにくい』といった意見が集まったんです」
甲斐さん「当事者の方々へのアンケートを通じて、ハード面も重要ではあるものの、遊具だけでなく周辺施設、さらにはそれ以上に心理的な要因が課題となり、公園で外遊びをすること自体が難しいというニーズが見えてきました。その声を受け、私たちも考え方を大きく変えていったのです」
古賀さんも甲斐さんも造園職など、ハード面をつくる部署の出身であり、障害者福祉については配属後に一から学んできたという。そこで、指針策定にあたっては通常以上に徹底した当事者や関係者へのアンケートやヒアリングが継続的に行われた。調査対象は、障害のある子どもとその保護者のネットワーク、特別支援学校・学級、療育センター、一般利用者、実証実験の参加者など、多岐にわたった。
利用しやすく低めに設計されたすべり台
甲斐さん「これまで行政がこうした声を聞く場を設けることはほとんどありませんでした。当事者の方々からは、『障害のある子どもを公園で遊ばせるのは難しく、もう諦めていた』『でも、こうして声を上げる場を作ってもらえたこと自体がありがたい』という切実な声が寄せられました。我々としても、その思いを受け止め、ありがたいと感じる一方で、これまで十分に向き合えていなかったことへの申し訳なさを痛感したんです」
2023年1月、切実な声に寄り添いながら、指針が完成した。遊具の整備にとどまらず、多様な過ごし方や見守りの工夫など、幅広い配慮が盛り込まれた。その変化は、タイトルにも表れている。当初の「インクルーシブな遊具広場」から「インクルーシブな子ども広場」へと名が改められ、ハード整備だけでなく、環境や心の在り方を重視する取り組みへと広がったことを示している。
車いすに座りながらでも利用できる、テーブル式砂場
その後、市内7か所の公園での実際の整備・工事が始まった。ここで欠かせないのは、市民との対話を重ねるワークショップの存在である。2人はその重要性について次のように語った。
古賀さん「(いわゆる健常者と障害当事者では)ニーズが大きく異なるんですよね。だからこそ、さまざまな意見を取り入れることで、自分たちの公園に愛着を持ってもらうことが大切だと考えています。また、地域の方も話し合いに入っていただくことで障害のあるお子さんも公園に来やすくなるのではないかと思います」
そんな幅広い人にワークショップに参加してもらうため、広報や運営方法にも工夫を凝らしたという。
甲斐さん「各回のワークショップの結果を『ワークショップニュース』としてまとめ、地域全体に配布し、情報をアップデートしています。また、対話を重視するため、通常はあまり行わないのですが、参加者が少ない場合には当事者のアンケートの声もワークショップ内で紹介しました。アンケートの意見は対話を経たものではないため、そのまま採用することはできません。しかし、それを話し合いの材料として提供することで、少しでも『声』が反映されやすくなるよう工夫しています」
当日は、視覚障害のある参加者のために触地図を準備し、当日使用するスライド資料を文字起こしして情報保障を行った。障害のある子どもを連れた参加者(または子どもを連れた障害のある参加者)に向けては見守りスタッフを配置し、聴覚障害のある参加者には手話通訳を用意するなど、誰もが参加しやすい環境づくりに努めた。インクルーシブな子ども広場を目指す取り組みだからこそ、そのプロセス自体にもインクルーシブな配慮は欠かせなかったのだ。
ワークショップの様子。視覚障害のある方は触地図を使う。
古賀さん「グループワークで公園の現況調査をしてもらったのですが、あるグループに車いすの方がいらっしゃって。参加者の方がみんなで、階段をうんうんいって車いすを持ち上げてらっしゃったのです。それで、やっぱりスロープはいるよね……と強く実感されていました」
ワークショップを通じて、当事者の意見が計画を大きく変えた例は数多くある。例えば、全面芝生の広場について、車いすやベビーカーでも通れる道が欲しいという意見が当事者から出た。しかし、アスファルト舗装では景観に馴染まず、公園の雰囲気を損なってしまう。そこで、特殊な土舗装固化材を用いた小路を設けることで、自然な景観を保ちながらも通行しやすい環境を整えた。
また、知的障害のある子どもを持つ保護者から、多動傾向のある子どもが遊具の周りで動き回ることを考慮し、ある程度のスペースを確保したほうが安全ではないか、という意見が寄せられた。さらに、ベビーカーを利用する保護者にとっても、余裕のあるスペースのほうが使いやすいという声が上がった。結果として、遊具の数よりも、十分なスペースを確保することを優先する方向で計画がまとまったのだ。
見守り場所の東屋からは公園の全景が望める。遊具以外にも、余裕のあるスペースが取られていることがわかる。
子どもが外に飛び出しにくいよう、見守り場所を兼ねる「囲み」がいたるところに設置されている。
インクルーシブな子ども広場は、「作って終わり」ではない。指針では、多様な関係者が関わり、人材育成も想定されている。市はどのように今後を見通しているのだろうか。
甲斐さん「目指すところは、障害の有無にかかわらず、その公園に来るすべての人が自分らしく遊べる場所であること。そして、地域の方々もそれを自然に受け入れていることが理想だと思うのです。『誰がいても当たり前』という状況にしたいです」
築山。すべり台や階段、スロープ、鎖場。様々な手段を使いながら、登って遊ぶことができる。
福岡市のインクルーシブな子ども広場の定義である「自分らしく遊ぶことができる場所」。これは誰もが「一緒に遊ぶ」ことを目的にしているわけではないと古賀さん、甲斐さんは強調する。実は当初、子ども広場を「一緒に遊べる場所」と定義しようとしていたが、市民の声を受けて変更したのだという。
甲斐さん「百道中央公園のイベントで、直接『“一緒に遊ぶイベント”にはしないでください』という意見をいただきました。『なかなか言い出しにくいことだけれど、障害のある子どもを持つ親としては、正直なところ、一緒に遊びたいわけではない。ただ、そっとしておいてほしい。他の子どもたちと遊ばせるために来ているのではなく、その子自身が感じられる公園の空気を感じさせてあげたい、ただそれだけなんです』と。
『だからこそ、行政のイベントとしても、“みんなで一緒に遊びましょう”ではなく、公園は誰でも自由に来られる場所であることを伝えてもらえればありがたい』とおっしゃっていました。その言葉を聞いて、一緒に遊ぶことを強いるのではなく、同じ空間を共有すること自体が、誰もが“自分らしく遊べる”ことにつながるのだと感じました」
ワークショップでは、子ども広場の周辺に広がる美しい自然を感じる工夫がほしいという意見が数多く出た。
今回、福岡市の2人の職員にお伺いして印象に残ったのは、市民の「声」や対話の力に対する深い信頼だった。それは、筆者が参加した公園整備のワークショップにもにも表れていた。2つ出ていた計画案のうち、どちらがよいかを選ばせるのではなく、対話のプロセスから最終案をもう一度練り直すという進め方が取られていたのだ。
このオープンな姿勢が対話を活性化させ、その地域の歴史や文化の中に「子ども広場」をどのように位置づけるのかといった議論を生み出した。そして、「砂場の砂を海の砂にしてみたらどうか」「どんぐりで遊ぶテーブルに、転がらないよう溝をつけてみたら」など、まちへの思いが込められたユニークなアイデアが次々と提案されたのだ。
指針策定にあたって集められた市民の声は、ほぼ加工されることなく『インクルーシブな子ども広場 整備指針 資料編』に掲載されている(※2)。自治体職員やこうした実践に関心のある方にぜひご一読をおすすめしたい。
※1 令和6年度 市政に関する意識調査「ふくおかボイス」
※2 福岡市(2023)「インクルーシブな子ども広場 整備指針資料編」
【参照サイト】福岡市公式ホームページ インクルーシブな子ども広場
【参照サイト】福岡市長インクルーシブな子ども広場についての発表
【参照サイト】インクルーシブな子ども広場 FUKUOKA シンポジウムリーフレット
【参照サイト】インクルーシブな子ども広場 百道中央公園で遊ぼう
【参照サイト】今津運動公園ワークショップニュース
【参照サイト】福岡市「インクルーシブな子ども広場 整備指針」
【参照サイト】「ユニバーサル都市・福岡」ホームページ
【参照サイト】九州大学未来デザイン学センター 公式ホームページ
【参照サイト】障害の有無にかかわらず、誰もが安心して遊べる公園をーー福岡市「インクルーシブな子ども広場FUKUOKAシンポジウム」をレポート
【参照サイト】全国住みたい街ランキング
【参照サイト】住みたい街(自治体)トップは、5年連続で福岡県福岡市
Edited by Erika Tomiyama
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]]>The post シンガポールが「セラピー・ガーデン」でウェルネス観光を促進。自閉症やADHD、認知症の人にも好影響 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>このように、特定の人々が外出をしにくいという問題を受けて、近年では特別なケアや助けを必要とする人々が快適に過ごせる環境を作ろうと試みる国や施設が増えている。その中でも、シンガポールはアジア圏でメンタルヘルスケアの先進国として発展(※3)。メンタルヘルスを重視した観光施設の整備に熱心だ。
その一例が、シンガポールの国立公園局(NParks)が訪問者の健康促進を目的に展開する「セラピー・ガーデン」だ。2016年、科学的な裏付けを基にHort Parkで初のセラピー・ガーデンが2016年に設計されたのを皮切りに、自閉症、認知症、不安障害、ADHDのある人に優しい環境を目指した16の公園が国内に設置された(※4)。すべてのセラピー・ガーデンにおいて、バリアフリー設計の導入、訪問者が運動や社交を楽しめるエリアの設置、リラックス効果のある植物の配置などが行われている。
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学術誌・Frontiers in Psychiatryに発表された2022年の研究によると、自然との触れ合いはストレス軽減やメンタルヘルスの改善に効果をもたらす。つまり、セラピー・ガーデンへの訪問は、単なるレジャーやレクリエーションにとどまらない価値を持つことが示されたのだ。
2024年12月には、シンガポール初の屋外車椅子用の障害物コースを備えたセラピー・ガーデンがPunggol Parkにオープンした。この庭園は、大人向けと子ども向けの二つのセクションに分かれ、五感を刺激する植栽ゾーンのほか、背の低い子どもや車椅子の人でも園芸を楽しめるよう、高さ調整可能なプランターなどが設置されている。他にも、Jurong Lake Gardensには派手すぎない「穏やかな」イルミネーションがあり、Sun Plaza ParkにはADHDの人々がほっと一息つけるよう、イランイランなど香りのよい植物が植えられた日陰のリラクゼーションゾーンがある。
このように、シンガポールの公園は訪れる人々に心地よい空間を提供するため、自閉症やADHDなどサポートを必要とする人々にも配慮したエリアが多数設けられているのだ。シンガポールの医学研究では、これらの庭園での園芸活動が、不安障害やうつ病の人々にとって有益なだけでなく、感覚的な刺激を提供することで認知症の人々にも良い影響を与えることが示唆されているという(※5)。
NParksは、2030年までに国内に30ヶ所の無料セラピー・ガーデンの設置計画を進行中だ。今後、地域の住人だけでなく、他の場所からもより多くの人が訪れるようになることだろう。誰もが利用できるこれらの庭園は、シンガポールのウェルネス観光を支え、人々の心の健康を促進する重要な公共空間として期待されている。
※1 アメリカ疾病予防管理センター(CDC)による自閉スペクトラム症(ASD)の子の率についての調査
※2 Special Needs Travel Fastest Growing Segment of the Market
※3 Best Countries in the World for Mental Health Treatments Medical Tourism
※4 Therapeutic Garden With Contemplative Features Induces Desirable Changes in Mood and Brain Activity in Depressed Adults
※5 Effects of horticultural therapy on health in the elderly: A review and meta-analysis Springer Nature Link
【参照サイト】Therapeutic Garden
【参照サイト】Therapeutic garden opens at Punggol Park with Singapore’s first outdoor boccia court
【参照サイト】Therapeutic gardens and therapeutic horticulture programmes
【参照サイト】MEDIA FACTSHEET FOR IMMEDIATE RELEASE THERAPEUTIC GARDENS IN PARKS
【参照サイト】Therapeutic Garden With Contemplative Features Induces Desirable Changes in Mood and Brain Activity in Depressed Adults
【参照サイト】Singapore has a unique idea for tourism: Focus on your mental health
【参照サイト】Two More Therapeutic Gardens Open to Improve Mental Well-Being
【参照サイト】発達障害の症状をやわらげる観光施設が続々、シンガポール
【関連記事】メンタルヘルスの改善に。旧たばこ工場がヨーロッパ最大の垂直農園へ
Edited by Megumi
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]]>The post 【イベントレポ】そのサーキュラーデザインは誰のため?ユーザー視点から考える循環型ビジネスのあり方 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>そのような中で、再生可能な素材の活用、PaaS(製品のサービス化)、リペア、リユースのための回収システム構築といったサーキュラーデザイン戦略が注目されています。では、企業はどのように最適なビジネスモデルを選択し、ユーザーにとって価値のあるサービスを設計すればよいのでしょうか。
今回、気候危機に創造力で立ち向かう共創プロジェクト「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」では、「そのサーキュラーデザインは誰のため?ユーザー視点から考える循環型ビジネスのあり方」と題し、17回目となるトークイベント・Climate Creative Cafeを開催しました。(過去のイベント一覧はこちら)
本イベントでは、東京大学大学院工学系研究科・特任准教授の木見田康治さんをゲストにお招きし、環境負荷を低減しつつ顧客価値や経済的価値の向上を実現するサーキュラーデザインについて議論しました。本レポートでは、イベント第一部の様子をお伝えします。
2011年首都大学東京大学院システムデザイン研究科博士課程修了。日本学術振興会 特別研究員(PD),東京理科大学工学部第二部・助教,東京都立大学システムデザイン学部・助教,東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻・特任講師を経て,2024年より現職。主としてCircular Economy,製造業のサービス化(Servitization,Product as a Service,Product-Service Systems),サービス工学,設計工学の研究に従事。サーキュラーエコノミー特化型創業支援プログラム「Circular Startup Tokyo」アカデミック・アドバイザー。
最初に、メンバーズの倉地さんから、サーキュラーエコノミーにおけるビジネスモデルの分類やその事例について説明がありました。
サーキュラーエコノミーの観点から見たPaaSモデルの分類
「サーキュラーエコノミーは環境性と経済性と両立させる必要があり、このビジネスモデルをいかに上手に作るかがポイントになります。今までは沢山売ることで利益を出していましたが、今までのビジネスのあり方を見直す必要があります。OECDの推奨するサーキュラービジネスモデルの中でも、製品寿命をいかに延ばせるかを考えることが重要です」
オランダの「Homie」は洗濯機を利用した分だけ課金する制度(pay per use)を採用しています。利用者の洗濯データを分析して専用アプリ「Homie App」で最適で持続可能な洗濯方法を提案してくれるという仕組みです。環境負荷を抑えるポイントとなる洗濯回数と洗濯温度によって課金を変動させるというインセンティブを設定することで、利用コストも環境負荷も少ない暮らしの実現に貢献します。
欧州の洗濯回数の平均は1ヶ月あたり13〜14回、洗濯温度の平均は43℃ですが、Homieの利用者の洗濯回数の平均は12回、洗濯温度の平均は38℃と、環境負荷の軽減に繋がっています。また、洗濯機のような大物家電の購入は、その後のライフスタイルの変化を見据えて躊躇することも少なくありませんが、利用した分だけ課金する制度にすることで価格的に手を出しにくい商品も利用しやすくなるというメリットもあります。
沖縄でさとうきびの搾りかす「バガス」をアップサイクルしてかりゆしウェアを展開する「バガスアップサイクル」の事例はユーザビリティと環境性能を両立する好例です。PaaS(Product as a Service)モデルを採用している点も特徴で、製造者が製品の所有権を持ちながら貸し出し、リペアやメンテナンスによってなるべく製品寿命を延ばし、最終的に炭としてさとうきび畑に戻すという循環を作っています。沖縄に行くと記念に着たくなるかりゆしウェアですが、「その場でしか着ないから買わない」となりがちです。そこでPaaSモデルに基づき貸し出し型にすることで、持ち帰りたくない人も顧客として獲得しながら、廃棄物を削減することができます。
「ここまで好事例を紹介しましたが、未だサーキュラーデザインには複数の課題があります。まず、廃棄の出ない工夫を大前提とするサーキュラーエコノミーではインプットからアウトプットまでの一連の流れをデザインすることが求められるため、今まで直接取引をしていなかったサプライヤーの開拓や連携が必要になります。部門間、企業間を超えた新たなビジネスモデルを創り上げることになるため、いち担当者だけで判断できず、責任範囲が不明瞭なことが課題として挙げられます。
また、サーキュラーエコノミーを構築するには決まった一つの方法があるわけではなく、事業や商品、規模などによって選ぶべき戦略やソリューションの組み合わせ方はさまざまです。サーキュラーモデルに従ったプロセスをそのまま戦略として採用できるのか考える必要がありますし、その商品がヒットとして市場が拡大した場合、利用者が多くなったことで環境負荷が下がらないケースもあります」
循環型のビジネスが環境負荷を軽減しながら、顧客の支持を得て、事業として確立するためには何が必要なのでしょうか。この点の解説として、木見田先生の講義に移っていきます。
東京大学の木見田先生より、環境負荷の測定方法を含めて、循環型のビジネスモデルは環境負荷を軽減する方法についてお話しいただきました。
サーキュラーエコノミーを実現する上で重要なのが、経済成長と資源消費を切り離し、利益を追求しながらもビジネスに必要な資源を削減するというリソースデカップリングの考え方です。洗濯機を顧客に販売するのではなく使用回数に応じて課金するというPay per washの事例はリソースデカップリングの考えに基づくものです。
「いくら環境負荷が低くて性能の良い洗濯機があったとしても、『5倍長持ちするので5倍の値段で買ってください』と言って販売しても消費者は買わないでしょう。環境負荷が低く、性能の良い洗濯機を使用回数に応じて課金するしくみに変え、保守や廃棄などのコストは全てメーカーが負担することで利益を追求しながら環境負荷の軽減に貢献できます」
では、どのようにして環境性と経済性を両立させられるのでしょうか。
「環境性を測定するには、製造時の一台あたりのCO2排出量、使用時において10万km走行した時の一人あたりのCO2排出量、廃棄時の一台あたりのCO2排出量を足して測定します。PaaSの場合、一台の自動車をN人でシェアすることになるので、製造時と廃棄時の計算式は一台あたりのCO2排出量をN人で割ることになります」
「この計算方法に基づき、PaaSのビジネスモデルにおけるドレス、ニット・セーター、ジャケットの環境負荷を測定します。ドレスは元々着用回数が少ないため、複数人でシェアするPaaSの方が環境負荷は下がります。ニット・セーターは一年のうち3〜4ヶ月しか着ない上に二年で製品を入れ替える想定をしたため所有するよりも着る回数が増え、環境負荷が上がる想定になりました。
ジャケットは所有する場合は一年に数回クリーニングするのに対し、シェアする場合は返却されるたびにクリーニングに出すため回数が増え、環境負荷が若干上がる想定となりました。対象ユーザーやシェアの方法を変えることでこの結果は変わるので、ドレスは必ず環境負荷が下がる、ニット・セーターは必ず上がる、というわけではありません。どういうビジネスモデルにするかを考えることが重要です」
次に、家電のサブスクの場合、利益を高めるために必要なことは何でしょうか。
「サブスク用に投入する台数を極限まで少なくすると利益は上がるため、不足した時だけ新製品を投入するとします。そうすると利用者は中古品ばかり利用することになり、会員数や利益が低下していきます。逆に、新品と中古品が常に1:1で回るように投入すると会員数や利益が安定していきます」
では、家電のサブスクにおいて、製品寿命を延ばすとどうなるでしょうか。
「製品を長寿命化すると、新品と中古が1:2くらいの比率で出回る計算になります。中古品は多くなりますが、サブスクを辞めるほどではないという想定結果になりました。ただし、製品寿命をできるだけ延ばせば良いというわけではありません。製品寿命がある年数を超えると製品の保守や廃棄コストが増え、利益は低下する上にCO2排出量は上がります。適切な製品寿命の設定が大切です」
利益を高めることだけでなく、ターゲットとなる顧客を定めることも非常に重要だと話します。
「たとえば、ミシュランはタイヤの適切な保守や交換のサブスクサービスを展開していますが、B2CではなくB2B向けに展開しています。運送会社は重くて危険な物を輸送するほか、万が一輸送中にタイヤがパンクした時に時間の制約があるためです。誰にどのような価値を提供したいのかを考えないと事業として成り立ちません。
また、サブスクサービスを展開する場合、買うよりも安いことがメリットとして挙げられがちですが、支払方法が変わるだけでそこまでメリットがあるわけではありません。利用者は『壊れない、いつでもアクセスできる、いつでも返却できる』という価値にお金を払っています。この価値を享受できる利用者を定めることで、初めて経済性と環境性が実現できます」
PaaSを展開できるような組織体制に変えていくことも重要なポイントです。PaaSを展開する時に失敗しがちなのが、モノを作って売るという能力のままにPaaSを展開してしまうことです。売り切り型のビジネスモデルにおいては、性能や一台あたりの価格がセールスポイントなっていましたが、PaaSでは一回の使用や走行に対する価格をセールスしなければなりません。
つまり、ユーザーにとってどのようなメリットがあるのかを適切に伝えられる販売員の育成、その価値を定量化するデータやプレゼンが必要になります。仮にボーナスの体系が販売個数によって変化するのであれば、PaaSを展開する時のインセンティブがないため、評価できる体制に変えていかなければなりません。一部署だけでなく、経営層のコミットも必要です。
第二部では、マーケティングの視点の大切さやペルソナ設定の難しさ、私たちの「所有したい」という欲求もある中でシェアリングモデルは人間の幸福度を下げることに繋がらないかなどの議論が交わされました。
「ドレスのシェアリングサービスは絶対に環境負荷を下げる」「ニットやセーターのシェアリングサービスは環境負荷の観点から逆効果だ」と必ずしもなるわけではなく、条件やビジネスモデルによって適切なサーキュラーデザインは都度変わります。
また、環境性能の訴求よりも、まずはビジネスモデルを固めて「ユーザーが自然とその商品やサービスを購入・利用し、結果として環境負荷を下げることに繋がっていた」という形を考えること必要だと木見田さんは話します。従来のビジネスと同じようにユーザーのニーズやペインを深く理解し、循環型だからこそ成しえるユーザー課題の解決を目指すことがポイントとなりそうです。
Climate Creative Cafeでは、気候危機に立ち向かう実践者や専門家をゲストに招き、そしてご参加の皆さんとともに様々な問いやモヤモヤについて対話することで、アクションにつながる新たな気づきや視点を得ることを目指しています。次回のイベントも、ぜひご期待ください!
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]]>The post 「女性に建築はできない」を乗り越えて。ウクライナの住宅修繕ボランティアチーム first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>日本の大手メディアによる報道が減っている中で、現地で生きている人々の存在を想う機会は遠のいているかもしれない。
改めて、ウクライナで今を生きている人々に光を当てると、復興の道のりでジェンダーによる偏見を乗り越えて、地域の再建に取り組む団体と出会った。北部・チェルニヒウ地域で住宅のがれき清掃・修繕をおこなう非営利組織「Repair Together」によるプロジェクトだ。
Image via Repair Together
軍が同地域を退陣した2022年4月に設立され、当時、国内外からボランティアが集まってきた。しかし、本格的に“建築”となった途端に男性優位の環境になってしまったという。共同創設者のDaria Kosiakova氏は、同国のソリューションメディア・Rubrykaにこう語る。
「Repair Togetherでは、いつも男女ほぼ同数のボランティアが清掃に参加し、女性のほうが多いときもありました。しかし建築となると、プロの現場監督として雇った男性たちが場を支配するようになってしまいました。チームにプロの建設業者がおらず、そうせざるを得なかったのです。
彼らは女性に壁土で穴を埋める以外に何も教えようとしませんでした。何より『建設現場にいる女性は船に乗っている女性と同じ、必要ない』と発言したり、『女性はキッチンにいるものだ』とジョークを言ったりしていました」
そんな固定観念を覆そうと、同組織内のプロジェクトとして、女性のみの住宅建設チーム「Velyke Divnytstvo(The Great Women’s Build)」が立ち上げられた。これは決して男性を排除する意図はなく、人間が平等であることを示すものと位置付けているとのこと。
Image via Repair Together
実は、ウクライナでは1993年から2017年まで、女性が大工や船・列車・長距離バスの運転手、消防士、溶接工などの職に就くことは、健康に悪影響であるとして禁止されていた。その職種は450にも及んだという。この法令は差別に反対する国内の法令と矛盾し、2017年に撤廃されたのだ(※)。
建築の現場で、女性の参加に対して否定的な意見が上がったことには、こうした背景が強く影響していたのだろう。現在は、女性リーダーとの協働経験のある男性の現場監督がチームを率いており、建材が重すぎるときは分割したりロープを使って持ち上げたりとアイデアを持ち寄り解決しているそうだ。
まもなく4年目を迎える、Repair Togetherの活動。持続させていくにはボランティアの心身のケアも大切だ。DJによる音楽を盛大に響かせて踊りながら清掃したり、川に飛び込んで休憩したり、食事を共にしたりと、バーンアウトしにくい環境をつくっているという。
これまでに組織全体で4,000人以上のボランティアを動員し、2022年10月時点で160棟の家のがれきを片付け、20棟の家を修繕した。2025年1月には学校の解体・修繕も始まっている。
まだ、戦火は収まっていない。ただ、この最中にも、人々がジェンダーや肩書き、年齢の垣根を越えて協働し、まさにその手で市民の暮らしを立て直している。どちらの側面も心に留めながら、3年という節目に至っている現実と向き合いたい。
※ Ukraine’s Health Ministry opens up previously banned 450 professions for women|Euromaidan Press
【参照サイト】Repair Together
【参照サイト】All-women teams in Ukraine defy stereotypes and rebuild homes destroyed by war|Rubryka
【参照サイト】The All-Female Teams Rebuilding Homes in Ukraine|The Reasons to be Cheerful
【参照サイト】‘We take care of each other’: the young Ukrainians rebuilding more than just homes|The Guardian
【参照サイト】Repair Together: The volunteers rebuilding Ukraine’s war-damaged homes • FRANCE 24 English|FRANCE 24 English YouTube
【参照サイト】Ukraine’s Health Ministry opens up previously banned 450 professions for women|Euromaidan Press
【参照サイト】Euroviews. Women are saving Ukraine’s wartime economy
【関連記事】戦地の悲しみも夢も。ウクライナの子どもたちがカメラで日常を撮るアートプロジェクト
【関連記事】次々と立ち上がる「女性主導メディア」が、世界のタブーに切り込む
The post 「女性に建築はできない」を乗り越えて。ウクライナの住宅修繕ボランティアチーム first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post 【2025年2月】人間より先にビーバーがダムを建設?グッドニュース5選 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>日々飛び交う悲しいニュースや、不安になる情報、ネガティブな感情ばかりを生む議論に疲れたあなたに。世界では同じくらい良いこともたくさん起こっているという事実に少しのあいだ心を癒し、また明日から動き出そうと思える活力になれば幸いだ。
チェコ共和国では、絶滅危惧種のザリガニを守るため、2018年に防壁建設プロジェクトが提案され、建設の許可が出ていた。しかし、軍の訓練場として使用されている土地の交渉が難航し、計画は7年間も停滞していた。
そこに、思わぬサポーターが現れた。野生のビーバーが木の枝を集めて、自然の防壁を作ってしまったのだ。しかも、それはまさにダムが建設予定だった場所で、ザリガニにとって重要な湿地が実現したという。これにより、当初予定されていた約1.8億円の建設費が不要になった。今回の出来事は偶然かもしれない。しかし、生態系のつながりが圧倒的に環境負荷の低い方法で、効率よく課題を解決するシステムとして機能していることを体現しているだろう。
【参照サイト】Beavers build planned dams in protected landscape area, while local officials still seeking permits
【参照サイト】Eager beavers: rodents engineer Czech wetland project after years of human delay
【参照サイト】地元当局が7年前から計画していたダムをビーバーが勝手に建設して約1億9000万円の節約に
教育を受ける上で障壁となる、貧困や格差の課題。たとえ学校が近くにあり、授業を受けることができる環境でも、登校前に家の仕事をこなさなければならない子どもたちもいるようだ。例えばインドネシアでは、離島での格差是正が課題の一つとなっているという。
そんな同国で2025年1月6日、国内初となる給食の無償提供が始まった。対象は、幼児から高校生までのおよそ8,300万人。人口の4分の1近くにあたる大規模なプロジェクトだ。初日は国内38州のうち26州の一部の学校で提供され、テーブルには鶏肉の照り焼きや野菜炒め、ご飯、果物、牛乳などが並んだという。
これを支援するべく、石破首相はインドネシアに学校給食の専門家を派遣することなどを約束している。無償提供を続けるための財源を不安視する声もあがっているが、子どもたちに十分な栄養を届けるための一歩は少なからず教育の現場を支えてくれるはずだ。
【参照サイト】Indonesia dishes out first free meals in program targeting 83 million people
【参照サイト】インドネシアの給食無償化は「先進国入りへの投資」 費用捻出が課題
【参照サイト】インドネシアの無料給食、石破首相が支援約束…新大統領の看板政策に米中も協力
暖冬かと思えば、大寒波が急に訪れる今冬。天候が不安定であるのは、ヨーロッパの国々でも同じようだ。一部地域では雪が足らず、例年ならば多くの人が「スキー休暇」をとって雪を楽しむシーズンだが、今年は休暇を控える傾向が見られているという。
これに対してデンマークの旅行代理店・Højmark Rejserは、雪が降ると旅行プランを割引するキャンペーン「Snowfall Savings」を立ち上げた。そのコミュニケーション方法が特徴的だ。オーストリアの山で雪が降ると、デンマークのデジタル看板に自動的にQRコードが現れ、同社の“雪割引”付きのプランを知らせてくれる。天気アプリと連動させた、リアルタイムの割引というわけだ。
これは旅行の宣伝になるだけではなく、都会で暮らしながら積雪や気候変動の現状をリアルタイムで知るための手段にもなる。刻々と気候変動の状況が変化する今、この取り組みは人々の感覚に訴えかける効果的なツールになるかもしれない。
【参照サイト】Ces panneaux de pubs transforment les chutes de neige en offres promo
【参照サイト】Højmark Rejser, Snowfall Savings
インドは近年、環境問題に直面すると同時に、大気汚染対策や脱炭素化に力を注いできた。再生可能エネルギーの市場も拡大しているという。そんな中、同国の新・再生可能エネルギー省は2025年1月末時点で太陽光発電容量が100.33ギガワットに達し、目標としていた100ギガワットの大台に乗ったことを発表。当初2022年での達成を目指していたが、数年遅れての実現となった。
2021年度における日本の太陽光発電容量は78ギガワットで世界第3位、再生エネルギー全体での導入容量は138ギガワットで世界第6位であった。これと比較すると、いかにインドの再エネ事業が伸びているかが分かるだろう。ただし、再生可能エネルギーへの移行の裏で、労働者や生態系が被害を被ってはならない。インドの急速な発展が、社会や環境を犠牲にしない事例となっていくことを期待したい。
【参照サイト】India achieves milestone of 100 GW solar energy capacity
【参照サイト】インドの再生可能エネルギー分野の事業機会
【参照サイト】インド、第1四半期だけで再エネ10GW増、前期比4倍のワケ
【参照サイト】【2024年最新】日本における発電量の構成割合は?再エネ発電普及のポイントを解説
イタリアの気候学者・Gianluca Grimalda氏は、研究のためパプア・ニューギニアへフィールドワークに向かった。契約上ではスロートラベル(環境負荷の低い移動手段)の計画に対し許可が降りていたため、同氏は飛行機を使わず移動したという。しかし帰国の期日が迫ると、契約先の研究所は飛行機で帰路につくよう命令。Gianluca氏がこの指示に従わなかったため、解雇されていた。
しかしその後、訴訟を通じて両者は補償金の支払いで合意。退職金のうち約1,200万円は気候変動対策のために寄付するそうだ。人や自然とのつながりを重視し、ゆっくりと旅をするスロートラベルが注目されつつある一方、環境負荷の高い移動手段のほうが速くて安いことも多い。今回のような事例がきっかけとなり、移動の選択肢が今後広がっていくだろうか。
【参照サイト】This Italian climate researcher was fired for refusing to fly – now he’s won compensation
The post 【2025年2月】人間より先にビーバーがダムを建設?グッドニュース5選 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post 2月20日は社会正義の日。「すべての人に公正な社会」への道筋を照らす、7つの取り組み first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>この国際デーは、すべての人が平等に権利と機会を享受し、公正に扱われる社会の実現を目指す日だ。社会正義とは、貧困、不平等、差別、失業、人権侵害といったあらゆる不公正に立ち向かい、すべての人が尊厳を持って生きられる社会を築くための理念である。
「社会正義の日」は、こうした課題への意識を高め、社会の変化を促すきっかけとなる日だ。では、公正な社会を築くために、どのような行動を取るべきなのだろうか。ここでは、最近実践された社会正義への道筋を照らす7つの事例を紹介する。
気候変動対策において、ジェンダー平等はどこまで進んでいるのだろう。最近の研究では、国会での女性議員の増加がCO2排出削減を促進する傾向があり、災害時の被害も女性の方が影響を受けやすいことが明らかになった。
しかし、現場に目を向けてみると、気候変動対策を議論する場における女性の参加はまだ十分とは言えないのが現状だろう。こうした課題を可視化するために登場したのが、「ジェンダー気候トラッカー(GCT)」というアプリだ。GCTは、国際NGOのWEDO(Women’s Environment and Development Organisation)によって開発され、女性の気候変動対策への参加状況を国別にデータ化している。
アプリで確認できるのは、気候変動におけるジェンダー平等の決定事項、女性の参加データ、各国の取り組み状況などだ。このアプリによって誰もが簡単にデータへアクセスできることで、専門家だけでなく市民も政策決定や気候変動対策に参加する機会が広がる。
ジェンダー平等の視点を持つことは、「最も弱い立場の人々が最も大きな影響を受ける」ことへの問題意識を持つことでもある。この取り組みは不公正を是正する重要な一歩となるだろう。
西アフリカのトーゴでは、多くの家庭の女子が家計や家事の負担を担っているため、中等教育の修了率はわずか39%にとどまっている(※)。この問題を解決すべく、アメリカ人のペイトン・マクグリフ氏は非営利団体「Style Her Empowered(SHE)」を設立し、成長に合わせてサイズ調整が可能な制服を開発した。
SHEの目的は、最大3年間買い替えの必要がない特別な制服を提供することで、経済的に困難な状況にある少女たちの退学リスクを減らすこと。また、制服製作時に出る布の端切れを布ナプキンとして再利用し、生理の貧困が原因で少女たちが教育の機会を失うのを防いでいる。
また、SHEは制服作りを通じて女性に雇用の機会を提供し、トーゴの最低賃金よりも75%高い給料や授業、託児所の提供、社会保障といったサポートを行っている。雇用された女性の多くは教育経験がなかったが、読み書きを学べるSHEの大人向けプログラムにより雇用者全員の識字率が100%に向上。さらに、彼女たちの子どもたちも全員が学校に通えるようになった。
2023年8月、マサチューセッツ州でMassReconnectと呼ばれるプログラムが始まった。当初、このプログラムは州内の15のコミュニティカレッジの授業料を「25歳以上の州民を対象に無料にする取り組み」として実施されたが、2024年8月には予算が増加し年齢制限が撤廃された。
これにより、過去1年以上マサチューセッツ州に住み、高校卒業資格を持つ学位未取得者であれば、年齢や収入に関係なく誰でも無料で学べるようになった。さらに、年間最大1,200ドル(約19万円)の書籍や学用品の費用も支給される。
このプログラムの資金は、「ミリオネア税」と呼ばれる富裕層向けの新しい税収で賄われている。急速なインフレで生活が厳しくなる中、MassReconnectは教育を特権ではなく、すべての人に開かれた権利として保障するための取り組みだ。
世界的な音楽賞では、白人系アーティストが大半を占め、黒人系がそれに続く傾向がある。この偏りは偶然ではなく、音楽教育で白人系作曲家に焦点が当たることが影響している。
こうした状況を変えるため、ニューメキシコ大学は2024年4月、「脱植民地化された音楽教育」を推進する教授の募集を開始した。専門知識は必須ではないが、社会正義や多様性に関する知識が望ましい条件とされた。
これは「2040年戦略プラン」に基づく取り組みで、2027年までにマイノリティ向けの終身在職制度を拡大することも目指している。対象はラテン・ヒスパニック系、アフリカ系アメリカ人、ネイティブアメリカンだ。
ホンジュラスは、ラテンアメリカで2番目に10代の妊娠率が高い国となっており、この問題が少女たちの教育機会や就労の制限、貧困の連鎖につながっている。
この課題に対処するため、国連人口基金(UNFPA)は「夢の通り道(Rutas de los Sueños)」というバスで子どもたちに包括的な性教育を提供するプロジェクトを開始。臨床心理士や医療従事者が同乗し、性教育やリプロダクティブ・ライツ、避妊法などについて指導している。
バスは電力とインターネット設備を備えており、情報が届きにくい貧困地域にも訪問可能だ。VRを活用したラブストーリーなど、子どもたちが身近に感じられる方法で、暴力や性に関する問題への理解を深め、責任ある意思決定を促している。
「夢の通り道」という名前の通り、性教育だけでなく、子どもたちが自分の将来の夢やライフプランについて考える機会も提供。子どもたちが夢を描き、希望を持つことが彼らの人生に大きな意味を持つということを伝えている。
イギリスのサッカーチーム、ニューカッスル・ユナイテッドは、聴覚障害のあるサポーターがスタジアムの興奮を体感できる「サウンドシャツ」を導入した。このシャツは触覚技術を活用し、試合中の振動を身体で感じられる仕組みだ。
「Unsilence the Crowd(群衆の沈黙を破る)」と呼ばれるこの取り組みは、ユニフォームスポンサーのSelaと王立ろう者協会の協力で実現。プレミアリーグのクラブが聴覚障害支援団体と連携するのは初の試みとなる。
スタジアムのアクセシビリティ向上と、多様なサポーターが一体感を味わえる場づくりへの一歩となるこの取り組みは、今後、他クラブへの普及も期待されている。
南米コロンビアのメガネブランド「Soul Optic」では、視覚障害のある職人たちがメガネを手作業で製造している。点字板に着想を得たシステムを活用し、ネジを使わずに部品を丁寧に組み立てる仕組みだ。
蝶番は点字セルの形からインスピレーションを受け、部品には小さな溝があり、職人が正しい組み方を触覚で確認できる工夫が施されている。コウモリのように視覚以外の感覚を活かした作業が特徴だ。
Soul Opticはサステナブルな素材やゼロ・ウェイストの梱包を採用し、環境負荷の軽減にも取り組んでいる。また、多様な雇用機会を提供するために、視覚障害者がつくるのに適した製品と生産プロセスを重視しているという。
差別や不待遇に立ち向かった結果、眼鏡のデザインの核となるブランドのアイデンティティが確立された事例だ。
社会正義の日が祝されるようになってから、この16年間で私たちの社会はどう変わったのだろうか。
経済格差の拡大、気候変動による不平等、性差別、移民・難民問題、人権侵害、ヘイトクライム……社会に根深く残る問題は数えきれない。しかし、こうした現実に向き合いながらも、「行動」がたしかに社会を変えてきたこともまた事実だ。
社会正義の実現には、法律や政策の改革だけでなく、個人の意識や行動の変化も欠かせない。身の回りの差別や不公平に気づき、小さな行動を積み重ねることで、社会全体の変化を促すことができる。2月20日の「社会正義の日」をきっかけに、自分に何ができるのか、身近なところから考えてみるのはいかがだろう。
【参照サイト】World Day of Social Justice 20 February
【関連記事】社会正義(Social Justice)とは・意味
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]]>The post 奪われた森を再生し、利益を再分配。貧困の連鎖を断った、インド・パチガオン村の物語 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>この連鎖を止めるにはどうしたら良いのだろうか。地域固有の土地を活用し、住民自らが収益を上げることで発展している小さな村がインドにある。
インド中部マハラシュトラ州にある、小さな村パチガオン。住民の多くはインド最大の部族の一つであるゴンド族の出身だ。この村では、住民主体の自治機関である「グラム・サバ(村議会)」が中心となり、地元の竹林を活用した産業を展開。竹材以外にも森林資源を活かした果物や種子、ハーブの収穫・販売、さらには森林の管理事業など事業の幅を広げている。
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この主要産業である竹材事業は収益性が高く、昨年度だけで370万インドルピー(約670万円)の利益を上げ、過去10年間の収益の合計は3,400万インドルピー(約6千万円)にものぼった。彼らのビジネスの特徴は明確なリーダーや最高経営責任者がいないことだ。会議の議長を務める人がその日の意思決定をし、書類処理を担当する人が一人いるだけだという。
しかし、この事業は天候の影響を受けやすいという課題もある。特にモンスーンの時期には竹の伐採が中止されることもあり、収入が不安定になりがちだ。しかしパチガオン村では、その間の収入減を補う仕組みが整っている。
伐採ができない期間、村では排水溝を掘ったり穴を埋めたりするインフラ整備の作業が行われ、それらに従事する村民には竹産業から得た利益が給与として支払われる。これにより、コミュニティ全体が安定した収入を得られる仕組みになっているのだ。この収益はグラム・サバを通じて男女の区別なく分配され、村の子供たちの高等教育、インフラ改善、さらに事業拡大のための土地取得などに活用されている。
彼らの事業は、森林の権利を獲得することから始まった。当初、この地域の森林は住民の所有ではなく、行政機関である森林局の管轄下にあったためだ。
インドがイギリスの植民地となる以前、森林地域は国家の領土の一部として扱われ、各地方の王や指導者の支配下にありながら住民による森林利用が容認されていた。1860年代になると植民地政府はインドの森林を歳入源とみなし、住民の伝統的・慣習的権利を無視して、政府による森林管理を強化した。
2006年にインドで森林権法が制定され、そこには森林に居住する指定部族およびその他の森林居住者に、森林を受け渡すことが明記されている。しかし、法律に対する森林住民の認識の低さと、州側の消極的な態度により、これらの法律は実質的に力を持たなかったという。
パチガオンの住民は2009年に森林権を申請。2,500エーカー(約1,010ヘクタール)の森林地の管理権を獲得できたのは3年後の2012年のことだった。
彼らは現在の生計だけでなく、未来にも目を向けている。竹産業を持続可能なものとするために、森林の拡大・育成・保護に関する115の規則を策定。竹で生計を立て続けるためには、新たな雑木林が必要であることを認識し、植林地を拡大したり、事業で得た収益を子どもたちの教育資金に充てたりと、環境にも配慮しながら次世代まで地域が活性化するコミュニティ・ビジネスを確立しているのだ。
雇用がなければ、人々は村を離れ、人口減少が避けられない。一方で、安定した仕事があれば住民はそこに住み続け、人口の増加が仕事の質向上や士気を高めることにつながるだろう。パチガオンの地域の特性を活かした住民主体の事業は、貧困問題解決の一つのロールモデルとなっていくのではないだろうか。
【参照サイト】The Guardian Bamboo bonanza: how a village in India used its forest to go from poverty to prosperity
【参照サイト】GOOD NEWS NETWORK India Law Allows Villagers to Claim 2000 Acres of Bamboo Forest to Turn Poverty into Prosperity
【参考文献】住民所有地における参加型森林管理に 政府が関与する意義 ─インド・メガラヤ州を事例として─
【関連記事】植民地主義を“衣服”で問う。ウガンダ初ブランド「IGC FASHION」
Edited by Megumi
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]]>The post 【2025年2月】日本で再定義されるゼブラ企業に、“死を語るカフェ”で感じた生への眼差し。ニュースレター編集部コラム4選 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
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Written by Erika Tomiyama
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「ゼブラ企業は、想像以上に日本にフィットしました」
この言葉は、11月19日にIDEAS FOR GOODが開催したイベント「ゼブラ企業と欧州動向をもとに考える、成長至上“じゃない”社会と経済システム」で、株式会社Zebras and Company(Z&C)共同創業者の田淵良敬氏が語ったものです。
「ゼブラ企業」は、ユニコーン企業への過剰な期待と、それに伴う現実離れした成長目標に疑問を抱いたアメリカの女性起業家たちが、2017年に草の根的に提唱したのが始まり。短期的な利益追求ではなく、持続可能性や社会的影響を重視するもので、急成長を目指すユニコーン企業とは対照的に、ゼブラ企業は現実に存在する動物のように地に足をつけ、社会全体に恩恵をもたらす成長を目指す意味が込められています。
ゼブラ企業という概念自体はアメリカで生まれたものではありますが、日本でのその浸透スピードと独自性は、アメリカの主要メディアでも取り上げられ、いまや世界でも注目を集めているといいます。2024年3月には経済産業省・中小企業庁が「ローカルゼブラ推進政策」を立ち上げるなど、政府の支援も浸透を後押ししているのです。
興味深いのは、日本でのゼブラ企業が単なるアメリカの輸入モデルにとどまらず、「日本的ゼブラ企業」として再定義されつつある点。たとえば、アメリカでは個人主義的な起業家がゼブラ企業を立ち上げるケースが多いのに対し、日本では地域社会や伝統産業との連携を重視する動きが顕著だといいます。
もともと日本には、創業100年以上の企業が約33,000社、200年以上が3,000社超、1000年以上が世界14社中8社という独特の経済基盤があり、日本の老舗企業は急成長を目指すのではなく、地域社会と共存しながら持続的な経営を重視していることが特徴です。この「急成長を求めない価値観」が、ゼブラ企業の哲学に自然に適合しているといえるのかもしれません。
イベントで紹介されたのは、Z&Cの投資先第1号である「陽と人」。福島県国見町で、農産物の活用と地域課題解決に取り組む企業です。廃棄されていた柿の皮を活用し、女性のデリケートゾーンケア製品「明日わたしは柿の木にのぼる」を展開。フェムテックの迅速で農業の持続可能性と女性支援を両立しています。
Z&Cの記事の中では、「陽と人」の代表である小林味愛氏が、取引先である農家の家で、おばあさんと1時間、2時間と話しこむエピソードが挙げられています。よくIDEAS FOR GOODでソーシャルグッドな事例を取り上げる際、「経済合理性はあるのか」という質問を受ける機会が多くあるのですが、記事には、こんなことが書かれていました。
非合理な行動として映るというのは、あくまで短期的な利益の最大化を目的とした時の話。閉じられた地方社会で持続的にビジネスに取り組むには、信頼こそが不可欠になります。ですから、それは経済的な利益とも矛盾しない。長期で見れば、そちらの方が合理的と言えるのです。
農家のおばあさんと1・2時間話し込む行為は、生産重視の視点では効率的ではありません。しかし、顔の見える地域社会で持続的な関係を築くには、このような時間をかけた信頼構築が不可欠です。短期的な利益を追求するモデルでは見過ごされがちな「信頼」という要素こそが、長期的には地域全体の活性化や事業の安定性を支える土台となります。非合理に見える行動の中にこそ、ビジネスの本質的な合理性が潜んでいる可能性があります。
今回のイベントのテーマとなった「成長至上主義」からの脱却プロセスのヒントは、私たちが本来持っている「人間らしさ」を取り戻すことにあるように感じました。人間関係や地域経済の再構築に向けた、新しい道筋を示しているのがゼブラ企業であり、その拡大は単なるビジネスモデルの転換にとどまらず、自分自身や足元にある地域との「出会い直し」とも言えるかもしれません。
【関連記事】英国で「屋外広告のない街」を求める声。広告が心身にもたらす影響が明らかに
【関連記事】B Market Builder Japan始動。日本のB Corpムーブメントの舞台裏とこれから
Written by Natsuki
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コロナ以降、東京など都会で暮らす人々の間で地方移住への関心が高まっています。SNSには、「田舎暮らし」「古民家暮らし」「地方移住」……などのハッシュタグと共に、ゆっくりとした暮らしの魅力が切り取られているようです。自然があり、食に恵まれ、人があたたかく、心地よい静けさがある──その田舎像は「間違ってはいない」と、人口1,300のまちに暮らす筆者は思います。
しかし実際のところ、いわゆる“のんびり田舎暮らし”は、生活の中で心が落ち着くほんのひとときに過ぎません。本当に地域に根ざして生きる人々は、その豊かな時間を実感する裏で、道路に伸びた雑草を刈り、農作業に勤しみ、自治会で話し合いを重ねているのです。これは田舎移住の“幻想”には描かれることのない、実直に人や自然と向き合い折り合いをつけて生きる姿だと感じます。
一方で、地方から見た都会像にも偏りがあるかもしれません。地方で暮らすうちに、筆者自身が「都会の人は利益を優先する。買っては捨てる暮らしをしている。自然に触れていない……」と思い込んでいることに、ふと気が付きます。これだけ多様な人が生きる都会なのに、一緒くたにしてしまうのです。
双方のそうした理解不足は、地方(中都市も考慮すべきですが)と都市のあいだにおける関係性の希薄さや、協働の浅さが背景にあるのではないでしょうか。地方創生という名のもと、資金提供やプロジェクト創出が促進されているものの、一方向かつ短期的なものが多いように思われます。
それと同時に、地方と都会は構造としては共存関係にあります。都市は、地方からの食料の供給に頼っているでしょう。一方で地方は、地方交付税交付金や国庫支出金がなくては地域行政を担っていくことが難しいはず。各々の現在の役割を守らなくては、日常は保たれないかもしれないのです。
つまり現在の社会は、地方と都市が互いを必要とする存在でありながら、相互理解や支え合いが不足する実態があるように見えます。結果として、地方は人口が減り文化の継承は危ぶまれ、都市では土地・自然・人への負荷がかかり、不健康な社会へと突き進んではいないでしょうか。
これから真に持続可能な社会体系を考えていく際、地方と都市がコミュニケーションを丁寧に重ね、役割を尊重しつつ知見を共有することは欠かせないでしょう。このように地域内で特有の自然や人、モノの循環を促し、地域間で補完し合う社会は地域循環共生圏とも呼ばれ、環境省が中心となって推進されています。互いの文化や経済をただ消費し合っていてはならないのです。
地方と都市、どちらが良いとも悪いともありません。異なる存在の異なる価値に対して敬意を払い、両者が能動的に支え合おうとする社会が求められるのではないでしょうか。そこには、金銭だけではない、継続的な人の交流や対等な学び合いの場が生まれているはずです。
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Written by Motomi
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誰にでもいつかは訪れる、死。高齢化が進む日本ではこの先、2040年頃をピークに死者数が増えていく時代に突入すると言われています。
こうした社会は「多死社会」と呼ばれ、医療体制や看取りの場所、残された家族の心のケアなどが大きな課題となっています。一方で、そんな死が“タブー視”され、オープンに語ったり、向き合ったりしにくいものとなっているのも事実です。
筆者は先日、そんな「死」についてあえて対話する「デスカフェ」というイベントを、宮城県の気仙沼という地域で、地元の方々と一緒に開催しました。デスカフェは、死をタブー視せずに受け入れ、語り合う場。宗教や国籍、年齢、性別等に関係なく、お茶やコーヒーを飲みながら自由な形式で行うのが特徴です。スイスの社会学者がパートナーノの死をきっかけに始め、その後イギリスの社会起業家によって世界中に広まりました。
気仙沼で行ったデスカフェでは、身近な人を若くして亡くしたときの辛い気持ちから、宗教的な価値観を大切にしながら前向きな気持ちで亡くなっていったという家族の話まで、死を起点にさまざまな話題が自由に共有されました。時には、「自分のお葬式は絶対外でやってほしい」「パーティーみたいにして遺体の周りで参列者に踊り回ってほしい」といったように、普段であれば“縁起でもない”会話が、笑いながら楽しく交わされる場面も。
地域によって死者の弔い方・悼み方にさまざまな方法や習慣があることも話題になりました。例えばモンゴルやチベットには、鳥や野生動物に遺体を食べてもらう鳥葬や曝葬と呼ばれる文化があります。日本でも、気仙沼では数年間に一度、それまでに亡くなった同級生を共に供養する「物故祭(ぶっこさい)」という地域行事が行われていたり、沖縄にはお墓でお花見のように楽しく宴会をする「シーミー」という風習があったりと、死に対する考え方や価値観が、地域や文化によって多様であることがわかりました。
そうした対話を1時間半ほど続け、会はお開きに。話した人々はほとんど初対面だったにもかかわらず、死をテーマにしたことで、普段は語らないような人生に対する価値観が語られただけではなく、悲しいイメージが先行しがちな「死」について、一歩引いた視点で、俯瞰的に考えてみることができたのです。
何より死について語ることは私たちに、「自分の人生がいつか終わるのだ」ということを強く実感させます。そしてそれは、「自分はどう生きていきたいのか」という「生」に対する眼差しにつながっていくのです。また、この大きな視点が、その場にお互いの存在を深く受容するような心地よい雰囲気を生み出してくれていたように感じます。
こうした現象は、多くのデスカフェで起こっているそうです。2021年に出版された、デスカフェ開催の方法やさまざま実例をまとめた『デスカフェ・ガイド〜「場」と「人」と「可能性」〜』という書籍には、こんな言葉があります。
私たちは生きています。つまり、私たちはいずれ必ず死ぬということです。それは明日かもしれないし、50年後かもしれません。(略) でも、誰にとっても当事者となる死について対話する事は、私たちがいずれ必ず死ぬ存在だということを思い起こし、『生』について、生きていることについて、より深く考えるきっかけになるはずです。
本書では、デスカフェがきっかけで地域に新たな交流が生まれたという事例も数多く紹介されていました。お互いを気にかけ合う気持ちを醸成するこうした場は、多死社会と呼ばれる今後の日本社会で必要とされている、「医療機関で完結しない地域でのケア」の可能性も開いていくのではないでしょうか。
死について気軽に話してみたり、誰かの考えを聞いてみたりすること──それが生きている今をより充実させ、お互いを優しく受け止め合える地域やコミュニティを生み出していくのかもしれません。
【参考書籍】デスカフェ・ガイド〜「場」と「人」と「可能性」〜 執筆代表・企画 吉川直人/執筆・編集 萩原真由美
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Written by Erika Tomiyama
「X(旧Twitter)をやめる」──フランス・パリ市は先週末、約220万人のフォロワーがいるXのアカウントを、1月20日付で削除すると発表しました。これは単なるSNS戦略の見直しではなく、欧州全体で広がる「X離れ」の象徴的な動きといえます。
こうした背景には、Xのアルゴリズム変更がもたらした深刻な影響があります。イーロン・マスク氏による買収後、X上ではヘイトスピーチや偽情報の拡散が加速し、対立を助長する「エコーチェンバー」(同じ意見の人ばかりが集まり、異なる意見を排除する空間)が形成されやすくなってしまったのです。さらに、Xのアルゴリズムには透明性がなく、特定の思想や立場が優遇されている懸念も根強くあります。これにより、公共の議論が偏った情報によって歪められるリスクが高まっているのです。
実は、パリ市のアンヌ・イダルゴ市長は2023年の時点ですでに自身のXアカウントを削除し、「Xは巨大な地球下水道」と痛烈に批判していました。そして今回、市の公式アカウントの削除という形でこのスタンスを明確にしたのです。
この動きは、フランスを中心に広がるXからの離脱運動「#HelloQuitteX」にも付随しています。そして、これを支えているのが、仏国立科学研究センター(CNRS)の研究者であり、『Toxic Data』の著者でもあるDavid Chavalarias氏らが開発したサイト「HelloQuitteX」です。
このサイトは、「民主主義の非常口」をつくることを目的としており、Xを離れたいユーザーがスムーズにBlueskyやMastodonといった代替SNSに移行できるよう設計されており、フォロー・フォロワーリストもそのまま移行できるようになっています。現在、同サイトのアクセス数は1,000万件を超え、Xの影響力に対する根本的な疑問を投げかける運動として注目されています。
偽情報の拡散がもたらす影響は政治や社会にとどまらず、気候危機にも深刻な影響を及ぼしています。現在も続くロサンゼルスの山火事を例にとると、災害そのものの脅威だけではなく、SNS上で流れる大量の偽情報が問題となっています。科学者らの調査によると、気候変動による乾燥化が火災を助長していると指摘されていますが、X上では「放火犯の仕業だ」という意見やAIが生成した偽の火災画像が急速に拡散されました。結果として、本来焦点を当てるべき「気候変動による森林火災の増加」や「適切な火災対策」の議論がかき消されてしまっていることも事実です。
Xの離脱はフランス国内にとどまらず、欧州各国でも同様の動きを加速させています。スペインの有力紙「バングアルディア」はXでの投稿を停止し、英国では「ガーディアン」が同様の決定を下しました。
冒頭で紹介したパリ市のX離脱は、単なる一自治体の決定ではありません。これは、デジタル空間の信頼性をめぐる社会全体の課題を浮き彫りにする動きであり、今後のSNSの在り方に対する重要な問いかけでもあります。情報の真偽を見極める力がますます問われる時代、私たちは何を信じ、どのプラットフォームに身を置くのか──その選択が、これからの情報社会のあり方を決めるといっても、過言ではないかもしれません。
【関連記事】「学校でのスマホ禁止」広がる。子どもとデジタルの程よい距離感を探る
【関連記事】“デジタル格差”の解消へ。ネット上での人種差別に立ち向かう、アメリカの情報サイト
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]]>The post ニュージーランド議会、タラナキ山の“人格権”を可決。マオリへの補償と世界観の尊重へ first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>その抗議がありながらも、法案は第一読会(※)を通過。これに反対し、翌日の15日には、国内で1万人規模のデモ行進が行われた。その後各地を通過して、9日間にわたるhīkoi(平和的抗議)は計4万人近くを動員して幕を閉じた。史上最大規模のデモとなったという。
第二読会は2025年5月頃に予定され、引き続き高い注目を集めると予想される。この一連の出来事で議論の的となったのが「ワイタンギ条約」だ。これは、1840年2月6日にイギリス王室とマオリ族がワイタンギで調印した条約であり、これによってニュージーランドがイギリス領となる代わりに、マオリの土地と文化の継承が約束された。しかしマオリ語版と英語版に相違があることから、解釈の余地が衝突や議論を呼び起こしてきたのだ。
※ ニュージーランドにおける法律案の審査は三読会制であり、第一読会では、提出された法律案を委員会に付託するかどうかを審議・決定する(矢部 明宏, 2003)
2024年11月19日、ニュージーランドの首都ウェリントンでデモ行進に参加する人々|Image via Shutterstock
このようにマオリ族の権利をめぐって緊張感が高まる中、ワイタンギ条約に基づく歴史的な一歩が踏み出された。2025年1月30日、ニュージーランドのTaranaki Maunga(Mount Taranaki)に対して法的な人格権が与えられたのだ。2017年に法的人格の付与が“約束”されてから、8年の年月を経て実現した。
具体的には、議会でThe Taranaki Maunga Collective Redress Bill(タラナキ山集合救済法案)が制定され、株式会社や合同会社などの名称と同様に、Taranaki Maungaにも法人格が与えられた。これは「Te Kāhui Tupua(テ・カーフイ・トゥプア)」と呼ばれ、生きている不可分の全体を指す概念として理解されるという。
この決定により、山や周辺の土地の強制的な売却は阻止され、伝統的な山の利用方法を回復し、そこに生息する在来の野生生物を保護する活動を支持することに繋がる。市民は変わらず山に立ち入ることが可能だ。
その対象は、タラナキ山と周囲の峰や土地における物理的な存在に留まらず、哲学的な要素にも及ぶ。「自然は先祖であり、生ける存在である」というマオリ族の世界観も認識・尊重されるのだ。
さらに今回の決定は、ニュージーランドが植民地化された後、1860年代に山や土地がタラナキ地方のマオリ族から奪われたことを認め、謝罪し、その地が被ってきた被害に対する救済を約束するものであった。これは生態系にも権利があると捉える「自然の権利」の実践だけでなく、脱植民地化の一例でもあるだろう。
この法案は、議員123名の満場一致で承認された。首都ウェリントンで開催された最終読会では、何百人ものマオリ族の人々が議会に集まり、法案が可決されるとマオリ族の歌「ワイアタ」が沸き起こったという。自然への人格権の付与として、2014年のテ・ウレウェラ原生林、2017年のワンガヌイ川に次ぐ同国3番目の事例となった。
今後、タラナキ山の代弁者となる組織が設立される予定であり、山周辺のイウィ(マオリ語で部族)から4名、政府側の指名により4名が選出されるそうだ。
タラナキ山の交渉において責任者を担ったJamie Tuuta氏は、Guardianの取材にこう答えた。
「何世代にもわたる希望が捨てられ、もう私たちと共にいない人々の努力の末……今日は悲しい時でもありますが、タラナキのイウィとして集い祝福すべき日でもあります。これは、私たちの歴史の中で、私たちの山だけでなく、タラナキの人々、この地域、そして国にとっても最も重要な歩みの一つであるからです」
この山はかつて、イギリスの探検家ジェームズ・クックによってエグモント山と名付けられ、公式名として位置付けられていた。その名称が変更され、さらには人格と権利が与えられ、土地が解放されたかのように見える。
それでも、まだ課題は残るという。Tuuta氏は、自然に法人格を与えることも、先住民や自然が西洋的な仕組みである法律に取り込まれる構造にあるとして批判しているのだ。
どのような状態ならば、歴史的な文脈から人と人、自然と人が“公正”な関係にあると言えるのか。この問いにまだ答えはないが、タラナキ山とマオリの人々の繋がりが戻ったことは間違いなく“公正”に近づいている。この歩みを止めないことが、今できる最も誠実な向き合い方のはずだ。
【参照サイト】A New Zealand mountain is granted personhood, recognizing it as sacred for Māori|AP News
【参照サイト】New Zealand mountain gets same legal rights as a person|BBC
【参照サイト】Taranaki Mounga: New Zealand mountain granted same legal rights as a person|The Guardian
【参照サイト】New Zealand gives Mount Taranaki same legal rights as a person|The Guardian
【参照サイト】Thousands flock to NZ capital in huge Māori protests|BBC
【参照サイト】NZマオリ党議員が議場でハカ。法案を引き裂き、先住民族の権利を捉え直す動きに抗議|ハフポスト
【参照サイト】ワイタンギ条約|ノースランド, ニュージーランド
【参照サイト】矢部 明宏(2003)諸外国の憲法事情:ニュージーランド, 国立国会図書館調査及び立法考査局
【関連記事】複雑な未来を、複雑なままに。脱植民地化と実直に向き合うマガジン「Decolonize Futures」
【関連記事】法廷に立つ「自然」は気候危機を止めることができるか
The post ニュージーランド議会、タラナキ山の“人格権”を可決。マオリへの補償と世界観の尊重へ first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post 日立R&Dチームが小冊子『リペア社会をデザインする』を発行。修理に心躍る未来へ向けた提言とは? first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>この「リペア」という体験がもっと当たり前になった社会を、想像してみてほしい。どんな暮らしが営まれ、人々は何に喜びを見出しているだろうか。
そんな未来を具体的なシナリオとして描き、その実現に向けた提言をまとめた小冊子がある。日立製作所 研究開発グループと、武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科 岩嵜研究室の共同研究チームが2024年9月に公開した『リペア社会をデザインする:Designing a Repair Society』だ。
Image via 日立製作所 研究開発グループ
冊子の中で、リペア社会実現に向けた社会・製品のあり方・人々のマインドセットそれぞれの視点から提言が示されている。まず社会レベルでは、「ローカル経済圏の再興」が重要だという。国内外の広い経済と共存して、身近な関係性の中でモノやエネルギーが小さく循環し続ける経済が注目される。
続いて製品レベルでは、故障してもリペアしやすい商品デザインに加えて、「リペアする・してもらう体験」がさらに楽しいものになっていくことが大切とのこと。リペア社会は「修理を依頼するの面倒だな……」ではなく「どんな風にリペアしようかな」とワクワクする社会なのだろう。
最後にマインドセットの面では「機能よりエモさ」が重視され、リペアを起点とした関わりがデザインされることが求められている。現在の経済では、早い・安い・便利などの機能性が求められてきたが、リペア社会ではモノへの“愛着”が行動のきっかけになる。それを支えるのが、「リペアする・してもらう」関係から生まれる多様な人とのつながりであるそうだ。
これらの提言にもとづいて、冊子には「リペア社会」での日常が描かれている。扇風機が故障したら、ご近所のリペアマイスターに相談して、一緒に修理を進める──そんな光景が、提言に支えられながら、少し先の未来に実現しそうな予感を抱かせる。
Image via 日立製作所 研究開発グループ
このプロジェクトメンバーの一人であるのが、日立製作所 研究開発グループの神崎将一さんだ。冊子の背景やリペア社会に向けた展望について聞いた。
事前のリサーチで、海外に比べて日本では「修理する権利」に関する報道が少ないことが分かっていました。一方で、リペアは中長期的に新分野として事業化できる可能性があり、これまでの我々のサーキュラーデザインの活動とも親和性があると感じました。
日立製作所 研究開発グループでは、リペアというテーマに到達するまでに、ペットボトルキャップをもとに小型の射出成形機を使ってボタンを生形する、市民参加型の実験を国分寺市で実施しました。出発点は「不要品の処理を業者に任せる状況では、リサイクルの実感が湧きにくく、結果としてサーキュラーエコノミーへの関心も高まりにくいのでは?」という問い。製品を手放すことと製品の入手をなめらかに繋ぐローカルな仕組みを通じて、リサイクルの身体的な理解、そして循環への関心につながるという仮説を立て、「消費者・生活者の手でつくること」に注目して実験を行いました。廃プラのリサイクルのノウハウをオープンソースで公開する、オランダのプロジェクト「Precious Plastic」に影響を受けています。
実験を振り返りながら、サーキュラーエコノミーを実現する「Rs(※1)」の中で、消費者が製品を直していくリペアもまさに「消費者・生活者の手でつくる」行為であると思い、リペアは良いプロジェクトテーマになりそうだと考え始めました。
※1 リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)を合わせた3Rや、それにリフューズ(Refuse)、リフォーム(Reform)、リペア(Repair)を足した6Rなどが存在する
滋賀県長浜市のイベントにて冊子を出展した神崎さん(左)|Image via 日立製作所 研究開発グループ
思っていた以上に、「機能よりもエモさで人を動かす」「リペアを起点に人がつながる」といった、マインドセットの提言に関心を持ってくれる方が多いことに気づきました。「リペアが根付いていくためには、リペアラブルな製品設計やリペアサービスのリデザインの検討よりも、マインドセットの醸成の方が遠回りにみえて実は近道なのかもしれない」といったコメントもありました。製品設計や物質の資源循環の中での検討に閉じず、少子高齢化やコミュニティの弱体化など、ほかの社会課題と結び付けて包括的に捉えたり、感性に訴えるクリエイティブをつくったりするアプローチが重要であると益々実感しています。
もう一つ気づいたことは、冊子を受け取った方が語り手となってくれる可能性があることです。冊子を手渡した方が、提言や未来シナリオの内容に重ねて自身の体験や経験を語ってくれるだけでなく、他の人に冊子を紹介してくださったという話も耳にしています。我々の提言が冊子という形式だからこそ、オンライン上の白書や論文などと比較して、フランクにカジュアルに話題にしてくれたり、議論の土台にしてもらいやすかったりするのだと思います。
様々な場で対話をしやすいように小さく軽い冊子にしたこと、リペアの世界観と親和性のあるリソグラフ印刷にしたこと、想像力と創造力に訴えかける象徴的なイラストとしてビジョンを描いたこと、という3点です。
1点目に関しては、サーキュラーエコノミーの実現という複雑で厄介な問題を対象にしている以上、ビジョンを示しながら、より良い解に向けて多様な方と対話をし、協働していくことが不可欠だと考えています。リペアに関しては、問題提起から始めるべき状況だと感じました。そこで様々な場で我々のビジョンに関して議論ができるようにまずは冊子という形式、そして立ち話でも対話がしやすいサイズにしました。
2点目に関しては、個人的にリソグラフ印刷(※2)が好きで、それありきで冊子づくりを始めました。リソグラフのレトロさが醸し出す独特の温もりが、リペアやサーキュラーにあまり関心のない人でもとりあえず読んでくれることを狙いました。リソグラフ特有のズレやかすれの印刷が、壊れるものや不完全なものを許容していくリペアと相性がよいと感じています。
最後に、事例調査や文面でのビジョンの提案に留まらず、ビジョンを未来のシーンとして一枚のイラストに表現したことです。1枚絵であっても要素をちりばめているので、サイゼリヤの間違い探しの絵を友達や家族とみて会話をする感覚で、今後の生活や登場しうるサービスに関して軽く対話できるようになったと思っています。
※2 リソグラフ印刷:孔(あな)の空いた版を通してインクを載せる印刷技法をデジタルで再現したもの。版画のような仕上がりが特徴。
Image via 日立製作所 研究開発グループ
個人的には、電子機器のカスタマイズを重視したリペアに一緒に取り組んでくれる場やサービスが身近に増えたらいいなと思います。例えば、古い機器をカスタマイズして中身に現代のテクノロジーを加えるようなリペアです。現在の電子機器のリペアでは、機能回復のためのメーカー修理などはありますが、カスタマイズする方向性のリペアや、今ある建物のエネルギー効率改善のために改修するレトロフィットが少ないと感じています。また、衣服などと比べて、電気系統を扱うのは怖いな……という意識があるので、電子機器のためのリペアが普及しても、まずは知識と経験のある人と取り組みたいという気持ちがあります。
これは、世の中の“アナログ回帰”の流れとも相性が良いです。アナログレコード、フィルムカメラ、クラシックカーなどを所有し始める友人・知人が増えてきています。ユーザー主導でのレトロフィットの機会が増えていくことで、リペアがクリエイティブな行為としてさらに認識されていくのではないかと思っています。
もちろんあります。私は研究開発部門に所属しているので、研究活動の出口として自社のビジネスに還元することがミッションです。今回は、デザインの力と冊子という物理的な媒体のおかげで、社外に限らず、リペアに関心のある社内の事業部と多くの繋がりを生むことができました。ビジョンの提示と対話は進み始めたので、次の挑戦はビジョンと事業を繋げること、製品設計やサービス開発の香りがする小さな実績を事業部門の方とつくることだと思っています。
修理・リペアをコストではなくブランディングの機会であると訴求した活動をすることが、リペアラブルな製品の開発にありつける我々のチームなりのアプローチだと思っています。一方で、社内に閉じた製品開発だけを推し進めることはサーキュラーエコノミーを実現する上で必要な標準化から遠ざかると思うので、引き続き社外の方との対話、そして協創の姿勢とバランスを持ちながら、次の挑戦をしていきたいです。
サーキュラーエコノミーやリペアが大切であると理解していることと、リペアが身近になった社会を豊かに想像できることの間には、明らかな違いがあるように感じられた。冊子に描かれたような未来をより多くの人と共に想像し、これまでのモノとの関わり方を振り返りながら新たな生活の一幕を描き足すことができれば、具体的な変化は案外身近に起きるのではないだろうか。
とはいえ、私たちが「もっと便利に、楽に」という欲求から脱却できるか否かが、どうしても最後のカギを握る。神崎さんが冊子のあとがきで「ぶっちゃけ、リペアって面倒だと思います」と吐露するように、地球環境のためという“正しさ”を認識しながらも手間やお金のかかるリペアに躊躇してしまうのは、多くの人が共感してしまう点だろう。
あとがきの続きで「一方で、DIYで家の身の回りのモノをつくるのが好きな自分がいます」と、神崎さんは語る。正しさを振りかざすだけではなく、手間を面白がる仕組みや楽しむ機会が増えたら、結果として地球環境のためにもなる社会が見えてくるはず。日本で立ち上がるリペアの波に、引き続き注目していきたい。
【参照サイト】リペアの提言と未来シナリオ『リペア社会をデザインする』をつくりました|Hitachi circular design
【関連記事】家に届くのは“壊れた”ゲーム機。課題解決力を育む、子ども用の「サブスク修理キット」
【関連記事】スニーカー愛好家の駆け込み寺。VEJAがパリにオープンした「靴の修理ストア」
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]]>The post 【3/5開催】NPOカタリバと考える。子どもたちのHAPPYな未来のためにできること(Money for Good特別イベント) first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>予測不能な変化が起きる時代を100歳まで生きるかもしれない、現代の子どもたち。自ら人生を切り拓き、豊かに生きていくためには、生涯学び続ける「意欲」と変化の激しい時代を楽しみ、チャンスに変える 「創造性」が、すべての子どもたちに必要です。
しかし、教育機会が平等に行き届いているはずの日本で、生まれ育った環境や受けた教育による「きっかけ格差」が広がりつつあります。
こうした現状を踏まえ、三井住友フィナンシャルグループ/SMBC日興証券によるプロジェクト「Money for Good」がイベントを実施。認定NPO法人カタリバの山田将平氏と、三井住友カード株式会社の高橋真由美氏をゲストにお招きします。
認定NPO法人カタリバは、どんな環境に生まれ育った10代でも未来を自らつくりだす意欲と創造性を育める社会を目指し、活動している団体です。その活動の一つに、全国の高校生に探究学習プログラムを届ける「全国高校生マイプロジェクト」があります。そして、それを支援しているのが、三井住友カードのタッチハッピープロジェクトなのです。
今回のイベントでは、二社がどのように若者の教育を支援しているのかを学び、私たちが子どもたちのために何ができるのかを考えていきます。
山田将平/やまだ しょうへい
認定NPO法人カタリバ (認定特定非営利活動法人カタリバ)
高橋真由美/たかはし まゆみ
三井住友カード株式会社 マーケティング本部
伊藤直子/いとう なおこ
三井住友フィナンシャルグループ/三井住友銀行
社会的価値創造推進部 上席推進役
「Money for Good」は、 SMBC日興証券Nikko Open Innovation Labおよび三井住友フィナンシャルグループ社会的価値創造推進部によるプロジェクトです。私たちは”社会をよくするお金の循環を共につくる”というコンセプトのもと、社会課題に取り組む人・企業 団体およびその取組についての情報発信を行っています。(詳細はこちら:Money for Good)
三井住友カードが実施するタッチハッピープロジェクトでは、認定NPO法人カタリバが行う「マイプロジェクト」に対して、Visaのタッチ決済数に応じた寄付を行う支援をしています。
「マイプロジェクト」とは、10代の意欲と創造性を育むことを目指した活動の一つ。未来の学びを日本全国の高校生に届けるというコンセプトのもと、主体性を持って身の回りの課題や関心をテーマにプロジェクトを立ち上げて実行し、発表と対話を通して振り返り学びを得る探究型学習プログラム。(詳細はこちら:マイプロジェクト | 活動紹介)
「タッチハッピー」は、Visaのタッチ決済を通じて、三井住友カードが様々な社会貢献活動に支援を行い、社会課題の解決に寄与するプロジェクト。日常のキャッシュレス決済が身近な社会問題の解決に繋がる仕組みを提供しています。(詳細はこちら:タッチハッピーとは?あなたのタッチ決済を社会貢献に繋げる活動)
Peatixイベントページよりお申し込みください。
【関連記事】読むだけ、歩くだけで寄付になる。日々のアクションを社会貢献につなげるサービス5選
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]]>The post 陸路を選んだら、2日間の休暇を。社員のサステナブルな旅を支えるオランダ企業 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>4時間以上の移動は、その日のスケジュールに大きな影響を与え、また身体への負担も大きい。鉄道に比べて大きな環境負荷を生むとわかっていたとしても、やむを得ず飛行機を移動手段に選ぶ人も多いのではないだろうか。
そんな中、オランダのオーガニック植物小売店・Sprinklrは、社員にサステナブルな移動を促す独自の取り組みを始めた。それは「1年間飛行機を使わなかった社員に、2日間の有給休暇を追加で付与する」という制度だ。2024年には、14人の社員のうち11人がこの休暇を取得した。
この制度は、「リンデ・デー」と名付けられている。名前の由来は、普段から低炭素旅行を実践している社員、リンデさんの行動。彼女は長距離移動の際にも飛行機を使わず、時間をかけて陸路で移動することを選んでいる。
リンデさんはその経験から、「陸路の移動を選択することは環境には良いが、個人にとっては時間や手間がかかることが多い」というシンプルな気づきを得た(※2)。そして、その負担を軽減する仕組みがあれば、多くの人が環境に配慮した移動を選びやすくなるのではないかと考えたのだという。Sprinklrは、社員一人ひとりの旅ごとの正確な炭素排出量を計算し、それをオフセットするといった手段ではなく、環境負荷の小さい移動手段を選択するサポートをしているのだ。
Trend Watchingの取材で、同社の共同創業者であるスザンヌ・ヴァン・ストラーテン氏は、「飛行機を利用する人を批判するのではなく、意識的に移動手段を選ぶ人を支援することが大切」
と語る。批判ではなくインセンティブを与えることで、持続可能な選択を後押しするという考え方だ。これこそが、環境への理想と、利便性という現実の間のギャップを埋めるための実践的なアプローチといえるかもしれない。
ヨーロッパの航空業界は、2050年までに旅客数を2倍に増やす計画を立てており、早ければ2026年には炭素予算を使い果たすという(※3)。飛行機の利用を完全になくすことは現実的ではないが、企業が社員の移動手段に配慮し、「飛行機ではない手段を選択をした人が報われる仕組み」を作ることは、持続可能な社会への大きな一歩になるのではないだろうか。
※1 新幹線vs航空、実は疑わしい「4時間の壁」の根拠
※2 A Dutch plant retailer’s employees get two extra days off if they choose not to fly
※3 Aviation industry plans for growth ‘irreconcilable’ with Europe’s climate goals
【参照サイト】A Dutch plant retailer’s employees get two extra days off if they choose not to fly
【関連記事】世界初、100%持続可能な燃料で飛ぶ旅客機
Edited by Megumi
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]]>The post 【3/4開催】女性起業家によるピッチから、経営者同士のラウンドテーブルまで。ジェンダー平等へのアクションを推進する参加型イベント first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>2024年のイベントの様子 / Image via An-Nahal
昨今は企業におけるジェンダー平等が推進されているが、その主流は女性管理職比率の向上である。しかし、包括的なジェンダー平等の達成には、男性の育休参加や男性管理職の巻き込み、調達先や取引先の多様性、バイアスへの対応、女性にとっての働きやすさの向上などが不可欠だ。
こうした考えから、本イベントでは女性、男性、外国人女性といったダブルマイノリティ、女性起業家など、多様な視点からジェンダー平等の推進を考える。ジェンダー平等や多様性に深い知見をもつビジネスリーダーの登壇や対話型・体験型の分科会を通じて、参加者が所属組織や活動でジェンダー平等に向けたアクションを推進するための新たな気づきや実践的なヒントを得られる絶好の機会だ。
登壇者(一部)上段左から:Michelle Baron氏(日産自動車 常務執行役)、H.E. Mr. Gilles Beschoor Plug氏(駐日オランダ王国特命全権大使)、小木曽 麻里氏(SDG Impact Japan Founder and Co CEO)、岩瀬 賢治氏(テイクアンドギヴ・ニーズ 代表取締役社長)、名倉 勝氏(CIC Institute ディレクター/一般社団法人スタートアップエコシステム協会 副代表理事/東京科学大学特任教授)、甲田 恵子氏(株式会社AsMama 代表取締役CEO)、板垣 はなみ氏(株式会社 HANAMI ITAGAKI DESIGN 代表/ デザインディレクター)/ Image via An-Nahal
主催は、「多様な人材が協働する社会を作る」をビジョンに企業のダイバーシティ推進のためのコンサルティングや研修を展開する株式会社An-Nahal(アンナハル)。外国人留学生のキャリア形成と日本企業のダイバーシティ&インクルージョン推進を同時に実現する異文化メンタリングプログラムなどを、行政や大学とも連携しながら提供している。
同社代表の品川優さんは、「このイベントに来てほしいのは、女性だけではなく全てのマイノリティ側の人々、そして男性をはじめとするマジョリティ側の人々。ジェンダー平等を女性だけではなく、“みんなのアジェンダ”と捉えて欲しい」
とIDEAS FOR GOODに話す。
毎年ジェンダー・ギャップ指数を算出している世界経済フォーラムによると、今後も現状の取り組みが続く場合、世界のジェンダー平等の達成にかかる年数は134年(※)──途方もなく長く感じられるこの時間を少しでも短くするために、今できることはなんだろうか。その一歩を踏み出すヒントを、探しに行きたい。
※ Global Gender Gap Report 2024
【参照サイト】United Voices for Equality: 共創で更なるアクションを
【参照サイト】ビジネスにおけるジェンダー平等推進に向けた国際女性デーイベント 「United Voices for Equality: 共創で更なるアクションを」を神奈川・横浜にて開催
【関連記事】米・ミネソタで誕生した、州史上初「全員女性」の議会
【関連記事】男性が1週間ネイルを塗ってみたら。“有害な男らしさ”を問う、イギリスの社会実験「Hard As Nails」
【関連記事】「意思決定プロセスに女性はいますか?」気候変動対策に潜むジェンダー不平等を可視化するアプリ
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]]>The post 超小型EVからアクセシビリティナビまで、欧州の最新モビリティ事例を探る【欧州通信#36】 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。
前回は「欧州のサステナブルなお土産」をテーマに、各国在住者がおすすめの商品を紹介した。今回の欧州通信では「サステナブルなモビリティ」をテーマに、欧州各都市のモビリティ事情を取り上げていく。
2025年1月から、ロンドンのハマースミス・アンド・フラム区で、Yo-Go社の「ネイバーフッド・エレクトリック・ビークル(NEV)」と呼ばれる超小型電気自動車のシェアリングサービスが試験運用されている。このNEVは、ゴルフカートに似たデザインを持ち、最高速度は時速32キロメートル。コンパクトな設計と低速走行により、市街地での移動や短距離の移動に最適化されている。
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ユーザーはスマートフォンアプリを通じて車両をレンタルでき、解錠は無料、走行中は1分あたり20ペンス(約40円)、駐車中は1分あたり5ペンス(約10円)という手頃な料金設定となっている。
このサービスは、25歳から70歳までの有効な運転免許を持つ地域住民を対象に提供されており、特に自家用車を所有するほどではないが、ちょっとした移動手段を必要とする人々がターゲットになっている。使用シーンとしては、例えば、近隣の買い物、通勤、通学、または友人や家族の訪問などだ。
車両自体は一台あたり約6,000ポンド(約100万円)で、航続距離は最大56キロメートル。さらに、屋根にはソーラーパネルが搭載されており、バッテリー寿命を延ばし、充電の手間を減らす工夫がなされている。
このサービスは、ロンドンの交通渋滞緩和や排出ガス削減に貢献する可能性を持つ。特に、公共交通機関が整備されていてもなお「ラストワンマイル」の移動に困る人々や、高齢者、身体的な理由で自転車や徒歩移動が難しい人にとって有用だ。成功すれば、他の都市にも展開される可能性があり、今後の都市型モビリティの新しい形として注目されるだろう。
フランスのスタートアップ SomewaRe が提供するHandimap は、都市のアクセシビリティ向上を目的としたナビゲーションツールである。特に、車椅子利用者、視覚障害者、高齢者、ベビーカー利用者、スーツケースを持つ旅行者など、多様な移動ニーズに対応するために開発された。リアルタイムの地図情報を活用し、バリアフリーな移動経路を提案することで、より多くの人が安心して移動できる都市環境を目指している。
Handimapは、87のフランス自治体で導入されており、フランス運輸イノベーション庁の2024年アクセラレーションプログラムにも選出された。歩道の幅や段差、坂道の有無、工事情報などを考慮しながら、公共交通機関のバリアフリー情報とも連携し、最適な移動ルートを提供する。
Image via Handimap
このようなツールは、フランス・パリで進められている「15分都市(15-minute city)」構想とも親和性が高い。15分都市とは、生活に必要な施設やサービスが徒歩や自転車で15分圏内に集約され、車に依存しない暮らしを実現する都市設計のことを指す。Handimapは、すべての人が都市内をスムーズに移動できる環境づくりを支える重要な要素となっている。
自治体が公共交通機関や都市インフラと連携し、アクセシビリティデータをオープン化することで、都市もより包摂的で持続可能なものへと進化していくだろう。
【参照サイト】Handimap
【参照サイト】Handicaps : pourquoi est-il souhaitable que les villes rendent leurs données accessibles au public
【関連記事】【パリ現地レポ】日々の「移動」を脱炭素化。展示会で見た、欧州の最新モビリティ事情
スペイン・バルセロナでは、EVバイクや電動ナノカーの人気がじわじわと広がっている。
その象徴の一つともいえるのが、バルセロナ発の電動自転車ブランドSilenceの躍進だ。同ブランドは、バルセロナ市内で駐車場を運営するAparcaments BSM Networkと連携して、2023年に市内4つ駐車場に電動バッテリー交換ステーションを設置した。近年の人気拡大を受け、2025年はじめには9つのバッテリー交換ステーションが追加される予定で、市内の広い範囲をカバーすることとなる。
Image via Ajuntament de Barcelona
Silenceのアプリに登録した人はバッテリー交換ステーションで、使用済みバッテリーと充電済みのバッテリーを交換することができる。通常、バッテリー切れの状態からフル充電するには約6時間かかるが、ステーションを利用すると充電の待ち時間が発生せず、電動自転車の利便性が向上する。
市内で43の駐車場を運営するAparcaments BSM Networkは、自動車を停める場所としての“駐車場”の枠には留まらず、市民の新たな習慣やニーズに対応する“サービス拠点”に進化している。騒音の少なさ、快適さ、環境負荷の少なさをはじめ人々が支持するサービスだからこそ、利便性が上がることで、さらに人気は拡大するのではないだろうか。
【参照サイト】Silence
【参照サイト】BSM i Silence reforcen la seva aliança i amplien l’oferta d’intercanviadors de bateries elèctriques extraïbles als aparcaments
持続可能なモビリティの一つは、公共交通機関だ。ドイツ鉄道は2023年5月、政府支援のもと国内すべての近距離公共交通機関(特急以外)を利用できるチケット(月額58ユーロ、2025年1月時点)を導入した。2024年5月に同チケットを購入した人は1,100万人で、8人に1人が利用した計算となる(※1)。
若者を対象とする割引チケットを販売している州も複数ある。ドイツ南部のバーデン=ヴュルテンベルク州では、26才以下の学生は月額約40ユーロで同チケットを購入でき、ハンブルグ州の学生(大学生は対象外)は無料で同チケットを入手できる。
アウグスブルク市をはじめとする一部の自治体は、市内(特定地域、もしくは全域)の公共交通機関を無料で利用できるサービスを提供している。隣の国ルクセンブルクは2020年、世界で初めて国民と観光客を対象に無料で公共交通機関を利用できるサービスを開始した。同サービスは、ドイツをはじめ他国でも広がりが見られる。
しかしながら、ドイツでは鉄道が定刻通りに来ないことなどから、電車利用を好まない人は約3割にのぼる(※2)。これらのチケットの毎年の値上げも著しい。公共交通機関の利用促進には、こうした課題を克服していくことが重要になるだろう。
※1 Preis und Unzuverlässigkeit größtes Manko bei Zugreisen
※2 Eine Fahrkarte für elf Millionen
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持続可能なモビリティの推進は、欧州各都市で重要なテーマとなっており、それぞれの都市が独自の解決策を模索しながら取り組んでいる。そしてそれらは単なる技術革新にとどまらず、データ活用や政策支援、民間企業との連携を通じて推進されているのが特徴的であった。
特に、高齢化が進む日本にとっては、アクセシビリティの向上が都市の魅力や経済活性化にも直結する。欧州の事例から学ぶべきは、モビリティを環境対策の枠を超え、都市の包括的な戦略として位置づけている点でもある。移動のしやすさは、都市の持続可能性だけでなく、人々の生活の質そのものを左右する要素だ。日本でも、公共交通の再設計やデータを活用したアクセシビリティ向上など、より広い視点から都市のモビリティを見直し、持続可能な未来を築いていく必要があるだろう。
Written by Megumi, Erika Tomiyama, Risa Wakana, Ryoko Krueger
Presented by ハーチ欧州
ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。
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海外への渡航がしやすくなってきた昨今、欧州への出張や旅行を考えている方も多いのではないでしょうか。せっかく現地に行くなら、話題のサステナブルな施設を直接見てみたい──そう思っている方もいるかもしれません。今回は現地在住のメンバーが厳選した、話題のレストラン・ホテル・百貨店・ミュージアムなどのサステブルスポットを一冊のガイドブックにまとめました。実際に渡航される方の旅行のお供にしていただくのはもちろん、渡航の予定がない方も現地の雰囲気や魅力を存分に感じていただける内容になっています。ご購入・詳細はこちらから!
The post 超小型EVからアクセシビリティナビまで、欧州の最新モビリティ事例を探る【欧州通信#36】 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post 丹波焼の歴史を受け継ぐ。土づくりと陶芸家の営みに触れる旅「陶泊」 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>人々の暮らしと自然が調和したこの地には、今なお息づく陶芸家たちの情熱と、土に触れ、火を操ることで生まれる器たちがある。
丹波焼は、日本六古窯(ろっこよう)のひとつに数えられる伝統的な焼き物だ。日常使いに適した器から、茶道具として愛される逸品まで、幅広い用途を持ち、使う人の手に馴染み、暮らしに温かみを与えてくれる。
Image via 陶泊
また、丹波焼のもうひとつの特徴は、問屋を介さない直販スタイルが一般的であるということ。職人たちは自らの手で作り上げた器を、自らの言葉で伝え、販売している。そのため、訪れる人々は、器そのものの美しさだけでなく、作り手の人柄や想いにも触れることができる。丹波焼を手に取ることは、単なる買い物ではなく、この地の文化や物語に触れる体験でもあるのだ。
しかし、この美しい地もまた、現代の課題に直面している。後継者不足や地域の過疎化……伝統と未来をつなぐべき橋は、今まさに再構築が必要とされているのだ。
そんな中、新たな取り組みとして注目を集めているのが、2024年の春より始まった「陶泊」だ。焼き物と宿泊を組み合わせたこのプログラムは、丹波焼の魅力を余すことなく体験でき、地域活性化と持続可能な未来を見据えた新しいツーリズムの形としても期待されている。
今回は、企画のキーパーソンとなる、丹波焼の産地の文化観光活性化の取り組みを行う一般社団法人Satoyakubaの田林信哉さんと、陶泊の宿泊場所となっている、窯元・昇陽窯を経営する大上裕樹さん、そして立杭で活動する若手陶芸家の二人に話を聞いた。
陶泊は、丹波焼の里・立杭の陶工たちの暮らしや伝統に深く触れる1泊2日の体験型プログラムだ。訪問者は陶工たちの生きた歴史や日々の営みに近づき、丹波焼の魅力を五感で味わうことができる。
陶泊プログラムの様子
参加者は事前にオンラインで陶工たちと顔合わせを行い、交流を深める。これにより、訪問前から互いの理解が深まり、まるで親戚の家に遊びにいくようなアットホームな感覚で現地を訪れるのだという。
ツアー1日目は「陶の郷」の展示場「窯元横丁」からスタート。51軒の窯元が手がける多彩な丹波焼の作品が一堂に会する展示場で、立杭の若手陶芸家が務める「さとびとガイド」とともに、「丹波焼の表現の幅広さを体感し、それぞれにお気に入りの窯元を見つける。その後は、現役の陶工を訪ねるツアーへ。ツアーでは、作業場の空気を肌で感じ、作陶の現場に息づく手仕事の精神を知ることができる。そして夜は、宿泊先の昇陽窯で地元の食材を使った夕食を陶工たちとともに囲む。ここでは、作品だけでは見えてこない陶工たちの人柄や美意識、創作の背景に触れる時間が広がる。
ツアー1日目の夜。参加者と陶芸家たちが食卓を囲む様子。
2日目の朝は、丹波焼の器で楽しむ朝食から始まる。器を通じて伝わる温かみと、立杭の静かな朝の空気が調和するひとときを味わう。
その後は陶工の日常を体験する時間。土に触れ、作陶のプロセスを学ぶことで、単なる作品以上の陶芸の奥深さと陶工たちの営みへの理解が深まるのだ。プログラム終了後には、立杭の郷を自由に散策し、気に入った作品との出会いを楽しむことができる。
これまでの参加者からは、「陶工たちの人間性や丹波焼の奥行きを知ることで、自身の価値観が揺さぶられる体験だった」という声や、「陶工が自然と向き合いながら作り上げる作品を目の当たりにし、自分自身も自然や環境について深く考えさせられた」「職人たちが器に込める思いやその背景を知ることで、自分の日々の暮らしに新たな価値を見出した」という感想が多く聞かれたそう。
また、陶泊を機に訪問者と陶工の間で手紙や贈り物が行き交い、交流が続くことも珍しくないという。
筆者自身、これまでの数々の旅行を振り返ったとき、深く心に残っているのは高級なホテルに宿泊したことよりも、現地の人々との交流であることが多く、そういった場所にはまた訪れたくなるものだ。そんな体験を自然につくりだすこの魅力的なツアーが実現するまでの道のりには、企画者の情熱と地元の人々の深い想いが織り交ざっていた。
陶泊がスタートするきっかけとなったのは、2023年春にミテモ株式会社とトランクデザインから、丹波焼の産地の文化観光活性化の取り組みを行う一般社団法人Satoyakubaの田林信哉さんへ寄せられた提案だった。
これまでに焼き物や工芸のツーリズムを推進してきた両社は、丹波焼の里で農泊のような陶芸版ツーリズムを実現できないかと考え、田林さんに声をかけたという。
田林さん「丹波焼の魅力を器だけでなく、その背景や職人の思いを含めて伝えたいと常々考えていた私にとって、このプログラムはまさにその思いを実現するものでした」
この提案を受け、Satoyakubaと両社の協力体制が築かれ、陶泊の構想が具体化していったという。しかし、陶泊を実現する上で何よりも重要だったのは、地元の人々の協力だったと田林さんは語る。
田林さん「丹波焼の里には、問屋を介さずに人と人とが直接つながる文化が息づいています。そんな背景もあって、陶泊の構想が地元の人に伝わると、『里全体を良くしたい』という共通の思いを胸にみなさんが、快く協力を申し出てくれたことは本当に心強かったです」
その一方で、宿泊場所の確保にはかなり苦戦したそう。元々、宿泊施設がない立杭。現在、宿泊場所となっているのは、大上裕樹さんが経営する窯元・昇陽窯の一軒のみだ。この場所は、約3年前にとある窯元が廃業し、空き家となっていた場所を大上さんが購入したが、当初は陶泊のために活用しようとは考えていなかったそう。しかし、新型コロナウイルスの流行をきっかけに、立杭全体の未来を見つめ直すようになったという大上さん。
大上さん「それまでは、自分のブランドを成長させることに集中していましたが、コロナ禍で立ち止まらざるを得なくなったとき、自分の足元である地元に目を向けるようになったんです」
昇陽窯のみなさん。前列右が大上祐樹さん。
大上さんは、息子が小学校に入学し、「4代目として跡を継いでほしい」という次世代への思いが強まったこともあり、故郷の風景と自分の活動を結びつける必要性を強く感じ始めたという。
大上さん「100年後も200年後もこの場所で伝統を守っていくためには、丹波焼の里全体の価値を上げる取り組みをしなければいけない。後継者不足が深刻化する未来に備え、雇用を生み出し、次世代が挑戦できる土壌を整えたい」
そのためにはまず、人を受け入れる場所が必要だと考え、購入した空き家を丹波焼を学びに来る人のための宿泊施設へとリノベーションすることを決意。ちょうど大上さんが宿泊者を受け入れ始めたタイミングで、陶泊の話が持ち上がったそう。
大上さん「正直、宿泊を一軒だけで引き受けるのは少し荷が重かったのですが、陶泊を通じて生まれる人と人とのつながりが、丹波焼とこの里を支える一助になれば嬉しいですし、この場所を訪れた人々が、何かを感じ取り、それを持ち帰ってくれる。そんな場を作りたいと『月に1件』という条件のもとに引き受けることにしました」
宿泊をになっている昇陽窯の前で。陶泊プレ体験の際の写真。
今後、宿泊を担ってくれる窯元が少しずつ増えてほしいと語る大上さん。
大上さん「約1年間やってきての感想は、手応えしかありません。時代もどんどん変わってきていて、こういったスタイルのツーリズムの需要が増えていくはずです。長い時間がかかっても継続的にやっていきたい。とにかく焦らないこと。自分たちが楽しんでやっていれば、後に続いてくれる人たちも増えてきてくれると思っています」
陶泊が始まって以来、立杭の里には新たな風が吹き込み、窯元たちの間に革命ともいえるような流れを生み出している。
大上さん「陶泊のおかげで、これまで少し遠慮がちだった同業者同士の関係が変わりつつあります。特に若い陶芸家たちが気兼ねなく訪れてくれるようになったのが嬉しいですね。彼らとの交流から新たなアイデアや刺激をもらい、私たちも日々学びがあるんですよ」
丹波焼の産地には比較的若い陶芸家が多いという特徴がある。後継者不足や技術継承の課題は存在するものの、「丹波の土を使って丹波で焼いている」ということ以外に厳しい決まりのない自由さが、この地で新しい世代を惹きつけているのかもしれない。窯や世代によって作られるものは全く異なり、それぞれの個性が丹波焼の多様性を支えている。
陶泊の際、立杭の窯元を訪問者に案内する役割を担うのが「さとびとガイド」だ。このガイド役を務めるのは、10名ほどの若い陶芸家たち。陶泊の取り組みを通じて、彼らが地域と外部をつなぐ架け橋として活躍している。
さとびとガイドを務める若手陶芸家。左が市野耕さん、右が大上恵さん。
さとびとガイドの一人、市野耕さんは初めてのガイドをこう振り返る。
市野さん「最初のツアーでは右も左も分からず大変でした。でも、回を重ねるごとに訪問者がどんなことに興味を持つのかが見えてきて、内容を工夫するようになって。その結果、訪問者の喜ぶ顔を見るたびにやりがいを感じるようになりました」
また、同じくさとびとガイドを務める大上恵さんも、やりがいと楽しさを語る。
大上さん「ガイドとして活動する中で、他の窯元を訪れる機会も増え、互いの仕事場を見せ合ったり、技術を学び合ったりすることがとても楽しいんです。実際、参加者から『窯元同士の会話を聞くのが面白かった』という感想をいただいたこともあります。これをきっかけに窯元同士が気軽に話せるようになり、新しい関係性が築けていると感じています」
陶泊の取り組みを通じて見えてくるのは、立杭の人々の丹波焼への深い愛情と、この地を未来へと受け継いでいきたいという強い想いだ。丹波焼の文化を守りながら、新たな時代に即した形で進化させようという気概が、この小さな里で静かに燃え上がっている。
陶泊の取り組みは、立杭という小さな里を起点に、現代日本が抱える大きな課題への解決の糸口を提示している。少子高齢化や地方の過疎化が進む日本では、伝統工芸や地域文化が次々と消えつつある。その中で、丹波焼の里が示すのは、伝統と未来を両立させる新たなモデルだ。
田林さんは、「里全体を活気づけ、持続可能な地域モデルとして他地域にも広がっていけば嬉しい」と語る。この取り組みには、日本各地の伝統や技術を見直し、再び輝かせるヒントが詰まっている。単に観光地としての価値を高めるだけでなく、地域の人々が誇りを持ち、次世代にその文化をつなぐ仕組みを作り出すこと。それは、立杭だけでなく、全国の地域が目指すべき未来の形ではないだろうか。
筆者自身も、立杭での取材を通して改めて感じたことがある。それは、「地域と人とのつながり」が生み出す温かさと、そこに宿る無限の可能性だ。陶泊の体験を通じて触れた陶工たちの想いや、彼らが紡ぐ丹波焼の物語は、単なる観光体験を超え、人生を見つめ直す契機となるものであると感じた。さらに、現代日本が抱える人と人との関係の希薄化という課題に対しても、陶泊は一つの解決策を提示している。このプログラムを通じて生まれる陶工と訪問者、参加者同士の深い交流は、互いを知り、共感を育む貴重な機会となっているからだ。
この静かな谷間から始まった挑戦が、やがて日本全体に広がり、次世代へと受け継がれる新しい文化の形を生み出していく。その先には、地方が再び輝きを取り戻し、地域、自然、人とが共鳴し合う未来が待っているだろう。
850年の伝統を未来につなぐこの取り組みが、さらに多くの人々に伝わり、日本全体の未来を明るく照らす一助となっていくのかもしれない。
【参照サイト】陶泊
Edited by Erika Tomiyama
The post 丹波焼の歴史を受け継ぐ。土づくりと陶芸家の営みに触れる旅「陶泊」 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post 【3/5開催】生活者の循環行動を引き出す仕掛けとは?オランダの「リペアカフェ」から学ぶサーキュラーサービスデザイン first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>一方、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発行した第6次報告書は、2050年までの温室効果ガス排出削減において、生活者をはじめとした需要サイドの戦略が40-70%の削減ポテンシャルを持つと指摘。この可能性を現実のものとするには、生活者の意識への働きかけによる行動変容だけではなく、ユーザージャーニー上の具体的な障壁を特定し、サービスの提供方法自体を再構築する必要があります。
そこで、創造力で気候危機に立ち向かうプロジェクト「Climate Creative」は、ユーザーがリペアやリユースなど身近な循環行動を起こすその瞬間をズームアップし、思考や感情、ユーザーを取り巻く状況などさまざまな条件を紐解いて新しいサービスデザインを考えていくワークショッププログラムを開催します。
今回のプログラムでは、循環行動が自然に生まれる体験設計のヒントとして、IDEAS FOR GOODのドキュメンタリー作品『The Repair Cafe(リペアカフェ)』の上映を実施。その舞台となるオランダ・アムステルダムの「リペアカフェ」は、地域のボランティアが修理を手伝う中でコミュニティが形成され、人々の心の豊かさが育まれ、その中でユーザーに循環行動が浸透していく場となっています。
イベント前半にて、そんなドキュメンタリーの場面の一つひとつにインスピレーションを受けた後、後半のワークでは身の回りの循環行動をテーマにアイデア創出を行います。ここでは、魅力的なユーザー体験の設計に加え、製品寿命の延長や再利用を前提とした新しいビジネスモデルの可能性も探っていく予定です。従来の大量生産・売り切り型のビジネスモデルからの転換には課題も多いものの、その先にあるサーキュラーエコノミーの実現に向けて、共に考えを深めていきましょう。
サーキュラーエコノミーの実装に携わるデザイナー、プロダクトマネージャー、事業開発担当の皆さま、ユーザー中心の循環型サービスを共に構想する機会として、ぜひご参加ください。
16:00 オープニング・イントロダクション(20分)
16:20 サーキュラーデザイン理解(20分)
– サーキュラーデザインの基本原則とは?
– サーキュラー×サービスデザインの先進事例
16:40 ドキュメンタリー『リペアカフェ』上映(40分)
17:20 ダイアログ・感想シェア(30分)
17:50 サーキュラー×体験デザインワーク
18:50 クロージング
19:00 ネットワーキング(希望者のみ)
19:30 終了・解散
※変更する場合がございます。
「壊れたものには、物語がある」
あなたの周りに眠っている、壊れたままのものはありますか?
ほつれたニット服、ひび割れたタブレット、小さい頃に遊んだおもちゃ……それぞれに思い出やストーリーがあるでしょう。
しかし、大量生産・大量消費、行き過ぎた資本主義のなかを生きる私たちは、気づけばものが壊れたら新しいものに買い替えるのが当たり前になっています。お店で修理を頼んでも、新品を買う方が安かったり、自分で修理するのが難しかったりすることもあります。
そんな壊れた家電や服、自転車など、あらゆるものを地域のボランティアが無料で直してくれる場所があります。その名もRepair Cafe(リペアカフェ)。
IDEAS FOR GOODが贈る、初のオリジナルショートドキュメンタリー『リペアカフェ』は、そんなリペアカフェ発祥の地であるオランダ・アムステルダムを舞台に、彼らの活動に密着。その中で生まれたコミュニケーションから、私たちの身の回りにあるモノと人との関係性や、真の豊かさを見つめ直します。
2024年7月、欧州では消費者が製品の修理をより容易にすることを目的とした「製品の修理を促進する共通指令」が発効されました。これにより、テレビや携帯電話など11品目について、メーカーにリペア可能なものの修理を義務付けることが定められています。日本でも、2024年7月にサーキュラーエコノミーに関する関係閣僚会議が開かれ、リペアを通じた地域活性化やライフスタイル転換の必要性が議論されています。
地球の健康状態を示すプラネタリーバウンダリーが限界を迎える中、私たちにはもう一つの地球はありません。これからもこの地球で幸せに暮らし続けるために、「修復」や「再生」を通じて、どのように社会を築き、ともに生きていくことができるでしょうか。
今こそリペアを通して、モノと人の関係性、創りたい未来について考えてみませんか?
【関連ページ】The Repair Cafe リペアカフェ特設サイト
開催日時:2025年3月5日(水)16:00〜19:00(開場15:45)、ネットワーキング 19:00〜19:30
開催場所:メンバーズ晴海オフィス ラウンジ(東京都中央区晴海1丁目8番10号 晴海アイランド トリトンスクエアオフィスタワーX 38階)
※詳細の会場案内はPeatixメッセージにてお知らせいたします。
定員:20名
参加費用:2,000円
主催:IDEAS FOR GOOD Business Design Lab(ハーチ株式会社) / 株式会社メンバーズ
お申し込み:Peatixイベントページよりお申し込みください。
※申込期限は2025年3月4日(火)17:00です。
※応募者多数の場合、抽選にさせていただくことがあります。
2017年入社。デンマークのデザインコンサルティング会社Bespoke(現:Manyone)の「Futures Design」メソッドの日本展開に従事し、社会課題解決型のビジネスモデルやマーケティング施策の立案・実行支援を担当。2023年4月より大阪に転勤し、「地域脱炭素DXセンター大阪」を立ち上げ。関西圏内の企業に対する脱炭素やサステナビリティの伴走支援を推進。
サステナビリティ・サーキュラーエコノミー領域で、リサーチや企業・自治体向けの事業開発支援、プロモーション支援を行う。また、サーキュラーエコノミー領域に特化した創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO」や国内外視察・ワークショップなど体験型プログラムのサービスデザイン・運営を担当。
Climate Creative は、一人一人が持つクリエイティビティ(創造力)を信じ、創造的なアイデアやコミュニケーション、ビジネスモデルの創出を通じて気候危機に立ち向かう、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズによる共創型プロジェクトです。「創造力で、気候危機に立ち向かう」をコンセプトに、気候危機とクリエイティビティをテーマとするイベントやアイデア創出ワークショップ、人材育成プロジェクトなどを展開していきます。
【関連記事】創造力で気候危機に立ち向かう「Climate Creative」特設ページ
イベント開催日の2営業日前(2025年3月3日(月)23:59JST)までにご連絡がない場合は、返金は致しかねます。前日、当日のご連絡も同様です。
主催者都合によりイベントの開催日時を変更、もしくは開催を中止する場合は、自然災害や疾病の流行などやむを得ない場合を除き、原則としてイベント開催日までに主催者よりPeatixメッセージまたは主催者が定める方法で連絡いたします。その場合、イベント料金は返金いたします。なお、主催者からイベント日時の変更または中止の連絡を行わない限り、お客様都合でのキャンセルとなり、返金は致しかねます。あらかじめご了承ください。
私たちは、デジタルの力で脱炭素とビジネス成長を支援する専門人材カンパニーです。脱炭素リテラシーとデジタルスキルを兼ね備えた人材が企業さまの脱炭素活動に伴走し、CO2排出量の計測・分析、低炭素なプロダクト・サービス開発、顧客との共創価値をつくるマーケティングなど、脱炭素にかかわる様々な領域をDXの観点で推進しています。
詳細:https://www.members.co.jp/why-dx/
参考:https://www.amazon.co.jp/dp/4833451867
Publishing a better futureをミッションに、社会をもっとよくするアイデアを集めたマガジン「IDEAS FOR GOOD」、企業のサステナビリティ・サーキュラーエコノミーシフトを支援する「IDEAS FOR GOOD Business Design Lab」、サーキュラーエコノミー専門メディア「Circular Economy Hub」等を展開。
URL:https://harch.jp/
URL:https://ideasforgood.jp/
社会をもっとよくする世界のウェブマガジン「IDEAS FOR GOOD」がこれまでの記事配信で蓄積してきた、世界中のソーシャルグッドなアイデアに関する知見やネットワークを活用したサービスです。SDGsやサステナビリティ、CSVやESGの視点を自社の事業開発や商品開発、ブランディングやマーケティングに取り入れたい企業の皆様に対して、情報収集からアクションまでをワンストップで支援しています。
URL:https://bdl.ideasforgood.jp/
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]]>The post 顔の見える“小さな”調達方法「スモールバッチ」とは?メルボルンのコーヒーショップに学ぶ first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>メルボルンに住む人々にとって、カフェは欠かせない存在。朝の仕事前、お昼休憩、友達とのおしゃべり、仕事のミーティング……カフェは様々な利用方法で楽しむ人々で賑わい、日々の暮らしの中に浸透している。今回はそんなメルボルンの数あるお店の中から、顔の見える循環型フードシステムの構築に取り組むコーヒーロースター、Small Batch Roasting Co.(以下、スモールバッチ)を取り上げる。実際にスモールバッチで勤務していた筆者が、その取り組みを紹介していきたい。
筆者撮影
筆者撮影
中心地から程近い、ノースメルボルン。倉庫だった場所を改装し、2010年にコーヒーの焙煎所を構えたのがスモールバッチだ。コーヒー豆の仕入れ、焙煎、卸売りに加え、入口にはエスプレッソマシーンが設置され、淹れたてのコーヒーと地元の食材を使ったペイストリーが並ぶコーヒーショップとして、地元の人々に親しまれている。そんなスモールバッチのユニークな点は、飲食業界におけるフードシステムを向上させたいというオーナーの熱い想いだ。
コーヒーが私たちの手元に届くまでには、多くの人が関わっている。コーヒー農園を管理し、豆を育てる人、収穫する人、運ぶ人、焙煎する人、抽出しお客さんに提供する人。それほど長い過程を経るため、生産者の想いや背景が見えにくくなりがちだ。
そこでスモールバッチのオーナーであるアンドリューは自分で直接コーヒー豆を調達できるよう、コーヒー生豆の商社を立ち上げた。アンドリューは事業を始めた想いをこう語る。
「開業当時(2010年から2012年)のオーストラリアは、焙煎される前の状態の生豆を仕入れる選択肢が少なかったんです。コーヒーロースターが収穫年を公表することはほとんどなく、正確な生産地は隠され、コーヒー生産者に適切な報酬を支払うこともありませんでした。しかし、自分の信頼する生産者から直接仕入れれば、生産者の情報を消費者に届けることができ、さらに仲介業者を挟まないため、生産者に直接お金を支払える。これまでかかっていたコストを品質向上や労働者に充てることができます」
コーヒー豆のパッケージからは、信頼する生産者へのリスペクトが感じられる。一般的に商品名には、コーヒー豆の生産地や品種の名前を使うことが多いが、スモールバッチは生産者の名前を大きく掲げているのだ。
販売しているコーヒー豆のパッケージ|筆者撮影
「生産者の名前を書く理由は、同じ地域のコーヒー豆を取り扱うことも多く、生産地の地名や農園名を使うことが合理的ではないと思ったからです。もっとダイレクトに生産者のストーリーが消費者に届くように、お客さんとの会話のきっかけになるように、という想いを込めています」
そんなスモールバッチの店舗に向かうと、お店の入口にはこんなメッセージが書かれている。
筆者撮影
We source equitably from small producers who care about their soils.
私たちが取り扱う食材は、その土地の土壌を大切にしている小規模生産者から公平に調達している。
このメッセージからもアンドリューの店作りへの想いが伝わってくる。コーヒーだけでなく、地元農家の野菜や乳製品なども販売しているスモールバッチ。その全ての食材の調達において大切にしているのが、「土壌」である。
「健康な土壌がなければ、私たち人間も生きていけません。良質な土壌で育ったミネラル豊富な農作物は、私たちにとっても自然環境にとっても健康的です」
農薬や化学肥料に頼らず、農作物が本来持つ力を引き出す健康な土壌環境を保つことが、コーヒーの美味しさにも直結するのだ。その上で、買い付けをするのはあまり名の知られていない小規模生産者に絞っているという。
「知名度の高い生産者にはすでに多くの買い手がいて、私たちを必要としないからです。逆に市場へのアクセスがほとんどない生産者こそ、私たちの力が必要です。彼らがスペシャルティグレードのコーヒーを生産できるよう、技術的なアドバイスをしたり、無利子の融資を行なったりしています」
スモールバッチは、そうして生産者と深く関わり、少しずつ信頼関係を築いていくのだ。
筆者撮影
それでは、スモールバッチは具体的に店内でどのような取り組みを行なっているのだろう。コンポストの仕組み、地元の食材を楽しめるシェフこだわりのペイストリー、使用するミルクについて紹介していきたい。
店内のごみ箱|筆者撮影
スモールバッチの店内に設置されたごみ箱は、コンポスト用ごみ、一般ごみの2種類。持ち帰り用のコーヒーカップ、フード容器は全てコンポスト可能なものを使用しているため、1日に出るごみのほとんどはコンポスト行きとなる。コンポスト用ごみは、週に一度オーナーのアンドリューが自宅に持ち帰り、庭の堆肥場で発酵・分解処理している。
「廃棄物を効率的に、かつ自然に優しい方法で分解するために、まず糖蜜を触媒にして発酵させ、促進剤としてコーヒーの籾殻(コーヒー豆の焙煎時に出る副産物)に染み込ませます。これは、廃棄物を『腐敗』させるのではなく『発酵』するアプローチです。
そして嫌気的な環境で発生させることができる『有用微生物(Effective Microorganisms)』を活用し、通気性が十分でないコンポストシステムにおけるメタンガスの生成をできるだけ抑えるようにしています。処理後の栄養をたっぷりと含んだ土は、家庭菜園の肥料として使っています」
アンドリューの自宅の庭|筆者撮影
エスプレッソバーの隣にはコーヒーと一緒に楽しめる、出来たてのペイストリー(※)がショーケースに並ぶ。
※小麦粉にバターあるいはショートニングなどの油脂、塩、砂糖、卵などを加えて、パイ状に焼き上げたお菓子や料理の総称
季節のフルーツデニッシュ|筆者撮影
ペイストリーシェフであるチャーリーが率いるチームが、毎朝一つひとつ心を込めて作っているものだ。使う食材はチャーリーの信頼する地元農家の野菜、果物、乳製品が厳選され、季節の新鮮な素材を活かした美しいペイストリーが出来上がる。オーストラリアに古くから生息する植物・ワトルシードを使用したペイストリーも人気商品の一つだ。
オーストラリアに古くから自生するワトルシードを生地に混ぜ込んだ、チョコレートクロワッサン|筆者撮影
コーヒーと合わせるミルクにももちろんこだわる。店内で使用する牛乳は、メルボルンの市内から車で約3時間ほど離れた、小さな町の酪農ファーム ・シュルツ・オーガニック・デイリー(以下、シュルツ)から仕入れる。
3代続く酪農家族が経営するシュルツは、1,044エーカーの肥沃な土地にあり、土壌、牧草、家畜の生命力を高めるために有機農法を40年以上続けている。化学薬品、ホルモン剤、農薬は使用せず、製造工程で脂肪球を小さくする「ホモジナイズ」の工程を経ていない「ノンホモジナイズ」の牛乳だ。静置しておくと上にクリームが浮かぶ、一番自然な状態の牛乳が出来上がる。
「幸せで健康な牛から美味しい牛乳ができる」という彼らの思想は代々引き継がれ、メルボルンに住む人々にも伝わっている。
Image via Schulz Organic Dairy
最近では、カフェ営業用ミルクの樽売りや、再利用可能なガラス製のボトルを使うなど、積極的に包装廃棄物の削減に取り組んでいる。
使用済みのミルク容器。18L入る営業用の容器と、1Lのガラス製のボトルは回収され、再利用される。|筆者撮影
スモールバッチでは、店舗で提供するホットチョコレートやチョコレートクロワッサンに使用するチョコレートも、自社で手作りしている。コロンビアの小規模カカオ農家から仕入れたカカオを焙煎し、練り上げ、成形まで、一連の工程を少量ずつ、オーナーのアンドリュー自らが行なっている。
Andrew‘s Chocolateのパッケージ|筆者撮影
生産者にフォーカスし、地域で循環するようなフードシステム。スモールバッチで日々体現されるそのシステムは、ゆっくりと時間をかけて出来上がっていったのだという。アンドリューは以下のように語る。
「私はファーマーズ・マーケットに行く度に、『なぜレストランは農家から直接食材を買わないのだろうか』『お店は最高の産地の最高の食材を使うべきではないのか』といった疑問を抱くようになりました。食材はお店にとって一番重要なもの。これに手を抜くことはオーナーとして考えられないと思ったのです」
この問いを追求していく中で、小規模で顔の見える調達方法「スモールバッチ」の概念をコーヒーにも適用し、さらにカフェで用いる他の全ての食材にも当てはめるべきではないかと思うようになったという。アンドリューは「スモールバッチで試行錯誤を重ねる過程で、本質的に搾取的な資本主義のビジネスモデルや、消費社会に反対する自分、それを少しでも変えたいという情熱に気づいた」と語っている。
最後に、アンドリューの今後の野望を聞いてみた。
「『どうしたら小規模な生産の中でも安定した生産量を増やすことができるのか』『どうしたら生産者側にインパクトを作り続けることができるのか』を追求し続けたいですね。また個人的には生産者に農場の土づくりや、コーヒー豆の生産に関する有益な情報を共有し、一緒に実践していくことに興味があります。そうすることでコーヒー豆そのもののポテンシャルが上がり、利益を生み出すことができると思っています」
Image via Small Batch
最高の一杯のコーヒーは生豆から始まる。表面的なコーヒー豆の価値よりも、コーヒー豆そのものが持つ価値を高めることに重きを置くアンドリューからは、生産者はもちろん、コーヒーを取り巻く人々、自然環境への大きな愛情とリスペクトを感じる。
筆者から見たスモールバッチは、コーヒー農園の人々をはじめ、酪農家、野菜農家の方といったコーヒーを通してつながるさまざまな生産者のストーリーを消費者に届ける、そんな媒介役のようだった。かといって、消費者にそのフィロソフィーを主張はせず、あくまでコーヒーロースターとして地域に根ざしているのも特徴だ。そこから地域のスモールビジネスや人々のつながりが生まれ、地域全体で「競争」ではなく、「共創」していく雰囲気がつくられている。
今日も彼らは「自分たちが信頼する生産者の、最高の食材を最高の状態で消費者に届けたい」という信念と、敬意を持って調達から焙煎、販売、廃棄物の処理まで、循環する仕組みづくりに取り組み続けている。スモールバッチを一例に、街のコーヒーショップから、自然環境にも私たちにとっても健康的なフードシステムの連鎖が広がっていくことを願う。
【参照サイト】Small Batch Roasting Co.
【関連記事】最高の一杯は、「捨てない一杯」だ。コーヒーの街・メルボルンで始まった堆肥化プロジェクト
【関連記事】オーストラリア第二の都市で自給自足&ゼロウェイストを実現する住宅「Future Food System」
Edited by Megumi
The post 顔の見える“小さな”調達方法「スモールバッチ」とは?メルボルンのコーヒーショップに学ぶ first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post 【2/25開催】気候危機時代の食を、江戸の暮らしから考える。 これからの食文化とそれを支える仕組みとは(Climate Creative Cafe.18) first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>第18回のテーマ「気候危機時代の食を、江戸の暮らしから考える。これからの食文化とそれを支える仕組み」
「食べること」は私たちの誰しもが営む、生きるために必要不可欠な活動です。しかしながら、現代の食事スタイルが環境や社会に負荷をかけ、気候変動を助長しているのも事実でしょう。食分野からの温室効果ガス排出は全体の1/4以上を占め、人類が住める土地の約50%が農地、利用できる水の約70%が農業に利用されています。一方、世界的に見ると約1/3の食料がそのサプライチェーン上や小売・飲食店・家庭において廃棄されています。
さらに、こうした食事の問題が一因となり、引き起こされた気候変動は巡り巡って私たちの食にも影響を与えています。気温上昇や高温による農作物の収穫量減少や質の低下のほか、海洋においては、水温上昇に伴って魚類やウニ類が活性化して海藻を食べつくす「磯焼け」と呼ばれる現象が世界各地で深刻化。生物多様性の損失やそれに伴う海産物の漁獲量低下も問題になっています。
このように私たちの食と気候変動が相互に作用する中で、今後はどのような食や食糧生産のあり方が求められているのでしょうか。さらに、地球への負荷を減らし、私たちの生活の質を高める食のあり方は模索できるのでしょうか。
今回はゲストとして立命館大学・食マネジメント学部教授である鎌谷かおるさんと、合同会社シーベジタブル共同代表の友廣裕一さんをお迎えします。鎌谷さんは食の歴史研究の第一人者であり、特に江戸時代における食文化や当時の気候変動と人々の関わり、漁業における人々と自然の関わりを研究しています。合同会社シーベジタブルは、海藻の研究と養殖・販売を通して、海洋の生物多様性に貢献しながら新たな食文化を提案する企業です。海藻の海面栽培は藻場として機能し、魚をはじめとする海洋生物のゆりかごになるとともに、ブルーカーボンとしてCO2吸収にも貢献し、さらには減りゆく海藻の種の再生にも繋がります。
今回のイベントでは、当時は世界的大都市であった江戸の人々の食文化や食への向き合い方から現代にもつながるヒントを得ながら、現在の消費的な食や食料生産を見直し、食を通して環境とつながり、より良い方向へ作用していくリジェネラティブなあり方を探っていきます。学術研究と実践の両面からアプローチし、一人ひとりに身近な営みである食をどのように移行させていくのか、またその移行により社会はどのように変化するのか、一緒に考えていきましょう。
企業で食の生産・流通・加工・販売などに取り組んでいる方から、生活者として現代の食のあり方に課題を感じている方まで、食を通した私たちと環境のより良い関係性を考えたい方はぜひご参加ください!
19:00~ オープニング
19:05~ 第1部:インスピレーショントーク
– 食がもたらす環境負荷と、解決に向けた世界の事例(メンバーズ・ハーチ)
- 「江戸時代の『食』から考える、気候危機時代の『食』」(鎌谷かおるさん)
- 「自然の搾取から脱却する、自然と文化を耕す食料生産」(友廣裕一さん)
20:00~ 第2部:クロストーク
テーマ例:
- これまでの食料生産・加工・販売のあり方をどう変化させるか?
- 大量生産以外のやり方で、都市の人口をどう支えるか?
- 「ちょうどよい」食にすることで、生産者・消費者それぞれの生活はどう変化するか?
- ライフスタイルを変えるために必要な社会の変化とは?
- 食への向き合い方が変わると、環境への意識はどう変化するか?
20:30~ アフタートーク(登壇者やほかの参加者とお話しいただけます。21時にクローズ予定。)
※変更になる場合がございます
開催日時:2025年2月25日(火) 19:00〜21:00(※Zoomオープン 18:50)
開催場所:オンラインZoom(ミーティング機能)
参加費用:無料
参加方法:Zoom ※イベント中レコーディングを行います。参加者の皆さんのお顔や声はレコーディングされませんのでご安心ください。
主催:Climate Creative(ハーチ株式会社・株式会社メンバーズ)
お申し込み:Peatixイベントページよりお申し込みください。
立命館大学食マネジメント学部教授。専門は歴史学(日本史学)。江戸時代の琵琶湖漁業について研究を始めたことをきっかけに、江戸時代の生業や暮らしを成り立たせていた社会の枠組みについて興味を持つ。近年は、調味料・味付けの地域差の歴史的解明や、自然と人の関係を「食」の観点から見直す研究などに取り組む。
大阪出身。大学卒業後、日本の地域の現状を学ぶため、全国の農山漁村を訪ねる旅へ。東日本大震災後は、宮城県石巻市・牡鹿半島の漁家の女性たちとともに弁当屋やアクセサリーブランドなどの事業や、東京・墨田区で食べる人とつくる人がつながるマーケットを立ち上げる。その後、共同代表の蜂谷と共にシーベジタブルを創業。人や組織をつなぎながら、新たな海藻食文化をつくるべく駆け回る。
2017年新卒入社。2018年よりデンマークのデザインコンサルティング会社Bespoke(現:Manyone)の「Futures Design」メソッドの日本展開に従事し、社会課題解決型のビジネスモデルやマーケティング施策の立案・実行支援を担当。2023年4月からは、企業の脱炭素を後押しすべく、Scope3削減事例に特化した「脱炭素DX研究所」の所長を務める。
カナダ政府局(NPO)で難民・移民保護支援活動を経て、メンバーズに入社。デジタルを中心に社会課題解決型のマーケティングやコミュニケーションのプロジェクトプランニングを推進。2023年から脱炭素DXカンパニーに所属し企業の脱炭素事業の支援を開始。趣味は、スノーボード、サーフィン、畑など自然と関わる遊びが好きです。
ロンドン大学建築学部卒。帰国後は保育業界に飛び込み、子どもの「やりたい!」に基づいた遊びや活動を展開。無類の魚・釣り好きでもあり、世界各地で釣りをする中で海洋ゴミの深刻さを体感。子どもたちの未来にも関わる問題を、子どもたちと一緒に考え、楽しみながら変化を起こしたいと考えている。
2020年、IDEAS FOR GOOD Business Design Labにジョイン。サステナビリティ・サーキュラーエコノミーに関するリサーチ、サービスデザイン、社内浸透、プロモーションなど、企業・自治体向けの支援を行う傍ら、ファシリテーションやサーキュラーデザインワークショップなど、サステナビリティ推進のためのプログラム開発を担当。
【関連記事】創造力で気候危機に立ち向かう「Climate Creative」特設ページ
︎Peatixイベントページよりお申し込みください。
The post 【2/25開催】気候危機時代の食を、江戸の暮らしから考える。 これからの食文化とそれを支える仕組みとは(Climate Creative Cafe.18) first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post 高校生が考案。ルービックキューブに着想を得た住居が、米国のホームレス問題解決の糸口に first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>特にカリフォルニア州では、2024年1月時点で18万7,000人以上が、路上やシェルターで寝泊まりしており(※2)、およそ200人に1人がホームレス状態にある。さらに、同州に学生約46万人を擁するカリフォルニア州立大学では、所属学生の8.7~12%の学生がホームレス状態にあることが明らかになった(※3)。
ニュースサイト・AFPBB Newsによると「ホームレスの学生の一人は、大学側に状況を説明し、寮の使用許可を求めたが、他の学生に対してフェアではないとの理由で断られたと話した」
という。世代を問わず、穏やかに生活できる場所を失うリスクが身近になっているのだ。
同州にはシェルターが存在するものの、必要な数の半分ほどしか提供できていないという。そんな厳しい状況に追い討ちをかけるように、同州のギャビン・ニューサム州知事は2024年7月に「路上生活は、住民や周辺地域にとって危険で不健康な状況を助長する」(※4)として路上で生活する人々の拠点を撤去する知事令を発令した。
強行的な政策への着手が進み、緊張感も高まる中、一風変わった発想ですばやく住居を提供できる方法が高校生によって提案された。同州で暮らすRenee Wang氏のプロジェクト「RUBIX」だ。これは、ルービックキューブのデザインに着想を得たものだという。
一般的な住宅は、壁、窓、ドアなどのそれぞれの部品が設計されたあと、それらを一つの建物に組み込んで建設されている。一方、RUBIXは、まずそれぞれの部屋を独立して作成して組み合わせるモジュール式デザインを採用。
LEGOブロックの家を組み立てるときのように、寝室、キッチン、リビングルームなど、各機能を持つ10ユニットが互いにぴったりはまるよう設計されている。部屋が別々に作られているため、修正や交換が簡単で、環境負荷も少ない。
建材は竹や再生プラスチックがほとんどで、1軒の建設費用は3万3,000ドル(約512万円)以下に抑えられる。一般的なシェルターを運営するためには年間約5万5,000ドル(約854万円)かかるそうだが、RUBIXは基本的には維持費がかからないため、大きなコスト削減につながるのだ。
また、RUBIXのデザインは災害時に仮設住宅としても使用できるのが特徴だ。災害発生後、迅速に建設できる上、停電などが発生した場合でも、屋根に設置されたソーラーパネルで電力を自給できる。また、機械室の上部にバッテリーを追加することもできるため、寒さや暑さが厳しい地域では室温の調整も可能だ。
実際に、ホームレス状態の人たちの意見を聞きながら構想を練られたというRUBIX。Wang氏は、Good Good Goodの取材に対して、やりがいを語っている。
「私は、自分のプロジェクト開発のために適切なデータを集めることができただけでなく、ホームレス状態の人たちの人生の試練や苦難を聴くことで、前向きさ、回復力、優しさに触れることができました。私にインスピレーションを与え、やる気を起こさせ、どんな困難も乗り越えなければと思わせてくれたのは、話をしてくれた方々でした」
Wang氏は、同プロジェクトで奨学金を獲得し、実際にカルフォルニア州内での導入を目指して、模型づくりや政治家・非営利団体と連携をおこなっているという。
家を失い、困難な状況にある人たちが、このようなデザインを通して少しでも安全安心な場所で暮らせる状況が増えることを願いたい。
※1 米ホームレス、18%増の77万人超 物価高などで記録的な伸び
※2 New homelessness data: How does California compare to the rest of the country?
※3 米カリフォルニア州立大学、学生の多くにホームレスと飢えの問題
※4 Supreme Court To Decide Whether Cities Can Keep Homeless People From Sleeping On Public Land
【参照サイト】Teen creates Rubik’s cube-inspired tiny home to help those experiencing homelessness
【参照サイト】Stories of the streets
【関連記事】DVから逃れて安心、じゃない。IKEAの展示が問う、家庭内暴力とホームレス問題の関係
【関連記事】ホームレス状態から抜けたい。社会との接点がない人を支援する就職サイト「LinkedOut」
【関連記事】誰かの“必要”にすぐ寄り添う。ウクライナ避難民向けのサーキュラー木造仮設住宅
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]]>The post 【3/4開催】ReFi×インパクト投資×システミックデザインから見る、 新しい経済システムと金融の未来 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>2025年には世界の資産運用残高の約3分の1を占めるといわれるESG投資市場。しかし、市場の枠外に目を向けると、環境再生や社会課題の解決を目指すプロジェクトや事業に対する資金供給や経済的インセンティブの仕組みが依然として整っていないのが現状です。気候変動や生物多様性の損失、様々な社会課題などが深刻化する中、より根本的なシステムレベルでの変革が求められています。
そのような中、個人や企業が経済活動を通じて環境再生や社会的インパクトを創出できる、新しい経済システムを実現するためのアプローチが期待されています。Web3技術を活用したReFi(Regenerative Finance:再生型金融)、投資を通じて社会的インパクトを生み出すインパクト投資、そしてシステム全体をデザインし直すシステミックデザインなど、多様な手法が模索されています。
IDEAS FOR GOODの姉妹メディア「HEDGE GUIDE」は、サステナビリティ・ESG領域を専門に扱う金融・投資メディアで、2025年1月、この新しい潮流を詳細に分析した「ReFi Ecosystem Report 2024」を発表。世界100のReFiプロジェクトの事例を通じて、カーボンクレジットのトークン化や再生可能エネルギーのDAOプロジェクト、地域コミュニティと連携した環境再生の取り組みなど、具体的な実装例を紹介しています。
本イベントでは、日本初のReFiプラットフォーム「KlimaDAO JAPAN MARKET」を率いる濱田翔平氏、インパクト投資の理論と実践を牽引するSIIF(一般財団法人社会変革推進財団)の古市奏文氏、そしてシステミックデザインの手法を用いて複雑な社会課題の解決に挑むACTANTの南部隆一氏をゲストに招き、金融・投資の新しいパラダイムがもたらす可能性について探求します。
14:30-14:50 オープニング・イントロダクションセッション
14:50-15:50 インスピレーショントーク
– 濱田 翔平 氏(KlimaDAO JAPAN株式会社)
– 古市 奏文 氏(一般財団法人社会変革推進財団(SIIF))
– 南部 隆一 氏(株式会社ACTANT /合同会社型DAO Comoris)
15:50-16:50 パネルディスカッション/Q&A
(ディスカッションテーマ例)
– ReFiは金融とビジネスの在り方をどう変えるか
– システミックデザインによる社会変革の可能性
– ReFiは地域のローカルな社会課題解決への市民参加を促すか?
– ReFiの課題と展望
16:50-17:00 クロージング
17:00-17:30 ネットワーキング
※変更になる場合がございます
開催日時:2025年3月4日(火) 14:30〜17:30(※14:10開場)
開催場所:UNIVERSITY of CREATIVITY
〒107-6323 東京都港区赤坂5丁目3−1 赤坂Bizタワー 23F(アクセス)
※入館方法はお申し込み後にご案内いたします。
参加費用:無料
主催:HEDGE GUIDE / IDEAS FOR GOOD Business Design Lab(ハーチ株式会社)
お申し込み:Peaixイベントページよりお申し込みください。
2017年からweb3の世界に参入。プロジェクトへの投資やサポートを通じて、ブロックチェーン技術への理解を深める。2022年、世界を変える可能性を秘めたReFiに着目し、KlimaDAOのContributorとして活動開始。 2023年10月にKlimaDAOのコアメンバーと共にKlimaDAO JAPAN株式会社を設立し、KlimaDAOのソリューションやサービスを日本で展開中。また、ReFiの普及を目指し「ReFi Japan」を立ち上げ、ニュースレター配信やイベント開催を通じて、持続可能な経済システムの構築に尽力している。
大学卒業後、メーカーやコンサルティング会社での経験を経て、 株式会社ミクシィCVCや独立系のScrumVenturesでベンチャー投資の仕事に従事。 2018年にSIIFに参画し、日本初の機関投資家を 引き入れたインパクト投資ファンドの立ち上げや、地域アクセラレータープログラムの運営責任者として活動。2022年度より現職にてインパクト投資の先行事例創出・研究などをリードしている。
1979年生。国際基督教大学卒。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ、東京大学大学院学際情報学府にて修士を取得。廣村デザインオフィスにて、グラフィックデザイナーとして勤務後、サービスデザインファームACTANT設立。自然との共創をテーマにしたACTANT FORESTやアーバンシェアフォレスト Comorisを運営中。主な作品に「Comoris BLOCK」(2023 / 21_21 DESIGN SIGHT)など。
「未来が不安だからお金を貯める」から「安心できる未来を投資でつくる」へ。未来がもっと楽しみになる金融・投資メディア「HEDGE GUIDE(ヘッジガイド)」は、投資や寄付を通じて企業や団体を応援し、自分と社会のよりよい未来を実現したい方々に向けて、株式・投資信託・不動産・フィンテックまで様々な分野にまたがりサステナビリティやインパクトを重視した投資に役立つ最新情報、ノウハウ、インサイトをご紹介しています。2025年1月、再生型経済の実現に向けた世界のReFiプロジェクトを100件収録した「ReFi Ecosystem Report 2024」を発売。
社会をもっとよくする世界のウェブマガジン「IDEAS FOR GOOD」がこれまでの記事配信で蓄積してきた、世界中のソーシャルグッドなアイデアに関する知見やネットワークを活用したサービスです。サステナビリティやサーキュラーエコノミーの視点を自社の事業開発や商品開発、ブランディングやマーケティングに取り入れたい企業の皆様に対して、情報収集からアクションまでをワンストップで支援しています。
URL:https://bdl.ideasforgood.jp/
Publishing a better futureをミッションに、社会をもっとよくするアイデアを集めたマガジン「IDEAS FOR GOOD」、企業のサステナビリティ・サーキュラーエコノミーシフトを支援する「IDEAS FOR GOOD Business Design Lab」、サーキュラーエコノミー専門メディア「Circular Economy Hub」、金融投資メディア「HEDGE GUIDE」等を展開。
URL:https://harch.jp/
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]]>The post 【後編】それでも、海と生きる。震災と津波を乗り越えた気仙沼に学ぶ、自然と共生する暮らし first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>まちづくりの方向性を見失い自信を失っていた時代から、食を軸としたまちづくりを始めたことで、だんだんと誇りを取り戻していった気仙沼。そんな中、2011年3月、東日本大震災が起こる。気仙沼の海添いの地域は津波の大きな被害を受け、その後の火災などにより多くの人が亡くなった。
震災を受けて気仙沼で作られた復興計画の副題が、「海と生きる」だ。この表題は、何度も津波に襲われながらも、それでも海と関わる暮らしを続けてきた気仙沼の、新たな覚悟の表明だと菅原さんは話す。
「『海と生きる』は、心にストンと落ちる言葉だね。
震災にあって津波が来たことで、普段は海に関わっていない人たちも、海の存在の大きさを改めて思い知ったんです。それは、怖さも含めてね。津波の被害を受けたのは海辺だけで、面積でいうと市内のたった5.6%しかありません。でもその中に、事業者の8割、住居の半数近くがありました。こうしたことで、海の存在の大きさを町として痛感したのです」
「歴史的にも、ここは津波がよく来る地域なんです。頭を超えるくらいの津波は何回も来ているし、多くの人命が失われています。それでも気仙沼の人たちは、その度に海辺に暮らすことを選んできたのです。
ひとつ面白い史実がありましてね。明治29年に2011年と同じ規模の津波が来て、その時もこの三陸沿岸で約2万人が亡くなったそうです。さすがに危険だからと漁村のひとつが高台に拠点を移しました。しかしそうすると、よそからきた人たちが海辺に入ってきて、海を荒らし始めた。それを見てられないと思った漁村の人たちは、どんどんと海辺に出てくるようになって、結局は元の生活に戻ってしまったのだそうです。本当に、この町ってそういうことを繰り返してきてるんだよね。
もちろん、災害に対してある程度の備えをしておくことは必要です。でも、こうした歴史があるからこそ、この先も覚悟を持って海と生きていこうよ、というのがこの表題に込められた意味なんです。『“それでも”海と生きる』と言うのが、正しいかもしれません」
震災後に海辺に作られた防潮堤も、菅原さんが中心となって住民と共に100回を超える議論を行い、海と町を完全に切り離さないフラップゲート式防潮堤に決定した。
海と共に生きる決意のもと、気仙沼が改めて大事にしていこうと決めたのが、「漁業の文化」だ。そこで気仙沼は、「日本一漁師に感謝するまち」というスローガンを掲げ、市民への教育や、漁師のための飲食店や銭湯の整備などを行っていった。震災後に真っ先に行われたのも、津波で壊滅した漁港の整備だったという。
「実際に漁業に関わっているのは人口の半分以下ですし、山の方で暮らしていると漁業が身近に感じられないこともあります。しかし、漁師さんが稼いできてくれるおかげで、我々はこの地で商売ができます。当たり前すぎて忘れてしまいがちなのですが、彼らがいなかったら、気仙沼の経済も文化も成り立たないのです」
気仙沼の経済を支えている、漁業や漁師たち。しかし、漁業の文化を大事にするという言葉の中にはさらに深い意図があると菅原さんは続ける。そのひとつが、海という自然と対峙するからこそ生まれる、「漁師の精神性」だという。
「気仙沼には、遠洋、近海、沿岸、養殖の4種類の漁業があり、これは他のどこにもないほど多様なんです。水揚げ量は日本の漁港の中でトップ10に入り、日本全国、海外からも漁船が来ています。陸では孤島ですが、海は世界に開かれているんですね。
4種類の漁業の漁師さんには、それぞれ特徴があります。海外にいることも多い遠洋の漁師さんは考え方がグローバルだったり、日本各地をわたり歩く近海の漁師さんは、誰とでもカジュアルに接する人が多かったり。
ただ総じて言えるのは、海という自然と対峙する人たちだから、みんな自然への畏れみたいなものを持っているということ。そして、海の上は常に自分の命を自分でなんとかしなければいけない世界ですから、独立の気概も強い。
こうした漁師や海から来る精神性は、例え直接的に漁業に関わっていなくても、きっと我々のDNAのどこかに宿っていて、気仙沼の文化を作っている。ですから、これを町の誇りに変えていくべきだと考えたのです」
新設された魚市場の上階には、漁師の仕事や漁の様子を知ることができる展示も。
もうひとつが、気仙沼の持続可能な漁業のあり方だ。これは、気候変動や環境問題が取り沙汰されるようになるはるか昔から、この土地に根づいてきた、まさに文化と言えるものだ。
「気仙沼の養殖は、人工の餌を使いません。海水に含まれる栄養だけで、牡蠣やホヤが育つからです。また、網にかかった小さい魚は逃がしますし、必要以上に魚を取ることもありません。それは、SDGsや環境保全がどうという以前に、そうした魚を今取ってしまうと、自分たちが将来魚を取れなくなる、漁業が持続可能でなくなることがわかっているからです。
また、取った魚を無駄なく使う食文化もそうです。内臓は煮たりあら汁にしたりして食べますし、骨はせんべいに、皮は革製品に……と、余すところなく利用する。そうした文化は、これからの時代に必要とされていくものだと思っています」
漁師を応援する飲食店「鶴亀食堂」。
(左)鶴亀食堂のいちおしメニュー、メカジキのカマ煮。(右)ごはんセットの下には、「就漁の相談」というメニューも。
漁師のための銭湯。正面には漁師さんの活躍を描いた絵と、漁の安全を祈る神棚が。
前編で紹介した食を軸としたまちづくりや、震災後の漁業文化の見直し。こうした気仙沼のスローなあり方が認められ、同市は2013年、被災地として初めて、そして国内初となるスローシティ認証を受けることとなった。
スローシティ運動は、スローフードと同じくイタリアで立ち上がった「チッタ・スロー」という団体が行う、地域性や持続可能性を重視した市民や地域の主体的なまちづくりのことだ。地域の食文化や自然を尊重する、スローフードの理念に基づいた町づくりを行う5万人前後の小規模な町をスローシティとして認証し、そうした町を世界中に増やしていくことが目的である。2024年現在、欧州を中心に33か国297都市が加盟しているという。
気仙沼市役所の震災復興・企画課の神谷さんは、スローシティの認証を受けたことについて、「認証を取得するために特別なことは何もしていない。それまでの気仙沼のあり方が、認証にピタっとはまっただけ」と語る。
「スローシティという言葉自体が市民にどれだけ浸透しているかは、正直なところわかりません。でも、大事なのは言葉を知っていることに加えて、日々の生活の中でその理念に当てはまる行動を行っているかどうかではないでしょうか。
例えば、牡蠣の養殖が盛んな唐桑地域にある『唐桑小学校』では、小学校高学年で、3年間かけて牡蠣の種付けから水揚げまで、一連の流れを体験します。このように、子どものころから自分たちの地域にある自然環境や食の恵を見たり体験する。こうした取り組みは、スローシティの一端を担っていると思います。
自分も唐桑の出身で、小学生の時に定置網体験をしたのを覚えています。その当時はスローシティなんて言葉は知りませんでしたが、今思えばそうした活動がスローシティのあり方とつながっていたんだな、と思うのです」
「また、スローシティ認証の中には『社会的包摂』という基準があります。これは、『お互いに助け合って暮らしていこう』という意味です。自然環境というベースだけがあっても、それを享受する人がいなければ、意味がありませんよね。ですから、そこに暮らす人たちが、『ここに暮らしていて良かった』と感じられる町であること、『あの人って今どうしてるんだろう?』といった気配りが何気なくできること。そうした豊かな気持ちを持つことも、スローシティの一端であると思います」
最後に神谷さんは、「スローシティは、豊かさを次世代につなげること」だと話してくれた。
「意識はしていなくても、みんなその上にいる。だから、それが自分が寄って立つものであるということを、忘れてはいけないと思います。
気仙沼には、漁業や農業など、自然があるからこその営みがある。これらは生活の基本でありながら、決して当たり前のものではありません。この先もこの自然の恵を享受できるかどうかは、私たちがこれからどう行動するかにかかっています。ですから、一人ひとりがそのありがたみを感じながら、助け合って暮らしていく。それが、最も大事なことだと思うのです。我々は、生きているのではなく、生かされている。そう感じているからです」
「自然と共に生きる」
よく聞かれるフレーズだが、振り返ってみれば、筆者自身それがどんな生き方なのかを深く考えたことはなかったように思う。そのひとつの答えを教えてくれたのが、今回出会った気仙沼の人たちだ。
私たち人間が、自然なしでは、食べることも暮らすこともできない存在だと知ること。受け取った自然の恵みに、きちんと感謝すること。そして、時には人間の力が及ばない自然の恐ろしさに真正面から向き合い、それも受け入れること。
「自然と共に生きる」こととは、そんな風に、“人間の小ささ”を認識し、謙虚な態度を持ち続けることなのではないだろうか。それは、速まり続ける現代社会のスピードを自然のリズムにもう一度合わせ直し、丁寧に、ゆっくりじっくり、つまりスローに生きることにもつながる。
私たちはそうした感覚を、複雑で巨大になりすぎた経済システムや都市の中で、つい忘れてしまいがちだ。
だからこそ、気仙沼にぜひ一度行ってみて欲しい。山に囲まれた海を眺め、新鮮なお魚やお野菜をいただき、機会があれば地域の人たちと話してみて欲しい。きっと、私たちが今一度思い出すべき自然の大きさと、その腕に抱かれて生きるからこその豊かさを、身体で感じられるのではないかと思う。
The post 【後編】それでも、海と生きる。震災と津波を乗り越えた気仙沼に学ぶ、自然と共生する暮らし first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post 【前編】食が、人も産業もつなぎ直す。スローフードを中心に置いた気仙沼のまちづくり first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>その立地と交通の便の悪さから、「陸の孤島」だと揶揄されることもしばしばだという気仙沼。
一方でここには、山や川、そしてそれらが作り出した豊かなリアス海岸がある。それゆえに古くから漁業で栄え、水産のまちとして発展してきた。
特に水揚げ量が多いカツオやサメをはじめ、春はワカメやホタテ、夏はウニやほや、秋は秋刀魚、冬はメカジキや牡蠣、アワビ……と、海の幸をあげていけばきりがない。
一方山の方でも、寒い冬に育つ「春告げ野菜」や甘さが評判の「気仙沼いちご」など、多様な食材が栽培される。どんこ汁やあざら、マンボウの刺身など、食材が豊富だからこその郷土料理も数多く存在する。
そんな気仙沼は、40年近く前から、こうした豊かな食を中心としたまちづくりを行ってきた。1986年の「魚食健康都市宣言」にはじまり、2000年代には草の根団体が「スローフード運動」を起こし、2003年には市として「気仙沼スローフード都市宣言」を行った。
そして2011年。東日本大震災による津波で、まちは壊滅的な被害を受けた。しかし、それを転機として、地域を担う人材の育成や、地域資源をより活かした観光づくりにも力を入れ始める。そして2013年、これまでのまちづくりの取り組みが評価され、独自の食文化を持ち、環境への取り組みも行うまちとして、イタリアで発足した国際的組織「チッタスロー(スローシティ)協会」から、国内で初となるスローシティに認証された。
こうした歴史を経て、今や気仙沼には、食を自分たちの誇りとする精神がDNAのように根付く。そして、食材や地元の小生産者を大切にし、その後ろにある自然と共生する“スロー”なあり方には、私たちが工業化された日常の中で失ってしまっている大事なエッセンスが詰まっている。
今回筆者は気仙沼を訪れ、スローフード気仙沼の理事長であり、気仙沼のあらゆる地域活動を支えてきた地域のキーパーソンでもある菅原昭彦さんの話を聞いた。
前編では、スローフード宣言を行うに至った経緯や、食を軸にした気仙沼の取り組みについて、後編では、震災からの復興で決めた「海と生きる」覚悟や、スローシティとなった気仙沼の姿を、気仙沼市震災復興・企画課の神谷淳さんのお話も交えながら綴っていく。
菅原昭彦さん
気仙沼がまちの精神の軸とするスローフードとは、1986年にイタリアで始まった、土地の伝統的な食文化や食材を見直すことを目的とする国際的な社会運動だ。当時台頭してきていた「速い」「安い」「いつでもどこでも同じ味」といったファストな食のあり方に対し、自然のリズムに合わせたゆるやかなスピードを大事にする。地元の小規模な生産者により、環境に配慮した方法で作られた食、そしてその食をめぐる一連の流れをライフスタイルとして尊重する。
地域でさまざまな役割を担ってきた菅原さんが気仙沼でスローフード運動を始めたのは、2000年のこと。その始まりにあったのは、まちづくりの方向性を見失い、地元への誇りを失いつつあった気仙沼をなんとかよくしたいという純粋な想いだったという。
「まちが良くなるかどうかは、結局最後はその地域の人たちが地域にどのくらい愛着や誇りを持っているかにかかっていると考えていて。まちづくりや地域おこしをいくらやっても、市民が『自分たちのまちには何もない、どうしようもない』『地域が悪いのは市長のせいだ』などと思っていては、まちは良いものにはなっていかないんです。ですから、まずは市民が自分たちの住んでいる地域がどんなに素晴らしいものなのかを発見し、地域への愛着や誇りを育むことが必要だと当時は考えていました。
でも、市民の地域への愛着や誇りって、道路やビルができるといったことと違い、目に見えないものですよね。大切だけど、わかりにくいもの……これをどう作っていくかという課題意識が最初にありました」
そうした中で、菅原さん自身も気づいていなかった気仙沼の価値に気づかせてくれる一人の人物が訪れる。日本人として初めて国際ソムリエコンクールで入賞を果たすなど、国内外で活躍していたソムリエの木村克己さんだ。
「木村さんのおじいさんが気仙沼に住んでいたことをご縁に、ある時期から気仙沼を訪れるようになって、来るたびに一緒に自転車でまちを回ったり、大島に行ったりしてね。その度に、彼は散々言うんですよ。『こんなに多様なお魚が食べられて、お米や果物もある。菅原さん、あなたが住んでいるところって、本当にすごいところですよ。こんなところ、他にありませんよ。食材の宝庫ですよ』ってね。
自分にとっては、カツオもメカジキも牡蠣も、いくらでも食べられるのが当たり前のことでした。全て当たり前すぎて、それがすごいことだなんて、全然わからなかったのです。
でも、彼がそう言ってくれたことや、一緒に地域をめぐることで、『こんな素晴らしい景色があったんだ』『ここではこんな食材が取れていたんだ』『この食べ物にはこんな料理方法があったんだ』と、自分の中でも新しい発見がたくさんありました。そうして、まずは自分が、自分の地域の良さに気づいていったのです」
気仙沼の居酒屋おだづまっこにて。市外には出回らない、気仙沼でとれた魚の貴重な部位をいただくこともできる。
気仙沼の最大の魅力は、食にある。これを市民の誇りにしていこう──菅原さんがそう考えるようになった頃に出会ったのが、当時日本で注目され始めていた、スローフードという概念だったという。
「地域の食やそれを育む環境が素晴らしいことを伝えて地域の人のモチベーションをあげるのに、この言葉はぴったりだなと思って。『じゃあ、乗っかっちゃえ!』と。
こうした理由から、スローフードもスローシティも、それ自体を達成することが目的ではなく、地域が持続可能に、豊かに暮らしていくための手段だと考えているのです」
牡蠣養殖を行うヤマヨ水産の運営する、ヤマヨ食堂のランチ。
ヤマヨ食堂の店内から。目の前の養殖場を眺めながら牡蠣をいただくことができる。
こうした流れを経て気仙沼で始まったスローフード運動。始めた頃は食産業に関わっている人は少なく、地域で「気仙沼を良い街にしたい」と思う多様な人たちが集っていたという。数年間、地域で活動したのちに議会や市長を説得し、2003年に市として「気仙沼スローフード都市宣言」を行った。
「改めて調べてみると、気仙沼には数十年前から、食と環境を守る『森は海の恋人』という運動もあり、それが精神的な柱にもなっていたんですよね。こうした背景もあり、スローフードの考え方が地域にフィットしたのだと思います」
そんな気仙沼が行う食を軸とした取り組みは、実に多様だ。例えば、2007年からこれまで数回開催されてきた「気仙沼スローフェスタ」は、気仙沼の食材を使った物販や飲食の提供をはじめ、市内の調理専門学校を用いて地元の食材で料理を作る体験や漁業について学ぶワークショップ、食をテーマとした郷土芸能の披露など、気仙沼の食と文化を五感で味わい、包括的に体感できるイベントだ。
また、毎年行われる「プチシェフコンテスト」は、全国の小学生から高校生までが、気仙沼の食材を使ったオリジナルのレシピを考案するコンテストだ。コンテストの目的は、調理技術を競うだけではなく、地域の新鮮な食材や伝統的な調理方法について、家族などとのコミュニケーションの中で学ぶこと。そうした理念を知り、レシピの最初に「朝、お父さんと川に行って、ハゼを4匹釣ってくる」と書いている子どももいたと菅原さんは笑顔で話す。
気仙沼プチシェフコンテストの様子 Image via 気仙沼市
気仙沼プチシェフコンテストの様子 Image via 気仙沼市
こんな風に、誰にとっても身近な「食」。菅原さんは、食には「あらゆるものをつなげる力」があると語る。
「環境問題や持続可能性という言葉を使うと難しくなってしまうけど、『食べ物のことをやろう』と言うと簡単に人が集まります。一方で、食べ物がどこから来たのか、誰が作っているのかといったことを考えると、自然と環境問題にも社会問題にもつながっていく。だから、食を自分たちの真ん中に置くと、難しいまちづくりの議論をするよりも手っ取り早いんです」
気仙沼スローフェスタの様子 Image via 気仙沼市
気仙沼スローフェスタの様子 Image via 気仙沼市
気仙沼スローフェスタの様子 Image via 気仙沼市
「また、食を起点にまちづくりを行う前は、行政も民間も縦割りで、農林、観光、福祉、水産……と、それぞれの分野が分断されていたんですね。
でも、そこに食が入ると、全てがつながって見えてくる。心身共に健康であること、地域が経済的に持続可能であること、自然環境が守られること、まちの人間関係が良好であること。それまでは個別で取り組んでいたこうしたさまざまな課題に、食という切り口でみんなが分野を超えて取り組むことができるようになったのです」
昔は家族が食卓を囲んで集い、地域も近所の飲み会でつながっていたものだった。食べながら話し、自分たちの地域について共に考え、そこから地域を良くする取り組みを生み出していく。気仙沼がやろうとしているのは、そんな昔は当たり前にあった風景を、ただ取り戻していこうとする動きなのかもしれない。
後編では、2011年の東日本大震災からの復興、その中で決めた「海と生きる」覚悟や気仙沼の持続可能な漁業文化、スローシティとなった気仙沼の精神性のより深い部分を探っていく。
内湾のすぐそばには、小規模農業ができる里山も。
【参照サイト】Slow City Kesennumaへの歩み
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]]>The post 食の未来を紡ぐのは、文化と人。デンマーク「noma」髙橋シェフと日本の食を考える【持続可能なガストロノミー#11】 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>今回杉浦シェフが訪れたのは、デンマークの人気店、nomaの京都でのポップアップ「noma kyoto」。2024年10月8日から12月18日まで京都のエースホテルで開催された。
nomaは、地元での消費とどまっていた北欧料理に、10項目の「新北欧料理マニフェスト」を枠組みとして加えることでニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新北欧料理)へと生まれ変わらせた。「世界のベストレストラン50」では過去5度にわたって世界1位を獲得し、デンマークの観光需要を底上げする存在ともなったのだ。その拠点は同国コペンハーゲンにありながら、世界各地でポップアップも開催しており、京都では2回目の開催となった。生産者の方々とのさらに深い協働からさまざまな料理が生まれたようだ。
京都のエースホテル3階の一室がnoma kyotoの舞台となった|Image via noma
今回、nomaでヘッドR&Dシェフを務める髙橋惇一さんにインタビューを行った。ポップアップに向けて日本に渡り、厨房に立った髙橋さんは、nomaで北欧の食文化に触れながら、こうして日本の食文化と出会い直すことで、どのような気づきを得ているだろうか。日本の食文化が持つ特長や、それを未来へ繋げるにあたっての姿勢について聞いた。
nomaでシェフを務める髙橋さん
2024年で2度目となった、京都でのnomaポップアップの開催。日本の食材がふんだんに使用された。
髙橋さんが注目するのは、その食材の多様さと、それを育む地域文化だ。今回も、北陸地方のイカや、四国の柑橘、愛媛のベリー類など、さまざまな地域に行き現地の食と文化に触れて準備を進めたという。
「日本に限らず、ポップアップを開催する際は、必ず数年から1年前、半年前と、何度かその国に足を運び、いろんな生産者のもとを訪れます。訪れた生産者さんを通じて、ほかの生産者の方を紹介していただくこともありました。
前回は北海道、今回は四国や福井に行って農家さんに会い、ポップアップの時期に何があるのかを相談して、何をどんな背景で作っていらっしゃるかも伺いました。ただレストラン側が単に使いたいものを注文するのではなくて、 その人の想いを尊重することが大切です」
料理人と農家は本来、発注者と受注者という関係だけではなく、共に自然のめぐりと向き合う関係にあるのだろう。
Image via noma
さらに、髙橋さんは、海外の視点から日本の食材の特徴を評価する。柑橘類の豊富さや発酵文化の奥深さが、特に海外のシェフたちにも驚きを与えているという。
「例えば、日本には、特に柑橘類の種類が豊富で、そのまま皮ごと食べられるものもありますよね。一方、ヨーロッパなどでは、レモンなどの柑橘類は皮を剥いて中身だけを使うのが一般的です。そのため日向夏など、中の白い皮も含めて食べられる柑橘は、すごく驚かれます」
Image via noma
地域の食材と、その地域でのいただき方。独自の食文化が散りばめられている日本は、それぞれ奥深さを探求する余白がまだ多く残されているのではないだろうか。
nomaが軸とする北欧の食文化は、独自の進化を遂げている。北欧料理はもともと保存食やシンプルな調理が主流であった中、nomaが先駆者となりニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新北欧料理)を生み出した。
この保存食という特徴は、寒さに備える北欧の食文化と、食材の腐敗を防ぐ日本の発酵食文化に共通する。髙橋さんは、その違いをこう語った。
「北欧では、冬を乗り越えるための保存技術が発達していますが、生命を維持するためのものという認識が強いです。
一方で日本は、保存食であっても『旨味』を大切にする食文化。保存するだけではなくて熟成させることもありますよね。今でこそ北欧料理のシェフが旨味の勉強をすることもありますが、nomaができる前はそうした文化は馴染みがなかったと聞いています」
そんな日本の食文化は、物価高騰や生産者不足により厳しい状況にある。nomaがけん引し、ニュー・ノルディック・キュイジーヌへと変革した北欧料理から学べることとは、何だろうか。
その一つは、個々の高い技術や魅力を、一つのスタイルとして発信すること。北欧の食文化は、かつては地域内での消費が中心で、外部に向けた発信は少なかった。しかし、nomaやその創業者レネ氏が世界にその価値を伝える役割を果たし、地域にも新しい活力を生み出したのだ。
「日本の食文化において、長年一つのことを追求する力はすごく尊敬しています。海外の人は色んなことができるのですが、それは比較的浅く広く。日本では、天ぷらなり寿司なり、分野や地域ごとに一種類だけどそれを突き詰める精神は強みだと思います」
発酵や旨味以外に、それぞれの地域でも多様な文脈を持っている日本の食文化。すでに一部の料理は海外でも親しまれ人気となっている一方、一つの色に染まりきらない地域性の価値をブランドとして外に発信することも、日本の食を守るうえで重要かもしれない。
もう一つ、日本の「食」の業界が抱えている課題の一つが、レストランでの価格設定の難しさだ。日本では「安くて美味しい」が特色でもある一方、第1次産業の従事者が減り、海や田畑の手入れが不足する今、身近だった食材すら希少なものになっていく可能性に直面している。
「食材や食文化が危機にあること、将来ある品種の米が食べられなくなるかもしれないことを、知っている人は少ないです。ただ単に美味しいものを作りたいという気持ちだけでは、飲食業は続かないかもしれません」
だからこそ多くの店が値上げに踏み切らざるをえない。そのとき、お店側は価格を上げるだけではなく、その価値をどう伝えるかが大切だという。
nomaでは、料理そのものだけでなく、提供までに費やした時間や労力、環境への配慮、研究開発に対する対価も含めた価格設定を行っているのだ。
「nomaでは料理そのものの値段というより、サービスとして全てを経験してもらうための値段に設定しています。メニューを作る前にリサーチもあって、そこにもお金と時間がかかっているんです。
今回も、およそ3年間にわたって何回も日本に来て、全国をまわって、人と話して、準備しています。料理を出す前はマイナスの状態です。そうした経緯も伝えていくことが大切ではないでしょうか」
nomaではオーガニックの食材にこだわり、生ごみの堆肥化や余った食材の寄付などを、環境面の取り組みとして続けている。こうしたアクションも、価格に反映されていくべきだろう。
Image via noma
もう一つ飲食業界で重視していくべき観点が、働く環境の改善だ。長時間労働が当たり前とされるこの業界では、いかに働き手のウェルビーイングを高めるかが課題となっている。
「飲食店では長時間労働をなかなか避けられないですよね。ただ、その中でも働く環境を良くするなら、褒めることが大切です。日本では、よくできた時でも褒められることが少ないように感じます。注意する時は注意しますけど、なぜ怒っているのかを、きちんと説明することも大事。相手が理解できる形で指摘することが重要です。『こうしたらもっと良くなる』というポジティブなアプローチが広がると、サービスにも現れてくると思います。
僕たち作り手側がハッピーじゃないと、良いものを作れないじゃないですか。疲れはありますけど、今もハッピーな状態は保てているんです」
そう語る髙橋さんは、柔らかな表情で笑みを浮かべていた。店内を行き交っていたnomaのメンバーも、緊張感がありつつも穏やかな面持ちだったことが思い出される。人が人として尊重される環境が、そんな姿勢を引き出し、世界の料理人を惹きつけ続けているのかもしれない。
客足の途絶えないように見えるnomaですら、現代のレストランビジネスモデルが持続可能でないと捉えている。nomaは、2025年から「noma 3.0」に移行し、常設型レストランを構えず巨大なラボに姿を変えるのだ。このラボでは、料理の技術や食材の可能性をさらに探求し、新しい食体験を生み出すことが目的とされている。今後テストキッチンでの開発成果は、世界各地で開催されるポップアップから世に出ていく。
その背景にあるのは、働く仲間だ。レネ氏は「レストランとして日々の生産に気を張っているレベルやそのあり方が、持続可能ではないことは明らかだった」
と、Fast Companyの取材で語っている。
私たちは、そんなnomaの「地域の食と人」に向き合う姿から何を学べるだろうか。
日本の食文化が未来へと続くためには、伝統の価値を守りながら、それを“伝わる形”に変化させていく姿勢も大切かもしれない。地域に根ざした食材や技術を活かしつつ、それらを一つのスタイルとして調和させ、グローバルに発信する存在が、今必要とされているのだろう。
たとえその役割を担わなくとも、料理人ではなくとも、誰しも「食べること」と切り離して生きることはできないからこそ、nomaから得られる視点は多い。料理は、食卓だけで完結しない。その食材を作る土地や、農家の方の手間ひま、料理を考え作る時間と人……すべてが繋がって一つの皿へと仕立てられてゆく。
その一つひとつを認識し、尊重することが、地域の食材や食文化を守ることに繋がるのかもしれない。
Image via noma
【参照サイト】noma kyoto
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]]>The post 電池は“育てる“時代に?スイスの研究所が開発した、真菌の「生きたバッテリー」 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>2025年1月、スイス連邦材料科学技術研究所(Empa)は、生分解性の真菌(※)電池を開発したことを発表した。この電池は、セルロースを使った印刷インクに真菌細胞を混ぜて3Dプリントしたもので、従来のリチウムイオン電池のような金属や化学物質に依存せず、廃棄の際に有害物質が出ないことが特徴だ。
※カビやキノコ、酵母などを含む生物の一群。光合成は行わず、外部から栄養を吸収する。自然界では、腐敗や分解を通じて有機物を分解し、土壌の栄養循環に貢献する。
従来のバッテリーは、エネルギーがなくなると再充電するか交換しなければならない。一方この「真菌微生物燃料電池」は、必要な水と栄養分を供給すると、酸素との化学反応によって活性化し、継続的に電力を生成する。言い換えれば、餌を必要とする「生きたバッテリー」というわけだ。
Empaの研究チームは、二種類の菌類を組み合わせて「微生物燃料電池」を作り出した。陽極側には代謝過程で電子を放出する真菌を配置、陰極側では別の菌がその電子を受け取り、電流を流す。
現在の研究では、キノコの生きた細胞は大量の電気を生成するにはまだ不十分なため、大型の電子機器の動力源として使用するには限界がある。しかし最大62時間の使用ができるため、たとえば温度センサーを数日間稼働させるのに十分な電力は供給できる可能性があるのだ。
また、電池が不要になった場合、使用後は内部で自然に分解されるため、環境への負荷が非常に少ないというのも優れた点だ。Empaは、菌類を従来のエネルギー源に代わる有望な選択肢と捉え、このキノコ菌類電池をさらに強力で長持ちするように開発を続けている。
真菌の持つ潜在能力は完全には明らかになっていない。しかし、この技術革新は、将来的により持続可能なエネルギーソリューションの実現に繋がる可能性を秘めていると言えるだろう。
【参照サイト】Empa (Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology)
【参照サイト】Swiss scientists have taught fungi to generate electricity. How do mushroom batteries work?
【参照動画】The fungal battery that digests itself
【関連記事】生分解性素材を使ったオーガニック花火、オランダに誕生
【関連記事】高吸水性で堆肥化可能な、世界初の「海藻タンポン」。ベルリンのスタートアップが開発
Header image via Empa
Edited by Megumi
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]]>The post 循環型経済のグローバル・アワード「crQlr Awards 2024」受賞プロジェクト発表 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>同アワードは、国内初のサーキュラー・デザイン分野のアワードとして、2021年にスタートした。循環型経済の実現を目指す⼤規模なプロジェクトから計画中のアイデアまでを募集し、審査・表彰するとともに、持続可能な経済システムづくりを目指すプレイヤーたちが業界や国を超えてつながることで、新たな価値を創出するコミュニティの形成を目指している。
4回目の開催となった2024年は、47カ国から143のプロジェクトがエントリーされ、29点が審査員賞、3点が特別賞を受賞した。特別賞のテーマは、「『サーキュラーバイオエコノミー』の実現に向けて」。自然とテクノロジーの力を取り入れながら、生物学的プロセスを活用することで、資源の循環や環境保全を革新的に再構築するアプローチに焦点が当てられた。(審査員賞受賞作品の詳細)
また、2025年3月6日(木)〜3月26日(水)まで、受賞プロジェクト展「crQlr Awards Exhibition Tokyo-Living Loops 生きている環」が渋谷のFabCafe Tokyoで開催される。受賞プロジェクトに加え、2021年から始まった「crQlr Awards」のバイオエコノミーに関する取り組みをはじめとした、これまでの受賞プロジェクトや成果なども展示される。
使用後に自然に分解し、地球に還元される生分解性の土壌センサー。最先端技術と持続可能なデザインを融合させ、電子デバイスがゼロウェイスト社会に適合する可能性を示している。
Image via crQlr Awards
人間が排出する廃棄物(使用済みの食用油、人尿、木灰)を原料として作られた石鹸。気候変動対策や循環型経済取り組むための地域的かつ共同体的な取り組みで、「ケア」「コミュニティ」「地域解決策」を重視している。
Image via crQlr Awards
発光する細菌「ビブリオ・フィッシェリ」を培養皿や液体溶液で育成し、従来の人工照明に代わる持続可能な選択肢として「バイオライト」の開発を目指すプロジェクト。アート、持続可能性、科学的探求を融合させた革新性が評価された。
Image via crQlr Awards
FabCafe Tokyo / Image via FabCafe Global
【参照サイト】「crQlr Awards 2024」結果発表!最前線のサーキュラー・デザインが集結する受賞プロジェクト展「crQlr Awards Exhibition 2025」の開催も決定
【関連記事】【第4回】循環型経済をデザインするグローバル賞「crQlr Awards (サーキュラー・アワード)2024」募集開始
【関連記事】世界のサーキュラーデザイン先駆者は何を見た?crQlr Awards2023 審査員座談会
【関連記事】世界をシステムから問い直す。人間中心のレンズを外すと見える、サーキュラーバイオエコノミーの可能性【crQlr Awards 2024 #1】
The post 循環型経済のグローバル・アワード「crQlr Awards 2024」受賞プロジェクト発表 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post 世界をシステムから問い直す。人間中心のレンズを外すと見える、サーキュラーバイオエコノミーの可能性【crQlr Awards 2024 #1】 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>2024年度の特別賞のテーマは、生物学的プロセスを活用することで、自然のシステムの中でより再生的な循環のループを作ろうとする「『サーキュラーバイオエコノミー』の実現に向けて」だ。IDEAS FOR GOODでは、アワード審査員への取材や受賞プロジェクトの紹介を通し、全4回にわたりサーキュラーバイオエコノミーの現在地と可能性を深掘りしていく。
第1回目は、FabCafe Bangkokの共同設立者であり、2024年度の特別賞のテーマを策定したキーパーソンでもある審査員の1人、Kalaya Kovidvisith氏(カラヤ・コヴィドビシット/以下、カラヤ氏)を取材した。
デジタルファブリケーションやバイオテクノロジーが生み出すビジネスモデルの可能性を追求する研究者でもある彼女は、サーキュラーバイオエコノミーをどのように解釈しているのか。その可能性とは、どのようなものなのか。crQlr Awardsを主催するFabCafe CCO・同アワードのチェアマンであるKelsie Stewart氏(ケルシー・スチュワート/以下、ケルシー氏)を交え、議論した。
FabCafe Bangkokの共同創設者であり、FABLAB Thailandのマネージング・ディレクター。マサチューセッツ工科大学(MIT)でデザインと計算の修士号を取得。デジタルファブリケーションとバイオテクノロジーがどのように産業界の関係の変化を強化し、次世代の新しいビジネスモデルを生み出すかを研究テーマとしている。2015年のGlobal Entrepreneur Summit Delegate、2016年のAsia Pacific Weeks Berlinに出席。
crQlr Awards チェアマン/ Loftwork Sustainability Executive。2017年にLoftworkとFabCafeに入社。FabCafe Chief Community OfficerとしてFabCafe Global Networkのまとめ役を務め、世界各地のFabCafeのローカルクリエイティブコミュニティを育成、コミュニティのグローバルネットワークを構築。持続可能な開発目標の短期的な解決を目指した2日間のデザインソン「Global Goals Jam(GGJ)」の東京開催の主催者、同イベントをバンコク、香港の複数都市で企画・実施。
サーキュラーバイオエコノミーとは、生物の能力や働きを活用するバイオテクノロジーを基盤としたバイオエコノミーと、気候変動への危機意識の高まりを背景に国内外で広がるサーキュラーエコノミーを組み合わせた概念である。
バイオ素材や生物のはたらきを活用して経済成長と地球環境などの社会問題を同時に解決しようとする前者と、廃棄物を減らそうとする過程で同じような素材に着目せざるを得ない後者にはそもそも親和性があり、EUや日本が策定する「バイオエコノミー戦略」の中でも両者を同時に進める重要性が言及されてきた。
では、サーキュラーバイオエコノミーとは、既存のサーキュラーエコノミーの枠組みに内包される、「ひとつのカテゴリ」に過ぎないのだろうか?この点に対するカラヤ氏の考えは異なっていた。カラヤ氏は既存のサーキュラーエコノミーを、「非常に人間中心的だ」と指摘する。
カラヤ氏「これまでのサーキュラーエコノミーの議論では、資源の供給から材料の加工、製品やサービスの提供、そして最終的な廃棄と再利用といった一連のサイクルを、人間の経済活動を中心とした視点で最適化されてきました。しかし、このアプローチは結局のところ、人間が設計したシステムの中での話であり、自然というより大きなシステムとの関係性を考慮したものではありません」
サーキュラーエコノミーが議論される際に往々にして話題になるリサイクルやリユース、製品の長寿命化などの取り組みは、人間の経済活動の枠内での最適化にすぎず、これらは、根本的な課題解決にはならない。
本来は、視点をもっと大きなシステム──つまり自然がどのように機能しているのかを理解し、それを活かしたデザインを考える必要があるとカラヤ氏は言う。人間のシステムが自然というもっと大きなシステムの中に入れ子になっている以上、自然と調和しない自分本意なシステムを駆動させ続けることは不可能だからだ。
カラヤ氏「自然はそれ自体が資源の供給網であり、その力だけで全てのプロセスを完了させることができます。材料が分解されると、自然に循環して再生されるのです。つまり、自然は自動的で持続可能な“システム”なのです。
そして、このような自然の循環を私たちの物事の進め方に取り入れ、自然のシステムとの調和を目指すのが、サーキュラーバイオエコノミーだと考えています。そうすれば、汚染や環境への悪影響が減らせるだけでなく、新しい工場を建設したり、問題を生み出してからその複雑な解決策を探したりすることも減らせるはずなのです。
そのためには、私たちが自然を人間の“パートナー”と捉え、人間ではなく自然を“中心的存在”として位置付ける必要があるのです」
カラヤ氏
自然のシステムと調和する──こう聞くと、我々の先祖が行っていたような、環境に負荷をかけないシンプルで原始的な暮らし方に回帰すれば良いのではないか、と思うかもしれない。カラヤ氏の出身であるタイでも、サステナビリティが議論される際には、食料や布を自給自足で賄うような伝統的な生活様式がよく話題に上る。実際、一部の若い世代の間では、そうした生活への回帰を目指す動きも見られるという。
しかし、「実際には、誰もがそうした暮らしをできるわけではない」とカラヤ氏は指摘する。だからこそ必要となってくるのが、現代の暮らしにフィットしつつ自然との調和も実現する新たなソリューションを生み出していくことなのである。
そこでカギとなるのが、過去数十年の間に著しい発展を遂げている、バイオテクノロジーだ。1970年代の遺伝子組換え技術の誕生を皮切りに急速に発展し、2010年代には遺伝子編集技術が登場。自然界に存在しない生物や遺伝子を人工的に設計する合成生物学や、微生物を活用して食糧や医薬品を作る技術、生物の力で環境を保護・修復する技術などが次々と生まれ、医療をはじめ、農業や環境、エネルギーなど、幅広い分野で活用されるようになった。
自身もバイオテクノロジーの可能性に魅了される1人だというカラヤ氏は、「こうした最先端の技術により、人間が自然や生物をより深く理解できるようになってきている」と語る。
カラヤ氏「これまで私たちは、自然にあまり注目してこなかったのだと思います。それはおそらく、自然を理解するための知識や技術が不足していたからです。しかし、現在ではそれらが進歩したことで、自然から学び、その原則を産業に応用する可能性が生まれています。科学者たちが自然界における合成や分解といったプロセスを理解しようとする取り組みは、個人的にも素晴らしいものだと思います」
Image via Shutterstock
では、そうしたテクノロジーをどのように用いれば、自然のシステムに調和しながら我々人間の生活を維持していけるのだろうか。この点についてケルシー氏は、現代の生活の基盤となっている電気やエネルギーといったインフラこそ、バイオテクノロジーを用いて新しいソリューションを導入し、仕組みの転換をはかっていく必要があるという。
crQlr Awards 2024では、それを実現する可能性を持つプロジェクトが特別賞に選ばれた。
例えば、発光バクテリアを照明として活用する可能性を模索する「Bio-Moon Lab」。このプロジェクトでは、外部エネルギーを必要とせずに発光するバクテリアを用いた「バイオライト」を開発し、化石燃料に依存する現在の照明インフラを代替することを目指しているという。
また、大阪大学の研究グループが開発した「『土に還る』循環型センサデバイス」は、セルロースナノファイバーを用いた生分解性のセンサだ。こちらも、環境情報の収集に広く必要とされているセンサデバイスを再生的なものに置き換えることで、将来の環境負荷を大幅に削減する可能性を持つプロジェクトだ。
ケルシー氏「『土に還る』循環型センサデバイスから取得できる生態系の健康状態を表すデータは、さまざまな研究に役立てることができるスケーラブルなものです。また、企業にとっては、二酸化炭素の減少にとどまらない、より多様な種類のKPIを測定する手助けになるかもしれません。そのような段階に達することができれば、センサー自体は小さくても、その生態系に対する影響は深く、大きいものになると言えます」
Bio-Moon Lab Image via crQlr Awards
「土に還る」循環型センサデバイス Image via crQlr Awards
カラヤ氏は、こうした革新的なソリューションを生み出すためには、まずは既存の方法やシステムを前提とせず、新しい視点で考え直すことが重要だと語る。
カラヤ氏「『もし電線や電気という概念自体がなかったら、どうやってそれを置き換えるのか?』これは、私がMITで学んでいた頃、建設方法を再考するプロジェクトで教授が私たちに投げかけた問いです。
こうした問いかけを受けて私たちが取り組んだのは、建物の塗装を再考することでした。既存の建物の塗装は、多額の費用がかかったり、塗料を何度も塗り直す必要があったり、塗料自体が環境や健康に害を及ぼすものであったりと、さまざまな課題があります。そこで私たちはレーザー技術を活用し、顔料を使わずに素材自体を発光させる技術を発見しました。これで長期間色を保つことが可能になり、塗料を塗り直す必要も無くなりました。
このように、過去の方法を見直し、新しい技術、素材、システムを活用してそれを置き換えようとする姿勢が非常に大切だと考えています。私たちは過去の方法を踏襲しがちですが、技術がこれだけ進歩した今、過去のやり方にとらわれる必要はないのです」
照明やセンサー、エネルギー源……日々の暮らしに欠かせないあらゆるものが、バイオ素材や生物由来に置き換わっていく。これらの事例は、文字通り生物や自然と調和し、共存する未来を想像させてくれる。
ただし、ここでひとつ疑問も生まれる。こうしたソリューションも結局のところ、人間の快適で便利な暮らしを維持するために、生物を“利用”しているに過ぎないのではないか。人間が自然の仕組みを取り入れることは、どこまでが協働であり、どこからが搾取となるのか。その境界線をどのように考えるべきなのだろうか。
ケルシー氏「この問いは、『自然と協力する間違った方法とは何か?』と言い換えることもできますね。ここでまず考えるべきは、倫理的な観点でしょう。
例えば、バクテリアや藻類に権利はあるのでしょうか?Bio-Moon Labを例にとってみると、『“生きている”生物に私たちが使う光を依存することは、倫理的に許されるのか?』という問いになりますね。加えて、光を活用するためにバクテリアの養殖を行うのか、あるいはそれを自然界から捕らえるのか、学校や家庭でそれらを使うにはどのような決まりを作れば良いのかなど、考えるべきことはたくさんあります。
私自身はこの問いに対する明確な答えを持っているわけではありませんが、少なくとも、現代において人間が自然と最善の形で協力する方法、つまり、自然と協力しながら、双方にとって『GOOD』となるような方法を見つける必要があるということは確かです」
ケルシー氏「一方で、これは実践に関連する問題でもあります。たとえば、私たちは現在すでに植物や他の生物に深く依存しており、そこには常にリスクが伴います。
現実的な例のひとつが、アメリカの家禽(かきん)産業です。この産業では、鳥インフルエンザの急速な蔓延により、大量の鳥の殺処分やサプライチェーンの混乱などが起こり、農家や企業に大きな影響が出ています。科学者たちが長年研究を続けているものの、感染拡大を完全に防ぐ効果的な解決策はいまだに確立されていません。
この危機は、効率性を追求するために作られた工業型畜産の問題を浮き彫りにしています。高密度な飼育環境がウイルスの急速な拡散を助長し、生態系全体に影響を及ぼす可能性が指摘されているのです。これは、人間のニーズを一方的に押し付ける、『自然と協力する間違った方法』と言えるのではないでしょうか。
ここで考えなければいけないのは、私たちの現代的なライフスタイルを維持するために自然や生物に依存することは本当に合理的なのだろうか、という問いです」
これに対しカラヤ氏は、「既存のバイオソリューションの多くも、信頼性や実用性の観点で実用化に向けた課題を抱えている」とケルシー氏に同意する。一方で彼女は、自然から切り離されたシステムが必ずしも安定的で合理的なものではないことも指摘する。
カラヤ氏「『Grow Your Own Cloud』というプロジェクトを例に挙げましょう。これは、テキストや画像といったデジタルデータをDNAに変換し、植物にデータを保存しようとする取り組みです。大量のCO2や膨大な電子廃棄物を生み出す従来のデータセンターの代替案となるもので、最終的には地域の花屋や庭園、森林などをデータセンターとして活用することを目指しています。
このプロジェクトについて誰かに話した時の反応は主に2つに分かれ、その人が自然をどのように捉えているかがわかります。1つ目は、『素晴らしい、実現してほしい』というポジティブなもの。もう1つは、『データが消えたらどうするのか?』と懸念するネガティブなものです。
しかし冷静に考えてみれば、ハードドライブのような現在のデータ保存方法でも、データが失われるリスクは大いにあります。それなのに、既存のシステムには疑問を持たず、自然を活用した新しい方法に懸念を持つのは、不思議だと思いませんか?」
ケルシー氏「それは非常に面白いポイントですね。確かに、自然と協働するプロジェクトについて話すと、『自然はいつか死んでしまうでしょ?』といった反応を得ることもあります。しかし実際には、松の木のように切らなければ数千年生きる植物もありますよね。それなのに、『木は簡単に枯れてしまうから、自然に依存するなんて現実的ではない』と考える人がほとんどです。
私たちは自分のスマートフォンのような人工的なデバイスは永続的なものだと無意識に信じていますが、これらはどれも永続的ではありませんし、自然のように再生可能でもありません。それなのに、私たちはこれらに価値を置いています。固体ハードドライブの永続性は信じるのに、木の永続性は信じないのです。
このような私たちの潜在的な認識を取り払った先に、自然との新たな協働の可能性が開かれていくのかもしれませんね」
自然は人間よりもずっと長く生き、人間や、人間の考える技術よりもずっと優れている──こうした認識は、表面的には合理的に見える人間的なシステムに囲まれて生きる私たちが、ついつい忘れがちなものではないだろうか。だからこそ、自然を理解し、自然から学ぶこと。そして、自然に歩み寄ること。それが私たちの今すべきことなのだとカラヤ氏は言う。
カラヤ氏「バイオミミクリー(生体模倣)という考え方もあるように、自然は私たちにとって最高の教師です。何百万年にもわたる進化の過程で、自然は非常に効率的なプロセスを築いてきました。ですから、生物学や気候変動についてもっと学び、人間が行ってきたこととの因果関係や自然の重要性を理解したうえで、自然の賢い活用の仕方を考えられるようになる必要があると思います。
私にとってサーキュラーエコノミーは、自然と人間の“対話”のようなものであり、長い間共存するための指針だと思っています。以前は、自然は人間が何をしようと一緒に歩んでくれる優しいパートナーのようなだったかもしれません。しかし、今では一方的で自分勝手に振る舞う私たちに対し、自然が私たちに怒っているように思えます。それが、日々の気候変動として現れているのではないでしょうか」
カラヤ氏「この世界は、私や、今生きている私たちだけのものではありません。ですから、少しでも良い世界になるように私はこの仕事を続けています。それは、この地球が、自然と生命に溢れた素晴らしい場所だと思っているからです。だからこそ私たちは、自然と調和しながら生きる方法を探り続けるべきではないでしょうか」
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取材中にも話されたように、人間が何かをデザインする以上、それが究極のところ人間視点であることは否めないだろう。どこまでが協働でどこからが搾取なのか──この問いには、真摯に向き合い続ける必要がありそうだ。また、そもそも人間が自然の一部であることも忘れてはいけない点だ。
だからこそ、謙虚な態度で自然に学び、自然を信頼し、丁寧にその協力を仰いでいくこと。これを根気強く続けた先に、自然と人間がより良く協働できる未来は開けていくのではないだろうか。そしてその旅路は、自然の叡智への感動と新たな発見に満ちた、エキサイティングなものになりそうだ。
次回は、アワードの審査員でバイオ素材を用いた建築の先駆者であるDavid Benjamin氏を取材し、建築領域におけるサーキュラーバイオエコノミーの実践について探っていく。
【参照サイト】crQlr Awards
【参照サイト】特別賞について(crQlr Awards)
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]]>The post シンガポールで「成長からの脱却」が注目の的に。Post Growth Singapore代表が語る、“再想像”の力 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>そんな成長真っ只中のシンガポールで、「成長から脱すること(Post Growth:ポスト成長)」の議論が沸き起こっていることを、知っているだろうか。
この動きの中心的な存在となっているのが、コミュニティグループ「Post Growth Singapore」だ。その共同設立者であるリム・ルカール氏に、成長重視の経済戦略を推進している都市国家で、なぜいま「成長からの脱却」が注目されているのかを聞いた。
Post Growth Singapore共同創設者。Yale-NUS Collegeを環境学の専攻、都市研究の副専攻にて卒業。ウブントゥ哲学とケア倫理に触発され、現代の大きな社会生態学的課題を乗り越えるためのコミュニティの構築に尽力。国内の大学間環境組織の元共同議長。非営利組織・Global Fund for Childrenと協力して、若者主導の環境団体のための環境インパクト基金を創設。社交ダンスを続けており、学校ではチュックボールのチームに所属。
Post Growth Singaporeは、2024年初めに設立された草の根組織。リム氏が友人らと共に立ち上げ、現在は数名のコアファシリテーターとボランティアによって運営されている。
メインの活動は、毎週末開催される勉強会やディスカッション、上映会などのサークル・セッションだ。毎回異なるテーマが設定され、5人から30人ほどが参加。上映会には最大250人ほどが参加するなど、盛り上がりを見せている。
もう一つ、オンラインコミュニティの運営も行っている。イベント情報や学び、疑問の共有、コラボの提案などが毎日のように活発に投稿されている。2024年1月に開設してから、1年間で390人が参加するという人気ぶりだ。
250人ほどが集まった上映会|Image via Post Growth Singapore
ただ、シンガポールでもともとポスト成長が注目されていたわけではない。
「1年前の当時、ポスト成長について話している人はあまりいませんでした。知っている人も少なかったです」と、リム氏は語る。彼がポスト成長の概念に初めて触れたのは、約2年前に出身校であるYale-NUS Collegeで受講した環境学入門の授業であった。エコロジー的近代化や持続可能な消費、ESGなどを学んだ中で、理にかなったアプローチは「ポスト成長」であると感じたのだという。
「生態経済学や政治経済学の授業を通して、現代の資本主義経済では資本が絶え間なく蓄積されていることを理解しました。そしてGDP成長や生産性は必然的に良いことであるという信念が、工業も農業も含めた経済活動を過度に加速させ、社会的・生態学的危機を引き起こしている、と。
シンガポールの気候変動対策において、政府も企業も、草の根の運動でさえ、「強い持続可能性」ではなく「弱い持続可能性」に重きを置き過ぎている可能性があります(※)。本当に注意を払うべきなのは、経済活動や私たちの生活、仕事の仕方が、地球環境の限界を示す様々なプラネタリー・バウンダリーを超過している現状であることを忘れています。こうした文脈を踏まえ、ポスト成長の議論は私たちにとって重要だと捉え、共に学び、情報やアイデアを共有できる場を作りたいと考えました」
※ 「強いサステナビリティ」は人工資本と自然資本を代替不可能とみなし、「弱いサステナビリティ」は人工資本と自然資本を代替可能とみなす
Post Growth Singaporeに集まってくるのは環境活動家だけかと思えば、そうではない。主な参加者は20歳から35歳の若い世代ではあるが、実に多様なバックグラウンドの人が好奇心を胸にサークル・セッションを訪れているのだ。
「政府の関係者や企業の人、あとは教授なども含め、自身のポスト成長への理解を深めたいと思っている人が参加していました。その中には、環境的な関心から参加する人もいますし、生産主義に対する疲れや不平等などの社会問題を認識して、ポスト成長が社会を癒すために必要なアプローチだと考えて参加する人もいます。本当に、すごく幅広いです」
そんな多様な知識や経験が入り混じるセッションで、どんなテーマが特に注目されたのだろうか。
「2024年は、経済成長と環境負荷をデカップリングするグリーン成長への批判、エコフェミニズム、オルタナティブ・ビジネス、都市計画、エネルギー、ヘルスケアなどのトピックを取り上げました。ソマティック・セラピー(※)を通して気候変動への不安を解消するイベントなども開催しましたね。
私たちは、知識とは誰もが発言できるものだと考えています。例えば経済学は、経済学者や政策立案者だけが発言できる分野ではないのです。これを体現した面白いサークルの一つが、フードシステムの回でした。外部共催者のファシリテーターがバナナを持ってきてくれて、みんなでバナナを食べながら、自分たちの生きている現実を通してフードシステムについて考えました。『私たちがどう“食”を経験しているのか』という質問を通して、学術的な専門用語なんて使わなくても説明できるという結論に至ったのです」
※ 認知や感情よりも身体性に焦点を当てた心理療法
Image via Post Growth Singapore
リム氏の語り口からは、社会の課題の重みを認識しながらも、その場の議論を心から楽しむ様子や、「未来を変えられるかもしれない」という高揚感に近い感覚が伝わってくる。
シンガポールの人口は、約591万人。面積は、東京都より少し大きい約720平方キロメートル。そんな人口密度の高さ、多様な人との距離が近い環境も、一つの議論が具体的な変化に結びつく可能性をぐっと高めることに一役買っているかもしれない。
「最初の1年を終えて、シンガポールやアジアの文脈において、ポスト成長に関する研究をもっと広げていく必要があると気づきました。一部のサークル・セッションでは、道教や仏教などの伝統的なアジアの哲学がポスト成長の理想とどのように交わるかという議論に刺激を受けました。それらは、むやみに成長を追求しなくても繁栄する社会につながり、単なる利益追求を超えてケアとコミュニティを中心とするさまざまな生き方が存在することを教えてくれます。
ポスト成長的な考え方は、伝統的な哲学の中にすでに根付いていて、私たちが成長する過程で知った古い格言である可能性もあります。資本主義的な経済によって、私たちが他のことを優先してしまっているだけなのです」
そう振り返った、リム氏。そんな気づきが得られたのは、“知識の独占”を避けるためにサークル・セッションの形式の改善を重ねてきたからだったのかもしれない。
「もう一つ学んだことは、説教じみたことを語るレクチャー形式はおそらく最善ではなかったということ。誰も知識を独占するべきではありません。
そこで、より参加型になるようファシリテート型に変更しました。参加者それぞれが考えを共有する過程にで何かを体験したり発見したりできるのです。主催者も気負わずに参加することができていて、それがオープンで興味深い議論にもつながっていると思います」
Image via Post Growth Singapore
取材の中でリム氏が何度も言葉にしていたのが「reimagine:再想像」という表現だ。彼にとってポスト成長は、社会を再想像することでもあるという。
「基本的にポスト成長は、『繁栄(thrive)するためには経済成長が必要だ』という考え方から脱却して、社会・生態学的な幸福を中心に据えた可能性の『再想像』を促すもの。
現代の産業社会では成長主義や生産主義が支配的なので、壁が高いことは想像できますが、私たちは、社会ですでに重視されている考え方と、ポスト成長とのつながりを見つけることができるはずです」
とはいえ、シンガポールでは、経済成長の波に乗って“豊かさ”を手に入れることも身近に思える。あえて未知の未来を思い描くことに、怖さを感じたりはしないのだろうか。
「ポスト成長を受け入れたり心地よく感じたりするのは、希望から来るものだと思います。気候科学や生態学・社会的指標を見れば、私たちが悪い状態に向かっていることは誰でもわかります。人によっては、それを崩壊と呼ぶでしょう。ただ、それは、私たちがもっとうまくやれるかもしれないという不安と希望でもあり、必ずしもそのような未来を確実なものとして持つ必要はないということでもある。
脱成長やポスト成長に恐怖を抱いている人たちがいることも理解しています。しかし多くの場合、それは『ポスト成長=石器時代への回帰や社会主義』と誤解しているからではないでしょうか。ポスト成長を探求することは、時に生命を吹き込むような力があります。私たちの共通の未来のためにさまざまな可能性を探索するクリエイティブな余白があると知ることは、豊かさを与えてくれるのです」
気候変動の議論は、欧州を出発点とするものや、欧州出身者によって設計された視点が多い傾向にある。もちろん彼ら自身に非はないものの、成長偏重から脱した未来を「再想像」するにあたって、その構造を見直すことには意義がある。
そんな視点に立つと、Post Growth Singaporeの着実な広がりは、非西洋的な考え方を気候変動対策やポスト成長の文脈に取り込むための大きな前進と捉えられるだろう。
さらにシンガポールでは、少なくとも政府高官レベルで成長の限界を認識している兆しがあるそうだ。2024年の予算スピーチでは、ローレンス・ウォン元副首相が「成長の追求は当然のことだと捉えています。ただし、私たちはどんな犠牲を払ってでも成長を目指すわけではない」と語ったという。
具体的な施策は少し先になりそうだが、ポスト成長の実現が不可能ではない未来も垣間見ることができる。もしそれが私たちの頭の中から始められるならば、誰でも、まだ想像されていない未来をつくる一人になれるはずだ。
【参照サイト】Post-Growth Singapore
【参照サイト】Post-Growth Singapore Instagram
【参照サイト】シンガポール基礎データ|外務省
【参照サイト】21世紀の新環境政策論~人間と地球のための持続可能な経済とは第31回 改めて「持続可能性とは何か」を考える | 一般財団法人 地球・人間環境フォーラム
【関連記事】研究者に聞いた、脱成長のいろは。日常の実践は「WANT」じゃない軸の発見から
【関連記事】銀行が「成長しない事業」に投資?オランダのTriodos Bankが描くウェルビーイングな経済とは
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]]>The post 【2/15開催】 関西の食と農を楽しむイベント「地産美食 KANSAI no UTAGE」開催 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>関西の豊かな食と農を存分に楽しめるイベント「地産美食 KANSAI no UTAGE」が、2月15日(土)にグラングリーン大阪のPLAT UMEKITAで開催される。このイベントでは、関西の食文化や農業の魅力を深く知り、味わい、体験できる。入場料は無料。大人から子どもまで楽しめる内容が盛りだくさんとなっている。
イベントの目玉のひとつが、秋鹿酒造7代目・奥航太朗氏による講演だ。秋鹿酒造といえば、大阪の能勢で酒造りと米作りを自ら手がける希少な酒蔵。その哲学やこだわりを聞きながら、日本酒の魅力をじっくり味わうことができる。また、当日は試飲販売ブースも設置され、秋鹿酒造の厳選された銘柄を楽しむことができる。
さらに、「食を土台に子育てをみんなで楽しく」をテーマに活動している「はぐみーる」による甘酒の新たな活用法もワークショップで体験できる。また、親子で楽しめる自然食ワークショップも開催される。
物販ブースでは「農絆卓惠」による地産地消の食材を活かしたフード販売も行われる。地産地消の食材を使ったこだわりの料理を味わえる点もイベントの大きな魅力だ。
○【要予約】秋鹿を味わいながら聴く!秋鹿酒造 7代目 奥 航太朗さんによる米作り・酒造りのお話
参加費:1,500円(秋鹿3種飲み比べ & 秋鹿に合うアテ付き)
1部 12:00〜13:00
2部 14:00〜15:00
3部 16:00〜17:00
お申し込み:QRコードを読み込むとLINEアプリが起動し、友だち追加後に予約サイトへ移動します。
○甘酒の新しい活用の体験会
○自然食を使った親子向けワークショップ
○秋鹿酒造 厳選日本酒の試飲販売
○関西の食材を使ったフードや食品販売(農絆卓惠)
農絆卓恵(のうはんたっけい)は”農場と食卓を絆で結ぶ”という意味を持ちます。 私たちの役割は、日本各地の作り手と食卓を繋げることであり 食に関わる課題と向き合い解決する場所であること。1階は有機野菜を中心に”日本の食の課題解決”をテーマにした 500アイテム以上の品揃え。2階はそれらの素材を活かした小皿料理のレストランを展開しています。
会社公式サイト/店舗サイト
「日本酒文化・産業を盛り上げたい!」その一心で代表の岩船 翼が2024年1月に立ち上げました。「若い世代を中心に日本酒好きの和が広がる宴」をテーマに、関西を拠点に日本酒イベントを主催しており、日本各地の酒蔵さんとのコラボイベントなども手がけています。 活動拠点である関西から日本酒を盛り上げるべく、皆様に日本酒の魅力をお届けします。
Instagram/公式LINE
「無価値/無意味なものを必要に変える」、クリエイティブリクラフトカンパニーとして24年に設立しました。故郷の日本にもまだまだ沢山捨てられたり、忘れられている勿体ないものがたくさんあります。 国内外に知ってもらうことで”お互いの良さを認め合うやさしい世界”をつくります。
プロフィールサイト
「地産美食 KANSAI no UTAGE」は、関西の食と農の魅力を存分に堪能し、持続可能な食の未来について考えるきっかけになりそうだ。家族や友人と一緒に、特別な1日を楽しんでみてはいかがだろうか。
【参照サイト】PLAT UMEKITA
【関連ページ】JR大阪駅北側のグラングリーン大阪に「PLAT UMEKITA(ぷらっとうめきた)」誕生!エシカルテインメントを体験しよう(Lifehugger)
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]]>The post 賛否沸くフランスの「土地の人工化ゼロ」目標。いま再考すべき、人とLandとの関係 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>土地の使い方を規定することは、企業や市民の行動に間接的に影響を与え、マクロな構造的変化にもつながる。またIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、過去10年間に人間の活動で排出された炭素の約30%が、土地を軸とした生態系を通じて吸収されたという(※1)。土壌の力を引き出せる土地利用を行うことで、気候変動の影響を緩和できる可能性があるのだ。
こうしてLand(土地・土壌)に注目が集まる中、フランスでは、2021年8月に施行された気候変動とレジリエンス法に基づき、土地の人工化に対する規制として「人工化ネットゼロ目標(Zéro artificialisation nette:ZAN)」が強化されている。
建築物やアスファルトで覆われている地表の面積を、現状から過度に拡大させないことを目指し、以下のような中間目標と最終目標が定められている。
この目標の実現に向けて、2023年11月28日の官報で法令が発表された。かねてより「人工地表」の定義が曖昧であることに対して批判の声もあがっていた中、人工地表と非人工地表の定義が示されたのだ。
人工地表 |
|
非人工地表 |
|
(*)床面積が50平方メートル以上。その他全項目は2,500平方メートル以上の設置面積または土地。どちらも、線形インフラストラクチャは最小幅5メートルから認定される
(**)植生が茂った地表は、植物で覆われている部分の25パーセント未満が木である場合に草本植生であると認定される
この定義をまとめると、今後拡大を抑制すべき対象は主に 「水を通さない地表・土壌に複合材料が混ざった地表・第二次/第三次産業に利用される草本植生の地表」であることが分かる。石や砂、草本のある自然の地表を取り戻そうとしているのだ。
しかし、ただ建物やアスファルトを取り除けば良いというわけではない。都市部の土壌は重金属や炭化水素で汚染されており、自然分解に何世紀もかかることが多い(※2)。単に面積だけで測るのではなく、その土地がどのような状態になり、地域内での生態系にどう寄与しているのかまで測ることが大切だろう。
このように土地利用を見直す動きは、欧州で広がりつつある。デンマークは2024年11月、農業用地の15%を植樹によって森林に戻す政策を発表した。これは国土の10%に相当。同国は農業に伴うCO2の排出量が多いことから、この分野での取り組みを優先的に進めている。人工地表への規制よりも非人工地表の増加と改善に焦点を当てた政策だ。
一方で、フランスのように「人工化された面積を減らす」政策に対し「人工化された地表の量よりも、都市開発に適切な計画を求めることこそが重要である」と、目標設定以前から指摘する研究もある。
賛否両論あるフランスのZAN目標。さらに議論が必要ではあるが、ここで「土地の人工化」という表現に着目したい。人工“化”と表現されることで、「本来の土地の姿は非人工的な状態であったが、それが人の手によって人工的な地表へと変化した」という含みも現れてくるだろう。
しかし「人工的」と「非人工的」とは、明確に区別できるものなのだろうか。人間が恣意的に引いている境界についても意識していきたい。
そもそも人間も自然のめぐりの中で生き、生態系の一部である──そう謳いながら土地を人工物で覆い、本来の能力にふたをして「人工化」してはいないだろうか。変化はまさに足元を見直すことから、始まるはずだ。
※1 Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change
※2 Zéro artificialisation nette : une ambition en panne – Balises|Le magazine de la Bpi
【参照サイト】Zéro artificialisation nette (ZAN) : comment protéger les sols ? | vie-publique.fr
【参照サイト】Decree No. 2023-1096 of November 27, 2023 relating to the evaluation and monitoring of soil artificialization
【参照サイト】Zéro artificialisation nette : une ambition en panne – Balises|Le magazine de la Bpi
【参照サイト】Zero net artificialization: good intentions, wrong methodology? | La Fabrique de la Cité
【参照サイト】Land-based solutions offer a key opportunity for climate mitigation | UNCCD
【関連記事】フランス「ファストファッション広告禁止」を提案。使い捨て文化の終わりとなるか
【関連記事】人間以外の生物が、街をデザインしたら?植物やきのこの住処「Urban Reef」が都市環境を再生
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]]>The post 100歩歩けば、1分間画面を見られます。スマホ依存を運動で解消するアプリ「STEPPIN」 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>また最近は、コンテンツが自動的に読み込まれ、ページが無限に続くように表示される「無限スクロール」の機能が搭載されているページもある。無意識にスマホを見ていて、気づいたら1時間経っていた、という経験をした人も多いのではないだろうか。
こうした問題を解決するために、スクリーン使用時間を制限するアプリや、特定のサイトをブロックする機能、さらに運動を促す歩数計アプリなど、さまざまなサービスが提供されている。iOSアプリ・STEPPIN(ステッピン)も、その一つだ。
2025年1月に登場したSTEPPINは、毎日一定の歩数を稼ぐことで、スクリーン時間を獲得できる仕組みだ。たとえば、歩数目標を達成することで、TikTokやInstagramなどのSNSを利用できる時間を得ることができる。言い換えれば、スクリーンを見るのは自分の健康に良いことをした“ご褒美”だ。STEPPINのウェブサイトには、以下のようなメッセージが記載されている。
アルゴリズムがあなたを支配し、時間や集中力、自由を奪っています。手を止めて、外に出ましょう。取り戻しましょう、あなた自身を。依存から、逃れる準備はできていますか?
Image via STEPPIN
アプリでは、ユーザー自身が設定を決めることができる。「TikTokを1分間使うために100歩歩く」というように、1分間のスクリーン使用時間を得るための歩数を自由に設定できるのだ。また、SNSだけでなく、Netflixやゲームなど長時間見てしまう他のアプリも制限できる。もちろん必要な場合は、STEPPINの制限を解除することも可能だ。ユーザーの画面では、個人の記録を閲覧できるだけでなく、友人、家族、同僚などと進捗状況を共有し、競い合える「リーダーボード」という機能も搭載されているという。
このアプリは、旅行検索エンジン・Kayakを創設したポール・イングリッシュ氏によって開発された。家族とスペインで休暇中、自分を含む家族が常にスマホを使ってSNSをスクロールしていることに気付いたイングリッシュ氏は、一日の歩数とスマホのスクロールを関連付けるアイデアを思いついた。
STEPPINは主にZ世代向けに宣伝されているが、イングリッシュ氏はTechCrunchの取材で、「スマホを使いすぎて家から出ないのは、子どもにも大人にも共通している。このアプリはあらゆる年代に役立つ」
と述べている。彼自身もこのアプリを使い、SNSの利用が減ったことを実感しているという。
2025年2月現在、STEPPINは無料で提供されているが、今後は有料になる可能性もある。また、今後は歩数だけでなく、ヨガや他の身体活動を記録して、SNSの利用時間を得られる機能も追加される予定だそうだ。
SNSを“ご褒美”と位置付けるシステムについては賛否があるだろうが、少なくともこのアプリの仕組みは、ユーザーの日常の習慣を整え、幸福感を高める助けになるだろう。アプリを使っていくうちに、無意識にスマホを眺めてしまう習慣や、もしかしたら「SNSを見たい」という衝動そのものも、次第に失せていくかもしれない。
【参照サイト】STEPPIN
【参照サイト】This app makes users earn their screen time, 100 steps a minute
【参照サイト】Kayak founder returns with Steppin, an app that locks you out of social media until you go for a walk
【関連記事】スマホに触らなければ1杯無料。“今この瞬間”を百倍楽しむフランスのレストラン
【関連記事】「学校でのスマホ禁止」広がる。子どもとデジタルの程よい距離感を探る
Edited by Megumi
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]]>The post 【2/8開催】ヨコハマ・サステナブル・マイクロツーリズム ~横浜のサステナビリティ先進事例をめぐる1dayツアー~ first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>Sponsored by ヨコハマSDGsデザインセンター
横浜市と民間事業者らによる共同運営組織「ヨコハマSDGsデザインセンター」では、横浜市内におけるSDGsの推進に向けて、市内で活動する事業者の持続可能な経営への転換・事業成長を促進するための横浜市SDGs認証制度“Y-SDGs”を運営しています。
この”Y-SDGs”認証で上位認証を取得している企業は、どのような哲学に基づき、どのような実践に取り組んだ結果として高い評価を得ているのでしょうか。今回、ヨコハマSDGsデザインセンターでは、”Y-SDGs”認証で上位認証を取得している企業から直接話を聞いたり学んだりする機会として、”Y-SDGs”認証取得事業者の実践に学び、自社のサステナビリティ経営や事業開発・運営に活かせるエッセンスを1日で効果的・効率的に学ぶことができる1dayのマイクロツーリズムを企画しました。開催は2025年2月8日(土)、JR線大船駅集合です。Circular Yokohamaは、本ツアーの運営を行います。ぜひご参加ください。
当日は、横浜市内のサステナビリティ先進企業を訪問し、楽しい体験やディスカッションを交えながら横浜の課題やサステナビリティ実践の理解を深め、参加者の皆様とともに地域における持続可能な経営や事業のつくり方について模索します。また、ヨコハマSDGsデザインセンターも訪問し、センターの活動紹介に加えて横浜市が保有する山梨県道志村内の水源林の間伐材を使ってウッドストローを作るワークショップも体験いただきます。
なお、本企画は横浜市南部からスタートし、東部の横浜駅・みなとみらい21地区を経由して相鉄線で西部までを周る、1day・市内完結型の「マイクロツーリズム」となっています。週末に遠出せずに近場で過ごしたりする「マイクロツーリズム」は、移動に伴う温室効果ガス排出を削減し、脱炭素に貢献するライフスタイルの代表手段の一つとして注目されています。また、横浜市内の地域経済循環や地域のつながり創出にも貢献でき、環境・社会・経済の全てにプラスをもたらす新しい旅の形だと言われています。
週末は一緒に横浜を楽しく周遊しながら、地域の先進的なサステナビリティ実践に触れてみませんか?
9:50 集合(JR線「大船」駅)
10:30-11:30 石井造園株式会社
12:20-13:20 株式会社大川印刷 with GREEN PRINTING(JRほか各線「横浜」駅)
13:30-14:30 昼食、移動
14:30‐15:30 ヨコハマSDGsデザインセンター(JRほか各線「横浜」駅 )
16:15-17:15 YOKOHAMA CIRCULAR DESIGN MUSEUM @qlaytion gallery( 相鉄線「星川」駅 )
以下、希望者のみ
18:15-20:00 Innovation Design(KITCHEN MANE)
まず最初に訪問するのは、JR横須賀線・大船駅から歩いて15分のところにある石井造園株式会社です。地域貢献の取り組みを軸とするCSR活動を加速させてきた、代表取締役の石井直樹さんから、造園業ならではのユニークな社会貢献の仕組みや、地域に暮らす人々の幸せに働きかける想いなどのお話しを伺います。
代表取締役就任後、「企業活動を通して、幸せを共有する企業を目指す」という経営理念をもとに、2008年横浜型地域貢献企業初回最上位認定を受け、「ついでに、無理なく、達成感のある活動」という方針で、地域貢献に軸足を置いたCSRを基盤とした経営を展開している。そのCSR活動は毎年20を超え、地域のサスティナブルな活動を支援し、毎年開催しているCSR報告会にて発表している。独自の緑化基金を構築するなどし、SDGsの169のターゲットのどこに届くかを常に意識した活動を経営の中に取り込んでいる。
・ウェブサイト:石井造園株式会社
次に訪問するのは、横浜駅東口から徒歩3分のところにある、株式会社大川印刷が運営する社会課題解決スタジオ「with GREEN PRINTING」です。「風と太陽で刷る印刷」をテーマに、第2回ジャパンSDGsアワード「SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」受賞、第1回横浜市SDGs認証制度”Y-SDGs”最上位「Supreme」認証なども取得している、横浜を代表するサステナビリティ企業からその実践について学びます。紙の原料は木であり、印刷の事業と自然は切っても切り離せません。当日は、代表の大川哲郎さんとともに、印刷会社の視点からどのように循環・自然の再生に貢献できるのかについて考えます。
1967年横浜生まれ 幼少期から生き物や植物、自然が好きで、自然と触れ合いながら育つ。大学に入学した直後、父親を医療ミスで失う。大学卒業後3年間、東京の印刷会社で修行後、大川印刷へ入社。2004年、本業を通じて社会課題解決を行う「ソーシャルプリンティングカンパニー®」というビジョンを掲げ、現在に至る。使命は、仕事を通じて世の中に1つでも多くの幸せを生み出すこと、そして、横浜の印刷の歴史と文化を社内外に伝承していくこと。
・ウェブサイト:株式会社大川印刷
・参考サイト:社会課題解決スタジオ「with GREEN PRINTING」
3つ目の訪問先は、横浜市と民間事業者が共同で設立・運営する組織ヨコハマSDGsデザインセンターです。2021年12月17日に横濱ゲートタワーに移転した本拠点では、デザインセンターの取り組み紹介はもちろん、SDGsに関する各種イベントを実施しています。ツアー当日は、横浜市が保有する山梨県道志村内の水源林の間伐材を使ってウッドストローを作るワークショップも実施予定です。
・ウェブサイト:ヨコハマSDGsデザインセンター
横浜駅から相鉄線で星川駅に移動し、次に訪問するのは、星川・天王町間に2023年3月にオープンした高架下商業施設・星天qlay内にあるqlaytion galleryです。「生き方を遊ぶ」をテーマとする星天qlayでは、循環とクリエイティビティを掛け合わせた様々な取り組みが展開されています。当日は、qlaytion galleryを拠点として「YOKOHAMA CIRCULAR DESIGN MUSEUM」、ペットボトルキャップと交換で地域の循環グッズがもらえる「循環ガチャ」、地域のシェアリング図書館「めぐる星天文庫」など様々なプロジェクトを展開しており、横浜市全域の循環経済推進にも取り組んでいる「Circular Yokohama」のメンバーから、qlaytion galleryの見学および「Circular Yokohama」の活動紹介を行います。2025年・第31回横浜環境活動賞・大賞を受賞。運営会社のハーチ株式会社は2023年4月にB Corp認証を取得。一般社団法人インパクトスタートアップ協会加盟企業。
幼い頃から動物や自然に触れて過ごす。高校卒業後はデンマークのフォルケホイスコーレへ留学。パーマカルチャーに出逢う。以降、大学で国際文化交流を学びながら循環型社会を目指すアイディアを研究。現在興味のある分野は、サーキュラーエコノミー、パーマカルチャー、動物、教育。
Harch Inc.の創業者。社会を「もっと」よくするクリエイティブなアイデアが大好き。キーワードはデザイン・アート・サステナビリティ・CSR・シェアリングエコノミー・サーキュラーエコノミー・ブロックチェーン。英国CMI認定 サステナビリティ(CSR)プラクティショナー/エストニア e-Resident
・ウェブサイト:Circular Yokohama
・Circualr Yokohama活動拠点:qlaytion gallery
夜は、希望者のみ、星川駅周辺で懇親会を行います。ぜひディナーを楽しみながら参加者の皆様とともに1日を振り返りましょう。(※ ディナー費用はツアー費用には含まれておりません)
横浜市内にお住まいの方も、市外からお越しになる方も、いずれも大歓迎です。
ぜひ横浜市内の魅力や可能性について参加者の皆様と考えていければ幸いです!
横浜市と民間事業者が共同で設立・運営する組織で、SDGsの達成に向けて、市内外の多様な主体が持つニーズとシーズをつなぎ合わせ、横浜における環境・経済・社会的課題を解決するための中間支援組織です。官民連携で運営する強みを活かし、SDGsに関する各種コンサルティング業務を行うほか、SDGs達成に向けた多様な主体同士のマッチング、「横浜」というフィールドを活用した、多様な実証実験の協力・支援、様々な試行的取組の実施などを行っています。
・ウェブサイト:https://www.yokohama-sdgs.jp/
Circular Yokohamaは、ハーチ株式会社が運営する、横浜市内における循環経済推進メディア・プラットフォーム。相鉄線 星川駅直結の商業施設 星天qlay内「qlaytion gallery(クレイション・ギャラリー)」を拠点とし、横浜市および市内の事業者や教育機関、NPOらと連携しながら、循環経済の普及・推進に取り組む。イベントやワークショップ、学習プログラムや展示・販売などのほか、国内外の機関と連携しながら企業や自治体のサステナビリティ・循環経済への移行を支援。ハーチ株式会社も、よこはま共創コンソーシアムの参画企業の一社として活動中。
・ウェブサイト:https://circular.yokohama/
・公式Instagram:@circular_yokohama
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]]>The post 収入に応じてドリンク代が変わる?“公平な金額”を自分で決めて支払うパブ「The Fair Pour」 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>「Old Money Fashioned」や「The Billionaire’s Breeze」など、お金にまつわる名前のモクテルが置かれたこちらのパブでは、飲み物を注文するとスタッフに飲み物の代金を尋ねられる。顧客自身が自分の収入を鑑み、収入の少ない人は少なめに、富裕層は通常より高めに、といったように、それぞれが「公平だと思う金額」を支払うのだ。最低価格は3ポンドで、収益はすべてオックスファムに寄付される。億万長者たちは1杯(1パイント)に100万ポンド支払うことが推奨された。
来店客が個人の資産に応じて料金を支払うこのパブは、「超富裕層への課税」などが話題になるダボス世界経済フォーラムの年次総会に合わせてイギリスの国際NGOオックスファムとPR会社Hope&Gloryが企画したもの。超富裕層とそれ以外の人々の間に広がる不平等を浮き彫りにすることを目的としている。
1杯100万ポンド、というと高額に思えるかもしれないが、富裕層にとってはそうではない。2025年1月に公開されたオックスファムのレポートによると、2024年の億万長者の富は前年の3倍のスピードで増加。また、2024年の英国の億万長者の資産総額は、1日当たり3500万ポンド増加し、1820億ポンドに達したという。億万長者たちにとって100万ポンドは、彼らの資産という大海のうち「ほんの1滴」に過ぎないのだ。
オックスファムのシニアキャンペーンマネージャー、ケリー・マンディ氏は、 London Evening Standardにおいて下記のように述べている。
「富の不平等は社会の衝撃的な現実であり、毎年悪化しています。より公平な社会を実現するためには、累進課税や公共サービスへの投資など、大胆な解決策が必要です」
「このパブが、より公平な税制が誰にとっても公正な社会を実現する可能性があるということを、人々に考えてもらうきっかけになれば幸いです」
「いくらお支払いになりますか?」ドリンクを差し出すスタッフにレジカウンターでそう聞かれたら、あなたは財布からどれだけのお金を出すだろうか。
【参照サイト】Welcome to The Fair Pour(Oxfam)
【参照サイト】Starting the year strong we’ve been working with Oxfam to create the “Fair Pour” – a “protest in a pint glass”(Hope&Glory)
【参照サイト】A new pub in London is opening where you pay based on your net worth(London Evening Standard)
【関連記事】まちの歴史は酒場に刻まれる?アイルランドのパブが、ARで“生けるミュージアム”に
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]]>The post ローソンの海外在住「アバター店員」が生む新たな働き方。コンビニは地域インフラになれるか? first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>一方で、コンビニ大手のローソンは、都市部での出店数が頭打ちとなっている状況も背景に、過疎地域での出店を強化している。2024年10月、地区内唯一のスーパーマーケットが閉店してしまった和歌山県田辺市の龍神村地区では、その跡地にローソンが店舗を開設。同地区で初めてのコンビニ出店となった。
つまりコンビニは地域の暮らしを支える新たな役割を担いつつあるのだろう。その広い物流網を活かし、災害時にも地域を支える存在としても重要視されている。しかし、著しく高齢化の進む地域で、長く事業を継続することはできるのだろうか。特に、働き手の不足は大きな課題の一つとなりそうだ。
このように役割が多様化するコンビニで、新たな働き手として注目されているのが「アバター」である。ローソンでは2025年1月から、海外在住の日本人をパートタイム勤務で採用し、深夜や早朝の接客担当とする取り組みが始まった。初の試みでは時差を活かし、スウェーデン在住の日本人が採用され、スクリーン上のアバターとしてレジ横に立ち、無人レジの使い方などを説明してくれるという。
同社によるアバターによるリモート勤務は、国内在住者を対象に、2022年11月から導入が進められてきた。今後さらに時差が大きい北米・南米での採用も検討しているとのことだ。
2024年9月6日に大阪・梅田のローソンJAM BASE店で採用されたアバター店員|Image via プレスリリース
こうしてリモートで接客をする人は「アバターワーカー/アバターオペレーター」と呼ばれ、場所や年齢、障害、ジェンダーを問わない働き方として注目されている。例えば、障害により外出が難しい状況にある人も、飲食店や書店、テーマパークなどで勤務することが可能になるという。
今回ローソンのアバターオペレーターは、深夜や早朝の営業を助ける存在として採用された。脱24時間営業の動きもある中で、アバター活用の可能性を模索するならば、彼らが過疎地域のコンビニの働き手となって社会インフラを支える未来も考えられるだろう。
地域の商店街の役割を奪って画一的なマーケットが台頭することには批判もあるが、記事冒頭で紹介したように地元のスーパーが閉店しつつある今、全国に物流網を持つコンビニがアバター店員と共に高齢者の生活を支えるシナリオも見えてくるだろう。
その未来を生きるのは、私たち自身だ。自分自身が高齢者となったとき、どんな場所で、どのように暮らしていたいか──そんな視点で、地域の社会インフラとテクノロジーのバランスとも向き合っていきたい。
【参照サイト】Short on workers, Japan retailer hires remote cashiers living overseas | South China Morning Post
【参照サイト】ローソン、海外からアバター接客 深夜の店舗業務軽減|日本経済新聞
【参照サイト】スウェーデン在住の日本人採用 8時間時差活用深夜担当 首都圏·関西地域で勤務|Maeil Business News
【参照サイト】AVITAとローソン、アバターと生成AIを活用した初の「体験型フラッグシップ店舗」を大阪にオープン|AVITA株式会社
【参照サイト】アバターワーカー220人突破!アバター事業を推進するAVITAがアバターワーカーの一般公募を開始|AVITA株式会社
【参照サイト】震災でコンビニが増えた?|NHK
【参照サイト】「必要な存在であり続ける」ローソンが取り組む災害対策 震災を経て『店舗向けの災害対応マニュアル』『厨房設備を導入』『物流網を生かした被災地支援』|毎日放送
【参照サイト】被災時「コンビニ店主の奮闘」どこまで インフラの使命|朝日新聞
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]]>The post 海藻は未来を救えるか?養殖藻場が拓く海のネイチャーポジティブの可能性 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>磯焼けの影響が顕著なのが藻場(もば)である。藻場とは、昆布やワカメ、アマモなどの海藻・海草が密集して生育する場所のことで、「海のゆりかご」とも呼ばれる。1990年には約34万ヘクタールあった藻場は、2017年には17万ヘクタールにまで減少。これは、1年間に東京ドーム約1,200個分の藻場が失われているのだという。海藻が失われることで、魚や貝類の生息環境が悪化し、生態系全体に大きな影響を及ぼす。磯焼けが進むと、藻場を頼りに生活する魚介類の数が減少し、漁獲量の低下を招くため、漁業にも深刻な影響を与えるのだ。
海の資源が急速に減少する中、私たち陸上に暮らす人々はその変化を実感しにくい。これまで日本を含む各国で藻場の再生が試みられてきたが、費用対効果の問題や持続性の難しさから十分な成果を上げられていない。そこで、海藻を含む海洋生態系の調査や教育・啓蒙活動を通じて、より実効性のある解決策を見出すため2023年に設立されたのが、一般社団法人グッドシーである。
同社は、磯焼けによって減少した海藻を採取・研究し、環境負荷の少ない陸上栽培と海面栽培の両方を活用して海藻の再生を図る。今回は、公益財団法人日本財団の支援により2024年12月に開催されたグッドシーの調査報告を取材した。
Image via グッドシー
そもそも、磯焼けはなぜ起こるのか。グッドシー理事・蜂谷潤氏は、これには複数の要因が関係しており、沿岸開発や水質の悪化、気候変動による水温上昇が挙げられると説明。特に近年問題視されているのは、藻食性の魚やウニによる食害の影響だ。温暖化によってこれらの生物の活性が上がり、藻場を食い尽くしてしまうことで、海の生態系が大きく変化しているという。
本来、藻場は、海の生態系を支える重要な基盤である。魚や貝などの生き物たちの命を育む場であり、産卵場や幼魚の生育場として機能するのだ。それだけでなく、水質を浄化し、海水の透明度を向上させるほか、光合成によって酸素を供給する役割も果たす。最近は、二酸化炭素を吸収し、炭素固定を行う「ブルーカーボン」としての機能も注目されており、気候変動の緩和にも貢献すると言われている。
グッドシー理事・蜂谷潤氏
磯焼けによる藻場の減少を食い止めるために、行政や漁業者はウニの駆除や防護ネットの設置などの対策を講じてきた。しかし、これらの方法はコストが高く、広範囲での実施が難しいという課題があった。そこで新たな解決策として注目されているのが、グッドシーが命名した「養殖藻場」を作ることである。養殖藻場とは、海藻をロープや籠を使って育て、魚やウニの食害を回避しながら藻場を再生することをいう。
養殖藻場で本当に生き物が増えるのだろうか。グッドシーは、この養殖藻場の可能性に着目し、北海道、愛媛県、熊本県の3拠点で調査を実施。海藻が存在することで、空間を立体的に活用することが可能になる。それにより、海藻表面に堆積物や珪藻等が新たに出現したのだ。結果、藻場の再生だけでなく、魚類の個体数増加などの生態系回復にも寄与することが確認された。具体的には、養殖藻場内では魚類の個体数が最大36倍に増加し、ヨコエビ類の個体数が最大2億個体増加するなどの成果が得られたという。
天然藻場面積は、1年あたり6,000ヘクタール減少するとの試算だ。この減少面積を、仮に養殖藻場として活用して広げることができれば、最大1,800万個体の魚類個体数を生むことにつながるという。これは、養殖藻場が単なる海藻の増殖にとどまらず、海洋生態系全体の再生につながることを示している。
Image via グッドシー
そしてこの未来を実現させるためには、海藻生産の効率化と海藻の付加価値化を進めながら、漁師に産業として養殖藻場を広げてもらうこと、さらに漁師だけでなく、業界を超えた養殖藻場拡大がカギとなってくる。
海藻は単なる水産資源ではなく、幅広い分野での活用が期待されている。「農水省のデータによれば一人あたりの海藻の消費量は28年間で50%減少しているというデータがあります」と、グッドシー理事兼、合同会社シーベジタブル共同代表の友廣裕一氏は話す。
グッドシー理事兼、合同会社シーベジタブル共同代表の友廣裕一氏
そこで議題に上がったのが「海藻の消費量を増やすこと」の重要性だ。食材としての需要拡大に向けては、生産性を高めてコストを下げる必要があるため、そこに向けて2024年11月には、シーベジタブルとパナソニックHDとの共同実証も開始。このような技術的な協業に加えて、消費を広げていくという点でも企業との協働が進んでいるという。
パナソニックの社員食堂では、海のネイチャーポジティブにも配慮し、大阪府門真市の本社内でシーベジタブルの海藻を取り入れたメニューを導入した。これは健康経営の一環として注目されているだけでなく、日本の同規模の企業が同様の取り組みを行い、1食あたり25グラムの海藻を含むメニューを1日4万人が摂取すると仮定すると、単純計算で1日あたり約1トンの海藻需要が生まれることになる。これを年間100日実施すれば、100トンの海藻消費が見込まれ、持続可能な市場の創出につながると期待されている。
Image via グッドシー (c)Nathalie Cantacuzino
また、海藻は食用以外にも多くの可能性を秘めている。海外では、海藻由来のバイオプラスチックや、化粧品原料、栄養補助食品などの開発が進む。日本でも、海藻を活用した新たな市場を創出することで、持続可能な産業としての成長が期待できるかもしれない。
「海藻の養殖は農業に近い」と言われるのは、漁業のように自然の環境に左右される不確実性が比較的少なく、計画的に生産できるためである。漁業では魚の回遊や天候などに左右され、収穫量が大きく変動するが、海藻養殖では設置と収穫のプロセスを管理することで、安定した生産が可能になる。特に、海藻は種苗の設置後、海の栄養素を吸収しながら成長するため、魚のように餌を与える必要がないという利点もある。そのため、漁業者が従来の漁業に加えて、副業的に取り組むことも可能になってくるのだ。
パネルディスカッション「自治体や組織による海藻活用の可能性について」
海藻養殖は単なる漁業の補完ではなく、地域経済の活性化にもつながる新たな産業としての可能性を秘めている。特に過疎化が進む沿岸地域では、新たな雇用創出の手段としても注目されており、持続可能な形で産業として根付くことが期待されているのだという。
磯焼けは、日本の海にとって深刻な課題であり、その影響は漁業や生態系にとどまらず、気候変動や地域社会の存続にも関わる。海藻を増やし、持続可能な漁業を実現するためには、養殖藻場の導入、消費拡大、産業構造の転換が不可欠だ。海の未来を守るために、今こそ行動が求められている。
【参照サイト】海藻の海面養殖による生態系への定量調査報告書「GOOD SEA Future Report」を公開
【参照サイト】対馬で捉え直す、海洋課題解決に向けた“一歩目”。企業が地域と同じ目線に立つには?【対馬未来会議2024レポート】
【参照サイト】企業が「ネイチャーポジティブ」に正面から向き合うには?国内事例5選
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]]>The post 恒久的な「週4勤務」に、英国企業200社が合意。従業員のウェルビーイング向上につながるか first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>2022年6月、イギリスで「週4勤務(週休3日)」の実験が始まった。主導したのは4 Day Week Foundation。この実験には、慈善団体やマーケティング、テクノロジー企業など約70社が参加し、3,300人以上の従業員が週4勤務を実際に試した。
そうした試行錯誤の段階を経て、2025年1月イギリスの企業200社が、給与の減額なしで全従業員を恒久的に週4日勤務にすることに合意。これはイギリスの働き方改革において画期的な動きとされている。
4 Day Week Foundationのキャンペーンディレクター、ジョー・ライル氏は、The Guardianの取材で「9時から5時までの週5日勤務は100年前に作られたもので、現代は更新が必要」
と語り、今こそ働き方を見直す時期だと強調している。週4勤務にすることで、人々にもっと自由で幸せな生活を送るチャンスが与えられるというのだ。
ライル氏の意見は、実際にデータでも裏付けられている。2022年の週4勤務実験に参加した人々を対象にしたTime Outの調査では、従業員の離職率が減少したことが明らかに。さらに、71%の従業員が「燃え尽きを感じなくなった」と回答し、全体の満足度は10点満点中9.04点と高評価を得た。若い世代の支持も、この動きを後押ししているようだ。
一方、こうした「柔軟な働き方の選択肢」が一部の人々にしか開かれていないという指摘もある。現に、「リモートワーク」は一部のオフィスワーカーにしか適用されておらず、医療・建設・運輸・小売業など現場で働く職種への導入は難しい。週4勤務も同様に、一部の業種にのみ適用されていき、結果的に働き方の「選択の格差」を助長していく可能性もある。
週4勤務は今後どれほど普及し、長期的に生産性や従業員満足度にどのような影響を与えていくのだろうか。それが生み出しうる働き方の格差についても注視しながら、その動向を追っていきたい。
【参照サイト】4 Day Week Foundation
【参照サイト】Two hundred UK companies sign up for permanent four-day working week
【参照サイト】Inequality in flexible working dividing Britain into ‘two-tier workforce’
【参照サイト】200 UK companies just signed up for a permanent four-day working week
【参照サイト】Two hundred UK companies sign up for permanent four-day working week
【参照サイト】12 takeaways from the UK’s four-day working week experiment
【関連記事】週4勤務も良いことばかりじゃない。先陣を切ったイギリスに「幸せな働き方」の視点を学ぶ
Edited by Megumi
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]]>The post 紙の代わりに落ち葉を広告媒体に?自然の中で循環する新しいプロモーションのかたち first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>そのネガティブな影響を減らす取り組みの一つとして「広告の再利用」が話題になった。例えば、ファンに人気のコンテンツを再利用して広告制作をしたマース社の事例や、日本上陸時に他社広告が印刷された紙をリサイクルしたECOALFの事例などがある。どちらも発想を転換し、すでに存在する広告を再利用した事例だ。
そんな中、少し異なる視点から“新たな広告をつくらない”事例が登場した。なんと、落ち葉を広告の媒体として活用しているのだ。街中の木々から落ちた葉を拾い集め、洗浄・乾燥後、そこに生分解性のインクでスタンプを押すことでメッセージを記す。メキシコで行われた、Recycleavesと呼ばれるキャンペーンだ。
メッセージが書かれた落ち葉は、再びメキシコシティの道や公園に戻された。ふつうの落ち葉と混ざる中で、何かが書かれているものは多くの人の注目を集め、手に取る人が多くいたという。拾われなかったり、再び捨てられたりして道に残った落ち葉はやがて土に還り、自然のサイクルを乱すことがない。つまり落ち葉にメッセージを託すことで、紙やプラスチック、デジタル媒体などに頼ることなく、広告キャンペーンを実施したのだ。
Recycleavesと呼ばれるこのキャンペーンは、メキシコのティッシュブランドBIO TISSUEとクリエイティブ・エイジェンシーのArcher Troy Miamiが開始した。同社の製品は竹が原材料で、木材を使ったティッシュに比べて環境負荷が少ないのが特徴だ。
落ち葉には、そのブランドバリューを伝えるべく、次のように書かれている。
BIO TISSUE – それは竹でできた紙ナプキン。木を傷つけません。詳しくは@BIO_TISSUEへ
活用方法がないと思えるような廃棄物でも、視点を変えれば新たな価値を生むことができる。この大胆なアイデアは、そんなことに気づかせてくれる。自然の循環にある美しさに目を留めることで、落ち葉をユニークな媒体に変えることができるのだ。
また、Recycleavesのシンプルな仕組みにも注目したい。多大な予算、複雑な素材、膨大な廃棄物をつくってしまうキャンペーンとは異なり、すでに自然界に存在するものを活用しているため、コストも抑えられる。予算やリソースが限られている中、クリエイティブな方法で発信したいと考えている人でも簡単に実践できるのだ。
よりサステナブルな広告手法を採用すべきという圧力が強まる中、このようなクリエイティブな発想が役に立つことも多いだろう。毎日使っているものや近所にある小さな自然に目を向けてみてはいかがだろうか。身近なところにインスピレーションの種が隠れているかもしれない。
【関連記事】「広告は、視覚汚染である」スイスの町が街頭広告を全面禁止に
【関連記事】英・シェフィールド市が「有害な広告」を規制。環境と市民のウェルビーイングを守る
【関連記事】新しいCMはもういらない?M&M’Sチョコが人気広告を「再利用」した理由
【参照サイト】BIO TISSUE
【参照サイト】スペイン発サステナブルファッションブランド 「ECOALF」他社の広告をリサイクルした広告を渋谷駅に展開
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]]>The post COP29や米大統領選で見えた「分断」をどう捉える?2025年に向けた“視点”を語るポッドキャスト配信中 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>そんなタイミングにこそ今一度、社会課題や環境問題に対するアプローチについても考え直してみませんか。振り返ってみると、2024年はさまざまなテーマの基盤が形作られたり、逆に揺さぶられたりと、希望と危機の両方が垣間見える一年でもありました。そこから私たちは何を学び、2025年の歩みにどう生かしていくべきなのか。また、今年はどのようなテーマを追っていくことが大切なのか。
編集部メンバーがIDEAS FOR GOOD創刊者と共に、ポッドキャストにて前編・後編に分けてじっくりと語っています。記事ではなかなか発信することがない情報にも触れているので、ぜひお聴き逃しなく。
2025年最初のポッドキャストでは、2024年の動向を振り返りながら、今年注目したいテーマや視点などを模索していきます。前編と後編に分かれており、前編では環境トピック、後編では社会トピックや未来のシステムについて語りました。今回お届けする前編は、サーキュラーエコノミーの前進やCOP29での議論から、今後重視したい「自然と人の捉え方」まで、幅広く光を当てています。環境課題に関わるみなさまには是非聞いていただきたい回です。
環境トピックを扱った前編に続いて、社会トピックそして未来システムについて議論を広げた後編をお届けします。後編では、アメリカ大統領選を経ての社会の変化から、AIが台頭する今私たちが心に留めるべきことを議論しています。さらに、これらの課題を乗り越えて実現したい未来のあり方として、注目が高まるウェルビーイング経済や脱成長、その実現に欠かせないケア・コンヴィヴィアリティの概念について考え、カギとなるテーマが凝縮された回となりました。環境面と社会面の関連性にも触れているので、ぜひ前後編セットでお楽しみください。
取材や視察で感じた想い、記事や動画の制作裏話……IDEAS FOR GOODのポッドキャストでは、記事には書ききれないことも編集部の対話を通してお伝えしています。通学や通勤のお供や、ちょっとした休憩時間に、ぜひお聴きください。
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]]>The post 私たちは良い先祖になれるのか。先住民族アートが伝える「第七世代の原則」 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>この原則は、過去から学び、現在の行動が将来の世代に与える影響を見据えて生きることを促す。具体的には、意思決定の際に七世代先の人々のことを考え、環境や社会に良い影響を与えることを目指すものである。これは、地球環境の持続可能性を守り、文化を継承し、社会の調和を維持するための道しるべとなるものだ。
こうした考え方の起源は、イロコイ連邦(アメリカ合衆国ニューヨーク州オンタリオ湖南岸からカナダにまたがる保留地を持つ、6つの先住民族の部族連合)が定めた「平和の法」にある。この思想は、未来の世代への責任を強く意識する深い倫理観を示している。
「第七世代の原則」を体現する先住民アーティストは多い。その中でも、唯一無二のテーマ「ゴーストサーモン」を彫るアーティスト、Gerry Sheena(ジェリー・シーナ)氏がいる。彼は「自然と共生することの大切さを伝えたい」と語る。超高速の消費文化が支配する現代社会において、ジェリー氏の作品は「七世代の原則」を基盤としたメッセージをアートを通じて伝える存在である。
彼は減少する野生サーモンの未来を守るため、アートと人類学を組み合わせ、長期的な視点の重要性を私たちに問いかける。その姿勢は、失われつつある自然とのつながりを改めて考えさせるものだ。
ジェリー氏への取材を通じて、カナダ先住民の文化から学ぶ「長期的な思考と時間の概念」の重要性を伝えていく。
1964年4月13日、ブリティッシュ・コロンビア州メリット生まれ。インテリア・セイリッシュ族に属する。幼少期には、兄であるロジャー・スワイクムが彫刻する姿を見て過ごした。1990年頃から彫刻を始め、成人期の大半を通じて彫刻に取り組み、ほぼ独学で技術を習得したが、ヘンリー・マッケイや著名なクワクワカワク族のアーティスト、スタン・ハント3世からも指導を受ける。ランガラ・コミュニティ・カレッジやエミリー・カー美術大学(ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー)でファインアートのプログラムを受講したほか、バンクーバー・コミュニティ・カレッジでジュエリーデザインのプログラムにも参加。作品はブリティッシュ・コロンビア州のギャラリーやブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)人類学博物館やバンクーバー周辺のさまざまな公共施設で見ることができる。伝統的なセイリッシュ技法と現代的な色彩・デザインが融合したスタイルを特徴としている。
ジェリー・シーナ氏
カナダの先住民コミュニティは、長い間、植民地支配の影響を受け、文化や社会に深い傷を負ってきた。政府による強制移住や同化政策、寄宿学校制度によって、伝統的な生活や言語、アイデンティティが奪われ、多くの人々がその影響と向き合い続けている。
こうした過去の傷を癒し、本来の文化や誇りを取り戻すことは、一世代で解決できるものではない。先住民の歴史観では、癒しのプロセスは七世代、つまり150年以上かけてようやく完成すると考えられている。この視点は、単に次の世代のためだけではなく、さらに先の未来まで責任を持つことの大切さを示している。カナダ先住民のうちの半数以上を占めるファーストネーションズの人々にとって、癒しとは個人の問題ではなく、コミュニティ全体が過去と向き合い、未来へとつながるための長い旅路なのだ。
カナダの先住民アートは、単なる装飾や自己表現ではなく、コミュニティの価値観や歴史、未来への願いを伝える重要な役割を担っている。伝統的なモチーフや技術を用いながらも、アーティストたちは現代社会の課題や未来の世代に向けたメッセージを作品に刻み、「第七世代の原則」との関わりを深めている。こうして、アートは過去の文化を保存するだけでなく、先祖から受け継がれた精神を未来へとつなぐ手段としても機能している。
広大なフレーザー川(カナダ・ブリティッシュコロンビア州を流れる全長約1,375キロメートルの州内最長の川)の水面に姿を現す野生サーモンたちは、かつて先住民族の生活と文化にとって欠かせない存在だった。しかし、今やその数は急激に減少している。この問題に強い思いを抱き、「ゴーストサーモン」シリーズを生み出した先住民アーティスト、ジェリー氏に話を聞いた。
アトリエで約5mのトーテムポールを制作していたジェリー氏。巨大な木を彫るには体力とパワーが必要だと実感した。
「きっかけは、政治活動家の友人だった」とジェリー氏は語る。その友人は当時、フレーザー川で急激に減少する野生サーモンの現状を、具体的な数字とともに訴えたという。
「20年前、野生サーモンは約3,000万匹いた。しかし10年前には500万匹、そして最近ではわずか50万匹にまで減ってしまった。この事実を聞いた1年前に、『ゴーストサーモン』シリーズを制作することを決意したのです」
4匹のゴーストサーモンとシャチのモチーフが彫られた美しいパネル。シャチは家族の絆やチームワークのスキルが強調されることが多く、コミュニケーション、家族、団結、旅行といったテーマと結びつけられる。
ベントウッドボックス。BENT(曲げる)が由来で、一枚の蒸気の力などで曲げていき一点のみで結合した機密性の高い箱。先住民の衣類や儀式用のマスク、鯨油などを貯蔵するために使われており、とても頑丈。ゴーストサーモンの目にはアベロ二が埋め込まれている。
ジェリー氏に、生きているサーモンと「ゴーストサーモン」のデザインの違いについて尋ねると、その表現には明確な対比があった。生命力あふれるサーモンは、立体的に彫刻され、ときに鮮やかな赤などで彩られる。一方で、「ゴーストサーモン」は白く、平坦なデザインが特徴だ。その姿は、生を失ったサーモンの儚さを象徴すると同時に、未来への警鐘を鳴らす存在として見る者の心を揺さぶる。
赤と緑と立体感で表現された生きているサーモン
「ゴーストサーモンを見た一人が、サーモンの危機について二人に話し、その二人がまた別の二人に伝える。こうして認識が広がり、最終的には七世代先まで受け継がれていくんだ」
この考え方こそ、先住民族が代々受け継いできた「第七世代の原則」の本質である。
アートが完成したとき、ジェリー氏は不思議な感覚に包まれるという。
「時々サーモンが私と一緒にいるように感じる。彼らの精神が僕に語りかけて、『この方法で彫ろう』『次はこのデザインだ』と導いてくれるんだ」
ジェリー氏の作品には、サーモンたちの声が刻まれ、彼らの思いが人々の心に直接届くような力が宿っている。
「シャイだから声で伝えることは得意ではない。でもアートならできる」とジェリー氏は笑う。彼にとって、アートは自分の思いを伝えるための最も自然な手段であり、「ゴーストサーモン」シリーズはその象徴だ。
現在、ジェリー氏は7~8点の「ゴーストサーモン」作品を完成させており、バンクーバーのノースウェストコーストアート専門ギャラリーのダグラス・レオナルズギャラリーとの取引を始めたばかりだという。彼にとって次なる挑戦は、多くの人々の目に触れる場を見つけることだそう。
ダグラス・レオナルズギャラリー内の様子
約5メートルのトーテムポールを彫り始める前の下準備の段階
「ゴーストサーモン」は、ただ美しいアート作品ではない。そこには、次世代、さらには七世代先の未来へと受け継がれるべきメッセージが込められている。彼の作品が広まり、多くの人々にそのメッセージが届くとき、未来の第七世代はどのような世界を生きているだろうか。ジェリー氏のアートに込められた思いが、それを大きく変える可能性を秘めている。
「第七世代の原則」はカナダ先住民が持つ哲学であるが、その視点は日本を含む世界全体が学ぶべき普遍的な価値を持つ。急速に進む消費社会の中で、七世代先を考えた行動がいかに重要であるかをジェリー氏の作品は静かに訴えかけている。
日本にも、自然と共生する考え方や、先祖代々受け継がれてきた伝統がある。長い時間をかけて培われた知恵や文化が今も息づき、人々の暮らしに根付いている。しかし、七世代先という視点で未来を考える文化は、それほど意識されてこなかったかもしれない。だからこそ、この思想は環境問題や社会のあり方を見つめ直し、より持続可能な未来を築くための新たな視点を与えてくれるのではないだろうか。
「私たちは良い先祖になれるのか?」
この問いに対して、誇りを持って「はい」と答えられるような行動を、今この瞬間から積み重ねていくべきである。
ジェリーの全作品の裏側には「SOS」のサインがされている。「Save Our Salmon」の意味を持つ。
【参照サイト】ジェリー・シーナの公式サイト
Edited by Erika Tomiyama
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]]>The post 【イベントレポ】脱プラから“改”プラスチックへ。生活者と企業で創る、移行期のデザインとは first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>今回、気候危機に創造力で立ち向かう共創プロジェクト「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」では、「生活者と企業で創る、移行期のデザインとは。 “改”プラスチックの可能性を探る」と題し、16回目となるトークイベント・Climate Creative Cafeを開催しました。(過去のイベント一覧はこちら)
ゲストには三井化学株式会社(以下、三井化学)の松永有理さん、金沢大学の河内幾帆さんをお招きし、企業や生活者の視点から見るプラスチック問題へのアプローチを軸に、社会全体でどのような移行期をデザインしていくべきかについて議論を交わしました。
本レポートでは、そのイベントの第一部の様子をお伝えします。
2002年三井化学入社。食品パッケージなどの素材であるポリオレフィン樹脂の営業・マーケティング、IR・広報、ESG推進室を経て、2023年6月よりグリーンケミカル事業推進室。バイオマス・リサイクル素材のブランディングとマーケティングを担当。2015年に組織横断的オープンラボラトリー「そざいの魅力ラボ(MOLp®)」を設立、B2B企業における新しいブランディング・PRの形を実践している。PRSJ認定PRプランナー。MOLp®の活動を通して2018年グッドデザイン賞ベスト100、2018トレたま年間大賞(テレビ東京WBS)、Japan Branding Awards2021「Rising Stars」賞受賞。
デューク大学で修士号(環境学)、ジョージア州立大学で博士号(経済学)を修める。専門は環境経済学、教育工学、認知科学。サステナブルな社会システム構築のための価値観・意識・行動変容に関する研究に取り組んでいる。COI-NEXT「再生可能多糖類植物由来プラスチックによる資源循環社会共創拠点」研究開発課題5リーダー。
イベント冒頭では、メンバーズの我有さんより今回のテーマである「移行期のデザイン」に関する背景が共有されました。エネルギー分野の脱石炭やモビリティ分野の脱ガソリン車など、多くの分野で「脱却」の動きが進む一方で、その取り組みが二項対立的な議論や否定的な捉え方に陥りやすい現状があると指摘。
特に「脱プラスチック」に関しては、素材そのものを使うか使わないかという極端な選択肢が議論されることが多い一方、それだけでは持続可能な未来を描くことは難しいといいます。
また、生活者による気候変動問題の捉え方に着目し、2015年に行われた調査結果が紹介されました。気候変動対策が生活の質を高めると考える人々が世界平均で66%だった一方、日本ではわずか17%に留まったという認識ギャップが明らかになったといいます(※1)。
このギャップを埋め、気候変動問題への対策を着実に進めていくためには、「脱却」の視点にとらわれすぎず、生活者と企業とがともに変革の先のポジティブな未来を描き、そのための建設的な「移行」の道筋をつくっていく必要があります。企業による技術革新に加え、生活者が主体的に参加できる社会システムやビジネスモデルの構築が鍵となってくるのです。
この後、三井化学の松永さんと金沢大学の河内さんから、それぞれ「企業による技術革新」「生活者による行動変容」の観点から、プラスチックを題材に「移行期のデザイン」について共有してもらいました。
プラスチックは適切ではない方法で廃棄されることで、地球温暖化や海洋プラスチック問題など深刻な問題を引き起こしており、真剣に取り組まなければならない課題である一方、私たちの日常生活に欠かせない存在でもあります。
松永さんは、石器や金属、ガラスなど、他の素材と人間との関係性の歴史を引き合いに、「プラスチックは地球や人類にとってまだ慣れ親しんでいない素材だからこそ、様々な問題が生まれているのではないか」と話し、プラスチックをより人や地球に寄り添った素材に生まれ変わらせていく必要性を語りました。
そこで三井化学は、大元の原料転換によりプラスチックの消費そのものを否定しない再生的な素材を提供する『脱プラ︎改プラ』をパーパスに掲げています。“素材の素材”から世界を刷新し、リジェネラティブなライフスタイルの実現を目指すため、GHG排出量の削減に貢献する”バイオマス化”と廃棄物を有効活用する”リサイクル”の両輪で進めています。
GHG排出量削減のために三井化学が取り組んでいる一つがバイオマスプラスチック(※2)の開発。通常の石油由来プラスチックと異なり、植物由来の原料(廃食油)を使用することで、ライフサイクル全体でのCO2排出量を約6割削減できるといいます。実際、ストローの比較では、バイオマスプラスチック(マスバランス方式、556トン)は通常プラスチック(1,390トン)や紙(1,890トン)よりもCO2排出量が少ないことが分かっています(※3)。
2つ目は、リサイクルによるプラスチック資源の循環促進です。現在、国内の廃棄プラスチックの75%は物質としてリサイクルされていません。同社は廃プラを分解して得られる炭化水素油を原料として活用し、リサイクル率向上とCO2排出抑制を目指しています。
松永さんは、「素材メーカーとしての使命は、環境負荷を下げるだけでなく、お客様と共に最適解を見つけるパートナーになること」だと話します。
素材メーカーとしてプラスチックが抱える問題に正面から向き合い、素材そのものやものづくり・循環のプロセスを「改める」ことで、素材を選ぶ企業やプラスチック製品を手に取る生活者の懸念を小さくしていく。これまでのライフスタイルの良い面を維持しつつ、より低炭素な「当たり前」を作っていくアプローチだと言えます。
続いて、金沢大学の河内さんから、認知科学・心理学をベースにした環境意識・行動変容の動機づけの研究についてお話がありました。
河内さんは、市民・消費者の意識変容が環境問題解決には不可欠だと指摘します。
「日本ではリサイクル行動は盛んですが、それ以外のサーキュラー行動(3Rに加え、リペアやリパーパスなど)は消極的です。また、多くの人々が『環境問題解決後の未来』をポジティブに描けていないため、具体的な行動につながりにくい状況があります」
河内さんは、この課題に対して二つのアプローチを提案しました。一つは「技術ベースの解決アプローチ」であり、バイオマスプラスチックやリサイクル技術などによって環境負荷を軽減する方法です。もう一つは「市民・消費者の意識変容をベースとした解決アプローチ」であり、人々がウェルビーイング(幸福感)の向上を目指して価値観や行動を変えることです。この二つのアプローチをバランスよく進めることで、持続可能な社会への移行が可能になると述べました。
「環境問題の本質として、経済成長を目標としている社会システムは消費量をとにかく増やす、生産量を上げることで人々がさらに消費するようになるというループが作られ、結果として汚染量や廃棄量が増えています。本来であれば資源がなくなっていくと自然と生産量にブレーキがかかるはずですが、技術やシステムはますます生産や消費を増やす方向に向かっており、経済成長の構造は変わっていません」
つまり、技術ベースの解決アプローチではあくまで経済成長を目標としながら問題解決を目指していますが、汚染や廃棄の抑制や緩和を上回るペースで環境負荷が増大する場合、問題解決の効果に限界があるのが課題です。そこで市民・消費者の意識変容をベースとした解決アプローチでは社会の目標を「経済成長」から「ウェルビーイングの向上」にシフトすることで経済活動のスピードを緩め、地球環境問題の緩和を目指します。
ただし、集団としての意識や行動変容には時間がかかること、製品選択時にその環境影響を判断する「サーキュラーリテラシー」が向上するまでは消費者が感覚的に製品の環境負荷の違いを判断できないことなどの課題もあります。その克服にはエビデンスに基づいた情報提供や教育プログラムが必要だといいます。
河内さんは、海洋プラスチック汚染問題およびサーキュラー行動(※4)に関して、日本の市民にどのような認知・意識・行動プロセスが起きているのかを明らかにすることで、市民がより容易にサーキュラー行動に移行できるような教育プログラムの設計や社会的システムの移行を促すレバレッジポイントの検証をしています。
河内さんが実施した国際的な調査(米国、ドイツ、中国、日本、インドネシア、タイの各500人を対象)によると、日本では、環境問題に対する認識が極端に低く、リサイクル行動以外のサーキュラー行動が全般的に低いそうです。経済的・時間的合理性に基づいて判断する傾向は強いものの、環境問題の解決につながるポジティブな未来を描くことは難しいことから、サーキュラー行動に上手く結びついていません。「プラスチックフリーのライフスタイルが生活の質を高める」と答えた割合も際立って低いという結果が出ています。
「今後、市民のサーキュラー行動を妨げる要因を構造的に検証し、サーキュラー行動が市民のウェルビーイングを高める形で統合されていくような社会システムのあり方についてより具体的に検証していきたいと考えています」
日本で「海洋プラごみ削減行動」に参加している人々(全体の9%)は、そうでない人々と比較してサーキュラー行動によるメリットやポジティブな未来の変化を認知・意識している傾向にある
今回はプラスチックと持続可能な社会への移行をテーマに、企業と生活者それぞれの視点から話してもらいました。三井化学・松永さんと金沢大学・河内さんのお二人との対話を通じて感じたのは、問題解決の先にポジティブな未来(ビジョン)を描くことの大切さと、そのビジョンは問題にアプローチするそれぞれの立場のナラティブを共有する必要性でした。
「脱却」に伴う苦しみを分かち合うよりも、それぞれの山の登り方、つまり描く未来への到達の仕方を共有する。それによってあらゆる立場のアクターが理解しあい、手を取り合いながら社会のシフトを目指していくことができるのではないでしょうか。
Climate Creative Cafeでは、気候危機に立ち向かう実践者や専門家をゲストに招き、そしてご参加の皆さんとともに様々な問いやモヤモヤについて対話することで、アクションにつながる新たな気づきや視点を得ることを目指しています。次回のイベントも、ぜひご期待ください!
※1:世界市民会議「気候変動とエネルギー」(2015年)開催報告書
※2:バイオマスプラスチックの他に”バイオプラスチック”という言葉もありますが、バイオプラスチックはバイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称で、バイオマスプラスチックの中にも生分解できるものとできないものに分かれています。
※3: 素素「【ホワイトペーパー公開】ストローのLCA比較でみたプラスチックとその代替」
※4:3R(リユース、リデュース、リサイクル)に加え、リペア、リパーパスなど、サーキュラーエコノミーへの移行に資する広範囲の行動。
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]]>The post ここは診療所と大きな台所があるところ。軽井沢の森小屋「ほっちのロッヂ」で育まれる“互いをケア“する関係 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>そうしたケアをめぐる景色は、時代の変遷と人々の価値観とともに変化していく。人間が産声をあげるのは、いまや家庭ではなく病院であることが一般的になった。家族を中心に介護をする風景は、いまや高齢者だけが一つのホームに集まり、専門技術や知識を持った人々によってケアされる風景へと変わりつつある。
ケアの現場が変わる中で、私たちの価値観はどう変化しているのだろうか。誰でもケアという過程を通るはずなのに、ケアはどこか私たちから離れたところにいってしまった。自分の身体のこと、自分の近しい人の生死の話なのに、なぜか医療専門家の意見を待ってしまうことはないだろうか。
そんな現代の医療および福祉のあり方に、新しい価値観をもたらすのが、長野県軽井沢町に拠点を置く「ほっちのロッヂ」だ。ほっちのロッヂは2020年4月に開業し、診療所、訪問看護ステーション、共生型通所介護、病児保育など、多岐にわたる在宅医療サービスを提供。医療と福祉の枠を超え、地域住民が集い、好きなことに熱中できる場を提供することを目指している。診療所としての機能だけでなく、大きな台所を中心に、誰もが自由に訪れ、様々な活動に参加できる環境を整えている場所だ。
今回は、ほっちのロッヂの共同代表である藤岡聡子さんに、同施設を立ち上げたきっかけから、そこで見えてきた「ケア」のあり方に関する価値観までを聞いた。
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徳島生まれ三重育ち。夜間定時制高校出身。「老人ホームに老人しかいないって変だ」を問い24歳で有料老人ホーム創業後、「長崎二丁目家庭科室」を経て「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ」共同代表。「第10回アジア太平洋地域・高齢者ケアイノベーションアワード2022」Social Engagement program部門日本初グランプリ受賞。共著に『社会的処方』『ケアとまちづくり、ときどきアート』。主な掲載先にAERA「現代の肖像」など。
日本各地、そして世界各地で、さまざまな「居場所」に関する見聞を広げ、事業に携わってきた藤岡さん。そのエネルギーの源泉となる体験は、藤岡さんがまだ小学生だったころに遡る。
「原体験は、12歳になる年に父親を亡くしたことでした。私が10歳のとき、父が43歳のときに病気がわかって、そこから2年後、父は家で亡くなりました。精神的にも大黒柱だった人間が弱っていくとき、家族全員が父の『しんどいところ=症状』に目を向けていて。みんなが人を見てるようで、見てないような感じがしたんです。父ではなく、病気を見てるんですよね。
私は兄妹で一番下だったのですが、『なんでみんな父さんを人間として扱わないんだろう』『父さんがしんどいなか、やってみたいことは聞けてるのかな』と思っていました。父の死を見届けるまでの2年間で家族の関係が変わってしまい、いつの間にか自分が家族の中に存在してもいいんだろうかと思うようになりました」
徐々に学校でも居場所を見つけることが難しくなった藤岡さん。中学で学校に行けなくなったものの、「自由になるにはやはり高校に行くしかない」と思い立ち、夜間定時制高校への入学を決めた。そしてその教室の扉を開けた瞬間が、彼女の新たな旅の始まりとなった。
「教室の扉をぱっと開けたら、30人弱の生徒がいました。その中にほとんど私と同い年らしき人はいない。『ここに来るまでに色々あったよね』という人しかいない。私もそうだったのですが。その時に、ああ、この環境すごく落ち着くなぁって思ったんです」
それぞれの環境に差があるとはいえ、一般的に子どもの頃に選べる選択肢の幅は広くはない。自力で新しい道を選ぼうとすれば、大きな変化を前に大きなストレスがかかるだろう。それでも当時高校生だった藤岡さんは、自分の力で新たな環境を選び取り、新たな居場所を手に入れた。その当時の感覚が「ほっちのロッヂ」設立のインスピレーションにもなっていたという。
その後、藤岡さんは「老人ホームに老人しかいないって変だと思う」と想いのもと、24歳で創業メンバーとして有料老人ホームを立ち上げた。そして、アーティスト、大学生や子どもたちとともに町に開いた居場所づくりを実践していった。
そうした経験を経て、彼女は2017年に軽井沢の地にいた。人が過ごす環境づくりの新たなチャレンジをするためだ。
「当時、軽井沢に幼稚園・小学校・中学校が一体型になった教育機関ができるというので、見に行きました。場を持っている人と一緒に仕事がしたいと思っていたんです。『人生の終わり方も知れる場所』があるといいなと思い、学校の中にあらゆる年齢の方々も訪れるような場所を作ろうと思いました。ただ、法律的にそれは難しかったようで、どのようにすればできるかな、と考えていました」
藤岡さんの数週間後に軽井沢を訪れていたのが、のちに共にほっちのロッヂを設立することになる、紅谷浩之さんだった。彼も同じ教育機関に医者として携わろうとしていた。
その後、藤岡さんと紅谷さんは直接会うことになり、話をするうちに意気投合。その学校の向かいの空いている土地で、新たな場を開くことになった。紅谷さんの専門性を優先すると、そこを診療所にすることができる。しかし、藤岡さんは単なる診療所はつくりたくないと思い、そこを誰もが集える「森小屋」にする発想に至ったのだという。
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「どんな『森小屋』にしようかを考えていました。そのとき思い出したのが10代の時の経験です。私は一度しっかり居場所をなくしているんですよね。大人になればリカバリーは簡単かもしれないけど、10・20代だとなかなか選択肢がない。
だから、そういう10代の子、あるいはもっと年齢の低い子たちが、自分の意思で行ける場所を作りたいと思いました。そこに行けば、一人にもなれるし、『あの人たち何やってんのかな』と覗くこともできる。『一人にはなれるけど、孤独にはならない場所』というのがコンセプトになっていましたね」
「誰もここが診療所だとは思わないと思います」と、ほっちのロッヂについて話す藤岡さん。そこには医師や看護師だけでなく、場を見守るスタッフが常駐している。診療室にはちゃぶ台が置かれている。一般的に想像する「診療室」とはまったく異なる風景だ。
また、ここは診療所とはいえ、誰でもふらっと訪れることができる場所。町の人々が集まり、ほっちのロッヂのスタッフも一緒になって、みんなで食事をとることも日常茶飯事。予防接種待ちの時間に、リラックスして本を読んでいる子どもたちもいる。
ほっちのロッヂを見守るカラマツの森は、四季折々の美しい風景を見せてくれ、またその森も人々の居場所の一部になっている。
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ほっちのロッヂには、子どもたちの秘密基地のような屋根裏部屋がある。「一人にはなれるけど、孤独にはならない場所」というコンセプトを体現するために、藤岡さんは建築家の人に「子どもしか行けない場所がほしい」と相談していたのだという。
「そこにはハシゴをよじ登って上がっていきます。大人は気軽に登れる感じではないですね(笑)一人でもいいし、誰かと話したいときでもいい。その場にふっと自分が入ることができる。そんな場所が誰かの大切な場所になればいいなと」
一方、そうしたハードの施設が完成したからといって、そこで良いコミュニティやコミュニケーションが育つとは限らない。ほっちのロッヂは、その後どのように仲間を増やしていったのだろうか。
「人は衰弱することがありますが、その状態や症状は、その人の全てではない。それに気づいてもらうためにはどんなステートメントが必要なんだろうと考えていました。そこで出てきた言葉が、『症状・状態・年齢じゃなくて、好きなことをする仲間として出会おう』というものです。いまは医療従事者、患者、その他の人……その肩書きにかかわらず、このステートメントにしっくりくる方々が、ほっちのロッヂに集まっているような気がします。そういう場所で出会うと、患者と医者のコミュニケーションも自ずと変わってくるんです」
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そして、「症状・状態・年齢じゃなくて、好きなことをする仲間として出会おう」というこの言葉自体を、身体知として体験できるのが森小屋という場所だったのだそう。森小屋というフォルム、そしてそれが森の中にあるということが、好きなことをする仲間と出会い、語らうことを容易にしてくれる。藤岡さんが「好きなことをする人間として一度でも出会うことができれば、スッと仲間になれる」と語るのも、ほっちのロッヂの温かな空気があってこそのことだろう。
「例えば、ほっちのロッヂでは、大切な人を看取った方とも話すことがあります。私たちはここにいますし、しんどいけれど、でもここで美味しいご飯食べましょう。そうしたら、少しつらさを分け合えるかもしれない、と。私たちも同じように寂しいと思ってますよということが、一緒の空間を共有していることで、身体性をもって伝わり、言わなくてもわかりあえる。そんな関係性が育まれているように思います」
そうした場が地域により価値を発揮していくために。2024年12月、ほっちのロッヂは軽井沢町の病院と地域医療体制強化連携協定を締結。これは全国的にもほとんどない形での連携だという。その背景には、地方の医療崩壊が起こる中、医療の現場の価値そのものを見直すための問いがあった。
「医療の現場は24時間動いてるので、正直経済性とか社会性とか言ってられない場所です。でも、だからこそ、ほっちのロッヂが役割を果たしていかなければならない。医療の現場の社会性とは、人を治すことじゃない。人の暮らしを豊かにすることだと思うんです。そのために、自分たち一人ひとりが何を担っているのかを可視化することが一つのスタートだと思います」
そんなほっちのロッヂは、藤岡さん自身にとってどのような存在なのか。最後に尋ねてみた。藤岡さんは「私にとってもそうですが、一人ひとりにとっての表現の舞台」であると場を表現する。
「ここには、『ともにある』という言葉だけでは語れないような関係性が存在します。あえて言うならば、『コンヴィヴィアルであること』でしょうか。自分の奥底にある『実はこれ誰かに話してみたい』と思っていたことを話せる。それを話すことでふっと楽になる。何かを喪失した経験や、本質的な喜びだと思ってることを話せている間柄って、すごく大事だと思うんです。私はそれをコンヴィヴィアリティと呼んでいます」
ほっちのロッヂは医療の現場でもあるからこそ、命に関わるそれぞれの価値観が日常的に交差する場所だ。専門職の人に委ねられがちな「生きること」そして「死ぬこと」が、コンヴィヴィアルな関係性によって、一人ひとりに開かれるのではないか。藤岡さんはそんな可能性を見出している。
「医療の現場は命を扱います。その過程で医療者はみんな素晴らしい会話をしているんですよね。『どうやったら痛みがないように、最後の看取りできるのか』『ご家族にはどんな言葉をかけたらいいのか』『何時くらいに話せば良いのか、1階の部屋じゃなくて2階のあのカーテンが長いところの方が良いかな』……でもそれを取り扱うのは、医療者たちだけなんです。その線を引かせないためにどうするか。命を生きて、終えていくことを、専門職ではない人たちと私たちがどうやって共に体現できるのか。
『私はこうやって生きていきたい』『こんなことを大切にしている』『私は夫を亡くしたときこう思った』……根源的な会話を交わしている様は、とてもコンヴィヴィアルです。そうした会話ができる表現の舞台を見つけて、一人ひとりが自分を表現し続ける。それこそが大事なことなのだと思います」
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藤岡さんを取材する中で、数年前に親族を看取ったとき、できなかった会話や楽しかった思い出を偲ぶのと同時に、「命を教えてもらった」ように感じたことを思い出した。死別は悲しい経験だが、その中にたしかな尊さがあることを思い知った。(もちろんそれは「別れ方」にもよるのだろうが。)
人間の身体は、一般的に20代後半から30代前半をピークに機能が衰退していくと言われている。肌のハリはなくなり、疲れやすくなり、消化機能が落ちていく。そして誰もが最終的には「死」に向かっていく。
しかしそれでも、私たちは趣味を持って、何かを大切に思い、生きているのだ。その瞬間瞬間を表現する場所があるということは、私たちが生きていく上で、どれほど重要なことだろう。『症状・状態・年齢じゃなくて、好きなことをする仲間として出会おう』というほっちのロッヂのステートメントには、いまを生きる自分と、死に際に「命を教えてくれた」人々の、両方の瞬間が肯定されているように思った。
高齢化が進む日本の一地方、軽井沢という町では、ほっちのロッヂを拠点に、生きることと死ぬことを扱う医療と、人々のそれへの関わり方が考え直されはじめている。あなたはどう生きて、死んでいきたいだろうか。そしてそれを誰に伝えたいだろうか。
【参照サイト】ほっちのロッヂ 軽井沢町にある診療所 ケアの文化拠点
【関連記事】あらゆるいのちを「ケア」する想像力を。自分の「特権性」と向き合う【多元世界をめぐる】
【関連記事】住民同士で350メートルの食卓を囲む。「ボンジュール」が飛び交う、パリ14区の”超ご近所”づくり
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]]>The post 発達障害グレーゾーンから考える、社会の「枠なき枠」と生きづらさ first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>例えば、医師に診断された「発達障害」という枠がある。そこに当てはまる人々は、国が用意する福祉支援を受けられる可能性が高くなる。また、障害の特徴や当人の特性、必要なサポートの内容が明確になっていれば、周囲からの合理的な配慮を受けやすくもなるだろう。適切な支援を受け、少しでも自分が生きやすい環境を整えられたり、「障害があってもこうした配慮があれば大丈夫なんだ」と周囲に理解してもらえたりすることは、「ここにありのまま存在しても良い」と思えることにつながる。ひいては、自分の居場所があるという安心感を生むのではないだろうか。
発達障害の人と対になる枠組みは、いわゆる「健常者」になるだろう。だが、その2つの枠のどちらにも当てはまらない人がいる。それが、発達障害の「グレーゾーン」と呼ばれる人々だ。
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発達障害グレーゾーンとはいわゆる健常者(定型発達)と発達障害のある人の中間層を示す新たな枠組みのことだ。発達障害の特性の一部を持ちながらもその診断基準をすべて満たすわけではないために「障害があるとは言い切れない」、つまり健常者と障害者という2つの枠の境目を生きている人を意味する。
そんな境目に生きる人々を包括して指し示すグレーゾーンという概念は、「枠なき枠」と言えるだろう。だが、この「枠なき枠」は社会的に広く認められているものではない。
グレーゾーンは、障害者という枠には当てはまらない。つまり、世間的には「自分で社会生活を何とかすることができるだろう」とみなされていることになる。しかし実際は、発達特性が原因となる困りごとを抱えている。そうした特性により社会適合が難しい人も多くいる。
実際、筆者はそのグレーゾーンとして生きてきたが、生まれ持った発達特性によりうまく社会適合できるわけでもなく、障害者としての福祉サービスを利用できるわけでもなかった。
グレーゾーンという「枠なき枠」は、「自分(あるいは対象者)は2つの属性の狭間にいる」「どちらの枠組みにも属さない存在である」という曖昧な状況に説明をつけ、納得させるものだ。曖昧な状態に名前がつくことで得られる安堵感はあるかもしれないが、グレーゾーンに当てはまるからといって具体的なサポートが得られるわけではない。
発達障害の診断を受けるのとは違って、グレーゾーンの場合、「枠を与えられること」が「ありのまま存在しても良い」という安心感ではなく「支援を受けたいのに受けられない」「“普通に”生きたいのに生きられない」という不安定な感覚につながってしまう。
健常者・障害者どちらの枠にもはまれず「宙に浮いた存在である」状態は、グレーゾーンに該当する人たちが抱えている生きづらさを助長してしまっているのかもしれない。
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「枠」から外れることが生きづらさを生む例は、発達障害グレーゾーンに限ったものではない。
例えば、LGBTQ+における「+」の概念である。LGBTは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を、そしてQはクエスチョニング(あるいはクィア)の頭文字を取ったものとされており、「+」は、これらに当てはまらない他のセクシュアルマイノリティを表すとされている。彼らは、いわゆるマジョリティである男女の枠、より包括的に性を捉えるために認知が進むLGBTQという枠、そのさらに外、つまり「枠外の枠」「枠なき枠の中」にいることになるのではなかろうか。
政府など公的機関の資料では、LGBTについての記載はあるものの、その他のセクシュアリティに関しては「性的マイノリティ」とまとめられていることがある。LにもGにもBにもTにも当てはまらないことにより、「どんなセクシュアリティなのか」という理解が進みづらかったり、制度的な恩恵を受けられなかったりする場合もあるだろう。
枠が形成される過程には、概念が認知されること、言語化されること(場合によっては法律などシステムの中に組み込まれること)のプロセスがある。プロセスが進めば進むほど、枠外の存在だったものにも枠が与えられていく。ただ、その新たな枠が形成されることによって、新たに枠外に出される存在も生まれてしまう。
枠から外れる人を作らないようにするには、すべての人を包括しきれるまで新たな枠を作成し続けることが必要となるだろう。しかし、それには相当な時間がかかる。また、どんなに枠を細分化したところでそこからはみ出てしまう人はでてきてしまうはずだ。
では、「(大きな)枠の外にいる」という疎外感やそれに伴う生きづらさを少しでも減らすためにはどうすればいいか。私は、個人が「居場所探しの旅」に出ることが解決策の一つになると思う。つまり「自分が自分らしくいられる」と感じられるような、他の(小さな)いくつもの枠の中に身を置くことが重要なのだ。
枠、つまり居場所は、会社や趣味のサークル、自助グループや地域のコミュニティ、SNSでもなんでも良い。自分が自分であることに難しさを感じる必要がない場所、自分の特性が活かせる場所、同じ悩みを共有できる場所……いくつもの小さな枠が重なった部分は「そのままでいられる」「自分の力が発揮できる」「受け入れられている」などのように多方面での安心感が得られる、自分のための新たな枠組みとなるかもしれない。
枠外の存在であることの難しさを言語化し、それを周囲に伝えていくこと。そして、一人ひとりが、自分の居場所を蜘蛛の巣のように増やしてつなげていくこと。この両方を通じて、それぞれがありのままに生きられるようになるのではないだろうか。
オーストラリア・台湾での海外経験を経て、主に福祉・教育分野に携わる。50冊以上の心理系書物や実体験から来る受容性の高い文章作成が得意。プライベートでは国内外での卓球や自転車旅、ギターやオカリナの路上ライブなど、持前の行動力で多方面で活動している。様々な人と関わること、新しい物事や考えに触れるのが好き。
【関連記事】「発達障害は天才」ポジティブな言葉に隠れた危険性とは?ラベリングと多様性の関係を考える【ウェルビーイング特集 #23 多様性】
【関連記事】”普通”という名の呪縛。ADHD女子高生たちの生きづらさを描く映画『ノルマル17歳。』
Edited by Yuka Kihara
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]]>The post 地元市民も行き交う、パリのウェルネスホテル・Hoy。「今ここ」を感じる滞在体験デザインの秘訣は? first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>パリのモンマルトルの丘の麓に、一軒のホテルがひっそりと佇む。「Hoy(オイ)」という名のホテルだ。
一歩そこに足を踏み入れると、都市の中心であるにも関わらず、パリの喧騒から一歩離れた静寂の空間が広がる。そこで得られるのは、まるで自然とつながるような感覚。扉を開けて目に飛び込んで来るのは、ホテルに併設されている花屋に並ぶ、色鮮やかな花たちである。
ヨガとウェルネスをテーマにしたホテルであるHoyは、2018年にオープンした。「Home of Yoga」を意味するその名前はスペイン語で「Hoy(今日)」、「今この瞬間に集中する」という哲学に基づいている。花の香りに癒されながら進む先にあるのは、ホテル併設のレストラン「MESA de HOY」だ。
MESA de HOY Image via HOY
Mesa de Hoyは、Hoy創設者のラテンアメリカのルーツに基づく100%植物ベースの料理を提供するレストランであり、食材の選定から調理、提供まで、食材の自然な風味を最大限に生かすホリスティックなアプローチをとっている。添加物を一切使用せず、食材そのものの味わいを引き出す調理法にこだわり、空間や演出も、訪れる人が癒しと幸福感を感じられるようデザインされている。
「レストランを利用しているのは、やはり観光客がほとんどですか?」
筆者が周りを見渡しながら尋ねると、HOY Hotel Parisの創設者であるCharlotte Gomez de Orozco(シャルロット・ゴメス・デ・オロスク)さんは首を横に振った。レストランで朝食を取っていたそのほとんどは地元のフランス人。ヨガルームには、地元の人々が行き交う。その横を、観光客と見られるゲストが通り過ぎる。
レストランからホテルまで、ウェルネスを軸に観光客のみならず地元の人々までを魅了するHOY Hotel Paris。シャルロットさんにホテル創業のきっかけや、関わる全てのステークホルダーを大切にするホテル運営について、話を聞いた。
HOY Hotel Parisの創設者 Charlotte Gomez de Orozcoさん
Hoyは観光客だけでなく、地元の人々にも利用されています。例えば、昨日も私の3人の友人たちが、仕事終わりにホテルに立ち寄り、夜のヨガクラスを受けた後に、Mesa de Hoyで夕食とワインを楽しみ、そのまま宿泊して翌日の仕事に備えて休息を取りました。Hoyは、遠出せずにリフレッシュできる場所として、地元の人々にも支持されています。
今ではこのコンセプトが広く理解されていますが、最初の4年間は特に地元の人々に向けて『ここは君たちのための場所』と伝えることに力を注いできました。レストランやヨガがあることで、こうしたコミュニケーションが生まれ、ホテルが親しみやすい空間として認識されるようになったのです。
私の家族は4世代にわたってホテル業を営んでおり、長年感じてきた課題の一つは、外部の人々をホテルに迎え入れる難しさでした。パリでホテルを立ち上げる際、地元の人々をどのように自然に迎え入れるかを特に考えました。旅行者が、訪れた街で地元の人々と交わる場所を求めるのは自然なことだからです。
私はホスピタリティの学校を卒業後、すぐにパリでワインバーを開業し、2年間フルタイムで働きました。しかし、その後の休暇中に突然パニック発作に悩まされ、息苦しさと不安を抱えるようになったのです。当時はまだ23歳で、タバコをたくさん吸っていたこともあり、禁煙を決意し、お酒もやめました。
そのとき、母がヨガを勧めてくれたんです。ヨガは呼吸に効果があります。不安でいっぱいだった私には、呼吸をサポートしてくれるものが必要でした。最初に参加したヨガクラスは先生が素晴らしく、すぐにヨガが好きになったのです。バーの仕事に復帰した後は、サービス終了後にスタッフとお酒を飲む代わりに、ヨガのポーズや呼吸法を教えるようになりました。それがとても楽しかったのです。
ホスピタリティ業界は、バーやレセプションに多くの時間を費やすのがほとんどですが、そうではなく「一生を過ごせるようなホテルを開業したい」という夢が生まれました。自分自身が働きたい、開業したいと思える理想のホテルを思い描いたとき、それはいつでもヨガができる場所でした。おそらく、このインタビューが終わったら、私は1時間ヨガをするでしょう。Hoyでは、スタッフも仕事の合間にヨガクラスに参加できる環境が整っています。
ヨガをするシャルロットさん Image via HOY
ヨガについて考え始めたとき、ただの呼吸法だけでなく、食事や体の動かし方など、ライフスタイル全体について意識が広がっていきました。そして、そこから100%植物性のレストランを開きたいと思うようになったのです。
しかし、2018年にオープンを決めた当時、パリには100%植物性のレストランはほとんどありませんでした。ですから私は当時、フランス人はヴィーガン料理に馴染みがないのかもしれないと感じていました。そんな中、マレ地区にあるイタリアンレストラン「Carboni’s」のオーナーである女性シェフ、Sabrina Goldin(サブリナ・ゴールディン)氏との出会いが転機となりました。彼女は「100%植物性のレストランこそが未来だ」と力強く背中を押してくれ、「自分のアイデアを貫きなさい」と励ましてくれたのです。プロジェクトを成功させるためには、周りに信頼できる仲間がいることが重要だと感じました。こうして「Mesa de Hoy」が誕生したのです。
Mesa de Hoyで提供されているタコス
ヨガホテルと聞くと女性的なイメージを持たれるかもしれませんが、私はこのプロジェクトに男性的なエネルギーも取り入れたいと考えました。その際、私のメキシコのルーツが自然とアイデアの源になりました。メキシコといえば肉食のイメージが強いかもしれませんが、実際にはトルティーヤやトウモロコシなど、野菜を多く取り入れた食文化が根付いています。このレストランのメニューも、ラテンアメリカの料理からインスピレーションを得ており、伝統と健康を意識した内容になっています。
今のシェフであるロブと一緒に働くようになってからは1年ほど経ちますが、彼がもともとヴィーガンレストランの出身ではないことが私にとって嬉しいポイントです。彼のアプローチには、従来のヴィーガン料理とは異なる新しいアイデアが詰まっています。人は自分が慣れ親しんでいる味に頼りがちですが、ロブは一般的な食材からインスピレーションを得るため、より親しみやすく、それでいて独創的な料理を作り出してくれるのです。
ロブは時間をかけてメニューの研究に取り組み、レストラン全体の管理も任されていますが、私は常に「これは良いけれど、もっと別の可能性は?」と問いかけるようにしています。自分にとって心地よい料理や味が何かを把握しているので、それを彼に伝え、彼もまたそのアイデアを反映した新しい料理を考案してくれています。
Image via HOY
サステナビリティには外見だけでなく、内面からも取り組むべきだと考えていることが、すべて100%植物ベースで調理している理由です。レストランでは、季節の食材のみを使用し、ワインもすべて自然派ワインを取り揃えています。また、ゼロウェイストを目指しており、レストランもホテルの客室も、ブランドのペットボトル水など外部から持ち込まれたものは一切置かず、備長炭フィルターでろ過した水を提供しています。さらに、包装を極力使用せず、環境に配慮したライフスタイルを提案するパリ初のゼロ・ウェイスト・ショップであるネイキッド・ショップと提携し、「少ないことは豊かである(less is more)」という考え方をゲストに伝えています。
食糧廃棄削減にも力を入れており、例えば、多くのレストランで余ってしまうパンですが、Mesa de Hoyでは翌日にメキシコ風のスープに使い、それが新たな食感を生み出しています。さらに、料理で出る野菜の残りはすべて集め、シェフが煮込んでコラーゲンを加えた美容にも適したスープを作っています。
また、バナナパンケーキには、砂糖やシロップなどの精製品を使わず、イーコンという塊茎を甘味料として使用しています。ゲストには、野菜や植物などの自然な素材から元気を得る大切さを意識してもらえるよう努めています。このように、私たちは日々、人々が元気と活力を得られるような「植物の魔法」を提供しているのです。
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Mesa de Hoyでは地元の生産者とだけ提携し、地元の食材や季節のものを重視し、地域に根ざした料理を提供しています。商品の品質を確保するため、生産者と密接な連携を取り続けることが重要です。例えば、パリから2時間ほど離れた場所で小規模な家族経営の農家が栽培したトウモロコシを使って作られたメキシコのトルティーヤも提供しています。スタッフも生産者のもとを訪れ、自分たちが提供する商品やその背景を深く理解する機会を設けており、これが私たちのサービスの一環となっています。
生産者との関係も密接で、彼らは時にはパリまで足を運び、農産物を直接レストランに紹介してくれます。昨年もワインの生産者を招き、すべてのテーブルを回ってワインを紹介する大きなワイン会を開催しました。私たちはまた、パリ近郊の若い生産者とも提携し、屋上栽培された野菜なども取り扱っています。
この成功は、たくさんの研究と情熱があってこそ実現したものです。そして、効果的なコミュニケーションも欠かせません。例えば、私たちは有料広告を使わず、自然な形で認知を広めてきました。情熱を持ってロブのような若いシェフと協力することで、彼が築いてきたコミュニティもここに集まりました。良いシェフを選び、良いメニューを提供することはもちろん、最高のマーケティングは「口コミ」であり、人々が自然に語りたくなるような体験を提供しています。
もちろん、時には料理の味が期待に届かないこともありますが、私の役割はそこに気づき、例えばキッチンスタッフのやる気が不足していると感じたときにどうやって士気を高めるかを考えることです。外部からシェフを招き、ポップアップ・レストランを開催することもあります。これにより、キッチンに新しいエネルギーがもたらされ、スタッフが常に新しい学びの機会を得ることができるのです。
この場所の目的は、ゲストに料理を楽しんでもらうこと。料理を味わい、香りを感じながら心地よさを味わってもらえれば、それが一番です。多くの方が、食べることで気分が変わり、内側からの癒しを感じ取ってくれます。レストランを開く際には、心からの情熱が求められます。この場所を形にする際にも、自分が本当に納得できる空間を作りたかったのです。照明や遠近感、見える景色など、細部にまで心を配り、日本のわび・さびの精神を反映させています。流行りの観葉植物や華やかな装飾も素晴らしいですが、ここでは内面に集中できるシンプルな美しさを大切にしているのです。
「リラックスしてください」と言葉では伝えませんが、自然に感じる色や触感が心を落ち着かせ、無意識のうちに心地よさと活力を提供できる場所でありたいのです。細部にこだわることで、人々が安心し、リフレッシュできる空間をつくりだしています。
「私にとって、花屋はとても大切な存在でした。花屋のお花のように自分もありたいと思うほどです。ホテルに入った瞬間、花が出迎えてくれて、その存在が私を幸せにしてくれるのです」
環境面については、開業当初から特に力を入れてきました。新しい世代のホスピタリティには、あらゆる場面で責任ある行動が求められると考えています。例えば、客室では空気を常に浄化する仕組みを導入し、窓を開けずに室内の熱を最大限に利用しています。空調は外気温との差が5度以内に制限されており、夏場に涼しさを求められても、環境への影響を考えた方針に従い、「いいえ」とお答えすることもあります。このときスタッフには、なぜそうしているのかを説明することで、ゲストにも理解してもらうように伝えています。
また、部屋には電子機器を置かず、代わりにセラミック製のスピーカーやストレッチ用のバーを設置しています。これにより、ゲストにはテレビの代わりに体を伸ばしてリラックスする時間を楽しんでいただけます。プラスチックは一切使用せず、陶器や竹繊維など、自然な風合いを持つ素材を採用しています。トイレットペーパーも再生紙を使用し、全てのアイテムはヨーロッパ製です。
「22室の客室はアーティストと協力し、壁は心が落ち着く淡い緑や青のトーンで彩られています。そのため、ゲストが部屋にいると、自然と『自分の家』のような安心感を覚えるのです」Image via HOY
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私は多くの学びを通じて、ゲストをケアする方法を身につけてきました。私たちが提供するすべてのセラピーやケアには、「情熱」「人間性」「教育」の3つのキーワードが含まれています。
ホテル運営で最も大切な要素の一つは「情熱」です。私が常に伝えているのは、人生の浮き沈みがある中で、お金を稼ぐ以上の価値ある仕事に携わることの重要性です。毎日ここで働き、人々の役に立っているか、世界をより良くしているかを感じられるかを自分自身に問う。自分の仕事に情熱を注ぐことが、良いホスピタリティの基盤となります。心からの情熱を持っていることで、言葉以上に伝わるものがあるからです。
「人間性」に関しては、私たちは人と人とが触れ合う仕事をしているため、親切さや優しさが重要です。優しさは心から湧き出るものであり、情熱を持っているからこそ、どんなに厳しい状況でもそれを保つことができます。また、ここでの「教育」とは、良い教師であり、良い学び手でもあることを意味します。ゲストに対して学びや情報を提供する姿勢とともに、スタッフ自身も成長し続ける必要があります。スタッフには、ホリスティックセラピーや食事に関する知識を共有し、ゲストが「ここは安心できる場所」と感じてもらえるようにするのです。
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私たちは助け合いを大事にしています。例えば、受付スタッフがレストランを手伝ったり、レストランのスタッフが受付をサポートしたりするなど、単にそれぞれの役割を果たすだけでなく、全員で協力する体制を整えています。こうした考えは、開業当初から掲げてきたもので、レストランではキッチンとホールのスタッフ間での連携や交代勤務の日を設けることで、部門を超えた協力関係を築いています。これにより、スタッフが安心感を得られる環境が整い、各自が頼れる存在を感じられるのです。
また、私たちのスタッフは多才で、受付業務をしながらも写真撮影が得意な人や、デザインのスキルを持つ人もいます。時には彼らの特技を生かしてもらうこともあり、役割に柔軟性を持たせています。例えば、あるスタッフは受付業務をしながらグラフィックデザインを学んでおり、別のスタッフは清掃を担当しつつ、ダンスへの情熱を活かして時折教室を開いています。こうして、スタッフが自分らしくいられる環境を作っています。
私たちは内面からエコロジーを実践する姿勢を大切にしており、それはスタッフの健康と働きやすさにまで配慮することから始まります。レストランやホテル業界はハードな仕事ですが、スタッフの負担を軽減し、過剰なストレスがかからないよう多くの人材を雇用しています。また、スタッフがヨガや瞑想のクラスに参加することもできます。こうした柔軟な環境を整えることで、スタッフは仕事に充実感を持ち、自分らしさを発揮できるのです。本当に素晴らしいチームで、私は自分のチームが大好きです。
実際、パリで2店舗目をオープンするための場所を探し始めており、ロンドンやマドリードなどの都市での展開も視野に入れています。しかし、複数のホテルを展開することが本当にサステナブルなのかと自問することもあります。
ただ、それでも都市部では人々が心からリラックスできる場が求められています。次の目標は、母親に焦点を当てた場所を作ること。妊娠を望む女性、妊娠中の方、出産後の母親など、女性のライフステージに寄り添うプロジェクトにしたいと思っています。
私の人生の目標は、これまでとは異なるホテル体験を提供し続けることです。どのようにすれば本当に素晴らしい体験を生み出せるかを常に考え、新しい形のホスピタリティに挑戦したいのです。
また、ヨガが私を救ってくれたと感じたように、私も誰かにとってビーガン生活やヨガ、他のライフスタイルの変化を支援できることにやりがいを感じています。こうして、人々が充実した生活を送れるようサポートできるのは本当に素晴らしいことですし、それが私にとっての幸せです。
ホテルの名前「Hoy」は「ヨガの故郷」を意味し、スペイン語で「今日」という解釈も込められています。私たちが今この瞬間に存在し、ここで話していることそのものが重要であるという考えから名付けられました。日々の計画や未来にばかり意識が向きがちな私たちですが、この名前を考えたとき、「どうすれば今ここに意識を集中できるのか」という問いが自然に湧き上がったのです。
現代では、誰もが携帯電話やパソコンなどからの情報で未来を考えがちですが、今に集中することの大切さを私たちは伝えています。「Hoy」という名前は、その思いをシンプルに表現しており、ここが私たちのいるべき場所であることを強く感じさせてくれるのです。
「少ないことは豊かである(less is more)」
取材の中で彼女が何度か口にした言葉である。レストランにもホテルの客室にも、「伝える」ための文字や広告は見当たらない。なぜならこの場所では、「感じる」ことが何よりも大切にされているからだ。リラックスできる色彩、こだわりの音楽、花の香りに満たされた空間で、心から美味しいと思える料理を楽しみ、にこやかなスタッフが迎えてくれる。この心地よさは、細部への配慮から生まれているのだろう。
取材の最後、彼女は「ここで自由に過ごしていってね」と声をかけてくれた。筆者はそのまましばらく仕事をしながら、地元の人々が気軽に行き交う、このまるで「家」のような空間を味わった。彼女が「一生を過ごせるホテルを作りたい」と話していたことが頭をよぎり、自然と地域、そして自分自身と繋がれるこの場所が、誰かにとって心の拠り所になるのだと感じた。
この心地よさは文章だけでは伝えきれない。ぜひパリを訪れた際には、このホテルの扉を叩いてみてほしい。きっと温かく迎え入れてくれるはずだ。
【参照サイト】Hoy公式サイト
The post 地元市民も行き交う、パリのウェルネスホテル・Hoy。「今ここ」を感じる滞在体験デザインの秘訣は? first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post イギリスの手話に400の環境科学用語が追加。気候変動の議論をよりインクルーシブに first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>こうした言葉のバリアは、何らかの障害のある人々にとってはより深刻となる可能性がある。その一例が、聴覚障害のある人たちだ。
聴覚障害のある人たちは、コミュニケーション方法の選択肢として手話を用いることも多い。しかし、近年生み出されてきた比較的新しい環境用語を表す手話は開発が追いついておらず、アルファベットを表す指文字で一文字ずつ表現するしか方法がなかったのである。
そんな中、イギリス手話(以下、BSL)においてはこの点に進歩が見られた。2023年から2024年にかけて、400の新たな環境科学用語を表す手話が追加されたのだ。
開発は王立協会の助成を受けて行われ、そのプロセスには、エディンバラ大学の12人の専門家チームが関わったという。チームには、聴覚障害のある科学者や教育者、手話言語学者などが参加。新しい手話は、チームメンバーと聴覚障害のある学生のフィードバックを受けた上で承認され、BSLオンライン用語集に加えられた。
追加は2段階で行われ、最初に追加された200の手話は、生物多様性、生態系、汚染、物理的環境がテーマとなった。一方でその後の200の手話は、エネルギー、持続可能性、環境変化が人類に与える影響がテーマとなっているという。
新たに追加された400の手話の中には、例えば「二酸化炭素」「地球温暖化」「気候変動」「サステナビリティ」といった比較的認知度の高いであろう用語のほか、「カーボンフットプリント」「カーボンオフセット」「炭素隔離」「再野生化」といったより専門的な用語なども含まれている。
The Conversationの記事によれば、今回追加された手話は、英単語をそのまま翻訳するのではなく、こうした用語が表す根本的な概念を視覚的に表現することに焦点が当てられているという。
たとえば、「カーボンフットプリント(直訳:炭素の足跡)」の手話は、「炭素」と「足跡」の手話を組み合わせるのではなく、炭素が大気中に放出される様子を表している。また、動きの速さが排出量を示すように設計されているという(速い動きは高い排出量を、遅い動きは低い排出量を示す)。
こうしたアプローチにより、複雑な概念が即座に理解できるようになり、指文字で表現する時間も短縮できるのだ。
全ての人に関わる、気候変動やサステナビリティの議論。真に誰も取り残さない社会を作っていくためには、その議論のプロセスが包括的であることが欠かせない。自分たちの発信や活動の方法は、本当に包括的なものになっているだろうか。今回の事例をきっかけに、改めて考えたい。
【参照サイト】How we developed sign language for ten of the trickiest climate change terms
【参照サイト】What is climate change in sign language? Experts develop new vocabulary for the deaf community
【参照サイト】Experts ‘rewild’ British Sign Language with new environmental terms
【関連記事】音声も文字も「手話」に変換。文字“以外”のやりとりができるAI翻訳ソフト・Signapse
【関連記事】授業は「手話」で。聴覚障害があってもなくても一緒に学べるルワンダの学校
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]]>The post 2024年10月 アップサイクルウィークエンドレポート first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>2024年10月には、以下のワークショップを開催しました。
東大阪の工場で廃棄されるはずだった針金を活かし、サクラの花びらを制作。完成した花びらを針金の幹に取り付け、参加者全員で協力しながら、大きなサクラの木を作りました。このワークショップは、「TEAM EXPO 2025」プロジェクトの一環として実施され、完成したサクラの木は大阪・関西万博で展示される予定です。
サクラテック株式会社は、「針金を、おもろい未来の引き金に。」をミッションに掲げ、針金ビジネスを社会に貢献する形で国内外に広めるために事業を展開しています。また、創業85年目を迎える業界唯一のオーナー企業として、さまざまな産業を支えています。
2021年10月には、工場から発生する針金の廃材を活用したアート作品やインテリアを展開するサステナブルブランド「HARIOMO(ハリオモ)」を設立しました。また、地域活性化を目指した東大阪オープンファクトリー「こーばへ行こう!」や、大阪・関西万博の「アーティストインファクトリー」プロジェクトに積極的に参加し、地域や社会への貢献活動にも取り組んでいます。
ホタテの貝殻は、大量に廃棄されることで環境問題の一因となっています。今回のワークショップでは、粉砕したホタテの貝殻を原料に混ぜ合わせ、溶かし、型に流し込んで固めることでオリジナルの消しゴムを作成しました。ホタテの貝殻が実用的な文房具へと生まれ変わりました。
また、ホタテの貝殻から生まれた絵の具を使って絵を描くワークショップも開催。貝殻特有の風合いを生かしたアート作品が生み出されました。
1969 年創業の東大阪にあるプラスチックメーカー。病院やオフィス、コンビニで利用される様々な製品のパーツや生活雑貨などを開発・生産しています。積極的に社会貢献活動に取り組んでおり、新型コロナウイルス初期には大学と共同で 20 万個以上のフェイスシールドを全国の病院に寄付しました。持続可能な社会が叫ばれる中、石油由来プラスチックを活用する企業の責務として、「プラスチックの良さ、悪さを理解し、社会に良い影響を与える」活動を積極的に行っています。わたしたちが今すぐできる環境保護活動として、更なるリサイクル推進に着目し、まだ使えるのに捨てられる廃棄物の活用に注力しています。賢く素材を活用することで環境保護に貢献し、より良い未来を描けるように挑戦し続けていきます。
使い終わった紙がどのようにリサイクルされるのかを学ぶワークショップを実施しました。好きな古紙を選び、水に溶かしてパルプ状にし、紙漉きを行い、オリジナルの再生紙を作成しました。このワークショップを通じて、古紙はゴミではなく、新たな形に生まれ変わる貴重な資源であることを学びました。
ごみを通してわくわくする社会をつくろう。ごみ問題を正しく学び、考え、行動することで少しでも良い社会をつくれるのではないか?と考えできたのが「ごみの学校」です。
これまで合計7000名にごみに関するセミナー・ワークショップを実施し、facebookグループ「ごみの学校」2700名超えのコミュニティを運営しています。
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]]>The post 量より質で未来をつくる漁業。天然真牡蠣「参州オイスター」が示す、四者幸福のビジョン first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>彼らは「地球の資源を必要以上に搾取せず、人間の手をかけ、付加価値を高めて限られた量を出荷する」という精神に基づき、海の資源を持続可能に利用しながら、高品質で価値のある天然牡蠣を提供する新しい仕組みを構築している。
池部彰さん、愛さん夫妻(いけべ あきら・あい)。佐久島発の天然牡蠣ブランド「参州オイスター」を手掛ける「永運丸」の創設者。ともに愛知県出身。
今回は、池部夫妻にインタビューを行い、自然と共生する未来の漁業スタイルや、具体的にどのような方法で付加価値を高めているのか、「参州オイスター」を通じた未来への展望と地域社会への影響について掘り下げていく。
今は亡き彰さんの祖父が所有していた漁船「永運丸」の名を受け継ぎ、池部夫妻は「参州オイスター」の育成を中心に、島の海産物を発信するオンライン事業を行っている。彼らのビジネスモデルは、売り手と買い手だけでなく、地域の人々や地球環境にも配慮した”四者幸福”を目指したものだ。
彰さんは、2021年7月に地域おこし協力隊として佐久島を訪れ、島の豊かな自然や漁業の魅力に心を奪われた。協力隊の任期終了後も、佐久島に腰を据えて暮らしていくことを決意。妻の愛さんは、名古屋市でアパレルショップで15年間勤務していたが、彰さんの情熱に共感し、新たな生活を共にスタートさせるため佐久島へ移住した。
出荷準備完了の「参州オイスター」
天然の海産物を獲る従来の漁師は、大量に獲れば獲るほど儲かる、いわゆる薄利多売のスタイルが一般的であった。しかし、このやり方は海の資源を過剰に消耗させ、生態系のバランスを崩す原因となってしまう。こうした課題に対し、夫妻が目指すのは「天然産にこだわりつつ海の生態系を守り、未来の漁業の在り方を作ること」だ。
彼らは天然牡蠣を漁獲した後、「中間育成」という独自の手法を用いて一定期間栄養価の高い環境で育てている。このプロセスにより、牡蠣一つひとつの品質を向上させ、付加価値を高めることで、大量に漁獲しなくても十分な収益を上げられる仕組みを築いている。
小さな天然牡蠣をそのまま販売することも可能であるが、同じ1キロを販売するためには多くの牡蠣を採取しなければならない。しかし、「中間育成」という手法を用いることで、一つひとつの牡蠣を大きく育てることができる。これにより、収穫量を必要以上に増やす必要がなくなり、環境への負担を軽減できるのだ。
牡蠣が海中で成長する過程では、殻に小さな牡蠣やフジツボなどが付着する。これらは牡蠣から栄養を奪い、成長の妨げとなるため、取り除く作業が必要となる。この手間を惜しまない丁寧な作業の繰り返しこそが「参州オイスター」を大きく身入りを良くする中間育成のカギである。
「参州オイスター」の中間育成は、9月頃に採取された天然牡蠣をもとにスタートする。最初の段階では殻に汚れがほとんどついていないため、軽く掃除した後、海の表層に吊るして栄養をたっぷりと吸収させる。この表層は栄養豊富で牡蠣の成長に適しているが、同時にフジツボや汚れが付着しやすい環境でもある。
10月末になると2回目の掃除が行われる。この段階では1か月をかけて全ての牡蠣を丁寧に清掃する。付着物が最も多くなるため、最も手間のかかる作業である。さらに11月末には、出荷直前の最終確認を兼ねて3回目の掃除が実施される。この3回にわたる徹底した手入れが、「中間育成」なのだ。
天然牡蠣の中間育成に笑顔で励む愛さん。
手入れ前と後の牡蠣の違いは一目瞭然。
さらに池部夫妻は、多くの漁師が稚貝を廃棄してしまうなかで、牡蠣の殻に付着した稚貝を手作業で集め、それらを海に戻している。
佐久島の海と未来の漁業スタイルを担う彰さん
また、「参州オイスター」の事業を通じて、池部夫妻は佐久島の地域活性化にも取り組む。現在、佐久島の人口は約180名。その多くが高齢者であり、漁で採れた海産物を市場に運び販売する従来の方法では対応が難しい現状がある。
「三河地方には、牡蠣をブランド化しているところがありません。牡蠣といえば広島や仙台が有名ですが、私たちは天然の牡蠣を中間育成して品質を高め、ブランド化することで、佐久島にもっと興味を持ってくれる人を増やしたいと考えています」と、彰さんは語る。
「参州オイスター」のオンライン販売は、こうした課題への一つの解決策だ。オンライン販売を取り入れることで、海産物を売りたい高齢者をサポートし、新しい販売の仕組みを地域にもたらしている。現在、佐久島ではオンライン販売を行う事業者がほとんどおらず、池部夫妻の取り組みは先駆的なものだ。
1月下旬には生食用牡蠣のオンライン販売もスタートする。生食用牡蠣をオンラインで取り扱う事業者はまだ少なく、その理由は高額な滅菌処理機の導入にある。多くのビジネスが加熱用牡蠣にとどまる中、池部夫妻は品質にこだわり、慎重に生食用の牡蠣を販売する準備を進めている。
身入りのよさと貝柱の強さが写真からでもよく伝わる。彰さんが命名した「参州オイスター」の参州とは、愛知県三河地方の古い呼び名であり、この土地の歴史と文化を象徴している。
さらに、未来を担う若者たちへの教育にも力を入れている。愛知県唯一の水産高校からの学外研修を受け入れ、学生たちに六次産業化の可能性を学んでもらう機会を提供。六次産業とは、漁業(一次産業)で得た資源を自ら加工・販売する仕組みを指し、池部夫妻はその実践を佐久島で行っているのだ。
現在は水産加工会社と共に、牡蠣のつくだ煮を開発しており、味付けをその水産高校の学生たちと共同開発している。高校生たちが商品開発を通じて実践的なスキルを身につけるだけでなく、自らの地域に誇りを持つきっかけになるような取り組みを重視しているのだ。
「学生たちの就職先には、これまで漁師という選択肢がほとんどありませんでした。でも私たちのビジネスが成功すれば、佐久島で漁業を基盤にした新しい働き方を提示できるはずです。それを成功モデルとして示し、『こういった仕事ができる』という未来を見せていきたいと思っています」と、愛さんは語っている。
池部夫妻この挑戦は、佐久島の地域活性化だけでなく、若者たちに新しい漁業の可能性を伝え、次世代への希望を育むものだ。
美しい佐久島の海。天然の恵みをいただきながらも、守らなければいけないと改めて思わせる。
自然の恵みを大切にしながら、「中間育成」という方法で人間の手を加え、牡蠣本来の魅力を引き出す。
「参州オイスター」は、地球の資源を守りつつ、天然の真牡蠣の味わいを人々に届けるための新たなアプローチだ。従来の漁業の形をただ手放すのではなく、海との共生を模索する折衷案として、その可能性を広げている。
彰さんの誠実なまなざしと、愛さんの太陽のような笑顔が印象的な夫妻。二人が育む「参州オイスター」は、地球、漁師、佐久島の人々、そして食卓に届く買い手、そのすべての幸せをつなぐ存在になっていくだろう。
※ 最近の養殖業の情勢(水産庁)
【参照サイト】「永運丸」webサイト
Edited by Erika Tomiyama
The post 量より質で未来をつくる漁業。天然真牡蠣「参州オイスター」が示す、四者幸福のビジョン first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post IDEAS FOR GOOD Museum in PLAT UMEKITA「アップサイクル」2024年10月-2025年1月 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>IDEAS FOR GOOD Museum in PLAT UMEKITAの初回となる、2024年10月から2025年1月中旬までのテーマは「アップサイクル」。アップサイクルとは、従来は廃棄されていたモノに、新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせること。近年、さまざまな業界で注目されている手法です。
本企画では、「食」「ファッション」「ライフスタイル」「PLAT UMEKITA」の4つのカテゴリに分けて、廃棄物削減につながるユニークなアップサイクル商品をご紹介します。新しいものを購入するかわりに、少しでもごみを減らせるアップサイクル商品を選んでみてはいかがでしょうか。
この記事では、展示プロダクトの一覧をご紹介します。ぜひPLAT UMEKITAに足を運んでみてください。
ZENB(ゼンブ)は、素材まるごとの栄養をおいしく食べる「新しい食」を提案する。普段捨てられている植物の皮、芯、さや、種、わたなどを余すところなく使った様々な製品を展開。ZENBヌードルは、スーパーフード黄えんどう豆100%でつくられている。ZENBペーストは、トウモロコシだったら芯まで丸ごと、枝豆だったらサヤまで丸ごと使用してつくられる。
かっとばし!!は、折れたバットをアップサイクルするプロジェクト。プロ野球界を中心に社会人野球や大学野球等で使用された後、役目を終えた折損バットや作る際に出た端材をアップサイクルする。適度な堅さとしなやかさを併せ持つバット材はお箸の素材としても最適。売り上げの一部は「アオダモ資源育成の会」を通じて植樹や育成に使われ、再び未来のバットを産み出している。
漁網エコたわしは、役目を終えた漁網をたわしにアップサイクルした製品。長崎の橘湾でカタクチイワシを巻き網で漁獲している「天洋丸」が、網修理の際に切り出した網を洗浄、使いやすいサイズにカット・100℃のスチーム殺菌を行い、たわしにアップサイクルする。古くから漁師が古網をたわしに再利用してきた文化を継承し、海の環境保全に繋げている。
madoは、廃車の窓ガラスを破砕・回収したものを原料に、琉球ガラス職人の手によってガラス食器にアップサイクルするプロジェクト。沖縄では、戦後に米軍基地で廃棄されたジュースの空き瓶を集め、ガラス職人たちが生活用の雑器を作りはじめたという歴史がある。当時の職人へのリスペクトを込め、リサイクル原料を活用したものづくりを継承することで、沖縄の環境を守っていくことを目指している。
SUは、大阪大学発の端財アップサイクルプロジェクト「etsaw(エットソー)」から誕生した、ガラスストロー。廃棄ガラスを原料に、ガラス工房「fresco(フレスコ)」の協力を得て、ガラスストローを製品化。
PULL TAB seriesは、アルミ缶のプルタブをアップサイクルしたバッグやアクセサリー。ブラジルの貧困地域の女性たちによって作られているフェアトレード商品で、アルミ缶のプルタブをひとつずつ、クロシェ編みというブラジルの伝統的な編み方でつなげてつくられている。ソーシャルプロダクツ・アワードで、2014年に 「特別賞 アイデア×デザイン」を受賞。
eyeforthree(アイフォースリー)は、ロート製薬株式会社の社内ベンチャー支援プロジェクトから誕生した、目薬の廃プラスチックをリサイクルしたアイウェア。フレームは、目薬ボトルの生産過程で出るプラスチックを、粉砕・乾燥させて再生PETの形にしたものを100%使用。塗装などをしないことで、お客様が使わなくなった後も回収しリサイクルすることが可能。
YOT WATCH(ヨットウォッチ)は、廃棄されるプラスチック製おもちゃを回収して、それを原料に腕時計にアップサイクル。子どもが使い終えたものを、子どもが使う新たなものへ生まれ変わらせたいという想いから子ども用の腕時計を開発。そして親子で地球のことを考えるきっかけにしてほしいという想いから大人モデルも開発。YOTは、おもちゃを意味するTOYのつづりを逆さにしている。
ecobirdy(エコバーディ)は、使用済みのプラスチックおもちゃをリサイクルして作られた子ども用の家具。デザイン思考を活用して開発され、人間工学に基づいた形状で、丸みを帯びたエッジと広い座面を特徴としつつ、子供の安全性と快適性を重視した商品となっている。B Corp認定企業。
ホタテの水揚げ量日本一を誇る北海道・猿払村の廃棄貝殻をヘルメットにアップサイクルした製品。新品のプラスチックを100%利用するのと比較して、最大約36%の二酸化炭素削減に寄与。バイオミミクリーの考えに基づき、ホタテの構造を模倣した特殊なリブ構造をデザインに取り入れ、通常より約33%高い強度を実現している。
Auraskin(オーラスキン)は、エスプレッソの廃棄物をアップサイクルする、ギリシャ発のスキンケアブランド。リップバームや日焼け止め、ボディスクラブ、ハンドクリームなどを展開。動物実験は一切行っていない。
Osaka Metroクリエイトの廃車再生プロジェクトは、約40年にわたって活躍してきた地下鉄車両を引退後もより多くの方々に親しまれ、活躍してもらいたいとの思いから企画された。Osaka Metroと大阪を中心としたクリエイターや事業者との共創により、吊り革に一枚物の本革を使用したリードのほか、吊り革を使ったバッグや運転席の計器をテーブルクロックに生まれ変わらせている。
今治のホコリは、タオル産地 ・今治で染色業を営む西染工で、染色後のタオルの乾燥時にフィルターに付着したホコリを着火剤としてアップサイクルした製品。これまで 1 日に 120 リットルの袋 ×2 袋の量のホコリを廃棄してきたが、廃棄物の減少を目的に開発。
コチョスクは、ワイヤー胡蝶蘭レンタルサービス。ワイヤー胡蝶蘭は、廃棄される針金をワイヤーアートでアップサイクルした製品。枯れることのない素材でロスフラワーを削減。レンタル期間が終了すると返却され、次のお祝いに利用されることで循環を生み出す。売上の一部は森林保全団体『more trees』に寄付。
Rinne.bar(リンネバー)は、不要だと思っていたものが、価値あるものに生まれ変わる「アップサイクル作品」づくりを誰もが楽しめる小さな「モノづくりBAR」。ものづくりのメニューは複数用意されており、廃材など、ゴミになってしまうはずだった素材を、アップサイクル作品に蘇らせるアイデアが充実している。
crep(クレプ)は、山陽製紙が製造する工業用クレープ紙「crep paper」から生まれたレジャーシート。工業用クレープ紙「crep paper」はセメント袋の口縫い用テープや電線類を包装する紙として使われてきた素材で、独特のシワから生まれる強度と伸縮性、紙としては珍しい耐水性も兼ね備えた高機能再生紙。使い捨てではない新たな紙の可能性を広げている。
※PLAT UMEKITAオリジナル商品をインフォメーションで販売しております。
HOZUBAG(ホズバッグ)は厳しい安全基準により飛ぶ役目を終えた、 行き場のないパラグライダーを回収、解体する拠点を京都府亀岡市に構え、バッグに作り変えることで資源が循環する社会を目指すとともに、地域の活性化、雇用の創出にも取り組んでいる。また、回収したパラグライダーからうめきたパークのキーカラーとなる部分を集め、来園する方がワクワクするようなパッチワークを施したオリジナルのレジャーシートや遊び道具を収納するバッグ、カートカバーを制作。
※うめきたパーク内で使用できるレジャーシート、遊び道具を無料で貸し出ししております。
■展示概要
The post IDEAS FOR GOOD Museum in PLAT UMEKITA「アップサイクル」2024年10月-2025年1月 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>The post 「1.5度」が隠してきたこと。2024年の気温上昇幅がそれを“超えた”今、国際目標の正義を問う first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>さらに今回は、その上昇幅が産業革命以前と比べて「1.5度」を超えたことに注目が集まっている。パリ協定において、世界の平均気温の上昇を「1.5度以内」に抑えることが努力目標とされた。このことから、国際メディアでは、この数値が“強力なシンボル”として引き合いに出され、気候危機が激化の一途を辿っていること、“セーフゾーン”の終焉が近づいていることなどが報じられた(※1, 2)。
だが、この「1.5」という数字は世界の運命を定めるような絶対的な基準なのだろうか。この数字を下回れば安全で、上回れば世界は崩壊してしまうのか。いや、今私たちが生きている時点で、必ずしも急に崩壊するわけではないだろう。そうとなれば、なおさら「1.5」がなぜ重視されるのか疑問である。
もう一つのラインとして「2度」を基準とした議論も見聞きしたことがあるかもしれない。この2つの基準について、歴史的な議論の場を振り返ってみよう。
かつては、世界の平均気温の上昇幅を2度以下に抑えることが目標とされていた。2010年にメキシコ・カンクンで開催されたCOP16で「カンクン合意」が締結され、長期的な目標として、産業化以前のレベルと比較して地球平均気温の上昇を2度以内に抑えることを目指すと定められた(※3)。
歴史を辿れば、1997年の京都議定書においても「2度」についての言及がある。また1つ前のCOP15におけるコペンハーゲン合意でも「2度」という文言は出てきたものの、どのような位置付けの数字であるのかは明記されていなかったという。そのため、カンクン合意以降「上昇幅2度未満」というラインの存在が色濃くなったと言えるだろう。
カンクン合意の時点でも、「1.5度を含めて長期目標の強化を検討する必要性を認識する」と示されていたという。その後、2013年から2015年にかけて気候変動に関する政府間パネル(以下、IPCC)や国際機関の専門家を交えたStructured Expert Dialogue(SED:組織的専門家会議)が実施され、2度未満に抑えることを確実にするための施策として、1.5度の努力目標がレポート内で提案された。同様に2度目標への批判や、2度と1.5度のシナリオ比較が公開され、その妥当性は揺らぎ始めていた。
そして2015年、COP21で採択されたパリ協定で進展があった。SEDのレポートを反映する形で、産業革命以前と比較して地球平均気温の上昇を「1.5度以内に抑える努力目標」が追加されたのだ。これ以降、パリ協定を引き合いに気候変動政策では「1.5度」も主要な基準の一つと位置付けられるようになった。
一見するとわずかに0.5度の変化に思われるかもしれない。しかし、社会環境システムにおいてこの差は明らかな違いを生むという。
例えば、IPCCのレポートによると、気温の上昇幅が2度であれば、サンゴ礁の99%以上が消失し海の生態系ネットワークが崩壊しうるという。2度目標はいわば“限界”とも言えるラインだ。一方、上昇幅が1.5度の場合、少なくとも70%の破壊に留められる可能性がある(※4)。甚大な被害はありながらも、かろうじて不可逆的な自然破壊を免れることができるラインと捉えられているのが「1.5度目標」であるだろう。
ここまで議論されてきた平均気温の上昇幅は、主に「産業革命以前と比較して」の数字である。人間社会はそれ以前から長く続いているのに、あえて産業革命期を基準とする理由は、正確な収集データの限界だけではない。
工業化が社会を大きく変化させ、北半球を中心に多くの国で化石燃料がエネルギー源となり急速に温室効果ガスの排出量が増加したからだ(※5)。CO2排出量のグラフを見ると、産業革命期(18世紀後半から19世紀頃)から排出量が増え始め、その後急カーブを描いている。
IPCCでは、1850年から1900年を基準年としている(※6)。単年を比較対象としていないのは、IPCCでの気温変化の議論は10年の平均をとった「長期平均」を主流としているからであり、10年平均が1.5度を超えたと見なされる前に、一つの日、月、年で1.5度の気温上昇が発生するのだ(※7)。
つまり、2024年の世界平均気温が1.5度を超えたことは、(まだ)パリ協定での努力目標遵守に失敗したというわけではない。「産業革命以前から1.5度気温上昇した世界」には至っていないものの、残念ながらそれに当初の予想を上回る早さで近づいているのが現状である。
ここまで、「1.5度」という数字そのものの歴史から、その基準が設けられたことによる功罪を振り返ってきた。ある年の平均気温が1.5度を超えたからといって、まるで機械のスイッチを押すように、急に生態系が崩壊するわけではないのだ。
むしろ注視すべきことは、1.5度を“超える”前の時点で、すでに世界各地で気候変動の影響を受けている人々がいること。そして「1.5度を“超えた”」という表現やナラティブが強調されることで、誰かの発言や視点を覆い隠してしまっていることである。
「1.5度に到達するか否か」という二元的な捉え方は、1.5度に至らずとも気温上昇によって命をめぐる被害を受けている人々の声を、隠してしまってはいないだろうか。2022年のパキスタンでの洪水や、2024年の西アフリカでのヒートウェーブ、インドでの酷暑……これらを目の当たりにしても「まずは1.5度に達しないよう努力しよう(1.5度までは気温が上昇しても大丈夫)」と捉えてしまう姿勢は、その「1.5度」という基準値があるがゆえかもしれない。
目標の数値が定まると、あたかもその数値までは猶予があり、そこに近づいても超えなければ良しとされるように見えてしまう。妥当でなかったかもしれない「1.5度」のラインに惑わされて、すでに起きている被害が隠されてきてしまった可能性は大いにあるだろう。
2024年を振り返ってみれば、「1.5度目標」によって隠されてきた声は、至るところで上がっていたことが分かる。
その一つが、アゼルバイジャンのバクーで開催されたCOP29。途上国に対する気候変動対策支援が不十分であるとして数十カ国が途中退席する一方、閉幕に対し先進国は立ち上がって拍手を送っていた。先住民の人々が声明を出す場も設けられたが、結果へ十分に反映されることはなかったのだ。その明らかな評価の違いは、世界の分断の片鱗を表しているようであった。
これは、途上国が単に支援金を求めているのではない。歴史的な温室効果ガスの排出量が多く、これまで気候変動に加担してきた北半球の国々に対して、排出量が少ないにもかかわらずその被害を受け危険にさらされている国や地域が、気候正義を求めて公正な対応を訴えかけているのである。
2025年を迎え、日本政府が掲げる「2030年度までに温室効果ガス排出量の46%削減」の目標まで、およそ5年となった。あえて「1.5度」の縛りから外れて、考えてみたい。各地での気候変動の“症状”をふまえて、現在の気候変動対策は、人や自然に対する不可逆的な破壊を防ぐことができる十分に早い時期を目標として、あらゆる状況の国に対して公正な方法で、課題に向き合っているだろうか。
クリエイティブな解決策も、人々を突き動かすデザインも、ソーシャルグッドなアイデアも、そんな根幹にある課題と向き合ってこそ、意義の伴う本来の力を発揮するはずだ。
※1 Hottest year on record sent planet past 1.5C of heating for first time in 2024|The Guardian
※2 Earth breaches 1.5 °C climate limit for the first time: what does it mean?|Nature
※3 地球環境研究センター30年の歴史(6)カンクン合意の評価と残された課題|国立環境研究所
※4 アングル:温暖化抑制、「1.5度」と「2度」の決定的な違い|Reuters
※5, 7 Climate change: The 1.5C threshold explained|BBC
※6 FAQ Chapter 1 — Global Warming of 1.5 ºC|IPCC
【参照サイト】1.5°C: where the target came from – and why we’re losing sight of its importance|The Conversation
【参照サイト】Climate change: The 1.5C threshold explained|BBC
【参照サイト】アングル:温暖化抑制、「1.5度」と「2度」の決定的な違い|Reuters
【参照サイト】FAQ Chapter 1 — Global Warming of 1.5 ºC|IPCC
【参照サイト】Hannah Ritchie and Max Roser (2020) – “CO₂ emissions” Published online at OurWorldinData.org. [Online Resource]
【参照サイト】Climate change: Deadly African heatwave ‘impossible’ without warming|BBC
【参照サイト】Disappointed by this year’s climate talks, Indigenous advocates look to Brazil in 2025|NPR
【参照サイト】Media Gallery|COP29
【参照サイト】2024年世界の平均気温 抑制目標の「1.5度」初めて超える|BBC NEWS JAPAN
【参照サイト】2024年世界の平均気温 1850年以降で最も高く|NHK
【参照サイト】COP29で数十カ国の代表が途中退席、途上国の気候変動対策支援めぐり反発|BBC NEWS JAPAN
【関連記事】富裕税の実現なるか。ブラジル含む4ヶ国が「世界3,000人の億万長者への課税」に署名
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Cover image via COP29
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]]>The post 地球を再生する金融「Regenerative Finance」の全貌に迫る。業界最新レポート『ReFi Ecosystem Report 2024』 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>気候変動や環境資源の枯渇、経済格差の拡大という複合的な課題に直面する現在、ReFiはその解決策として注目を集めています。本レポートは、これらの問題に金融の力でどのようにアプローチすべきか、またReFiのもたらす可能性について深く考察し、未来の羅針盤として活用できるよう『ReFi Ecosystem Report 2024』を制作しました。
レポートに掲載されている事例サンプル
『ReFi Ecosystem Report 2024』は、持続可能な未来を目指す金融の進化形として注目されるReFiの基本概念や最新動向をカバーし、投資家や事業者にとって有益な情報を提供する91ページの分析レポートです。さらに、83の重要キーワード解説や、世界中の100の事例を詳細に紹介しており、ReFiの実際の運用における課題や学びを深く掘り下げています。
本レポートの発行を記念し、2025年3月に『ReFi Ecosystem Report 2024』発売記念イベントを開催いたします。本イベントでは、ReFiの基本概念をより深く理解していただくため、専門家を交えたパネルディスカッションや、レポートの詳細な解説を行います。
また、参加者の皆さまには、ReFiの最新動向を共有するだけでなく、ネットワーキングの場としてもご活用いただけるよう工夫を凝らしたプログラムを準備しております。詳細は近日中に発表予定ですので、ぜひご期待ください。
開催日:2025年3月(詳細日程は後日発表)
内容:レポート紹介、専門家によるパネルディスカッション、ネットワーキングセッションなど
会場:都内某所(詳細は後日発表)
※イベント参加のお申し込みや詳細情報については、弊社ウェブサイトおよびSNSで随時お知らせいたします。
HEDGE GUIDEは、投資や資産運用、そしてブロックチェーンを活用した新たな金融モデルに関する情報を提供するオンラインメディアです。ESG投資や持続可能な金融の最新動向に関する記事、専門家による分析やインタビューを通じて、未来志向の投資家や事業者に価値ある洞察を提供。金融とテクノロジーが融合する最前線で、信頼できる情報をお届けしています。
Web3分野では、ReFi(Regenerative Finance)といった新しい経済システムに注目し、これらがもたらす投資機会や社会的インパクトを分かりやすく解説。ブロックチェーン技術を活用したカーボンクレジットのトークン化やDAO(自律分散型組織)による地域活性化など、ReFiの具体的な事例や可能性について触れ、読者がこれらのトピックを深く理解して実践的に活用できるようサポートすることを目指しています。
︎最新レポート『ReFi Ecosystem Report 2024』詳細はこちら
【参照サイト】革新的金融モデル「Regenerative Finance」の全貌に迫る!最新レポート「ReFi Ecosystem Report 2024」を発行
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]]>The post シェフが挑む環境再生型農業。パリ郊外、“超”地産地消のレストラン「Le Doyenné」 first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>フランス・パリ中心部から南へ41キロ。もはやパリから小旅行といっても過言ではない旅路の先に、世界中の美食家が目指す場所がある。
決して「簡単に行ける」とは言えない場所にあるレストランに向かうため、筆者はバスを待っていた。たまたまバス停で出会った地元の女性が、不思議そうな表情で「パリからわざわざここまで来て、どこに行くの?」と尋ねてきた。行き先がレストランであることを伝えると、彼女はすぐさまこう返した。
「ル・ドワイヨネ?」
筆者が驚きながらうなずくと、彼女の方は特に驚く様子もなく、むしろ納得したような表情を浮かべた。この村にとってそのレストランが、すでに特別な存在として定着しているのかもしれないと感じた。
フランスのサン=ヴランという小さな村に位置する「Le Doyenné(ル・ドワイヨネ)」は、2022年6月にオープン。建物はシャトー・ド・サン=ヴランという歴史的な敷地内にあり、フランス革命時にマリー・アントワネットのライバルであったデュ・バリー伯爵夫人や、イタリアの名門貴族ボルゲーゼ家など、多くの歴史的な人物や貴族が受け継ぎ、大切に守られてきた。
Image via Le Doyenné
オーストラリア出身のシェフ、ジェームズ・ヘンリー氏とショーン・ケリー氏は、この歴史的な建造物をレストランとゲストハウスに改装した。敷地内には菜園が広がり、再生型農業の手法を活用して野菜を栽培している。
Image via Le Doyenné
Image via Le Doyenné
これらの野菜は、Le Doyennéの料理の基盤となるだけでなく、訪れる人々にここでしか味わえない特別な体験を提供しているのだ。彼らの哲学は「農場から食卓へ」というシンプルで力強い理念に基づいている。
ジェームズ・ヘンリー氏(左)とショーン・ケリー氏(右)Image via Le Doyenné
2024年には「世界のベストレストラン100」の70位にランクインしており、ミシュランガイドの持続可能なガストロノミー「グリーンスター」も獲得したLe Doyenné。その実績は、訪れた多くの人々を納得させるものだ。人々は「このレストランは、直にもっと有名になるだろう」と口を揃えて言うのだ。
パリから高速郊外鉄道に揺られること約50分、さらに最寄り駅からバスを乗り継ぎ、Le Doyennéに到着すると、その広大な敷地が目の前に広がり、思わず息を呑んだ。手入れの行き届いた菜園や放し飼いされた鶏を横目にレストランの建物に入ると、シェフ兼オーナーのショーン・ケリー氏が笑顔で迎えてくれ、「菜園を少し散歩しよう」と提案してくれた。
Image via Le Doyenné
ヘンリー氏とケリー氏は、荒廃していた歴史ある建物を改築し、現在のレストランにゲストハウスを併設したLe Doyennéを作り上げた。二人の挑戦が始まったのは、2017年のこと。まず取り組み始めたのが畑の再生だった。
レストランの前に広がる菜園は、60年間手つかずのまま壁に囲まれていた庭を改修し、新たに果樹園と菜園として蘇らせたものである。雑草や荒れ地だった場所が、今では色とりどりの野菜や果物で満たされ、土地の再生が見事に実現されている。この壮大なプロジェクトを完成させるまでに、二人は6年もの歳月を費やしたという。
Image via Le Doyenné
「ゲストには、まるで自分の家にいるようにリラックスしながら、自然とのつながりを感じてほしい」
レストランの空間には、かつての馬小屋が改装されて利用されている。アーチ型の天井と大きな窓を特徴とするこのスペースは、歴史的な趣を残しながらも、開放的な雰囲気を生み出している。広々とした窓からは菜園を一望でき、食事をしながらその景色を楽しむことで、ゲストに自然との深いつながりを実感してもらう工夫がされている。
Image via Le Doyenné
ケリー氏は菜園を歩きながら、そこで育てている作物一つひとつについて丁寧に説明してくれた。その語り口から、彼の農業への情熱が伝わってきた。
「菜園は、2,500平方メートル。現在、約200本の果樹や低木を植え、在来種の野菜やハーブを数百種類栽培しています。この時期はブルーベリーが全面にあり、他にはイチゴやラズベリー、ブラックベリーも育てています。また、リンゴや洋ナシは良い出来です。壁沿いには桃やアプリコットの木があり、古いイチジクの木も元気ですよ」
ケリー氏と共に菜園を歩いていると、その日のディナーを予約しているゲストたちとすれ違った。ここでは、ゲストが今夜自分が食べる食材を自分の目で確かめることができる。菜園には、その日に収穫される新鮮な野菜や果物が育ち、訪れる人々にその豊かさを伝えているのだ。
季節ごとに移り変わる菜園の景色は、ゲストたちに新たな発見や楽しみを提供する。春には若々しい緑が広がり、夏には色とりどりの作物が目を引く。秋には熟した果物が豊かに実り、冬には土壌を守るための工夫が見られる。自然のリズムに寄り添ったこの菜園は、訪れるたびに異なる魅力を見せ、ゲストを惹きつけてやまない。
ケリー氏
ケリー氏とヘンリー氏は今、シェフとしてだけでなく農業にも取り組んでいる。これほど広大な土地で農業を営む二人だが、実は農業の経験は全くなかったというから驚きだ。もともと、二人はパリの美食家たちから高い評価を受けていた人気シェフであり、料理のプロとして活躍していた。
ケリー氏は、シェフとして11年のキャリアを持つ熟練の料理人である。ロンドンの有名店「St. JOHN(セント・ジョン)」で英国料理の基礎を学び、続いてパリの「Saturne(サチュルヌ)」で経験を積んだ。その後、Le Doyennéのビジネスパートナーであるジェームズ・ヘンリー氏が立ち上げたパリ11区の「Au Passage(オ・パサージュ)」で働き、共にその評判を確立した。また、ビストロ「Yard(ヤード)」をパリの定番店にし、さらにはパリのオーストラリア大使館の総料理長として指揮を執るなど、多彩な経験を持つ。ヘンリー氏は、「オ・パサージュ」の立ち上げで一躍注目を集めた後、自身のレストラン「Bones(ボーンズ)」をオープン。ハイパーシーズナルな固定メニューや活気あるバーが話題を呼び、瞬く間に人気シェフとしての地位を確立した。
そんな二人が、今は自らの手で土を耕し、作物を育てる農業者としての顔も持つようになった。さまざまなガーデニング方法に関する本を読み漁り、インターネットなど活用しながら知識を蓄えたという。「ただただ、レストランで最高の食材を使いたいという思いがきっかけだったんです」と、ケリー氏はあっさりと語る。
Image via Le Doyenné
「Le Doyennéの菜園では、農薬や化学物質は一切使用していません」
Le Doyennéでは、現代農業で一般的に行われている土を深く掘り返す「耕起」を避け、代わりにコンポストや家畜糞、マルチ(草やわらを土の表面に敷く方法)を利用して有機物を穏やかに分解する手法を採用している。この方法により、土壌中の炭素を固定し、何百年もの間育まれてきた微生物の生命を守りながら、土壌の健康を維持しているのだという。廃棄物が発生した場合は、家畜の餌になる。
「毎年、土壌がより良くなり、作業しやすく、力強く、深みが増していくのが分かります。ナメクジに関しては一部対策を取らざるを得ませんが、害虫には防虫ネットを使用しています。農薬を使わないので、鳥や昆虫が自然に生息する環境が作られています。化学薬品がないことで、人間も安心して作業できます。自然の中で働くのは、とても気持ちが良いですよ」
フランスでは、環境再生型農業はまだ広く普及しているとは言い難い。マルシェ(市場)では見かけることがあるものの、スーパーマーケットでの取り扱いはまだ限られているのが現状だ。そんな中、2019年には、レストランの建設が進む最中に、この菜園で収穫された新鮮な食材をパリのトップシェフたちに提供する取り組みが行われ、環境再生型農業の可能性を広げる一歩として注目を集めた。
Le Doyenné内のショップで販売されている採れたて野菜
「これまでのレストラン業界は非常に無駄が多く、環境への影響も大きいと感じていました。だからこそ、小規模農業や地域の生産者との協力も欠かせません」
現在Le Doyennéでは、一部の肉、また季節によってはキノコや柑橘類などを南フランスの生産者から仕入れている。一方、提供される料理に使う野菜は、完全に自家栽培でまかなっているという。
「野菜や鶏肉、豚肉については、すべて敷地内で育てているものです。将来的には、卵を自家生産することが大きな目標です。また、農場を少し拡張し、年間を通して完全に自給自足ができる体制を整えたいと考えています」
彼らの取り組みは、持続可能なレストラン運営の新たなモデルを築きつつある。
Image via Le Doyenné
Le Doyennéが何よりも大切にしているのは、「季節性」である。菜園を歩くことは、シェフたちにとってメニューのインスピレーションを得る重要な時間でもある。
「メニューは頻繁に変わります。例えば、エンドウ豆は収穫期が短く、良い状態で楽しめるのはわずか2週間程度。そのため、その時期に合わせてメニューを変更する必要があります」
季節ごとの新鮮な食材を最大限に活かし、ゲストにその瞬間だけの特別な味わいを提供することが、Le Doyennéの哲学なのだ。
エンドウ豆が収穫されると、シーズンの初期には生のままその新鮮さを活かして提供し、シーズンが進むにつれてさまざまな新しい調理方法を試みる。シェフのジェームズ氏とキッチンチームは、野菜を見てその場でアイデアを考え、メニューにするのだという。
「crudités from the garden(庭からの野菜)」と呼ばれるオードブル。どれだけ野菜が豊富に育てられているかを象徴している。
Le Doyennéのワインリストも、常に進化する季節のメニューに合わせて厳選されている。自然派ワインを中心に、従来型のワインやバイオダイナミック(有機農法に基づく)に近いワインまで、幅広い選択肢が揃っている。そのため、訪れるゲストは自分の好みに合ったワインを気軽に楽しむことができるのだ。
パリでシェフとして成功を収めていた二人が、郊外の広大な土地に移り、新たな取り組みを始めてからの5年間。不安や困難はなかったのだろうか。
その問いに対し、ケリー氏はこう答える。
「フランスには、農村文化やマルシェ(市場)文化が深く根付いており、それが私たちのようなレストランを支える土台になっています。多くの人がスーパーマーケットよりも市場の方が品質が良いことを理解していて、実際に自分の目で見て、どちらが良いかを判断する力を持っているのです」
彼の言葉からは、フランスの食文化がLe Doyennéの基盤を形作っていることが伝わってくる。そうした文化を背景に、彼らは持続可能な未来を見据えた新たな価値観をレストランに取り込む。目指すのは料理の提供だけではなく、自然とのつながりを体現すること。そんなLe Doyennéでは、農業を営みながら、詩人・小説家・哲学者として環境保全のメッセージを発信していたウェンデル・ベリーの言葉が大切にされている。
「土壌は命をつなぐ偉大な連鎖であり、すべての源であり行き着く先である。それは癒し、回復し、再生する力を持ち、病気を健康へ、老いを若さへ、死を命へと変える。適切に土壌をケアしなければ、私たちには共同体も命も存在し得ない」
ーWendall Berry
「食」「自然」「文化」が交わるレストラン。目の前の菜園で育まれた季節の食材、自然派ワイン、そして歴史を感じる空間。そのすべてが調和し、訪れる人々に「食べる」という行為の本質的な意味を問いかける。Le Doyennéで過ごした時間からは、そんな情熱を感じた。
【参照サイト】Le Doyenné
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]]>The post UMEKITA URBAN UPCYCLERS 第5回レポート:手法を学ぶ「アップサイクル実習(基礎編)」出張Rinne.bar first appeared on IDEAS FOR GOOD.
]]>その取り組みの一つとして、うめきたからこれからの持続可能な未来に向けた新しい経済や都市のあり方を模索し、実践するためのラーニング・プログラムを毎週水曜日(第2回・3回はそれぞれ土曜日・火曜日実施)に行っております。
2024年10月~12月を第1期とした初回のテーマは「アップサイクル(価値がないと思われているものを、価値あるものに変える経験)」。インプットや実践を通して、自分、都市、社会の未来は、自分たち自身の手でよりよいものに変えられるという創造的自信(クリエイティブ・コンフィデンス)を取り戻す3か月です。
2024年11月6日(水)に実施した【第5回講義 手法を学ぶ:アップサイクル実習(基礎編)出張Rinne.bar】では、第4回に引き続き株式会社RINNE・小島幸代さんをゲストにお迎えし、出張Rinne.barと題して普段Rinne.barで提供しているアップサイクルのプロダクトを制作し、アップサイクルの手法を楽しみながら学ぶ中で、自分の手から新たなものを生み出す体験を行っていただきました。
※Rinne.bar・・・お酒を飲みながら、カジュアルにものづくりが楽しめる大人のためのエンタメスポット。廃材など、ゴミになってしまうはずだった素材を、アップサイクル作品に蘇らせる日本発のバー。
はじめに小島さんから、今回のスクールにお持ちいただいたプロダクトキットに関する背景や取り組み内容、キットの中身のご説明をいただきました。このキットには、不要になった素材、パーツ、作り方のガイドすべて手作業で詰められたセットになっており、モノづくりの得意・不得意に関わらず誰でも気軽に制作を楽しむことができるものになっています。
小島さんからのお話しの後、参加者は4種類のキット(オリジナル人形・、コサージュ、ブローチ、コラージュカード)から好きなキットを選んで、制作にとりかかりました。
参加者の皆さんはどの素材を使用するか、どのような形にするのか、思い思いに試行錯誤を繰り返していました。
中には頭の中で描いた通りに形にできない場面も見られましたが、色々な方法を探りながら、なんとか形にしていきました。
最後は皆さんそれぞれ個性のある作品を完成させて終了することができました。うまくいかないこと、「もっとこうしたい!」と思うところも含めて、アップサイクルの作品を生み出す楽しさを体感していただく時間になりました。
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