「小さなチャレンジ」を繰り返すリーダーシップの育みかた~立教大学のビジネスリーダーシッププログラムから学ぶ~
立教大学経営学部准教授 舘野 泰一氏
近年、大学の経営学などに関わる領域で「ビジネスリーダーシッププログラム(以下、BLP)」を学ぶ学生が増えつつあります。ビジネスの場において求められるリーダーシップを、理論と実践の両面から学ぶものです。
しかし、読者の皆さまの中にはリーダーシップが大学教育で「育てられる」能力なのか、と疑問を抱く方もいるでしょう。そこで今回は、立教大学でBLPを担当する舘野准教授に、そのカリキュラムから企業での活用方法まで、幅広く伺ってきました。
あなたが「リーダーシップ」という言葉に抱いているイメージが、がらっと変わるかもしれません。
リーダーシップは「学習可能」である
—はじめに、リーダーシップというと人が生まれ持った素質や素養のように思うのですが、大学でBLPを通じて「学習」することが可能なものなのでしょうか。
舘野教授(以下、舘野):率直にお答えすると、リーダーシップは学習可能です。そこに勘違いを抱いている方は多いかもしれませんね。
みなさんが「リーダー(シップ)」と聞いて想像するのは、おそらく経済界の偉大なリーダーやスポーツの名監督などではないでしょうか。もちろん、そういった優れたリーダーはリーダーシップを持っているでしょう。ですが「リーダー」という役割と「リーダーシップ」は別の概念です。
実際には、役割上のリーダーでなくても人それぞれに「リーダーシップ」の形があり、それを発見して育てていくことができます。その方法を体系化したものがBLPです。
—「人それぞれのリーダーシップ」というものを捉えていくにあたって、まずは立教大学のBLPカリキュラムについて教えてください。
舘野:はい。当学ではBLPを経営学部経営学科の学生全員が受講します。
「全員がリーダーシップを発揮する」「自分らしさが重要」「リーダーシップは学習可能」という3つの柱のもと、企業からの課題に答える全14回の実践型授業と、スキルや理論を学ぶ座学型授業を交互におこなうプログラムを用意しています。
このプログラムは最低でも1年半の期間を受講することができ、さらに興味がある学生は、4年生の卒業までプログラムを選択して受講できます。実践と理論の両方を学ぶことで、リーダーシップを発揮できる人材を世に送り出すことが目的です。
実践型の授業では、2022年度にマイナビさんと共同で授業をおこない「大学生が将来のことをワクワク考えられるためにマイナビができることを提案せよ!」という課題を頂きましたね。
このように企業から出た課題に対し、学生がチームに分かれて調査、ディスカッション、発表、そして学内コンテストへの出場と段階を踏みながら挑戦することで、リーダーシップを育みます。
—その過程において、チームの中でリーダーシップを発揮する方法を学ぶということですか?
舘野:その通りなのですが、リーダーシップというのは必ずしも「場(チーム)をリードする能力」ではなく、それぞれが自分の特性を活かして「場に貢献する能力」であるということがポイントです。
もちろん、場をリードする能力も1つのリーダーシップです。ですが、それだけではない、もっと多様で幅の広い解釈が可能な言葉であることは覚えておいていただきたいと思います。たとえば、控えめではあるけれども対立した意見が出たときに調整する能力に秀でた人もいますし、プレゼンは苦手でも論理的思考力や分析力に優れている人もいます。
そういった自分の能力を発見し、チームに貢献する方法を知ること。これが「リーダーシップを育てる」ことなんです。
リーダーシップを支えるのは自己理解とフィードバック
—となると、自分の能力を発見していくようなステップが非常に重要になりそうですね。
舘野:その通りです。当学が実施しているBLPの実践型授業では、全課程を通じて3~4回のチーム替えがあり、それぞれで違う課題に取り組みます。
異なるチームで課題に取り組む試行錯誤の過程で、チームに対して自分がどのような場面でどのような貢献ができるのかが分かってきます。つまり、自分にとっての「リーダーシップ」を発見していくのです。
—もちろん自分にとっての「リーダーシップ」は、1つではないこともありますね。
舘野:そうです。試行錯誤の過程では、前のチームではうまく貢献できた自分の特性が活かせないという場面や、逆に前のチームではうまく貢献できなかったのに新しいチームではうまくいった、ということも起こるわけです。人は実にさまざまな能力を持っていますが、それらを活かせるかどうかは周囲との関係や状況に依存しているということですね。
かち合う能力を持つ人が1つのチームにいたら、一方は別の能力を発揮することが求められますし、逆にその時々の状況で必要と思われる能力を持つ人がいなければ、代わりとなる能力を開発するか、発見しなければいけません。
そうした試行を繰り返すことで、自身がチームに貢献できるパターンを発見し、実社会でも役に立つリーダーシップが育まれるのです。
—しかし、自分自身の貢献を測るというのは難しいものではないでしょうか?
舘野:そうですね。そこで重要なのがフィードバックを受けることです。