幻の国を売った詐欺師 - 基本読書

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幻の国を売った詐欺師

現代(2010年)において存在しない国を売ろうと思ってもどだい無理な話だが1800年代、19世紀のころはそうではなかった。そうではなかったといっても途方もないほどの努力と設定構築と計算が必要なのは言うまでもないが、今のように飛行機が存在しない世界では距離が遠く離れた島へと行くのは危険な航海を何ヶ月も続けなければいけなかった。だからこそ架空の国をでっちあげることができたのである。

小さい嘘はすぐにばれるが大きい嘘は誰もが「そんな嘘をつくはずがない」と思って信じてしまうといった偉い人は誰だったか。しかしさすがに架空の国をでっち上げるほどの嘘はあまりない。そんな嘘をたくらんだのがグレガー・マグレガーという男で、その男の伝記が本書である。

その国の名はポヤイス。天然資源に満ち溢れ、自然は地球上でもっとも美しい地域のひとつであり、建築その他に必要な樹木は生い茂り、農業はたやすく行え、そのための現地の人手もとてもすばらしいおおらかな人間たちが安い賃金で雇うことができる。

そんな嘘みたいな嘘な話に飛びついたのが中産階級前後の、そこそこ金は持っているがもう少しいい生活をしたいアホどもで、手持ちの金をすべてポヤイス貨に変えてしまい、当然そんな通貨が通用する国は世界のどこにも存在せず、私たちは天国にいけるのだと信じて海を渡った。

これはグレガー・マグレガーの伝記であるのだけれども、実際問題大変面白いのはマグレガーよりもマグレガーにだまされた人々である。この人たちはおろかにもだまされ、ポヤイス国に着いたときに愕然とすることになる。豊かな自然と発達した文明があるはずの土地は、荒地と数人の現時人しかいなかったのだから。

船にはおいていかれ、仕方なくその荒地で過ごしてまあだまされただまされたといってみんなが無事に帰れれば話はそこで終わりだが彼らはそこでまだみぬポヤイス国を想像しながら生活を始める。ちょっと間違えただけで、どこかにはあると信じているのだ。

しかしその夢もかなわず、労働者を雇って優雅に暮らそうと考えていた体のひ弱なおじいさんおばあさん、もしくは根性なしばっかりだったので荒地に家も作ろうとせず水を消毒もせず適当に飲んだために病でばたばたと倒れ始める。

たまたまたどり着いた船に乗せられ別の国にいくも旅が過酷すぎそこでもまたばたばたと倒れ、最終的に祖国へ帰ったときには230人ほどいた最初の人間は50人以下にまで減ってしまっていた。

驚くべきなのはこの残った50人が、明らかに疑う余地なく自分たちをその世にも悲惨な境遇に陥れたグレガー・マグレガーを「詐欺師だ!」と批難する祖国の人達から、弁護したことである。

自分たちはだまされたわけではなく、たまたまうまくいかなかったのだと。道中リーダーを任されていた中佐が無能だったが為にこんな結果になってしまったが本来私たちは楽園にいけたのだといってマグレガーを弁護した。奴隷根性ここにきわまれりというか、人間は自分の大きすぎる選択を「間違いだった」と認めるのが大変に難しい生き物なのかもしれない、とこの悲惨でおろかな人たちをよんでいて思った。

幻の国を売った詐欺師

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