今年も早川書房1500作品が50%割引の超大型電子書籍セールがきたので、SF・ノンフィクション中心にオススメを紹介する - 基本読書

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今年も早川書房1500作品が50%割引の超大型電子書籍セールがきたので、SF・ノンフィクション中心にオススメを紹介する

早川書房の1500作品が最大50%割引という大型の電子書籍セールが来たので、僕が読了済みのものからオススメを紹介しよう。早川書房は定期的にセールをやるが、1500点級のセールを前回やったのは去年の6月頭なので、年に一回のセールとなる。これ以上安くなることはないと思われるので、この機会に買っておくといいだろう。
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上が対象作品のリストになる。最初は、SFとノンフィクションを中心に、前回のセールには含まれていなかった新作&おもしろかったものを中心に紹介していこう。

まずは目玉商品といえるSF作品から

まずは目玉商品から行くが、なんといっても『火星の人』(映画版は『オデッセイ』)の著者であるアンディ・ウィアーによる『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(本邦では2021年12月刊)の上下巻がセールになっているのが外せない!

ウィアーは『火星の人』次作の『アルテミス』が『火星の人』からの路線変更があったのもあってかウケがよくなかったが、『プロジェクト〜』ではもとの路線──科学者の男が人類が誰も陥ったことがないような困難な状況に置かれ、それを持ち前のユーモアと科学知識で解決していく──に回帰し、同時に宇宙SFと地球外生命探査という新たなテーマを開拓している。記憶喪失の男が物が落ちる速度が地球の重力とは異なることから宇宙空間にいることが判明し、なぜそんな状況に陥ったのか? が解き明かされていく構成が魅力なので紹介できる要素は多くはないが、読み始めたらとまらない圧巻のページターナーで、ここ最近では間違いなくベスト1、2を争う傑作だ。

続けて紹介したいのは、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を「ベスト1、2を争う」と表現せざるをえなかった原因である、劉慈欣『三体』三部作の完結編、『三体Ⅲ 死神永生』だ。前回は第二部までがセール対象だったが、今回は完結巻まですべてが対象。本作についてのレビューはさんざん書いてきたから繰り返さないが、第一部の三体星人とのコンタクトから始まって、全人類を巻き込んだ知的闘争が繰り広げられる第二部。最終第三部では人類の未来どころかこの宇宙まるごとを巻き込んだ生命の未来、宇宙の終わりの姿までを射程にとらえていて、SFの醍醐味をすべて満喫させてくれる凄まじい傑作だ。中国SFブームを日本で引き起こした立役者でもある。ちなみに、劉慈欣による短篇集『円 劉慈欣短篇集』(21年11月刊行)もセール対象になっている。壮大な情景を描かせたら並ぶものなしの劉慈欣だが、その手腕は短篇でも健在で、人間と科学の関係性、その探求の意味をハードに描き出している。
時間の王

時間の王

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中国SF繋がりでもう一冊紹介しておくと、三体の二次創作小説(『三体X 観想之宙』として来月本邦でも刊行)でデビューした宝樹の時間SF短篇集『時間の王』(21年9月刊)もセール対象。時間SFテーマなのでメインギミックはタイムトラベルだが、歴史テーマもあれば学生同士の恋愛にタイムトラベルをからめたものあり、相対性理論に基づく時間のズレをテーマにしたものありと多様な手管で楽しませてくれる。技術の高い作家で、何を書かせてもおもしろい。今注目の中国作家の一人だ。
大きくヒットしたり話題になったりすることはないが、意味がわからん奇想であったりその筆致だったり、癖の強い作風ゆえに根強いファンの多い作家R・A・ラファティ。実は昨年はやけにラファティの短篇集が出た年でもあって、その中でも「ラファティ・ベスト・コレクション」と題された傑作選二冊もセールになっている。

ろくに計算もできないし、文字も読めないドジ、まぬけ、うすのろのアルバート。しかし、そんなうすのろだからこそ、自分をなんとかしようと数々の発明を成し遂げ、世界の様相を一変させていく様を描き出す、ラファティ唯一のヒューゴー賞受賞作「素顔のユリーマ」が収録されている2巻に好きな作品が多い。

続いて、ヒューゴー、ネビュラ、ローカスというアメリカの主要SF関連賞を総なめにした話題作のメアリ・ロビネット・コワル『宇宙へ(上・下)』とその続篇である『火星へ(上・下)』(こちらは21年7月刊)をオススメしたい。1952年に巨大隕石が海に落下し、分岐した歴史を描き出していく宇宙開発SFだ。隕石が発生させた水蒸気と、それに伴う致死的な温暖化により人類は地球を脱出しなければならなくなるのだが──といって、現実ではこの後に停滞してしまった宇宙開発が突如活気づいていく、「ありえたかもしれない宇宙開発史」、そして女性計算者/パイロットたちの活躍を中心に描き出していて、ジェンダー的な意味でも時代をとらえた作品である。

『宇宙へ』にはツッコミどころがある(たとえば地球温暖化がいくら進行しようが地球を捨てようとはならんやろとか)のだが、『火星へ』はその穴を意識的に塞ぎにいっていて、『宇宙へ』が微妙だったな〜という人にも『火星へ』はオススメしたい。

あと、21年3月刊行のザック・ジョーダン『最終人類』も個人的にオススメ。さまざまな種族が宇宙にひしめくも、何らかの理由で人類が滅ぼされてしまった遠未来が舞台。しかし、人類の少女がたった一人、種族を偽装してまだ生き残っていて──と、少女の冒険譚から始まって次第にベイリーやグレンラガンばりの大スケールな物語に発展していく。知性のレベルが異なる知的生命体がこの宇宙に存在した場合、低レベル知的生命体は蟻が人間に飼われていてもそうと認識できないように、気づかぬうちにその行動をコントロールされるのではないか? という知性の階層問題を扱っていて、昨年刊行された海外SFの中ではかなり好きな作品なのだけど、「SFが読みたい」のランキングなどには上がってこなかったんだよね。

続いて目玉といえるノンフィクション作品たち

続いて今回が初セール対象となる目玉のノンフィクションを紹介していくと、最初に取り上げたいのはファイザー社と組んでワクチン開発に舵をきったビオンテックについて書かれた『mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来』だ。

昨年12月の終わりに刊行されたすぐ読んだら、そのままその年のベストになってしまったぐらい夢中になった一冊である。ビオンテックが誰も新型コロナウイルスの危険性を認識していない2020年1月に危機感をいだき、多大なコストをかけてワクチン開発に向かう決断ができたのはなぜなのか? また、その開発を一日でも早くするために何が行われたのか? など、mRNAワクチンの仕組みも含めて解説しているので、自分の体で何が起こっているのかを理解するためにも、みなに読んでほしい一冊だ。

もう一冊、コロナ関連書としては、『マネー・ボール』など数々の傑作ノンフィクションを世に送り出してきたマイケル・ルイスによる『最悪の予感 パンデミックとの戦い』も外せない。コロナだけを扱っているわけではなく、州の保健衛生官、型破りの異才と評されロックダウンの基準など感染症対策戦略をブッシュ政権下で策定してきた男など、職務を超え感染症対策に邁進してきた人々の姿が描き出されている。彼らの努力がコロナ禍でどのように機能したのか、あるいは機能しなかったのかまで。昨年大変話題になり、今回が初セール対象になったものとしては、マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』もある。良い大学に入って良い企業に入って多くの金を稼ぐ。それができているひとたちは自分が努力をしたおかげだと認識しているだろうが、実は「生まれ」がその要因の大半を占めることを指摘し、貧困にあえぐ人たちを「努力不足」と思い込むおごりこそが、階層間の「分断」になっていると論じて本邦でも話題になった。現代の状況を考えるにあたって、外せない一冊だ。また、ビル・ゲイツ20年ぶりの著作である『地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる』も地球温暖化問題とその対策を扱った本として類書と比較しても飛び抜けておもしろかった。ビル・ゲイツって気候の専門家じゃないでしょ? と思うかもしれないが、彼は自分の慈善基金団体で長年に渡ってこの分野への投資を続けていて、金をどの領域に使うべきかをめちゃくちゃに考え・調べているので、その知見は相当なものだ。たとえば、再エネ、原子力、蓄電技術、農業分野の改革、工業分野での二酸化炭素削減など、幅広い領域で二酸化炭素削減の方法を探っているので、読んでおけば、気候変動問題にたいする大きな見取り図を得ることができるだろう。それ以外に話題書というほどではないがおもしろかったノンフィクションを紹介すると、ジョニー・オデルの『何もしない』は、朝起きてネットをみてニュースをあさり、とにかく何かしなければとあくせく動く現代人に向かって「何もしないのをするのはどうだろう」と呼びかける一冊。単純に数日何もしない時間を使ってリフレッシュしよう、というだけの話ではなく、そもそも我々が「生産的」であると認識しているものを疑ってかかることを目的としており、哲学書のような趣がある。類似のテーマとして、TwitterやFacebookといったSNSがもたらす注意力への悪影響を論じそれらからいかにして離脱するのかを問う『デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方』もセールになっている。文庫なので500円とお安い。最後に、話題作とはいえないが個人的にオススメなのが、アストリッド・ホーレーダーの『裏切り者』。オランダ史上最悪の犯罪者と恐れられるまでになった男ウィレム・ホーレーダー。その男の実の妹が綴った犯罪ノンフィクション/体験記である。凄いのが、著者は単純に家族として少し関わりがあったどころではなく、兄の犯罪を告発するために積極的に情報をとりにいって警察に横流しし、兄を終身刑にまで追い込むことに成功する、その過程をがっつりと描き出していくのだ。

しかし、兄は獄中から妹である著者の暗殺指令を出していて──と、スパイ小説か映画のような緊張感が冒頭からずっと持続していく。犯罪系ノンフィクションとしては昨年ベスト級におもしろかった一冊だ。

その他

それ以外に話題作や注目作をピックアップしてみよう。たとえば、Netflixでもシーズン2が配信され、本作を世界的に有名にしたゲーム三部作の新作も開発が発表され──と依然として話題が絶えないウィッチャーシリーズの短篇集もセール中(2巻はセール対象外だけど)。短篇はNetflixドラマの原作になっていて、時系列的にも長篇の前日譚あたるので、ドラマがおもしろくて原作読みたいな〜〜という人は最初に読むのが良い。長篇だけでなく、ウィッチャーは短篇もめちゃくちゃおもしろいのだ。昨年は、映像化不可能といわれた『DUNE/デューン 砂の惑星』がドゥニ・ヴィルヌーヴによって見事に映画化されたがその原作新訳版の上・中・下もセール対象になっている。そもそもデューンは電子書籍化されたのが映画化に合わせての昨年10月のこと。ほとんどの人は持っていないと思うので、この機会にどうぞ。僕も映画を見る前に読み返したが、今読んでも色褪せることのない、美しく壮大な未来叙事詩だ。

おわりに

新作を中心に取り上げただけでけっこうな冊数になってしまったのでここらで終わりにしておくが、他にも『ファスト&スロー』の著者にして行動経済学の大家であるダニエル・カーネマンの最新作『NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?』も上下巻ともにセール中。人の信念や考えを変えるのがいかに難しいのか(反ワクチンの人をワクチン派に変えることが難しい理由など)を論じている、今重要な一冊『知ってるつもり 無知の科学』の文庫版もセール中だし、SFでいえばイーガンの作品もけっこうセールになっているし──と、探せばきっと読みたい本がみつかるだろう。他にもこれがオススメ! などあれば書いていってください。昨年もオススメ記事を書いているけれど、こちらも参考になると思います。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp