持続可能なコーヒー栽培を目指して──『世界からコーヒーがなくなるまえに』 - 基本読書

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持続可能なコーヒー栽培を目指して──『世界からコーヒーがなくなるまえに』

コーヒーを日常的に飲む国が増えたこともあって、世界のコーヒー需要は年々あがっている。一方で、大量生産と安価な供給を目指し大規模に工業化されたコーヒーの栽培、育成が大地に与える悪影響。また、全世界的な気候変動が伴って㉚年後には今のようにコーヒーを楽しむことはできないという研究者もいる。

『世界からコーヒーがなくなるまえに』は、そんなコーヒー終了のお知らせの最中にいる現代にあって、持続可能なコーヒー栽培がいかにして行われえるのか、その可能性を追求する農家への取材をメインに構成されたコーヒーノンフィクションである。

もし私たちが美味しいものを味わい続けたいのなら、コーヒーとの関係も変わるべきだ。どこから豆が来ているのか知るべきだし、栽培環境やサステナビリティも忘れてはならない。量より質、つまり大量にコーヒーを淹れて飲み残しを捨てるのではなく、少なく、大切に、美味しい豆を轢いて淹れるべきだ。

僕自身、毎日家で安いインスタントコーヒーに牛乳をダバダバ入れながら読んでいるのだけれども、本書を読むことで世界でどのようにコーヒーが栽培されていて、それがどのように味に影響を与えているのか、安価なインスタントコーヒーが日本までどのように運ばれてくるのか、きっちりとおいしいコーヒーとは何なのかといったことについて大変勉強になった。

コーヒー豆栽培の困難さ

コーヒーというのはそもそも簡単には育たない作物なのだという。かなりの水分を必要とするし、土壌の養分を根から吸い上げるのでただでさえ長期的な栽培は難しい。効率の良い栽培をするためにはかなりの作地面積を必要として、それが平らである必要もあるから大量の木が切り倒され、木陰もなくなるせいで不足した分の水分をさらに注ぎ込む必要が出てくる。

土は時折休耕させねばならないが、ブラジルのように温暖な気候の場所では常に土壌から何かが芽吹いてフル回転で使われてしまうために、自然の回復力だけでは追いつかない。それをなんとかしようと化学物質を投入するわけだが、雑草や害虫の除去に毒性の強いものを使うこともあって、土壌は汚染され、微生物群も死滅してしまう。さらには虫には毒への耐性もついていき──と、そうした負のスパイラルに陥っているのが現状のコーヒー栽培なのである。

持続可能なコーヒー栽培

本書で中心となって取り上げられていくのは、ブラジルで作物だけでなく従業員まで含めてきちんと健康的で持続的な栽培・労働ができるように取り組んでいる農場の運営者シゥヴィア・バヘット、マルコス・クロシェの二人だが、シゥヴィアとマルコスはこうした環境破壊的な大量生産から距離をとっている。まず彼らは、作物を畝に沿って植え、その間にバナナやアボガド、豆類、多年草と一年草を交互に植える。これによって一年草が枯れることで肥料になるのだ。

雑草を抜いたりも手作業でやらないといけないし、収穫についても一個一個完熟度合いを確かめての手摘みになるので、当然こうしたオーガニックな方法での栽培は大規模な工業的手法と比べると効率が悪くなる。たとえば、鉱業型農場では1haあたり3トンの収穫量が見込めるが、良く機能しているオーガニック農場では1haあたり1.5トンと半分に過ぎない。つまるところオーガニックでいこうとした場合工業的手法と比較して相応の値段で売らないといけないわけだけれども、シゥヴィアとマルコスの凄いところは、きちんと自分たちの栽培の物語と品質の良さを伝えて、高く買ってくれる顧客を開拓することに成功しているところだ。

ただ、これについては他の農家が「そもそも高く売れるものを、無知であるがゆえに大手焙煎所に安く買い叩かれている」という側面もあるらしい。たとえば、アメリカのリーハイ大学の助教授によるとウガンダのコーヒー豆生産者達に取材した結果、そのうちの半分しか自分たちが栽培しているものが飲み物になると知らなかったという。彼らは自分たちが作物か パンを作るものだと思っていた。それぐらいに無知であると、高く売るどころの話ではない。

ウガンダに限った話ではないが、大手焙煎所は市場価格から数%低めの価格で買い取る代わりに、生産者の収穫全部を買い取ると約束することがある。この時に、生産者側が自分たちが高品質な豆を作っているにも関わらずその価値がわからないと、ただただ買い叩かれてしまうのだ。

マルコスはコーヒーの味わい方を教えるワークショップを開催し、うまいコーヒーとまずいコーヒーの違いを教え、さらにそれをどう栽培すればいいのかを教え、バイヤーに紹介することで周囲の生産者たちの暮らし向きがよくなるように行動を続けている。ただ品質を上げるだけでなく、きちんとした値段で売ることで生産者ら自身の生活も向上させ、土壌だけでなく生産者まで含めた持続可能な経済圏を築き上げているのだ。

おわりに

「コーヒーみたいに身近なものが認識を深め、世界を変えることができる。この美しい地球に生まれる人間皆が楽しんで、自分の必要性を満たし、そして自らこの世を去るときに次の世代にもっといい場所として残していく。いいことをしたと分かっていれば、去るときも自分にしてもずっと気分がいいだろう」彼は諭すように言う。

コーヒーについての話ではあるけれども、大規模な気候変動に備えて持続的な食糧生産が可能な体制へと移行していかなければならない、という大きな流れの中にある話であり、国連食糧農業機関による、土壌の劣化によって作物の生産能力は毎年約0.5%ずつ劣化しているという試算もある。コーヒーという身近なものからはじまって、文明の土台である食糧生産について考え始めるきっかけとなる一冊だ。

関連として、デイビッド・モンゴメリーの『土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話』も近著としてはおすすめである。

土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話

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