いやーこれはちょう面白かった。高校生科学オリンピックと副題についているけれど、その実際はインテル国際学生科学フェア(ISEF)に集った高校生たちの話だ。毎年五十カ国以上から千五百人以上の高校生が集まって四百万ドルを超える賞金と奨学金がふるまわれる科学のオリンピック。
そこで発表される研究は高校生だからといってレベルの低いものではなく、大学院や博士課程の水準を上回り、特許を取得することの出来るほどの研究も多いという。本書でもその実例が大量に紹介されるけど、ある高校生は核融合炉を作り、ある者は遺伝子組換えによって通常の青虫にはできないことができる「賢い青虫」を創りだす。
著者の心により深く響いたのはそうした質の高い研究もそうだが、何より研究の背後にある物語だという。著者の文章のうまさ(というか展開のさせ方か)に起因させることも多いが、たしかに超感動した! ぶっちゃけぼろぼろ泣いた! それぐらい興奮するし面白いのだ。本書では2009年のISEF参加者である高校生六人に、それぞれ一章ずつ割いてどのようにして物事を進めてきたのかを追っている。残りの五章は過去の受賞者の中で伝説的になっている人達の話だ。
この六人の話はどれをとっても驚愕だ。たとえば最初に紹介されるのは十歳のときに爆弾を製造し、最終的には14歳にしてISEFで核融合炉(の元?)を創り上げてしまう。すでに先人が道をつけた後とはいえ、恐るべし才能といえよう。またある生徒はインディアン保護特別保留地の出身で、貧しい家庭環境で育ち、廃品を掻き集めて誰もが思いつかなかった太陽エネルギーの効率的な利用法を編み出した(そして寒い自分たちのトレーラーをタダで温めた)
誰も彼もみな天才的な独創力を発揮して研究を行なっている。核融合炉を作ってしまうような行き過ぎのものがあることを考えればわかるように、誰も彼もが少なからずオタク的でどこか社会に馴染めない子達も多い。突出した才能は周りの理解を得られないこともある。しかし本書で盛り上がるのはそうした「周りで見守り、時には手助けをして導いていく」大人たちの存在でもある。
中でもすごく良いな、と思った関係性がある。子どもの時から引きこもりがち。さらには言語障害を持ち、他人とのコミュニケーションにほとんど興味をもたずにロボットを作っているライアンの話だ。ちょうどその頃、物理学者として何十年も仕事をしてきて、今は引退してのんびり過ごしている、一人の専門家、ジョンがいた。ライアンは彼に教えをうけることになる。
普段は大学生にたいして教えるボランティアをしているジョンだったので、小学3年生のライアンを教えることを頼まれた最初の時、だいぶ戸惑ったように描写されている。まあ俺は子守のボランティアじゃないぞと思っても不思議ではない。しかし、ライアンが創ったスコーチと名付けたロボットを、ジョンが見た時から二人の関係は始まるのだ。
「それでスコーチはなにができるんだい?」
ライアンはいつものようにスコーチを動かし、ジョンとライアンはそれを見ながら話をしたが、その様子はまるでヴィンテージ・カーについて熱く語る男たちのようだった。徐々にジョンの質問は、詳細なことへと移っていった。スコーチの動力源は? スイッチ類はどのように作動するのか。メカニックが、自分の手がけたことを説明していくように、ライアンは大喜びでスコーチの内部をあけて配線を見せた。それから今度はライアンがジョンに尋ねた。スコーチをもっといいものにしたいんだけど、教えてもらえますか?
高校生たちの物語にはそれを引き立て、引っ張っていくメンターの存在が重要だ。本書に出てくる凄い高校生科学者たちはみな一流の先生に、あるいは暖かく見守ってくれる両親に恵まれている。恐らく、そうした自らを先に進めてくれるメンターを探し、出会うこともまた才能なのだ。でも何より重要なのは自分からこういうことではないか? 「わからないことがあるんです。教えてもらえますか?」
こういう態度は他人から強制されて生まれてくるものではない。自発的に、自分の中から沸き起こってくる興味を対象にした時、勝手に出てくるものだ。本書に出てくる高校生たちは奨学金が欲しくて出場している者もいるけれど、みな自発的に研究をはじめる。みんな、とても楽しそうだ。やりたいことを情熱をかけてやろう。そうするときっと子どもに戻れる。
- 作者: ジュディダットン,Judy Dutton,横山啓明
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/03
- メディア: 単行本
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