- 作者: 佐藤大輔
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2002/11
- メディア: 文庫
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それはそうと本書は真珠湾の暁というタイトルになっておりながらも、真珠湾についての内容は少ない。最初の真珠湾の暁こそ、真珠湾について書いているがその後空母について延々と語ったり、ヴェトナム戦争について語ったりと割と節操がないないようになっている。というか完全にぬえかなにかのようにちぐはぐ。小説以外のドキュメント部分はなんとも物足りない印象が強い。佐藤大輔の本領はあの時ああなっていたらという元となる事件があってそこから膨らませていく妄想力なのではないか。歴史を解説していく行為に創造性というものがまるで感じられない。それはもうかくあるべしと収束してしまった事柄である。まあ問題はひとえに長さであるといえなくもない。たかだか50ページで真珠湾を解説しようとする行為が間違い。しかし物足りないといっても充分自分の中で最低限これぐらいは楽しませてくれるだろうという水準は超えているのである。凄いといえば凄い。何故日本軍が真珠湾攻撃の時に重油タンクを狙わなかったのか、何故アメリカと戦うはめになったのかなどなど魅力的な謎の数々。興奮せざるを得ない。
次に空母についてである。シーパワーについての空母と、エアパワーについての空母両側面から語っていく。シーパワーについての解説から入っていき非常にわかりやすい。簡単に言ってしまえば海を支配し、運用する力となるのだが詳しく起源実例理由コストなど多角的に解説されている。空母についてというよりも、シーパワーという面から見た時にいかに空母がすぐれているものなのかどうかというところに焦点が当てられている。ナポレオンの言葉
「目的を単一にするのは大成功の秘訣なり」
を原則として掲げ原則から見た空母の利点を3つ挙げている。1つめは航空兵力。急降下爆撃機なりなんなりを大量に積み込んで、いかなる場所であろうとも様々な規模の攻撃を行うことができる。2つめは生残性。初期では非常に低い耐久力だったが航空機の能力が上昇し、空母の防御力自体もあがったことによってより生き残る確率が高くなった。さらに空母がいかに使えるものかという理解が広まり、空母を守ることに重点を置いた配置になるようになった。3つめは機動性。言うまでもなく高速で移動できる空母は戦場を選ぶ事が出来る。以上の理由を総合的に考えると、空母は柔軟性が高いという事になる。どんな状況にも対応することができる。エアパワーとしての空母では今では空母がいかなる使われ方をしているかに焦点をあてている。さらにそこから発展させるような形でスマート兵器の話に繋げているが、最終的に今でも空母の有用性は健在であるとして締めくくっている。特筆するような事でもないし、特に語り口が優れているわけでもないのであまり意味はない。この後に非常に短いヴェトナム戦争についての話があるが、真新しい話でもないしまたしても割愛する。
幻虎の吠える丘
突然巻末小説などといって小説が挿入されているのでびっくりした。やっぱり物語は面白いのう。四〇年前の戦争を思い返す形式をとって戦争を語っているが、読んでいる最中はこれが回想だなんてことは脳裏から消え去っていた。人がぼっこぼこ死んでいきいつ語り手が死ぬかと緊張感に支配されながら読み終える。佐藤大輔には珍しくオチがしっかりとオチていてこれまたびっくり。しかし子供たちの名前に戦場で死んでいった戦友たちの名前を採用するか・・・。幻に振り回された戦友のせめてもの追悼というやつだろうか。あわただしく死亡フラグを立てた直後ににやりと笑いながら俺の頭を撃ち抜けという間島だったり、生き残りフラグを立てたかと思いきや一瞬で頭を打ち抜かれて死んでいった新米兵士中岡だったり短編だが魅力的なキャラクターにあふれている。いや、でもこれ魅力的なキャラクターっていうのか? ただシュチュエーションが魅力的なだけといえるような。まあとにかく面白い。