- 作者: 伊藤聡
- 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
- 発売日: 2010/01/19
- メディア: 新書
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ブログを読んでもらえればわかると思うのですが、とってもとっても文章が上手いです。ぼくも空中キャンプの人ぐらい文章がうまく書ければなーと日々思いながら書いているのですが、先日伊藤聡さんもツイッターで「もっと文章が上手くなりたい!」というようなことを書いていて、「すでに上手いのにまだ努力されたら永遠に追いつけない…!」と絶句してしまいました。
勝手に心配していたことが一つあって、ブログに書かれている映画評は、どれも結構短いのですね。だいたい千文字〜千五百文字ぐらいかな、と思う。それはどこまでもムダを省いて行った結果でもあって、もしそれが、一冊の本という分量になってしまったら、果たして中だるみしないで書けるのかしらん? ブログの文章は、一冊丸丸維持されるのだろうか……と。しかし、まったくの杞憂でしたね。無駄がない文章はそのままで、独特な作品解釈、(特にヘミングウェイの「男だけの世界」というタイトルへの、「これをヘミングウェイが編集者に提案した時に、編集者はどんな反応をしたのだろう…」というツッコミ)など、凄く良かったです。すばらしい!
『生きる技術は名作に学べ』は、十作品の名作を「生きる技術」は何か、という点について著者が読みなおしていく本であります。著者の言葉を借りるならば
「あらためて名作を読みなおしながら、いっけん手に取りにくそうに感じられるこのテキストのユニークな面をあらたに発見し、より自由な解釈をうながすこと」
ということになります。それとは別に、四つのコラム「貧乏について」「暴力について」「父親について」「死について」が各章の間に入っています。どれも根源的な問いを持っていて、非常に短いのですが迫ってくるものがあります。特に「死について」と題されたコラムは、立ち読みでもいいので読んでみたらどうでしょうか。ぼくらがなぜ物語を追い求めるのか、その事が、著者の伊藤聡さんの実体験から始まり、物語の解釈へと飛躍して、また現実のこの世界における解釈という形で帰ってくる、まさにこの一冊を表しているかのような名コラムです。
「この一冊を表しているかのような」というのも、この本は基本的には書評のようなことをしていくわけですが、驚くほど著者の色が濃い。一つ一つの作中での問題に対して、「わたしはそんなこと言われたら困ってしまう」とか「いまわたしは、男らしさのことを考えている」などなど、「わたし、わたし」とわたしを前面に押し出してくる。解釈の出発点は、いつも「わたし」なのですね。「わたしはこう思う、思った」という視点で十作品を見ていくのがこの一冊であって、つまりこの本は「伊藤聡は名作をどう読んだか」でもあるのだ、とわたしは思う。ゆえに、著者とソリが合わないと感じる人は読むのがつらいかもしれない。しかしそこに著者との友情を見いだしたら、読み終えた時に新たな視点を獲得しているかもしれない。人がどう作品を読んでいるのか? というのは、その解釈の中で個が消されてない場合、意外なほど勉強になるのだ。