整形外科 教授・人工関節センター長
宍戸 孝明(ししど たかあき)
こんな方に読んでほしい
人生100年時代、一生笑顔で元気に過ごすための
心強い味方〝人工関節″を提供
人工関節手術は、20世紀に開発された整形外科手術で最も成功した手術の一つといわれています。東京医科大学病院整形外科(主任教授:山本謙吾)および人工関節センター(センター長:宍戸孝明)では、それぞれの患者さんに適した精度の高い手術を追求するとともに、臨床的な視点から人工関節の研究を進めています。
人工関節センター長である宍戸孝明教授は「人生100年時代に、人工関節は運動機能を回復して笑顔で過ごすための心強い味方」と語り、患者さんとのコミュニケーションから適切な手術時期や手術方法を見極め、細部にまでこだわった人工関節治療を目指しております。
東京医科大学病院人工関節センターは、2020年5月に開設されました。当センターでは、より質が高く安全に配慮した人工関節手術の提供とその研究を目的として股関節、膝関節、上肢(肩、肘、指)関節の各エキスパートである医師をはじめ、、医工連携に携わる医学研究者や基礎研究者が在籍し、それぞれの知識・技術・経験を連携させながら先進的な活動を展開しています。
また、様々な合併症や患者さんへのトータルケアのため、他の診療科とも緊密な連携をとり、集学的医療体制を構築しております。関節の軟骨が摩耗し(すり減り)変形が進行すると日常生活上の不具合が顕著となります。特に股関節や膝の変形では下肢の機能障害のため歩行に大きな支障をきたします。人工関節手術は、関節の変形した骨やすり減った軟骨を人工関節(インプラント)に置き換える治療方法です。
人工関節手術の対象となる主な疾患は、股関節では変形性股関節症、大腿骨頭壊死や関節リウマチ、膝関節では変形性膝関節症、関節リウマチなどです。人工関節センターは大学病院の利点を活かし、合併症や全身管理に対して他科と連携して治療しております。また、骨バンクを有しており、骨の著明な変形、感染や弛みなどで高度な骨欠損を認める症例の治療にも対応しております。
当センターでは、人工関節研究にも積極的に取り組んでいます。山本謙吾主任教授や私が留学していた米国ロマリンダ大学は、臨床部門と併設する形で人工関節の基礎研究をする講座を有しておりましたが、そのシステムを参考に、当センターにも同様の研究部門を立ち上げました。各メーカーからは、材質やデザインの異なる様々な人工関節のインプラントが提供されておりますが、人工関節の耐久性や生体親和性は、治療成績に影響する重要な要因です。メーカーからの情報だけではなく、自分たちの実験結果や臨床経験をもとに、それぞれの患者さんに最も適したインプラントを選択できるように配慮しております。
より良い人工関節治療のためには、その患者さんに適した手術法を選び、綿密に計画を立て、正確な手術を行う必要があります。そして術後の合併症対策、リハビリテーションも重要となります。これらのすべてが間違いなく行われるためには、総合的な力が求められます。術前の検査では、まず健康状態を詳細に調べ、次にレントゲン検査、CT検査、MRI検査などの画像検査を行い綿密な治療計画を立てていきます。
人工股関節手術では、小さい傷を用いた低侵襲手術を行っております。術前に患者さんの骨形態に合った形状、サイズのインプラントを選択し、正確な位置、角度に設置されるように術前計画を立てます。特に人工股関節は術後脱臼の危険性があるため、インプラントの設置角度には細心の注意を払うようにしております。また人工膝関節手術においても膝前面の創での低侵襲手術を行っております。後十字靭帯を温存するタイプのインプラントを主に使用し、膝の生理的な機能を損なわないように努めております。膝の適切なアライメント(関節・骨の並び)が再現できるように術前計画を立て、実際の手術では精度の高い骨切りと適切な靭帯バランスの調整を行い、正確にインプラントを設置することを心がけております。
当科では以前より人工関節手術に力を入れており、代々積み上げられた安全に配慮した精度の高い手術手技を受け継いでおります。私自身も長年、手術の腕を磨く努力を続けてまいりました。特に米国ニューヨークのHSSカダバートレーニングセンターで学んだ経験は今も大きく役立っていると実感しております。少しでも良い治療がしたいという思いは、ずっと変わりません。昨日より今日、今日より明日、より良い治療を提供できるようこれからも日々研鑽を続けていきます。
当院では、2023年にロボット支援手術(Makoロボティックアーム手術支援システム)を導入し、人工股関節全置換術および人工膝関節全置換術への運用を開始しました。人工股関節・人工膝関節の手術において、ロボットは骨切りや人工関節設置の計画立案をサポートし、執刀医をナビゲーション機能で制御されるロボティックアームでアシストします。このシステムにより正確な骨切りが可能になり、安全に配慮した人工関節を設置することができます。ロボット支援手術は低侵襲で術後運動機能の早期回復のためにも有用であり、合併症の低減、術後疼痛の軽減、早期リハビリテーション、入院期間の短縮など様々なメリットが期待されております。
しかしながら高度な骨欠損を有する症例、再置換例、急速に変形が進行している症例などロボット支援手 術が適応にならない症例も残されているのが実際です。ロボット支援手術手技の熟練以前に、医師自ら行うマニュアルの手術手技の研鑽が重要であることは言うまでもありません。
私は幼少のころから生き物に興味があり、小動物を飼育したり観察したりするのが好きでした。また、近くの野山に出かけ動植物の生態を写真に収め取集することが趣味の一つでもありました。高校時代に生命に向き合う医師という職業に憧れるようになり、大学は東京医科大学に入学しました。大学時代はラグビー部に入部し、よくケガをしては整形外科のお世話になっておりました。また、以前より生体が精密にしかもしなやかに動く神秘に魅せられていたこともあって整形外科医を目指す決心をいたしました。
整形外科入局後、大学院に進み学位を取得しました。その後、医長出張を終え大学に戻ったころから人工関節手術を専門とするようになりました。2001年には米国ロマリンダ大学に留学し、人工関節の摺動面(しゅうどうめん:人工関節の擦れ合う部分)の耐摩耗性やバイオメカニクスの研究に携わり、人工関節の基礎を学びました。理想的な人工関節の条件として、長期耐用性を有しながらしなやかな人の動きを再現できることが重要であると考えております。長年、股関節や膝関節の障害で歩行が困難だった方でも、人工関節の手術により劇的に症状が改善し、以前と同じ快適な生活に戻ることができるようになります。手術を受けていただいた多くの方々より感謝の言葉を頂き、私自身医師として非常に嬉しくやりがいを感じております。
人生100年時代に、人工関節は運動機能を保ち、一生元気で過ごすための心強い味方です。人工股関節全置換術は20世紀に開発された整形外科手術の中で、最も成功した手術の一つと言われておりますが、そのような治療効果に優れ社会貢献度が高い分野の仕事に携わることができ、充実した日々を過ごさせていただいております。
人工関節手術は30代から90代まで幅広い年齢層の患者さんに受けていただいております。大きな病気がなく、手術に耐えられる体力がある方であれば年齢に上限はなく90代でも手術は可能です。また、最近では人工関節の耐用年数が向上しているため、将来再手術の可能性がある点をご理解いただければ、30代の方に対して手術をお勧めすることもございます。
手術をいつ行うかは、患者さんとしっかりお話したうえで、適切な手術時期を決めるようにしております。手術の内容やどのような手術が適しているか、画像所見(レントゲンやCT・MRI画像)や実際のインプラント、関節の骨の模型などをご覧いただき、わかりやすい言葉で、しっかりと伝わるご説明を心がけております。
患者さんが安心して手術を受けられるように、様々な質問にできる限りお答えしております。さらに当センターでは独自に作成した患者さん向けのパンフレットを用いて、日常生活上の注意点につき丁寧な指導を行っております。例えば人工股関節全置換術のパンフレットでは、体重コントロールの重要性、脱臼予防対策、筋力トレーニング、その他の日常生活上の注意点などが主な内容となっております。
<参考リンク>人工関節センター:人工股関節置換術・人工膝関節置換術パンフレット>>
また退院されて関節の機能が安定した後も半年から1年に1度、不具合がないかを診るため定期検診が不可欠です。患者さんとは長いおつきあいになるので、よい人間関係を築くことを心がけています。
初診から術後の定期検診まで、スタッフ一同、今まで培ってきた知識と技術を最大限発揮し、患者さんの生活をより良くするための治療を提供いたします。関節のつらい痛みでお困りの方も多いかと思いますが、まずはお気軽にご相談ください。
本治療に関する問い合わせ
お問い合わせ先 | 東京医科大学病院 整形外科(人工関節センター) |
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TEL | 03-3342-6111(病院代表) 受診を希望される方は、整形外科外来へご連絡ください。 ※受診には、他医療機関発行の診療科・医師名が明記された紹介状が必要です。 |
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