アジャイル組織とは?注目されている背景やメリットについて解説
アジャイル組織とは、ソフトウェア開発の手法である「アジャイル開発」の考え方を、組織づくりに応用した組織構造です。権限規定などが明瞭なピラミッド型組織よりも、柔軟かつ素早く動くことができます。それにより、顧客からの意見に対して、振り返りと実行のサイクルによる改善を繰り返すため、顧客満足度の向上も期待され、注目を集めています。
本記事では、アジャイル組織の特徴や注目されている背景、メリットやデメリット、導入のポイントについてお伝えします。
アジャイル組織とは
アジャイル(agile)とは、「敏捷な」「素早い」を意味する言葉で、アジャイル組織は、もともとはソフトウェア開発の手法である「アジャイル開発」の考え方がもとになっています。
アジャイル開発とは、ソフトウェアの開発において短期間で実装とテストを繰り返すことで、開発期間を短縮できる強みを持つ開発手法です。顧客やユーザーからのフィードバックをこまめに取り入れながら開発を進めることで、迅速に変更や修正をおこなえる柔軟性を持っています。
アジャイル組織は、上記のアジャイル開発を参考にした組織構造です。組織のなかで個々が柔軟に素早く動くことができる組織構造であり、顧客からの意見に対して、振り返りと実行のサイクルによる改善を繰り返すことができる特徴があります。
アジャイル組織の特徴
アジャイル組織の特徴は、対極にある「ピラミッド型組織」と比較するとわかりやすいでしょう。
ピラミッド型組織では、ピラミッド構造の頂点に経営者がおり、経営者から役員、管理職、一般社員へと、意思決定が段階的に下の階層に伝わります。業務内容によって部門が分かれていることが多く、社員一人ひとりが決められた業務をマニュアルに沿っておこなうことで業務効率が上がります。
ただし、ピラミッド型組織では、組織が大きくなるほど階層も多くなり、意思伝達に時間を要する傾向にあります。とくに、下の階層から上申がおこなわれにくいため、現場の課題に気づいても組織として改善するスピードは遅くなりやすいといえます。
一方、アジャイル組織は、権限が分散されたフラットな組織構造です。ピラミッド型ではなく、円の構造の中心に経営層がいるイメージです。経営者の周りには、プロジェクトごとにいくつものチームが構成され、1つのチームにはさまざまな部門の社員が含まれています。
ピラミッド型組織では、上の階層から下の階層へ意思決定が段階的に伝わり、意思決定者と実行者が異なることなどから、実行に移る前に細部まで計画を煮詰めておく必要がありますが、アジャイル組織では、実行しながら、振り返りや改善を繰り返すことを前提としています。そして、それを可能にするために、社員一人ひとりに与えられる権限や責任が大きいことが特徴です。
混同しやすいティール組織・ホラクラシー組織
アジャイル組織と似た性質を持つ組織として、ティール組織とホラクラシー組織が挙げられます。それぞれの定義について確認しておきましょう。
ティール組織
ティール組織とは、リーダーに権限が集中しておらず、メンバー同士が対等な関係にある組織構造です。ティール組織が効果的に機能するためには、「エボリューショナリーパーパス(なんのためにこの組織は存在しているのか)」「ホールネス(多様性を認め合い、自分を否定されることがない環境)」「セルフマネジメント(メンバーが意思決定する権利を持つ)」という3つの要素が重要です。
組織構造がフラットでメンバーに意思決定が委ねられているという点では、アジャイル組織に近い組織構造といえるでしょう。
ホラクラシー組織
ホラクラシー組織も、役職や階層が存在しない組織構造です。個人の裁量権が大きい点や、メンバー同士がフラットな関係である点はアジャイル組織と同じであるものの、個々が完全に自由に動くわけではなく、グループの結成や変更、役割の決定はルールに則って進められます。
また、個々の意見をグループで話し合ったうえで意思決定がおこなわれるため、個人の裁量に偏らずグループ単位で意思決定の権限を持つことになる点などもアジャイル組織とは異なります。
アジャイル組織が注目されている背景
先が見通しづらいVUCA時代を迎えた今、ピラミッド型組織では、上司の承認や他部署との連携などに時間を要し、柔軟な変化に対応することが難しい側面があります。アジャイル組織であれば、組織の状況に応じて素早く動くだけではなく、結果に対してフィードバックをおこない、素早いサイクルで学習していくことができます。
また、市場変化や顧客のニーズを踏まえて改善策を考え、振り返りと実行を繰り返すことができるため、VUCA時代の変化にも柔軟に対応できるとして注目されています。
アジャイル組織のメリット
ここでは、アジャイル組織における3つのメリットを紹介します。
意思決定のスピード向上
ピラミッド型組織では意思決定の際には会議をおこなって検討し、稟議を通すフローが必要なケースもありますが、アジャイル組織では個々が持つ権限の範囲内で意思決定をおこないます。それにより、意思決定のスピードが向上し、生産性の向上が見込めます。顧客の要望やトラブルにも迅速に対応することで、損失拡大を防ぐことにもつながります。
顧客満足度の向上
アジャイル組織は、実行と評価、改善を短いスパンで繰り返しながら、顧客に提供できる価値を高めていきます。そのために、顧客の行動分析や、顧客からのフィードバックを収集するための仕組みづくりもおこないます。
このように顧客の課題解決に注力できる体制があることで、顧客満足度の向上が実現できます。また、市場の変化、顧客のニーズの変化にも柔軟に対応できるため、ビジネスチャンスを掴みやすくなることも期待できます。
社員のモチベーション向上
アジャイル組織では、ピラミッド型組織のように指示を待つフローが少なく、権限の範疇で自ら意志決定をおこないます。また、アジャイル組織における経営者は、社員が能力を最大限発揮できるような環境を整えることに努めます。このような組織では、社員が「企業から信頼されている」という実感を持ちやすく、仕事のやりがいにつながるでしょう。
やりがいの向上によって社員のモチベーションが高まり、とくに、業務の目的や業務遂行の自由度を重視する社員の定着や人材確保への効果が期待できます。
アジャイル組織のデメリット
アジャイル組織はメリットだけではありません。以下のデメリットがあることも理解しておきましょう。
組織の適性を見極める必要がある
自社にアジャイル組織の適性があるかどうか、本当に従来の形態ではなくアジャイル組織にする必要があるかはよく検討すべきでしょう。業務に積極的で、責任を持つことが負担にならない人材はアジャイル組織に向いていると考えられます。
しかし、そのような人材がいない場合、メンバーに指示を出さないとプロジェクトが進まず、アジャイル組織の利点である「意思決定のスピード向上」や「生産性の向上」といったメリットを享受しづらくなります。また、事業形態や事業内容によっては、そもそもアジャイル組織との相性が悪い場合もあります。たとえば、政府系組織やインフラ事業などでは、安全性や事故リスクの観点から、計画した内容を着実に進めることが重視されます。
そのような組織形態では、アジャイル組織における「実行しながら試行錯誤を繰り返す」という強みを活かせないため、ピラミッド型組織の方が向いていると考えられます。
着地点が見えづらい
アジャイル組織は、PDCAを短い期間で回し続ける手段になり得ます。しかし、手段が目的化してしまうと、最終的な着地点が見えづらくなり、組織の目指すべき方向を見失う社員やモチベーションが下がる社員が出てくる可能性もあります。そのため、共通のビジョンなどの理解・浸透、社員のモチベーションコントロールが重要になります。
マネジメントが難しい
アジャイル組織の管理職は、ピラミッド型組織のように指示を与える役割とは異なります。組織として目指す方向にチームを導きながらも、社員一人ひとりの自律性、主体性を重んじることを両立しなくてはなりません。しかし、このようなマネジメントはアジャイル組織特有のマネジメントであるといえ、難易度が高いといえます。
社員の主体性や責任感が求められる
ピラミッド型組織では、経営により近い管理職が意思決定をおこない、部下に業務の伝達をすることが一般的です。しかし、アジャイル組織では社員に与える裁量や権限が大きく、意思決定も社員に委ねられます。当然ながら、社員に主体性がなければ生産性が下がり、成果を上げにくくなってしまいます。
経営者には、目的やビジョンを社員に浸透させ、社員が主体的に取り組めるような環境を構築することが求められます。
アジャイル組織の導入のポイント
アジャイル組織を導入したいと思ったら、以下のポイントに注意しましょう。
アジャイル組織に対する理解促進・浸透
これまでピラミッド型組織を運営していた会社では「失敗を許容しづらい」「新しい取り組みに対して周囲が抵抗する」といった組織風土が残っている場合があります。実行しながら軌道修正していくことを前提としたアジャイル組織への移行にあたっては、経営層がアジャイル組織の重要性や目的について繰り返し伝え、そのような組織風土を変えていく必要があるでしょう。
アジャイル組織に適した人材を育てる教育環境づくり
アジャイル組織を導入して成果を上げるためには、社員一人ひとりの業務遂行能力を高めることが欠かせません。普段の業務から学んでもらうだけでなく、eラーニングや研修などを提供し、社員自ら学習できる学習インフラを構築しておくことが必要でしょう。
また、主体性や責任感を持てるように、お互いが対等に接することができ、意見が出た際に議論に発展できるような仕組みづくりも重要です。
先行導入(スモールスタート)で段階的に移行する
従来のピラミッド型組織から、アジャイル組織に移行する際には、組織体制や運営方法など大きな変化が起こります。 はじめから全社を対象にアジャイル組織に移行するのではなく、先行して導入するチームをつくり、運営方法を模索しながら段階的に移行するとよいでしょう。
アジャイル組織を選択肢の一つに
アジャイル組織は、上下関係がなく社員の権限が分散されたフラットな組織構造で、意思決定スピードの向上や、顧客満足度の向上が期待されます。しかし、アジャイル組織は万能ではなく、業種や組織の適性によって向き不向きのある組織モデルです。
また、導入するとなれば、理解促進や組織風土の改善、人材育成の見直しも必要でしょう。自社の状況を踏まえて、アジャイル組織を選択肢の一つとしてみてはいかがでしょうか。