富士山に登った話2 | けくこの生存記録
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富士山に登った話2

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11 /07 2024
12時30分。

目が覚めてしまったので、水を持ってロビーに行きました(寝るところは飲食禁止)
その時間にもロビーは人でいっぱいでした。別のツアーの参加者が出発の準備をしていました。
あと30分で自分もこの人たちと同じように準備をするんだなあ・・・・・・とぼんやり思いましたが、いまいち実感がわきませんでした。なんだかずっと現実感がない。非日常すぎるからか?

トイレに行った後、寝床に戻って酸素を吸っているうちに出発時間になり、ガイドさんが起こしにきました。
しんどそうにしている人がほとんど(そりゃそうだ)でしたが、幸い全員が出発可能でした。
準備に使える時間は30分。
母が小声で「一睡もできなかった」と言っていました。心配だ。

ちなみに後で聞いたのですが、
夜中に大いびきをかいている人や異常な歯ぎしりをしている人がいたため、母以外にも眠れていない人がいたそうです。
私の右隣に寝ていた大学生くらいの2人組もそうだったらしく、ずっと小声で話しこんでいたらしい。全く気がつかなかった。
どうやら私は熟睡していたらしい。

昨日小屋に着いたときに着ていた上着のさらに上に、ガイドさんの指示でレインウェア上下を着込みます。
一応モコモコな防寒着も持ってきていたのですが、さっき外に出たときの寒さが、
関東地方の12月で「ああ、冬になったかも」と初めて感じる日くらいの肌寒さだったため、とりあえず必要なさそうでした。
ちなみに母は中に薄手のベストを着込んでいたので、レインウェアの前を閉めるのに苦労していました。
外は暗いので、ヘッドライトを装着します。頭じゃなくて首にかけている人もいました。

それにしても風が強い。
昨日の夕方よりも激しくなっている気がします。
ガイドさんの声も聞き取りづらくて大変です。
夜の道は暗いので、先頭にいるガイドさんが光る白い棒(サイリウムの光量強いやつ)、最後尾にいるツアー参加者さんが同じように光る赤い棒を身につけます。列がのびのびになって行方不明の人が出るのを防ぐためだと思います。

いざ、頂上にむけて出発!!







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








苦しい!!!

出発してちょっとしか経っていないのにもう苦しい。足も重い。

考えてみれば当然だ。昨日よりずっと高いところにいるんだから。


八合目は基本的に砂利道が続きます。そんで時々階段がある。

この階段が大変で、
足が重くてもう上がらない、と思ってもここで1人だけ休むわけにもいかないので、必死に膝を持ち上げます。
八合目にもいくつか小屋があるのですが、そこが近づくと階段が出現するため、

「あとちょっとで休める・・・・・・!」という気持ちと「階段はもう勘弁してくれ!!!」という気持ちが一緒に来ます。

小屋での休憩中、必死で呼吸を整えますが、空気が薄くてうっすら頭が痛い。とてもつらい。


ちなみに、この日はこれを買いました。

買ったこづえ

昨日も見かけたこづえ。かわいい。
頂上で焼き印を入れられるとのことなので、それを希望にして進みます。


休憩中に麓の街を見下ろすと、街の明かりが瞬いていました。星の光じゃなくてもチカチカするんですね。
あと、それらよりも近い場所には動く光がありました。私たちと同じ登山客のヘッドライト。
富士山以外では見られない、不思議な光景でした。

ぶれぶれ

いくつ目の小屋だったでしょうか。
ガイドさんが、この先にはトイレや水を買える場所がないですよ、と言いました。

上を見上げると、たしかに小屋らしき明かりが見えません。
そのかわり、列をなして蠢くたくさんの光が見えました。

あれ全部、頂上を目指している登山客・・・・・・!?

別のツアーのガイドさんが、「渋滞になって止まったらそれが休憩だから! このままノンストップで頂上行くから!」と叫んでいるのも聞こえました。



マジで・・・・・・・・・・・・?


いや、ゆっくり登ることになるのならその分苦しさは減るのか・・・・・・?

でもそうなったら日の出には間に合わないのでは?

いろいろな考えが頭を巡りました。

とりあえず側にいた母に「体力大丈夫?」と訊くと、「なにが?」と、全然平気そうでした。なんで?


でも行くしかない。

いざ、頂上にむけて出発!!(2回目)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「できるだけ固まって、列のあいだにツアーメンバーじゃない人が入らないように」とガイドさんが言っていましたが。
なんというか、そもそも暗くて誰が誰だかわかりません。
たまに外国語が聞こえてきて、多分この人は同じツアーの方じゃないな、と辛うじて分かるくらい。

列に入り込んでしまった方には先に行ってもらってください、と言われてはいましたが、そもそも外国の方があいだに入ってしまうと、日本語で話しかけてもどうにもならないんですよね。こういうとき、日本語以外をほとんど話せないのがつらい。ちなみにガイドさんは英語がペラペラで流石でした。


富士からの夜景真っ暗な中、照らされた足下だけを見て登り坂を歩いていると、人生みたいだなあと感じられます。
先のわからないまま、息の苦しい中、足を動かし続けなければいけないという状況。いつまで続くんだ。


しばらくして、道の端のちょっと広くなっている平らな場所があり、そこによけてから休憩になりました。
ガイドさん以外みんな真顔で、会話もありません。座り込んで水と酸素を補給。そしてまた登山再開。
この時点でちょっと焦る気持ちも出てきました。日の出、間に合わないのでは?


・・・・・・・・・・・・まあいいか! 今は登り切れるかも心配な状況だし!


またしばらく進んで、ふと上を見ると、光の行列が前よりも縮んでいるのに気がつきました。
考えれば当然のことではありますが、このときは俄然元気をもらえる光景でした。

ずっと登り坂なんだから、いずれは頂上にたどり着くはず。つまりこのまま歩いて行けば目的は必ず達成される。
さっきは人生みたいだとか言いましたが、やっぱり違いましたね。
富士登山は人生じゃない。確実なゴールがあるんだから。

体力的にはもう倒れ込みたいくらいでしたが、気力で足を動かしていました。
木製の鳥居が途中にあり、普段だったら写真の一枚くらい撮りたいところですがそんな余裕は全くなく、気がついたときにはぬるっとくぐってしまっていました。
鳥居をくぐる
この写真は母が撮っていたやつです。余裕あってすごい。







どのくらい登ったでしょうか。
いつのまにか、周りが見えやすくなっていました。

・・・・・・・・・・・・夜明けが近い!

急げ! と気持ちの上では思うのですが、状況的にも体力的にも無理すぎる。
空は明るさを増し、ここがどんな場所なのかがわかってきました。

一面が白く煙っている状況。明らかに雲の中。
霧状の冷たい空気が纏わり付き、レインウェアやリュックサックの表面が湿っている。
私は眼鏡をしているので最悪です。水滴で視界が悪く、拭っても追いつかない。諦めて足下だけに全神経を集中させました。
明るさから察するに、太陽はもう昇っていますが、雲があって見えません。


なんかたまに「うおおおお!」と声が上がる。一瞬だけ陽が差したようです。一瞬過ぎて全く見れなかったけど。
よそ見しただけでよろけて落ちそうな気がして怖い。周りが見えるようになって今更恐怖が出てきました。
でももう進む以外ない。


岩場が目の前に現れます。ここからがラストだな、もうちょっとなんだな、と思いました。
怖くて上は見れませんでした。まだこんなにあるの!? と心が折れそうなので。
岩を一つ超えるのも本当に大変で、足に力を込めるごとに限界を超えるようなつもりで踏ん張っていました。


途中でツアーメンバーのひとりが座り込んでしまい、ガイドさんに「もうちょっとなので!」と励まされていました。その横を無心で通り抜けます。

登山靴は高性能なので滑りにくいとはいえ、普段の靴だったらあきらかにズルッといくような濡れた岩に全体重を乗せるのが怖すぎる。怖いからと言って撤退できないのがつらい。一回休憩が入りましたが、角度が急な岩場で一息付けるわけもなく、精神的にもきつい。

岩を一つ超える。息をする。次の岩を踏む。それを繰り返す。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






岩があとちょっとしかない。曇り空が広がっている。






頂上・・・・・・だ・・・・・・!!!



頂上の空


久しぶりの平らな地面には、人がいっぱいいた。
みんな空を見ていた。真っ白だけど、その向こうに太陽があるのはわかった。
ガイドさんは笑顔でハイタッチしてくれた。他の人は疲れ切った様子で、
でも笑顔だった。多分自分もそうだったんだろう。



毛杞(けくこ)

日々を這いずりながら生きています。