- 作者: 山本弘
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谷口忠大さんが考案されたビブリオバトル、その公式ルールは下記を参照。
- 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
- 順番に一人五分間で本を紹介する。
- それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを二〜三分行う。
- 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。
『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』及び『幽霊なんて怖くない BISビブリオバトル部』の二冊はシリーズもので、とある中高一貫の学校に存在するビブリオバトル部を舞台にした青春読書小説だ。SF小説が大好きで、孤独に本を読んでいた伏木空が、ビブリオバトル部に出会い、多くの人間と本を読み、オススメを紹介しあう楽しさを知り、ビブリオバトルを通して「好きな本をどのようにして人に紹介するのか」「いろいろな人の価値観を認め、受け入れること」を体験していく。
その過程で嫌味な感じの他校とのビブリオバトル戦があったり、<戦争>や<怖い話>をテーマにしたビブリオバトル戦があったりとストーリーがあるわけだが、「多種多様な本がいろんな形で語られていく」わいわい感、普通の書評とは違った雑談的に様々な本が繰り広げられていく楽しさがとても良い。ビブリオバトルの面白さだけでなく、本を読むこと、それについて語ることの面白さがあるのだ。
多様なジャンルの垣根を壊す
ストーリーラインとして存在している、「ノンフィクションしか読まない同級生に、「SFを好きと言わせたい」」という彼女の動機は同じようなことを考えていろんなものをごった煮にしてブログを書いている僕としては共感しきりであった。世の中、読書が好きですといってもノンフィクション派はノンフィクションしか読まないし、フィクション派はフィクションしか読まないというある種の断絶が起こっている。
「そんなことありません。これは普遍的な真理です。俺たちは現実世界に生きてるんです。アニメや特撮の世界じゃなく。だからノンフィクションこそ最も重要なものなんですよ。俺たちの生きている世界の真の姿を知ることが」
これは作中人物である埋火武人君の言葉だがこんな感じで、読まない人は読まない。しかしこういってしまってはなんだが、現実世界とはフィクションまで含めて現実世界なのだ。巧みな語り部の物語は血圧を上昇させ時に涙まで流させ行動に影響を与える。精神を落ち着ける時もあれば活力になることもある。
そうした実用的な効果を抜きにしても、フィクションとノンフィクションって僕に言わせればどっちも「面白い!」という点ではまったく同じものである。本シリーズにおいては、部の面々はノンフィクションしか読まなかったり、SF好きがいたりミステリ好きがいたり特撮好きがいたりと各々の専門ジャンルがわかれている為に、自然と多くのジャンルが一堂に会するようになっている。
そんなにいうんだったら……とSF大好き少女はノンフィクションの面白さにのめり込み、その逆もまたありえる。こうしたジャンルの越境、垣根を壊していくストーリーラインはそのまま作中で扱われていく「多様な価値観を、理解できないにしても否定はしない」ことにつながっていく。読まないのであれば読まないのでもいいのだが、少なくとも否定をするのはやめようと。それは多様な本が集まってきて、勝ち負けよりも「楽しく、本を紹介しあう」ことに重点をおいたビブリオバトルで描くには、うってつけの内容だと思う。
本が話題と文脈を産み出す。
ビブリオバトルの醍醐味の一つは──これは人による相違が少ない部分だろうと思うが、「一人では決して予想のつかない本を持ってくる」人がいることだ。「まさかそんな本を持っているのか」「そんなものを持ってきていいのか」という驚き、そこから「なぜこれを持ってきたのかといえば──」とまた別の文脈が広がっていく。
一冊の本はそれがどのような本であれ大量の文脈の上にあるものだ。ジャンルで言えばどのような歴史の、先行作品の何を発展させた、あるいは同じアイディアを元にしているのか。作家同士の関係、テーマ的な繋がりなどなど。本が一冊出るたびに、そうした話題でわっと盛り上がっていく面白さが生まれてくる。
それを小説で描く時の問題点は、「一人の作家」が複数の人間が生み出す予想外の一冊に相当するものを喰らわせることができるのかだが──山本弘さんほどの読書量(と小説的な技量か)があれば、その心配は杞憂であった。アニメ・ライトノベル系から特撮系まで含めたサブカル全般、サイエンス系の専門書、それからもちろん膨大な量のSF史が次々と繰り出されてくる。まるで一人ビブリオバトル状態だ。
また、面白いと思ったのはある程度固定化されたメンバーでやるものなので、競技が終わった後や日常的な会話まで含めて本の話題が詰まっているところ。本を目の前にしておしゃべりを始めれば「あ、これ面白かった」「これ面白い?」「これ面白いよ〜これこれこういう作品でね〜」と終わらない本の話がスタートする。実質膨大な量の本の書評を書くことに等しいのだが、見事にそれを達成している。
書評だとどうしても不特定多数の人間に向けた広範なアピールになってくるところが親密な関係だと個人の趣向がある程度わかった上での提案になっていて、実際の会話の面白さに近いものが表現されているのも良い。話題が話題をよび脱線に次ぐ脱線、そうそう、読書家同士の対話ってだいたいこんな感じだよなあと読みながらうなずいてしまった。『「進撃」ってジャンルとしてはSFなの?』とかね。SFだという人がいてもいいし、SFじゃないという人がいてもいいのだ。
最後に
SFを読んでいない人に、SFの魅力をどう伝えればいいのか。
ヒントになるのは、三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫)や野村美月『文学少女』シリーズ(ファミ通文庫)。あれのSF版みたいなものを書けないかと前から思っていました。SFの好きな少女が、毎回SFの魅力を熱く語る話はどうかと。
と山本弘さんは『翼を持つ少女』のあとがきで語っているが、僕もまったく同様のことを考えて(小説は書いたことがないから)この前動画を作ったのだった。時系列的に参考にした感じになってしまったが、同じことを考える人はいるものだな。
【VOICEROID+】結月ゆかりの現代SF入門 第一話『SFが読みたい! 2015年版』 ‐ ニコニコ動画:GINZA
ちなみに、ビブリオバトルでの本の紹介はカットとかされずにそのまま全員分書かれているので、もしビブリオバトルに参戦しようと思うのであれば参考になるところが多いだろう。自分の本についての愛を並べ立てるだけではなかなか聞き手には伝わらないもので、本当に伝えたかったら「まず多くの人の関心をひく話題から話し始めて……ここであっと驚くネタを投入!」みたいな戦術が必要とされるのだ。