『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』をダシにして文明再興SFを語る - 基本読書

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『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』をダシにして文明再興SFを語る

この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた

この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた

先週末HONZに文明が一旦崩壊したあと、いかにして文明をリスタートさせるのかをテーマにして書かれた『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』の記事を書いたらこれがけっこう読まれていたみたいだ。honz.jp
アクセス数とかはわからないけど※この記事を書いた後でアクセス数を見れるようにしてもらえました。 なんかブックマークコメントやTwitterの言及がいっぱいついていた(Twitterの方はみてないけど)。やれ異世界転生物で使えそうだとか、SFでこんなものがあるとか。僕もこの記事を書きながら自分のブログだったらSFへの言及がマシマシになって収拾がつかなくなっていただろうと思ったので、ただHONZに書いた記事を自ブログに転載してもつまらないし「こんな文明再興SFもあるよ」とか「こんな文明再興SFがあった(読んでない)けど面白そうだ」とかそういう話をしようと思う。

ひと言で「文明再興SF」といってもそこには幾つかの種類がある。たとえば文明崩壊後の世界の人々がいかにして生き抜くかを描いた作品は『ザ・ロード』やら『ブラックライダー』やらいろいろある。特に英語圏では最近世界崩壊後作品が大ブームで洋書SFを調べていると「また文明崩壊系かよ」と辟易してしまうぐらいだ。そういうのは「再興」してないから一応除外。また『まおゆう魔王勇者』のように地球とは成り立ちの違う異世界に、現代の科学的知識を導入し文明を一足飛びに進化させる傾向の異世界ファンタジー系列もあるが、現代文明が一旦崩壊したわけではないのでこれもまあナシとしよう。そこを入れはじめたらキリがなくなってしまいそうだ。

じゃあ、反対に文明再興SFに含まれる条件は──と細かく決めていくつもりもない。適当に思いついたものをあげていこう。というように、僕は別段この分野の専門家でもなんでもないので、「こんなのもあるぞ」とか「これも知らないのかよ」みたいなのがあったら好きな手段で伝えてくれると嬉しい。「異世界転生物はとりあげないといったけどこれは傑作だぞ!」とかあったらそれもヨロシク。

怨讐星域

怨讐星域? ノアズ・アーク (ハヤカワ文庫JA)

怨讐星域? ノアズ・アーク (ハヤカワ文庫JA)

何から始めようかなあと思ったけど、一番最近読んだ梶尾真治さんの『怨讐星域』全三巻からはじめよう。SFマガジンで8年以上もの長きにわたって連載された作品で、さすがにそんなに長い間連載していたらテーマなり思想なりがズレて作品としてブレブレになっているんじゃないのと心配になる。心配になるが、実際はベテランの貫禄をみせつけられるように、最初に設定された芯が図太く、まったくブレることなく最後まで走りきってみせた。結末には賛否ありそうだが、1巻2巻3巻どのエピソードも楽しませてくれる。
怨讐星域? ニューエデン (ハヤカワ文庫JA)

怨讐星域? ニューエデン (ハヤカワ文庫JA)

どこが文明再興なのか? 太陽フレアの膨張で「地球ヤバイ」状態になっている状況から物語が始まる。で、一部の選ばれし人々3万人は世代間宇宙船ノアズ・アークに乗って遠くはなれた別の惑星へ飛び立っていく。一方地球に残された人々は「あいつら、自分らを捨てやがった! 最悪だ!」と失望に沈むのだが、なんと星間転移技術が発明されてノアズ・アークが何世代もかけて辿り着く予定だった惑星に「先に」到着してしまう。ただしそこは当然文明も何もない、知識だけがある未開の地だ。たまたま生き延びた「残された人類」は、自分たちを一体化させる手段としてノアズ・アーク号に乗った人間達への「復讐」を宗教のように揺るぎなく灯して、いつかくる裏切り者共への悪意を胸に文明を再興させることになる。
怨讐星域? 約束の地 (ハヤカワ文庫 JA カ 2-16)

怨讐星域? 約束の地 (ハヤカワ文庫 JA カ 2-16)

めちゃくちゃワクワクさせる設定ではなかろうか? 何も知らずに世代間宇宙船で様々な問題に追い立てられる人々と、未開の地での再生を交互に描いていく本作はエピソードの一つ一つが珠玉の短編であると同時に血のつながりが如実に感じられる異なる進路を辿った「人類の物語」になっている。……まあ、文明再興の部分はあまり書き込まれずに、割合さらっとしているんだけど。でも面白いですよ。

天冥の標

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

全10部での完結を目指して今まさに走っている最中であるシリーズ物で、そのうちの一作がこの記事のテーマである「文明再興」にあたる作品。もし諸君らがこの記事を読んでどれか一つだけ、別に何冊あったっていい、心の底から面白い本に出会えるのであればと信じる人間であるのならば、この作品を読んでもらいたい。ここにはSFの楽しみが、小説の面白さの極みが全て詰め込まれている。
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

パンデミックSF、スペースオペラ、エロ、超高度AIじみたロボット、人類以外の知的生命体まで物語に加わって極力物理描写に則って描かれていくこの世界はもはや単なる人類の物語ではなく、広い広い宇宙それ自体を主人公とした一大宇宙年代記じみた圧倒的なスケールを獲得していく。そのうちの一節で、人類は「残存人類──○○○○人」と具体的な数が数えられるほど追い込まれることになる。本作が文明再興物としても飛び抜けて凄まじいのは、文明が破壊され人類がその数を減らす様を徹底的に描写し続けてきたことだろう。銀河に広がってきた人類を丁寧に積み上げて描くこと。ぐつぐつとよく味がしみこむように煮込んできたご自慢の世界に対して、ぶちまけてなおかつ火をつけてみせた。

冷酷なドSにしかそんな所行はできない……と読んでいて呆然としたものだ。本シリーズはしかし、当然ながらそこから人類を立ち直らせるにはどうしたらいいのか、どのような問題が立ち上がるのか、資源のリサイクルの問題、欠けた知識は何なのか、復興のスピードはどれぐらいなのか……一つ一つをこれまで世界を積み上げてきたのと同じぐらい丁寧に描写してみせる。圧巻といっていいが、何分長いので、覚悟のある人に挑戦してもらいたいものだ。ちなみにシリーズ全体のレビューは下記参照。huyukiitoichi.hatenadiary.jp

復活の地

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

『復活の地』は全三巻の文明再興物語──ではなく、ドでかい災害にあった国を立て直していく国家再生物語なのでこの記事の趣向からはズレるのだが、小川一水さんの『天冥の標』を紹介したので近接作品としてついでに。幾つもの惑星に国家群が散らばっている状況で、都は壊滅するし政府は瓦解するし周囲の惑星からつけこまれそうになるし、そういう状況をなんとかしようと皇族と官僚が死ぬ気でがんばるぞ!! っていう、設定の派手さとは裏腹にやっていることはとてつもなく地道さを必要とする作業だ。しかし、復興とはそういうものではないだろうか、とも思う。

スタークエイク

スタークエイク (ハヤカワ文庫 SF (713))

スタークエイク (ハヤカワ文庫 SF (713))

ロバート・L・フォワードのハードSF『竜の卵』の続編。『竜の卵』は読んで、滅茶苦茶面白かったんだけどこっちは読んでない。なぜ読んでないのか? たぶん忘れていたんだろう。中性子星の表面で過ごす特殊な知的生命が人類から知識を学んで加速的に成長する、というほとんどそれだけの話をハードに描写したのが『竜の卵』だったけど、こっちはその文明が大規模災害に襲われ、一旦崩壊し、今度はそこからの再興を果たす物語のようだ。0から移動して10に至ったものが(前回の積み上げを無にするようにして)まだ0になるのって続編としては悪手のように思えるけど評判は上々。

悪魔のハンマー

悪魔のハンマー 上 (ハヤカワ文庫 SF 392)

悪魔のハンマー 上 (ハヤカワ文庫 SF 392)

ラリイ・ニーヴン&ジェリイ・パーネルによって書かれた、彗星の地球衝突物。ちなみにこういう古い作品は読んで記憶から引っ張り出してきているのではなく、最近SFマガジンで3号連続で行われたハヤカワ文庫SF総解説という海外SF2000番を全網羅した解説記事をあらって目についたものをピックアップしているのだ。あとHONZ記事についたブックマークも参考にしてます。はい。悪魔のハンマーが彗星のことなのだとしたら単なるディザスターストーリーなんじゃないの、と思うところだけど「実際にぶつかった後」、の食料不足や巻き起こった塵による気候変動など様々な問題に対処していく物語のようで、再興とはまた違うのかもしれないけれどサバイバル的で面白そう。内容はここを参考にさせてもらいました。⇨悪魔のハンマー: Manuke Station : SF Review

宇宙のサバイバル戦争

宇宙のサバイバル戦争 [SF名作コレクション(第1期)] (SF名作コレクション (6))

宇宙のサバイバル戦争 [SF名作コレクション(第1期)] (SF名作コレクション (6))

著:トムゴドウィン、これはブクマコメントを見て知ったもの。全く知らなんだ。2005年の復刊だが、なんと在庫がある。これはストーリーはなかなかおもしろそう。重力が地球の三倍もある(これはAmazonに載っているあらすじからとっているが、別の場所では1.5Gともある。)惑星に取り残された人々が何世代もかけて自分たちをそこに置き去りにした人達への恨みを胸に生き延び、文明復興に勤しむという。最初に書いた『怨讐星域』しかり、『天冥の標』しかり、時を超えて受け継がれていくのは「血」だけでなく「恨み」もあるんだなあとこうして過去の作品を振り返ると思う。

黙示録3174年

黙示録3174年 (創元SF文庫)

黙示録3174年 (創元SF文庫)

これはAmazonのあらすじだけでめちゃくちゃおもしろそうだから一部引用。『最終核戦争の結果、一切の科学知識が失われ、文明は中世以前の段階にまで後退した。だがその時、一人の男が災禍を逃れた数少ない文献の保存につとめるべく修道院を設立した。そして30世紀をすぎる頃、廃墟の中から再建が始まろうとしている。今度の文明こそは、自滅することなく繁栄の道を歩めるだろうか?孤高の記録保管所が見守る遠未来の地球文明史。』あらすじだけ読む限りでは今回のテーマに最も近い作品ではなかろうか。Amazonのレビューも熱が入ったものが多い。ただしこれも1960年付近に出版された作品で随分古い。

ティアリングの女王

ティアリングの女王 (上) (ハヤカワ文庫FT)

ティアリングの女王 (上) (ハヤカワ文庫FT)

ティアリングの女王 (下) (ハヤカワ文庫FT)

ティアリングの女王 (下) (ハヤカワ文庫FT)

随分古い作品ばかり・しかも僕が読んでない本を連続してローテンションで書いてきてしまったので、最近の、ついでにSFからも離れてファンタジーで話を出すと『ティアリングの女王』は実は文明再興SFの側面を持ったファンタジーだったりする。跡継ぎの石を持つ主人公の女性は実は王女で、ずっと安全の為人里離れた森で暮らしていたのだが──。「なんてコテコテのファンタジーだ!!」と読み始めは思うが、実はこの世界「渡り」という事象によって過去にあった人類文明のほとんどが失われてしまっているのだ。

しかし一部の本(指輪物語)や技術は依然存在しており、彼女は王として隣国に搾取され貧困に悩まされる自身の国を牽引していく必要に駆られる時、まず「印刷技術」を普及させようとする──。シリーズ第一弾でまったく完結していないのが残念だが、装いはファンタジックながらも実態としては文明再興SFのような側面を持っている作品なのでついでにご紹介した。

そんな感じ

こうやってみていくと、非常に限定した中であっても文明再興は様々なバリエーションに分かれますね。そもそも文明が破綻されるまでを綿密に書き込むか・書き込まないかがあるし、人類文明か・人類文明以外かの区分もあるし、意外とあっさり文明を復興させてしまうSFもあれば、何百年も復興させられずにぎりぎりの生活を強いられ続ける作品もある。

だらだらと書いてきてしまったが、他にもたくさんあるだろうな。ファウンデーションシリーズとかはここに加えてもいいものだろうか? とか色々考え始めて、検索したらいくつか文明再興っぽい作品がヒットしてしまったが(マイクル・P・キュービー=マクダウエルのアースライズとか)、日本沈没……はともかくとして第二部以後はどうなんだとかいろいろ思い浮かんできたけど疲れたのでここらで切り上げます。なんか面白そうなのがあったらここのコメントでもいいし、Twitterでもいいし、メールでも良いのでご連絡くださいな。

※07/02追記 皆様方コメント感謝。この記事はコメント及びブックマークにて完成しますのでコメントまでご参照あれ。