それぞれの分野で一級の著名人たち6人にインタビューを行ったインタビュー集。
銃・病原菌・鉄のジャレド・ダイアモンドが「現時点では」一番名前が売れているように思うが、その他も「言語には普遍文法が存在する」としたノーム・チョムスキーに『妻を帽子と間違えた男』で有名な脳神経科医であるオリバー・サックス、初期の人工知能についての研究を行い「人工知能の父」と呼ばれるミンスキー、ネット上のトラフィックのほとんどを受け持っている、陰の大企業アカマイ・テクノロジーの設立者であるトム・レイトン、そして二重らせんの著者であるジェームズ・ワトソン。
凄まじい面々であるというほかなく、それ故発売する前から注目していたんだけど、インタビュー集ってのはけっこうダメなものが多いので読んではいなかったんだよね。当たり前のことを焼き直して語らせているだけならまだしも、トンチンカンな問いかけをしてたりすると目も当てられない。特に一人に絞ったものならばそれでもまともな物が出てくる可能性があるけれど、それが6人とあっては……内容はばらけて著書のあらすじをなぞったような薄い情報しか得られないのでは……。
ところがそれは杞憂だった。インタビューワーもまた凄い人だったのだ。やけにマサチューセッツ工科大学の関係者が多いが(ジャレド・ダイアモンド以外全員関係者じゃないか)、インタビューワーであり本書の編集・翻訳も行なっているのが著者の吉成真由美さんで、彼女がマサチューセッツ工科大学卒業者だったのだ。まあまず間違いなくそこからの伝手なのか関連なのかはわからないが、流れでこのインタビューも実現しているんだろう。
インタビューというのはされる方よりするほうが難しい。著者が既に本に書いていることをそのまま聴いても意味がなく、書かれていないことで、かつ本に書かれている内容を踏まえた上で、その先になにがあるのか、そしてそれはちょっと考えたら誰にでもわかるようなことではなく、訪ねる相手だからこそ答えられる特殊な内容について聞くのが、切り口の鋭いインタビューだ。
吉成真由美さんのすごいのはかなりジャンルの異なる相手に向かって、かなり勉強してのぞんでいるところ。ジャレド・ダイアモンドだったら著作のほぼすべてについてに関連した質問が出るし、ミンスキーへの質問は「なぜ福島第一原発にロボットを送り込めなかったのか?」というものが一番最初のものになっている。これが最初に出てくるってのがまあ凄いよね。
だがまあ実際には福島第一原発にはちゃんと探査用のロボットが送り込まれているわけなんだけど。しかしまだまだ試験段階のようなもので、完璧な探査ロボットというわけでもないということならまだ問題点も多いかもしれない。ミンスキーはロボット研究者はエンターテイメント化、ロボットを人間に見せかけることばっかりに熱中しているというが、そうでもないと思う(企業はそうだが)。
またアカマイ・テクノロジーズなどのネットワークインフラ技術に関しての質問や、応答にまでついていっているのでまあ本当にすごいひとだなあと。MIT卒業しているんだから当然といえるのかもしれないが。誰ひとりとっても一級の知識人たちなので、単純な質問でも返ってくる応答は深い。一方で、「専門外」のことについてもお決まりのように質問をしているのでその点については話半分に聞くなどの注意が必要である。
たとえばオリバー・サックスに向かって「人間の能力のうちどれぐらいが遺伝で決まって、どれぐらいが教育または環境で決まっていくと思いますか」などと聞いているけれどこうした質問は完全に的はずれなもので、オリバー・サックスがなんと答えようが聞く価値がない質問だと思う。その件に関しては専門家ではないのだから。
必ず最後に推薦図書を聞いているので、読む本が増えたりした。もっともまともに書名を答えているのは3人ぐらいしかいないけれど。
- 作者: ジャレド・ダイアモンド,ノーム・チョムスキー,オリバー・サックス,マービン・ミンスキー,トム・レイトン,ジェームズ・ワトソン,吉成真由美
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2012/12/06
- メディア: 新書
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