10冊ぐらいグーグル関連本を読んだが、これはその中でも一番おもしろい。文章がうまいし、何よりどの本よりもグーグルに近い。実際に社の中に入り込んで、社員と行動を共にし、会議や懇談会に立会い核となる三人への度重なるインタビューを行えるのは著者だけだろう。まあ、別に調べつくしたわけでもないので、他にもいるのかもしれないけど。
それだけではなく600P以上ある本書は包括的な意味でも幅が広く面白い。目次を見ればそれが少しはわかるだろう。
プロローグ Googleを「検索」する
01章 グーグルが定義する世界―ある検索エンジンの半生
02章 グーグル経済学―莫大な収益を生み出す「方程式」とは
03章 邪悪になるな―グーグルはどのように企業文化を築いたのか
04章 グーグルのクラウドビジネス―全世界に存在するあらゆる文書を保存する
05章 未知の世界への挑戦―グーグルフォンとグーグルTV
06章 谷歌―中国でぶつかった道徳上のジレンマ
07章 グーグルの政治学―グーグルにとっていいことは、人々にとっていいことか
エピローグ 追われる立場から追う立場へ
グーグル経済学の章ではグーグルがどのように金を使ってきて、また収益化をはかってきたかの歴史が語られる。3章では企業文化が、4章ではグーグルとクラウドの密接な関係について。6章では中国に進出した際にどのようなジレンマ、どのような思考の末で中国の検閲を受け入れ、また最終的に撤退に至ったかが克明に書かれている。
本書はグーグルを賛美するばかりではない。副題にもあるようにグーグルはあまりにも多分野に進出しようとしている為に各所で負けが出始めている。Facebookがいちばん良い例だが、ユーザ数では今やグーグル+は圧倒的に引き離されてしまっている状況だ。僕の周りでもFacebookを始める人は後を絶たないがグーグル+はとんときかない。
というわけで今やグーグルも厳しい状況にある。最も収益だけでいえば圧倒的に他企業を引き離しているが。栄光と苦境という流れはストーリー的で、面白い。グーグルについて何か一冊読みたいと思っているなら、すごくオススメだ。此処から先は余談、別の話。
最近個人的な興味として、インターネットによって脳というか思考がどう変化するのか知りたいと思っている。ある本ではグーグルやフェイスブックが推し進める「人の行動を予測して情報を選定してくれる」作業は確証バイアスを引き起こし人を思考の袋小路に押しやるという。また、極少数の企業が我々の認識の仕方を握ってしまうことに対しての危機感がある。一方でグーグルやフェイスブックを賛美する本は何を言っているのか。
グーグルの理想は全ての情報に瞬時にアクセス可能にすることだ。Andoroidに進出したのも、ストリートビューを創ったのも、グーグルアースも、すべては情報を集約し、整理し、アクセスしやすくするためだった。どれだけ大きな図書館があってもそれが分類、整理されていて必要な情報がすぐに取り出せなければその知識は存在しない。それと同じようにグーグルが行うのは、図書館いらいの知の大革命と言える。
しかしグーグルがまったく目をつけていなかった情報があった。宇宙や、書籍までもを取り込んだグーグルが唯一見逃したものとは「人間の中身」であると言える。Facebookは個人間のやり取りや関係性からくる、グーグルには入手できない情報を大量に得ることができた。グーグル+でここも狙っているが、SNSのようなものは使っている人が増せば増すほど魅力が増すものなので後追いには厳しいものがあるだろう。
グーグルの目指す場所は膨大な量のデータを集め、自動学習アルゴリズムによって処理し、人類全体の脳を補強する人工知性を開発することだそうだ。Facebookの目指している場所はどこなんだろうな。オープンになった関係資本を水や公共設備のような、社会インフラになるぐらい推し進めることだろうか。
グーグルの目指す人類全体の脳を補強する人工知性はとても壮大な案で面白いが、たしかに一企業にそのようなものを管理してもらいたくはない。仮にそういうものがあったとしても、それは自分でコントロールできるものであって欲しい。書きたい文章があるのに、勝手に訂正されてしまって怒り狂う短編が神林長平作であるけれど、そんな世界を想像してしまう。
一方で切実な要求もある。ようするに、いまネットにはクソみたいな情報で溢れかえっていて、誰かに選定してもらわないと必要な情報にたどり着けない。まったく整理されていない図書館が今のネットだ。だから情報は選定されなければならない。そしてそれは恐らく「キュレーター」なる一人ひとりの人間ができる作業量では、おそらくない。
となればアルゴリズムだ。誰もが一人一人、どのようなシステムなのかを把握して、使いこなせる情報選定アルゴリズムがあれば万事解決だがそんなものは今のところ存在しない。……うーんじゃあどうしたらいいんだ?? そういうのを創れば良いという話なのか?? 少し待てば作れるようになるものなのか? わからん……。
- 作者: スティーブン・レヴィ,仲達志,池村千秋
- 出版社/メーカー: 阪急コミュニケーションズ
- 発売日: 2011/12/16
- メディア: 単行本
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