Django Unchained - 基本読書

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基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

Django Unchained


人がゴミクズのように死んでいき悪い奴らはぶち殺され、爆発が巻き起こる!! ガンガンガン、ドガーン! そしてポーズを決めるガーンマン! 荒ぶれどもに賞金稼ぎ! 銃を抜けば早すぎて眼がとまらねえ! 血はどばどば出るわ残酷な表現はてんこ盛り! なんの倫理的な教訓も導き出せないただただ爽快な話で、笑いと興奮が止まりませんなあはははは。

うはは、最高の映画だった。クエンティン・タランティーノ監督の最新作。僕はQTの作品を他にはイングロリアス・バスターズぐらいしか観てないし、西部劇やらマカロニ・ウェスタンなんかまったく見たことがない人間なのでそうしたジャンル映画、監督に連なる系譜としての作品の位置づけみたいなのはさっぱりわからないのだけど(パンフレットを読んで知ったけど。)、とにかくこれは面白かった。

あらすじの骨格は超単純で黒人奴隷の男(ジャンゴ)が、同じく奴隷で離れ離れになった嫁さんを探しにいく話。その前にジャンゴは白人の男で元歯医者で現賞金稼ぎである、シュルツにハントする予定の相手の顔を知っているからという理由で奴隷からフリーマンにしてもらうのだが、腕を見込まれ二人はパートナーとなり、嫁さんを救い出す強力なチームになる。

ジャンゴが嫁さんを獲得するまでの物語ではあるが、その中で常に立ちはだかるのが黒人は自由ではない、自由であってはならないとする考え方、社会通念であって、ジャンゴが嫁さんを獲得するというのはつまるところジャンゴがいかにして自由を獲得していくのかの物語になる。ジャンゴが次第に鎖を自分から外していく、言葉遣いも、態度も、何者も、誰にも縛られない一匹の自由人に。

法律すら彼を止めることはできない。

まあなんとも凄まじく、盛りだくさんの話になったものだ。とてつもなくかっこいい一瞬の仕草、一瞬の動作、表情といったものが、これだけ人間をしびれさせるものかと感動がとまらなくなる。なんてことのないただの一場面であっても綿密に組み立てられていることが細部から伝わってくるのは、どの場面をみていても決して目が離せないことからもわかる。たとえば男達がいて、その男達が普通にいつもどおりの生活をしていると描写するほんの5秒足らずの映像が、たまらなく豪華なのだ。

あとこれはやはり、人が人を殺す映画なので。復讐劇の要素も持っているのだが、コレほどまでに快感に沿ってそれを成し遂げてくれるともはや喝采をあげるしかない。理不尽に圧迫され押し付けられ自由を束縛されていたら、誰もが自分を圧迫するやつを消し去りたいと思うはずだ。実際はなかなかそうもいかないわけだが、映画の中でジャンゴは盛大にそれをやってのける。

ムカつくやつを、盛大にぶっ殺すというのはそれはもう快感なのだよ。殺せ! 殺せ! 殺せ! 鞭には鞭を! 右の頬をぶたれたら相手の腹を撃ち抜くのだ! ははははは、まあそうはいっても、そこまで単純な話ではない。特にこの映画で書かれている奴隷に対する残酷な仕打ちや、その実態などはアメリカ人にとってはだいたい五世代前の話だというが、これをそれ程昔のことだと捉えるか、つい最近のことだと考えるのかは難しいところで、現にアメリカではまともに奴隷制度が映画で扱われることが、ほぼない。

残酷な描写があるかと思えば漫画一歩手前のコミカルな演技、笑える意味でもかっこいいという意味でもがあり、奴隷制への視線は重たくそういうのを抜きにしてみると単純にむかつくやつをぶち殺していく爽快感はなにものにも代えがたい娯楽につながっていく。てんでばらばらな要素に見えるがどれも明快につながっていてひとつの世界を作り上げていくのがたいへんおもしろかったのですよ。あとひたすらかっこいい。

もっとも脚本は「少なくとも30分は減らせたんじゃないか」と思わせる分量でしたけど。2時間45分って、ちょっと長くない? 長い件とは無関係で、以下ちょっとだけ本編のアイディアに触れております。
この作品を回していく核のアイディアのひとつに奴隷同士をどちらかが死ぬまで戦わせる(当然金を賭ける)というのがあるのだがこれは実際には存在しなかった文化らしい。こを参照⇒

No. While slaves could be called upon to perform for their owners with other forms of entertainment, such as singing and dancing, no slavery historian we spoke with had ever come across anything that closely resembled this human version of cock fighting. As David Blight, the director of Yale’s center for the study of slavery, told me: One reason slave owners wouldn’t have pitted their slaves against each other in such a way is strictly economic. Slavery was built upon money, and the fortune to be made for owners was in buying, selling, and working them, not in sending them out to fight at the risk of death.

Django Unchained Mandingo fighting: Were any slaves really forced to fight each other to the death? ようは奴隷というやつは純粋に経済的な存在であって、その経済的な存在が死ぬようなリスクをとってまで戦わせるようなことはなかったということらしい。まあ生きていればその間金を生み出し続けてくれるし活用し続けられるわけだからそんな簡単に消費しないよと言われればそうなのかもしれない。相場がどの程度のもんだったのかよくわからないが。

そうはいっても本作は別に奴隷制度を忠実に書いたわけでも、批判しているわけでもなく(まあ批判しているのかもしれないけど)、基本は純粋な西部劇、復讐劇、愛の物語なのであって、あまり細かく突くような場所ではないだろうが、あんなもんが日常的に行われていたとする誤解が広まるのが不都合だという人がいるのもわかるなあ。僕も普通にあんなことあったんだなーと思ってしまったし。

もっともこれは勝手に想像されたものではなくちゃんと元ネタがある。もともとこの黒人奴隷同士を戦わせる遊びのことをマンディンゴ・ファイティングと作中では呼んでいるが、元ネタはマンディンゴというタイトルの映画。こちらは75年の映画で、ここでも黒人奴隷同士の殺し合いバトルがある。が、この映画にも元ネタがあって、同名のJunk novelがそもそも黒人同士の殺し合いを書いている。こちらは1960年発売。

こういう表現ひとつとっても歴史があるものだねえ。あと珍しくパンフレットも買ったし、サントラまで買ってしまった。映画のサントラ買ったの初めてかもしれない。

※追記 好きなシーンをただ好きだと書くだけ書く。出来ればもう一回見に行きたかったんだけど、2時間45分もあるとその間に他にいっぱいやりたいことがあるので躊躇してしまう。なので好きな場面を書いておいて何度も反復することで止めておこう……。

シュルツというキャラクタの愉快な感じは陰鬱な世界を楽しくさせてくれる。最初にジャンゴを買い取った時のように、あのまま飄々と法律の範囲内ですべてを解決してくれるのではないか、という絶大な信頼を寄せることになるけれどスティーヴンにはアホみたいな理由でばれてしまう。なんとか三兄弟を殺すときもそうだったが、意外と詰めの甘い男だ。

シュルツにとって誤算だったのはブルームヒルダが予想以上にダメなやつだったことだろう。とてつもなく感情が表に出やすく、あんなばればれで嘘もつけないとなれば正直いって作戦を変えるべきだったし、ジャンゴは嫁があんな人間なのだと知っていたんだったら当然それを進言するべきだった。

シュルツはまあ、失敗しなければいけない役どころだったので途中から神通力が切れたようにジャンゴに乗り越えられていくが(特に馬車で移動中、ジャンゴが自分で考えてやっている時とか)、でもあれは師匠と弟子の成長物としてみたときにすごくよかった。

教えている側にとっていちばん愉快なことは弟子が自分で考えて歩き出したときなのではないだろうか。現にDjangoは惨劇のあと、シュルツがいなくなっても立派にアウトロー、フリーマンとして人を騙くらかして、殺したい奴をぶち殺し、愛する人間を奪還するために最速な行動を起こす。

そしてシュルツで僕が一番好きなのは、握手を迫ってくるキャルビン・キャンディに向かって銃を撃って殺し、「すまん、我慢できなかった」みたいなことを言ってふっとばされるところなんだよね。英語だと「I'm sorry I couldn't resist」で、超かっこいいんだけど。あくまで法律の中、あるいは自分が生き残れるルートを残した上で常に戦略をとってきたシュルツだけど、最後には自分のプライドを曲げることが出来なかった。

これをタランティーノが「キャラクタの人格を脚本の都合で歪めた」ととるか、「シュルツは最後には我慢できなくなるようなプライドの高い持ち主としてちゃんと描写されてきた」と取るかは微妙なライン上にあると思うけれど、個人的にはそこまで違和感はなかった。。でもあそこで「握手がそんなにプライドを損ねるものなのか?」というのは今生きているとよく理解できないところだったりする。

武士だったらわかるんだけど。まあこれはいいや。

その結果ブルームヒルダは危うくなるは自分は死ぬわ、ジャンゴも死んでておかしくなかったわけでようするにシュルツは自分の一存で一気に3人の命を賭けたわけだ。それぐらい「我慢できなかった」わけであの一瞬に彼の人生観というか、そこまでの生き方が圧縮されているよなあと思うわけである。

プライドなんて犬にでも食わせておけば死なずにすんだのはもちろんだが、それをいったらキャンディだってクソみたいなプライド(というか、嗜虐性)で相手に屈辱を与えなければ生き残っていられたわけだ。明らかに誰にとっても不幸な結末なのだが根っこにあるのはそんなくだらない人間の観念なんだ。

続きはまたあとで書こう。

ジャンゴ 繋がれざる者~オリジナル・サウンドトラック

ジャンゴ 繋がれざる者~オリジナル・サウンドトラック