著・西尾維新。言わずと知れた戯言シリーズ化物語シリーズを売りに売りまくったベストセラー作家。難民探偵はそのベストセラー作家が出したハードカバーであり特にファンタジーな要素もない、ミステリィらしいミステリィだったが・・・一言で言ってしまえばなかなかいい感じにつまらない。
なかなかいい感じにつまらないとはどういうことかといえばそれは読むのをほうり出さない程度には読みやすく、また読み続けるにもやぶさかではない程度にはつまらなくはなかった、ということで。僕は普段からつまらない本は最後まで読まないけれども(短いとつまらないと思いながらも読めてしまうが・・・・)本書は読めてしまった。
就活に失敗した女子大生がその後就活ニートとなり、伯父の小説家の元でお手伝いをしながら就活を続けているうちにその知り合いの「難民探偵」及びその探偵が調査する事件に巻き込まれていく・・・・・という筋書きなのだけれども、殺人鬼も出てこなければ妖怪も出てこない、いたって普通の人たちなので要するに普通でした。
就活に失敗した女の子の悩みも、なんだかネットをぶらぶら散見しているだけで書けそうな心理描写ばかりで、作中では売れに売れている小説家の伯父さんが語る作家の内部事情みたいな話は西尾維新とその経歴が若干だぶるだけに面白いと言えば面白かったが、それ以外は平凡の極み。
面白かったのはこんな部分。
「これは俺が警官やってたころに聞いた話なんだけど──つまり京樹と知りあう前に聞いた話なんだけどさ。作家って奴は、売れてしまうと必ずと言っていいほど、人格が崩壊するんだってさ」(中略)
「コストパフォーマンスの問題でさ。最小の個人事業主だから人件費がゼロだし、事務所に雇われているわけでもない。アシスタントだっていないから、取り分は丸々自分のものとなる。こんな条件の下で売れてご覧よ。価値観が引っ繰り返されるような、酷いことになる。一億とか十億とか稼いじゃって、しかも周囲からはセンセイ扱いだ。おかしくならないほうが異常だよ」*1
まあもちろんこれは作中のセンセイの話であって西尾維新センセイの話とダブらせることに何らかの意味があるとは思えないけれども、しかしまあ実際に若くして大金を稼ぎ、そして今もなお稼ぎ続けている西尾維新センセイがこれを書いたということは、非常に興味深いような、そんなような気がしますね。
こういうリアルな職業のリアルな悩みを書くのも、こういう普段書かない現実的な小説でしかありえないので、そういう意味では、この小説も大変面白い。この作品は西尾維新センセイにしてみれば、実験だったのかもしれませんね。村上春樹がノルウェイの森でリアリズムに徹した長編を一度だけ書いたように、自分がこっちの分野でどの程度できるのかどうかの実験。
あ、あとこれもなかなか嫌味っぽくてよかったです。
「『累計百万部突破!』という、本屋でよく見かけるあの帯が、言うほど大したことじゃないように思えるようになったときに、作家としての俺は死んだんじゃないかと思いますよ」
「そりゃ死んでるな。死んでないんだったら俺が殺してやるよ、そんな奴、五千万部も売りゃもう十分だろ。引退しろよおまえは。後進に道を譲れよ」
「そうしたい気持ちもあるんですが、しかし俺が自由気ままに引退したら、新人作家さんが本を出せなくなるんですよ。俺の本で頑張って利益を上げておかないと、出版社は後進の作家が育てられないんです」
「なんだその嫌な悩み」*2
「なんだその嫌な悩み」。ただ真実でもあるような気がしますね。出版社が出している本なんて、重版がかからない限り大抵は赤字で、一部の大量に売れる本、それこそ百万部二百万部売れる本があるからこそ出版社が存続していけるのだ、という話はよく聞きます。『売れる作家には売れる作家なりの悩みがある』しかし多くの作家はその悩みにすらたどり着けないのは当然の話で、やっぱり嫌な悩みですねえ。
小説としてはそんなに面白くなかったので大してオススメはしませんが、西尾維新ファンなら読んでもきっと楽しいでしょう。とっても西尾維新らしいお話でした。
- 作者: 西尾維新
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/12/11
- メディア: 単行本
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