未来の社会の在り方に大きな影響を与える『2050年 世界人口大減少』から再生可能エネルギーへの転換を問う『グローバル・グリーン・ニューディール』などを紹介(本の雑誌2020年5月号掲載) - 基本読書

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未来の社会の在り方に大きな影響を与える『2050年 世界人口大減少』から再生可能エネルギーへの転換を問う『グローバル・グリーン・ニューディール』などを紹介(本の雑誌2020年5月号掲載)

ふりかえり

2020年5月号に書いた本の雑誌原稿の転載をする。この月はなんといっても『2050年 世界人口大減少』が良い。人口が与える影響は経済のみならず環境や政治体制にも大きな影響を与えるので、この数字が将来的にどうなるのかは未来を見通す上では非常に重要だ。いまだに人口が増えすぎて環境がヤバいとかいっている人間がいるが、事態はとっくにその逆──これからどんどん人口が減少していく社会に、世界はどう対応していくべきなのか? が問われる時代になっているのである。

それ以外だと、『グローバル・グリーン・ニューディール』も大統領選も関連して外せない。再生可能エネルギーへの転換は、政治的にどうこう言わずともいずれコスト的な問題で自然に行われるだろう。ただ、その場合社会の形も大きく変わっていく。今この分野に大きく投資しているのは中国やEUだが、それらの国がどのように投資しているのかがよくわかる一冊で、けっこうおすすめ。それ以外は、この号はけっこう内容がばらけておりますな。まあ、当然そういうときもある。

本の雑誌 2020年5月号

今回まずご紹介したいのは現代の諸問題を考えるうえで外すことができない世界人口の推移を扱った、ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン『2050年 世界人口大減少』(倉田幸信訳/文藝春秋)だ。

現在、地球には七十五億の人間がいて、国連の統計では二〇五〇年に九十七億人に達し、二十二世紀には一一〇億人あたりで頭打ちになるとしている。が、著者らによる試算では、二〇五〇年に世界人口は減少に向かうというのである。実際、すでに二十五カ国で人口が減少に転じている他、増加見込みだったアフリカも、すぐに減少に転じるのではないかとデータやフィールドワークの成果を挙げ、細かく論証していく。

人口が減少に向かう理由の一つには、都市化がある。人口の大多数が農業で暮らしていた時、子どもを産むことは投資だった。だが、都市では子どもは負債になる。高度化する仕事のために長期間に渡り教育を受ける必要があり、その間は労働力にもならないからだ。そうした変化が世界中で起こっていて、予想よりも早く世界人口が減少する推計が現実味を帯びている。世界人口の推移は、環境問題にも経済にも関わってくるからこそ、注視すべきテーマといえる。ぜひ、いま押さえておきたい一冊だ。

人口のついでに未来を考えるうえでおすすめなのが、川口伸明『2060 未来創造の白地図 人類史上最高にエキサイティングな冒険が始まる』(技術評論社)。脳波で機械を操るブレインマシンインターフェース分野、量子コンピュータにVRなど、今後伸びる技術は数多くある。本書は、二〇六〇年頃の近未来の働き方や社会が、そういったテクノロジーによってどのように変化するのかを描き出していく一冊だ。たとえばゲノム編集技術の進展により、再生医療のオーダーメイド化が促進され、網膜投影により視界の端にマニュアルなどを表示する技術が広く行き渡るなど、ワクワクさせるような未来を現在の研究や技術をベースに描き出してみせる。とはいえ、楽観してばかりもいられない。ジェレミー・リフキン『グローバル・グリーン・ニューディール』(幾島幸子訳/NHK出版)は、世界が再生可能エネルギー主体の社会への転換を遂げねば、二〇二八年には化石燃料文明が崩壊すると提言する一冊だ。近年は(実は多くの人の予想に反して)中国が再生可能エネルギー投資額で世界一に、EUも一〇年以上再エネへの転換を続けているなど、投資と技術開発が加速している。結果的に、近いうちに再エネのコストが低くなり、化石燃料の資産価値が下がることで、石油バブルが崩壊する可能性を指摘しているのだ。再エネの方が化石燃料より安く済むなら、莫大な費用を使って採掘する理由なんてどこにもない。

価値を失いつつある石油を強引に採掘して売り抜けようとした場合の環境へのダメージも深刻だ。本書ではその対策として、社会全体のインフラをまるごと作り変える大胆な方針を掲げていて、その理屈部分も読み応えがある。

経済の話題にいくと、ジョナサン・ハスケル、スティアン・ウェストレイク『無形資産が経済を支配する 資本のない資本主義の正体』(山形浩生訳/東洋経済新報社)がおもしろかった。ゲームや接客業におけるマニュアルのような、形のない資産が経済に与える影響についてのノンフィクションだ。無形資産代表格のソフトウェアが伸び続けているので、それが経済を支配するといっても当然では? ぐらいにしか最初思わなかったが、無形資産の性質を明確に定義し「有形主体の経済とどのようなふるまいの違いが出てくるのか」を納得する形で描き出している。それによって、なぜ現代社会でこれほどに経済や自尊心の格差が広まっているのか、金利を下げても投資が活発化しないのかについて、ある程度答えが出せるので、感心してしまった。チャールズ・グレーバー『がん免疫療法の突破口』(中里京子訳/早川書房)は数あるがん療法の中でも、免疫療法の歩みに的を絞って歴史を追った一冊だ。人間は生まれながらにして異常な細胞を排除する免疫システムを持っているのだが、がん細胞はその免疫システムを無効化する力を持っている。現代の免疫療法とは、がんに免疫システムがブロックされないようにし、免疫に本来の仕事をさせる仕組みを使う。

とはいえ、その治療法はすぐに見つけられたわけでも、受け入れられたわけでもなかった──と、発見と周囲を説得するための苦闘の歴史が語られていく。免疫療法はまだすべてのがんを治すにはほど遠いが、病の皇帝であるがんを、今まさに打倒しつつあることを実感させてくれる。

人類は様々なタイプの神や宗教的伝承を残してきたが、神の多くが人間の姿をしているなど、共通の傾向がみられる。レザー・アスラン『人類はなぜ〈神〉を生み出したのか?』(白須英子訳/文藝春秋)は、そうした神概念が人間の進化の過程で、いつ産まれたのか、それはどのように変化してきたのかを描き出していく、神と人間の関わりについての一冊だ。信仰を持つことに進化的必然性はあるのかなど、無数の観点から神と人類の関わりについて考察が深められている逸品である。
世界を変えた150の科学の本

世界を変えた150の科学の本

最後に紹介するのは、歴史上重要な科学ノンフィクションを一五〇冊以上紹介したブライアン・クレッグ『世界を変えた150の科学の本』(石黒千秋訳/創元社)。図版も豊富で、どんな本があるのかなとパラパラとめくっているだけで楽しい。石に刻みつけていた時代から科学の本をたどっていき、最終的には二〇一八年に出た本も取り扱ってみせる。たとえば、最近だとハラリの『サピエンス全史』も。科学書を辿り直すことで、科学の歴史を知ることができるのもいい。
本の雑誌449号2020年11月号

本の雑誌449号2020年11月号

  • 発売日: 2020/10/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
今月号の本の雑誌もよろしくね。マンガ特集!