津田大介『ウェブで政治を動かす! (朝日新書)』 - 基本読書

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津田大介『ウェブで政治を動かす! (朝日新書)』

Kindle版で読みましたとさ。ランキングに載っていたので暇つぶしに買ったのだけど、これが予想外に面白かった。ただノンフィクションの場合僕は線を引きまくり、本を真っ黒にしてしまうのが最近の傾向なのでKindle版ではそこがちょっとやりづらいですね(特に僕はiPhoneで読んでいるから)。あとこうして何か書くときも一度そうした線をひいたところを中心に再読をしているので、それもしづらい。

本には関係がない話だった。しかしこのタイミングで、このテーマで出せるのは、ほんとに商売がうまいよね。内容も「ウェブが政治のすべてを変える!!」みたいないき過ぎた内容ではなく(それが一番怖かったところだ)、限界と効果をバランスよくとっていておもしろかった。 ウェブで何もかもを変えられるわけではない。しかしうまく使えば、効果は出るのである。その事実を、実例ベースに論を進めていくのはまさに「ジャーナリスト」だと読んでいて思った。

第一章『政治的無関心は何を引き起こすのか』では、政治についてまったく興味がなく、他人任せにしていると恐ろしい法案がろくな議論も経ずに一部の強引な意見や利害によってあっさりと提案され通過していってしまう様が書かれている。マスメディアは政局ばかり映し(視聴者は馬鹿だと思われているのだろうか)ろくに政策が揉まれることはなかった。

これはまあメディアの性質にもよるでしょう。新聞にせよテレビにせよ一つの問題を深く掘り下げていくには適していない。場所が限られているし、人がしゃべって議論するのは正直言って効率が悪いと思う。じゃあ紙面に限りはなく動画もいくらでも載せられるウェブだ! といってもそうそううまくいく話でもなく、現実問題そこまで情報がオープンになっていない。まずはそこからだろう。

二章はデモだ。欧州のデモはみんなお菓子食べたりデモに出店してくる店で買い食いをしながらぐるぐる楽しく歩いているだけで、しかしそれだけの実態としての人間が出現することが抗議の形になるんだという「ゆるいデモ」を紹介したりしている。これを読んで初めて自分の中にあるイメージに気がついたのだが、暴力と闘争本能が支配する学生運動だからなあ(笑)チンケな思い込みだけどそんな形のデモもあるんだね。

四章はネットの限界について語っていてここが一番面白かったかな。現状のネット世論にできることについて。『現状のネット世論にできることは、人々の投票行動を変え、政権を変えるという「大きな」ことではなく、現在進行形である特定の政策問題に対し、政治家たちの尻を叩くことで強引に「議論のテーブル」をつくることではないか』

違法ダウンロード問題や医薬品のネット販売、非実在性少年に関する問題だってそうで、具体的にネットで盛り上がったことで「阻止」とか「変化」を生み出せた例はまだあまり多くないが少なくとも多くの人間が「それを問題に思っているんだ」と示すことは成功している。最終的な決定権は政治家にあるのでそこを変えるのは無理だが、しかし問題を可視化し、どれだけの人間がそれに反対を表明しているかを示すことで抑止力になることができる。

インターネットが政治にもたらした最大のもの──それは「政治を日常化する」ことによる可能性だ。そしてその可能性を考える際には、政治を取り巻く情報技術のドラスティックな変化が、わずかここ数年の間に起きた現象であるということを踏まえておかなければならない。

恥ずかしながら僕もあまり政治に興味を持ってこなかった。というよりも意識が向くことがなかった。テレビで言っていることは断片的すぎて主張がさっぱりわからないし(野田首相が安倍さんの経済政策についてそれは禁じ手だ、と言っている場面が繰り返し流れていたが、禁じ手だと言った根拠は何もわからなかった)、だいたい「この政策には賛成だな」と思ってもそれぞれ主張している党がばらばらでどうしようもない。

さらに言えば日常で政治の話をする機会などなく(それどころか、親しい間柄でさえも政治の話はご法度のような雰囲気が蔓延していないだろうか? なぜだろう?)とにかく「縁が遠いもの」「自分とはあまり関係がないもの」になってしまっていた。日本が政治的に成熟していく為にはまず一般市民が日常的に政治に慣れ親しんで、議論を自発的に楽しみ、酒の肴にまあ政治談義でもといった風に変わっていくのが、第一歩なのではないか。

上で本書の言葉を引用したように、なぜかネットではわりとフランクに政治の話ができる。抗議だって多く挙がる。となると現実生活で政治の話が出ない/出せないのは、「相手と意見が食い違ったら仲良くやっていけない」という恐怖感があるからではないか。変な話だが僕は親に「どこに投票するの」と聞いたら「そんなことは聞いてはいけないんだ。」と言われたこともある。

僕はその頃純朴な人のいうことを何でも信じてしまう子どもだったので「そうか。きっと政治的なことは秘密にしないといけない選挙のルールがきっとあるんだ」と勝手に納得してしまったのだがそんなことはない(たぶん)。仮に「相手と意見が食い違うからあまり政治の話をまわりとしない」のだとしたら、友人間でする議論という文化がすっかりなくなってしまった日本の状況に問題の根っこはあるのかもしれない。

ネットならその壁を超えられる。そして、変わりつつある。なんだかんだいって、良い方へ向かっているじゃないか。おもしろい状況だ。

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)