鼻を「かむ」(2) : 専修大学文学部林ゼミ写真帳
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2007年 11月 23日
鼻を「かむ」(2)
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太田全齋の編んだ江戸期の俗語辞典『俚言集覧』(1797頃)の「かむ」の項に、「涕(ハナ)をかむ」の「カムは噛(かむ)が如くする意也と云(いへ)り」という語源解が示されています。編者は、鼻をカムというのは《歯でものを噛むようにする》という意味であるとして、この語を「噛む」と同語源と見なしています。



しかし平安時代のアクセント資料によれば、(鼻を)カムの頭音"カ"は高く発音されたのに対して、(ものを)カムの"カ"のほうは低く発音されたことが知られます。つまり、二つのカムのアクセントは異なっていたことになるので、両者の語源を同じと見るのは妥当でありません。

なおカムにはもう一つ、「醸」の漢字を用いて《酒を醸造する》の意を表す語がありますが、こちらのアクセントは「噛む」と同じであったことが鎌倉時代のアクセント資料から知ることができます。

古代の酒の醸造法は、よく知られているように、生米を噛んで吐き出したものを瓶などの中で発酵させるものでしたから、「醸む」と「噛む」は語源を同じくするものであり、両語のアクセントが同じなのは当然のことです。しかし(鼻を)カムの方は、これらの語とは由来の異なるものと見なければなりません。

結局のところ、鼻について「かむ」を用いるのはなぜかという疑問に対しては、現段階では残念ながら納得の行く説明ができないというのが正直なところです。 (この項続く)

今年は当地のカエデの色づきが遅いですね。今ごろになって、ようやく枝先のあたりがうっすらと染まってきたような状態です。
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 *撮影機材:R-D1+NOKTON classic40mm f1.4 (S・C)

by YOSHIO_HAYASHI | 2007-11-23 07:32 | 言語・文化雑考


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