インテグリティとは?行動方針や管理職が意識すべきポイントについて解説
近年、注目を集めている「インテグリティ」の概念をご存知でしょうか? ビジネスパーソンの中でも、とくに経営層や管理職には必要なものとされています。しかし、概念的な言葉であるため、具体的にどのようなものか、どのように身につけていくのか、わからないという方もいるかもしれません。
今回は、インテグリティについて、その概要とともに、管理職が意識しておきたいポイントについて解説します。
インテグリティとは
そもそもインテグリティとは、どのような意味があるのでしょうか。まずは基本的な概要から確認してみましょう。
インテグリティの意味
インテグリティ(Integrity)は、日本語で「誠実」「真摯」「高潔」などを意味します。概念的な言葉であり、明確に定義するのは難しいものの、高い倫理観を持ったうえで「自身の信念や価値観に基づき、自信を持って行動すること」と考えるとよいでしょう。
ビジネスにおけるインテグリティの意味
欧米企業では、とくに経営層や管理職などのマネジメント層に必要な素質とされており、経営方針や行動規範の1つとしてインテグリティを取りあげるところも多くあります。
仕事において、誠実さや真摯さという言葉に「まじめであること」「熱心であること」などを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、ビジネスにおけるインテグリティには、仕事に対する熱心さなどだけではなく、法令遵守や企業倫理の実践、社会的責任を負うことなど、組織的な視点を持った行動も求められます。
コンプライアンスとの違い
インテグリティが「誠実さ」など、個人の姿勢や意識などの内面的な概念を示すのに対し、コンプライアンスは、企業や組織がおこなう外面的な取り組みと言えます。
コンプライアンスは、企業や組織が法令を遵守することに加えて、社会的な良識やルールに沿って行動・活動することです。企業の社会的責任を果たすことでステークホルダーからの社会的な信用を得ることを目的としています。
一方で、インテグリティは、その人や企業が誠実であろうとする在り方や価値観などによって行動指針がもたらされるもので、自ら誠実に模範的な行動をするという自律的な考え方を持つことが求められます。
それぞれの意味合いは異なるものの、コンプライアンスとインテグリティは相互に影響するものです。というのも、コンプライアンスに沿って行動するためには、組織や人の誠実さが求められます。インテグリティが高い組織や人は、コンプライアンス違反が生じにくいといえるでしょう。
インテグリティが重要な理由
インテグリティがビジネスシーンで注目されるようになったのは、オーストリアの経営学者、ピーター・ドラッカーによる提唱がきっかけとされています。
ピーター・ドラッカーが1954年に著した『現代の経営』において「真摯さに欠ける者は、いかに知識があり、才気があり、仕事ができようとも、組織を腐敗させる。」といった記述が見られます。
(P.F.ドラッカー. ドラッカー名著集2 現代の経営[上]. ダイヤモンド社. Kindle 版.より引用)
同著には、何度も「真摯さ(=インテグリティ)」という言葉が使われており、とくにマネジメント層から注目を集めました。
現代において、ますますインテグリティが重要視されるようになっています。その理由について解説します。
顧客や取引先からの信頼を得て、企業価値を高めるため
顧客や取引先に対して誠実さを示すためにも、社員一人ひとりがインテグリティを意識することが大切です。日本ではもともと年功序列の雇用慣行があり、終身雇用によって将来的な賃金アップや定年までの勤務が保障されやすい状況でした。
しかし、時代の変化に伴い、雇用環境も多様化し、欧米型の成果主義に移行しつつある企業も見られます。個々の能力が評価される市場では、競争激化に伴い、行き過ぎた成果主義のもと、目標達成のために手段を問わないケースが見られることもあります。そうした状況において、不祥事を招く社員がいると、企業価値全体が下がってしまう可能性があるでしょう。
顧客や取引先は、信頼できる企業と取引したいと考えており、近年はコンプライアンスやCSR(企業が担うべき社会的責任)が重視されます。コンプライアンスの根本として必要とされるのがインテグリティであり、社員一人ひとりの姿勢が問われます。
健全な組織文化を定着させるため
インテグリティを社員の行動指針の1つにすることで、健全な組織文化の形成につながり、コンプライアンス経営の成功に近づきます。コンプライアンス経営とは、法令遵守にもとづいて企業倫理を確立し、実践することを目指す経営手法を指します。
経営層や管理職が高い倫理観を持ち、人材を育成することで、組織全体の健全化が期待できます。どれだけすばらしい経営理念があったとしても、経営層や管理職のインテグリティがなければ、社員への動機づけができず、行動にはつながりません。
逆に、インテグリティのある経営層や管理職が道徳的指針を示しながら、公平な指導をおこなうことができれば、部下のモチベーションや生産性の向上につながるでしょう。
働きやすい職場づくりに寄与
インテグリティの欠如は、働き方にも大きく影響します。近年、働き方改革の一環として、全国的に長時間労働の是正が進められていますが、そうした中でも、みなし残業やサービス残業が組織内で暗黙の了解になっているケースもあります。
こうした状況は、インテグリティの欠如が一因となっている可能性もあります。マネジメント層のインテグリティの欠如が影響し、ワークライフバランスを乱す働き方が続けば、人材の流出を早めてしまう恐れもあるでしょう。
インテグリティの欠如は、企業だけでなく、組織を構成する社員にも損害を与えるものです。人材不足が続く昨今、人材が定着する職場の風土づくりが重要です。社内環境に大きく影響する管理職をはじめとしたマネジメント層のインテグリティが求められます。
インテグリティを発揮するための行動方針
インテグリティは、「高い倫理観を持ったうえで、自身の信念や価値観にもとづき自信を持って行動する」ことです。では、具体的にどのような姿勢で取り組めばよいのでしょうか。自らのビジョンを認識したうえで、以下のようなポイントを意識してみましょう。
- 1.主体的に取り組む
- 2.ぶれない姿勢を持つ
- 3.自らの基軸を持つ
- 4.信念を貫く
意図やねらいをもって、自らの責任のもと、何事にも率先し、主体的に行動することが大切です。意欲をもって仕事に取り組めるようになり、自分で考える力や判断能力も向上し、自身の成長にもつながります。
安易に周囲の動向に流されず、業務には一貫した姿勢で臨みましょう。ときには、信念を持って自分の意見を主張することも必要です。ぶれない姿勢を持つことで、顧客や取引先から信頼を得られるでしょう。
価値観や主張に自分なりの基軸を持つことが重要です。課せられた立場にあわせた価値観を持ち、責を問うときは他責ではなくまず自責として考察するようにしましょう。自身自身が納得して行動するための基準となる価値観を持つことで、問題解決の判断スピードが速くなったり、リーダーシップを育んだりすることにもつながります。
困難や反論に屈することなく、自らの信念を貫き通す覚悟も必要です。確信があることは容易に曲げない信念を持ちつつ、間違いがわかったら自らの判断で修正する姿勢が求められます。信念に沿った行動は、リーダーに必要な素質であり、周囲からの信頼獲得にもつながるでしょう。
管理職が意識すべきインテグリティのポイント
インテグリティは、個々の社員が意識すべき概念と言えます。しかし、組織内で定着させるためにも、管理職が率先してインテグリティを意識する必要があるでしょう。先より紹介しているピーター・ドラッカーの著書「現代の経営」にもとづき、そのポイントを解説します。
部下の行動模範としての自覚を持つ
ドラッカーによると、優れた組織文化を作るためには、マネジメント層の人事を検討する際、人格的な真摯さを評価することが大切だとしています。というのも、リーダーシップが発揮されるのは、人格に基づくものだからです。そのため、組織にはインテグリティを持ち、多くの人の模範となるべき存在が求められます。
管理職として、リーダーシップをもって部下を導くにはインテグリティのある行動を意識する必要があります。コンプライアンスに沿った行動を含め、真摯さや誠実さを踏まえた組織運営をおこなうインテグリティマネジメントを実践することが大切です。ただし、役職ごとに裁量権が異なるため、役割に見合ったインテグリティを考える必要があります。
役職に応じた適切な行動によって、部下の行動模範として組織にもよい影響を与えるでしょう。
インテグリティを重視したコミュニケーションの実践
管理職がインテグリティを発揮した行動をとることで、部下にも影響し、組織全体のインテグリティの強化につながります。互いに誠実さを重んじることで、より信頼感のあるコミュニケーションがとれるようになります。
結果として、風通しがよく、働きやすい環境づくりに寄与すると考えられます。また、所属部署内だけでなく、取引先や関係部署との良好な関係にも発展するでしょう。
また、先にもお伝えしたように、インテグリティのある管理職がいることで、働き方改革の正しい実践にもつながり、労働環境にもよりよい影響を与えます。インテグリティのある管理職の行動は、働きやすい職場づくりにつながります。
インテグリティを意識して、信頼される管理職を目指そう
インテグリティとは、誠実さや真摯さを意味するものです。インテグリティがあることで、自身の価値観に基づいた行動により、より自信を持って業務に臨むことができるでしょう。
ただし、うわべだけの目標や信念では、一貫性のない行動になりかねません。とくに管理職は、企業の経営指針を理解し、部下にビジョンを示すという役割もあります。組織目標を見据えたうえで、今の役職で求められるインテグリティを考えてみましょう。