近日映画が公開されるスピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』、その原作である『ゲームウォーズ』の著者者であるアーネスト・クラインの第二作が本書『アルマダ(上・下)』である。アホみたいにゲーム・アニメネタが詰め込まれたオタクの夢のような小説だった『ゲームウォーズ』に引き続き、またまたゲーマーの夢を叶えてくれる戦争SFだ。正直そこまで出来がいいとは思わないけど、まあまあオモシロイ。
ゲーマーの夢を叶えてくれる戦争SF
そもそも僕は『ゲームウォーズ』も内容はともかく、オチは本当にクソだと思っていて……とその話はいいんだけれども、本作(アルマダ)の何が”ゲーマーの夢”なのかといったところから紹介してみよう。物語の最初の舞台となるのは、架空のオンライン戦争ゲームである《アルマダ》や《テラ・ファーマ》他無数のゲームが存在するアメリカ。主人公のザック少年はオレゴン州で暮らすゲーマーで、最近は《アルマダ》にはまり込んでおり、彼はこのゲームではランキング6位の世界有数の実力者だ。
《アルマダ》と《テラ・ファーマ》はどちらも同じ会社によって運営されており、ストーリーラインも共通している。異星人が来襲した近未来が舞台で、イカっぽい顔をしたヒューマノイド型宇宙人が人類を滅ぼすために攻めにきている。人類を超越した科学力を持ち人類を一瞬で全滅させられるはずだがなぜかちんたら侵略しており、人類は敵の装備を鹵獲しその技術を奪いつつある……。ゲームプレイやの目的はそこに新兵として参加し、さまざまな戦闘ドローンを操作して侵略者を撃退することだ。
間抜けなプロットのゲームだが、これが世界中で大ヒット。まんまとザック少年もはまり込んでいるというわけだが──そんな彼にある日転機が訪れる! ATS-31航空宇宙軍用シャトル──《アルマダ》と《テラ・ファーマ》に共通する地球防衛同盟軍の宇宙船の一種──が、突如彼の通う高校に着陸し、ザック少年をパイロットとしてスカウトしにきたのだ。なぜなら《アルマダ》や《テラ・ファーマ》は、ゲームの話ではなく”現実に起こっていることをそのままゲーム化したもの”であり、秘密裏に設立された地球防衛軍は何十年も前から侵略に備えて、ポップカルチャーの特定のジャンルを利用して大衆の潜在意識に対して働きかけを始めていたからだ!
ゲームの技術はそのままパイロットとして必要な技術であり、世界ランク6位の彼の腕を頼みにスカウトに来たのだった。そうして彼は愛する家族──母親しかいないが──とも連絡できずにわかれ、地球防衛軍へと入隊することになる。侵略者共から地球人類を守るために……という感じで、設定的には古臭すぎ&トンデモすぎでかなりキツイけれども、たぶん、あえてそういうレトロなところを狙っているのだろう。
さすがに設定的にそれで終わりって言うことはなくて、なぜ敵の機体にはそこを狙えば壊せるという、まるでゲームのような弱点を持っているのか? なぜ突然襲ってきたのか、それも人類を一瞬で殲滅させられるにも関わらず、じわじわとなぶり殺すように侵攻して? という疑問はまだあり、展開的にもう一捻りあるのでその点については安心してもらいたいところだ。最初に述べたこの世界で叶えられるオタクの夢の一つは、”ゲームのように整然と整理された世界を生きたい”ということでもある。
所狭しと投入されるゲーム・映画・SF小説ネタ
プロットとしてはそんな感じ(ゲーマー少年が地球防衛軍に入隊し、そのゲームの腕を使って人類を守るために闘う)なわけだけれども、本書の(というか著者の)魅力は所狭しと投入されていく、ゲーム・映画・SF小説ネタの数々だろう。
たとえば地球防衛軍は何十年も前から侵略されるのがわかっていたので、ポッポカルチャーを通して大衆の潜在意識に対する働きかけを始めたとかいうアホみたいな設定があると先に書いたが、『スター・ウォーズ』の製作も『スペースインベーダー』も全部この地球防衛軍が”アンチ・エイリアン”意識を浸透させるプロパガンダの一環だという話まで出てくる。そこまでいくとバカバカしいを通り越して笑ってしまう。
「嘘だ」
「いや、ほんとさ」レイは言った。「最近になって『スター・トレック』のリブート作品や『スター・ウォーズ』の続編が立て続けに作られたね。あれはEDAの人類に対するサブリミナル訓練の最終仕上げの一環だ。製作に関わったバイアコムやディズニー、J・J・エイブラムスは、そんな背景があることを知らないだろうし、裏で糸を引いているのが誰かなんて考えたこともないと思うがね」
『ゲームウォーズ』を読んだ時も「これ、サンライズとかに怒られないのか?」と心配したもんだけど、今回もディズニーやらなんやらに怒られてしまいそうな記述がたくさんある。他にも、作中で出て来るプレイヤー・ネームはみんな何かの映画やゲームからの引用だし、主人公の見張り役は「タトゥイーンでルークの成長を見守ったオビ=ワンだな」と口を開けば映画ネタをぶっこんでくるし、それが最終的には作中のいまだ明かされぬ設定と関わってきて──というのは、うまいところではある。
残念なとこ
いろいろと残念なところもある。キャラは主人公を筆頭にことごとく魅力がないし、ヒロインはえ、ほんとにキミはヒロインなの? というぐらい影が薄いし、戦闘描写はおもしろくない。それでも抜群に読みやすくはあるし、先に書いたようにSF小説を強引に陰謀史観的に回収していくところとかは「バカだなあ」という感じで笑ってしまう。なんというか全体的にそれが好きだからやらずにはいられなさが炸裂した作風・作品で(それは前作もそう)、わりと好意的である(だから紹介もしている)。
- 作者: アーネスト・クライン
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
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