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くみみさんのレビュー一覧

投稿者:くみみ

1,363 件中 1 件~ 15 件を表示
52ヘルツのクジラたち

52ヘルツのクジラたち

2021/02/18 04:01

2021年本屋大賞ノミネートの傑作

10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

過酷な環境で育ち人生を諦観した主人公が移り住んだ先は偏見だらけのド田舎。何にも侵されない“孤独”を愛し同時に憎む、虐待を受ける少年との出会いで翳った視界を拭っていく愛の物語。少しずつ交える回想のタイミングが絶妙で、伏線の上をすり抜ける様に撫で大事に回収し現れる過去に堪らなく共鳴した。届かない周波数で鳴く【52ヘルツのクジラたち】がまだ気付いていない孤独の先の希望を描いた感動作

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護られなかった者たちへ

護られなかった者たちへ

2021/02/18 03:39

映画化決定!

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

高齢化の日本の福祉が抱える闇に迫った社会派ミステリー。真っ新な状態で読み始めたならきっと何度も気持ちが移り変わり、著者の「あなたにこの物語の犯人はわからない」の言葉通り、何処に怒りの矛先を向けていいのか分からず憤ること間違いなし。経歴、前科、生活、全てに置いて表面を軽く掬い取っただけの他人への杜撰な評価を苛立たしいまでに代弁した問題作。救いのない話の中で利根や刑事コンビ、その他登場人物に任侠があり、それがまた切なく感じ、感情を煽る展開が絶妙で堪らなかった

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星を編む

星を編む

2023/11/08 22:52

『汝、星のごとく』のスピンオフ

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2023年本屋大賞受賞『汝、星のごとく』のスピンオフストーリー3篇。永遠になったと思った物語が、繊細な筆致で再び動き出す。

謎だらけだった北原先生のバックグラウンドが描かれた「春に翔ぶ」。子が親に、親が子に、恋人が恋人に、人が人に求めていい正当な愛情とは何か。誰かの為、と犠牲にし続けた心から溢れ出す悲鳴がとても痛々しく響いた。超現実的な北原先生が、雨でもなく、晴れてもいない、曇り空を割って我が道を突き進んだ意外性も良かった。
本編未読の方は「春に翔ぶ」を先に読んで北原先生を知ってからでも面白いかも。私には絶対に出来ない楽しみ方。

表題作「星を編む」は、櫂の担当編集者男女二人の、作品と作家への愛が詰まった後日談。蓋をされた作品がまた動き出すまでの奮闘と、職場と家庭での男女の役割や権利を、偏りなくフェアに描いた物語。本編での作品が出来るまでの葛藤と、全員の真摯な姿勢を見ていた分、込み上げるものがあった。守る事と庇う事の違いを考えさせられた。

『汝、星のごとく』を綺麗な永遠で終わらせない為の「波を渡る」。今まで見た事のない家族の形を見せられる怖さ。一般的だと思っていたものの選択肢が増える戸惑い。物語は気分によって印象に残るシーンが変わる、これは人への印象も同じだと感じた。自分の心境次第で全てのものの見方が変わる。

本編の櫂の「退屈ごと愛していた」という台詞がとても好きで印象的だったが、今読んだらどのシーンが一番強く残るのか、興味が惹かれた。本編、スピンオフ共に、数年おきに読んで、印象に残ったシーンの変遷から自分を顧みるのも面白いと思った。

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方舟

2023/02/10 19:03

2023年本屋大賞ノミネート

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

友人、従兄、見知らぬ家族と山奥の不気味な地下建築に閉じ込められた主人公。水没していく地下建築を出るには、誰か一人を犠牲にしないといけない極限状態の中で発生した連続殺人。生贄にすべく犯人を炙り出していく、倫理観に訴えるクローズドサークルミステリー。
同調圧力、大丈夫だと思いたい弱い心、「正常性バイアス」を巧く利用して違和感のない展開に誘っていた。協調性がなく、弱さを抑えられない私だったら、平然とスタンドプレーするだろうと想像したりして楽しんだ。
一番最初のトリックと殺人を重ねた動機、最期の最期の絶望的な暴露、何もかもを根底から覆す衝撃のラストに暫く頭が追い付かなかった。正直、犯人が特定された段階では☆4だと思った。それまでの焦燥感にはかなりリアリティがあったが、これがオチなら少し呆気なくて物足りないと感じた。熱が冷めるのを感じながらも頁を繰ると、真の動機の告白で☆4.5に上がり、生き残る術をみすみす逃した判断で☆5を振り切った。残酷さと後味の悪さがずば抜けていた。

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オフィスラブ

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

女子校育ちで男性に不慣れの27歳ヒロインが、唯一気兼ねなく話せる人気者の同僚王子に、予てからコンプレックスであった未経験を告白。初に見えて好奇心旺盛のヒロインと逆にたじたじの王子の攻防が見所。両片想いなのかな?描き下ろしもたくさん

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茜唄(上)

2023/03/17 17:43

今村版『平家物語』

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

平清盛最愛の子・知盛視点で紡がれる、戦がもたらす景色が導く未来を示した、強くて脆い『平家物語』今村版、上巻。

平家滅亡後の『平家物語』誕生秘話という体の、ミステリアスな語りにすぐに心を持っていかれた。
優しい調べで溢れる慈愛に包まれた日常は、傍若無人な平家の悪役イメージを一変させ、「人は皆同じ」という当たり前な事を再認識させてくれた。ご時世も相俟って、戦の中での不条理や葛藤がより痛切に響いて、ページを繰る手が震えた。穏やかで策士な知盛と武骨な教経、一見対照的な二人に通じる実直さが結ぶ深い絆に、平家を応援せずにはいられなくなりました。平家側から描かれた物語だけど、格好良いだけじゃない「生」への泥臭さなど、飾り気のなさに好感をもてた。
穏やかなシーンも多い上巻は平家優勢で、更なる激動の下巻へ。

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スモールワールズ

スモールワールズ

2021/04/22 22:20

ミステリアス

8人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

6つの異なる毒素が注入された短編集。少し見えたと感じた先が思わぬ方向に転がり落ちていく恐怖と焦燥感を煽るミステリアスな作品。全編通して他人では触れ難いテーマで、読後タイトルが意味が重くのし掛かってくる不思議な後味

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最高のアフタヌーンティーの作り方

最高のアフタヌーンティーの作り方

2021/04/20 15:36

華やぐ香り

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

老舗ホテルで念願のアフタヌーンティーチームに抜擢された三十路手前の主人公。幼い頃から“スイーツ”に特別な想いを抱いていた事で見過ごしていたキラキラの裏側、現場での理想と現実の差に悩みながらも温かい人に恵まれ道を切り開いていく菓子テロ物語。生唾もののスイーツの数々とその歴史、目を瞑れば香りとイメージが広がってきそうな幻想的なシーンもとても魅力的でした

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風に立つ

風に立つ

2024/01/10 00:08

補導委託

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

非行少年を預かる「補導委託」を独断で始めた南部鉄器工房の親方。仕事一筋で家庭は後回しにしてきた父の突然の行動に、戸惑いと怒りを覚える息子。嫉妬に似た気持ちを抱えながらも少年を受け入れる事で、少しずつ様々な愛情の種類を知っていくヒューマンドラマ。
大切すぎて、近すぎて、気付けない想い。互いに歩み寄ってるつもりでも、タイミングが合わないまま蟠ってしまった関係が、新しい風が吹く事で徐々に足並みが揃っていく。決まった形のない「愛情」を、誰もが手探りで求めて手繰り寄せる。揺れ動く心模様を繊細に抄った作品。
大人も子供も関係なく、素直な気持ちをさらけ出すシーンがとても印象的だった。400ページと少し長めで、登場人物もイベントも少なく、淡々とした印象があったが、中弛み感もなく綺麗に纏まっていた。
ちょっとした仕草や言葉のひとつが、存在感を放っていた。

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汝、星のごとく

汝、星のごとく

2023/01/26 09:54

多様性

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2023年本屋大賞ノミネート&第168回直木賞候補作。

「退屈ごと愛していた」
無垢な高校生の夏から30代までの男女の深い精神の結び付きを描いた、心揺さぶる壮大な愛の物語。

二人の秘めた強さと未成熟さが不安定な海波を連想し、すぐに島の情景が浮かび心地好いテンポで一気読み。スマホもあり設定は昨今だけど、独特な島の風潮が生み出す閉鎖感と不便さが簡単には繋がれない昭和臭を醸していて、一瞬一瞬がとても貴い時間のように感じられた。特に時間を無駄にするな等の直接的な描写はなかったものの、この作品の伝えたいものの一つであろう「貴重な時間」を、無意識に刷り込まれた。「四万円」にしたら早く終わってしまうのに、それでも繋がりたかった櫂の切実さ――凪良氏はきっと櫂と同じように身を削り書いたんだろうな、と勝手に想像し余計に苦しくなった。
SNS等で簡単に何でも共有出来ちゃう時代だけど、誰も共感してくれなくても自分達だけわかっていれば良い事もある。
ヤングケアラーや凪良氏十八番の性的マイノリティ等、表に出難い問題にも斬新な切り口でフォーカスし、更なる多様性を示していた。
星を見る度に二人の愛の形を思い出す、つまりは一生忘れないだろう作品。
スピンオフが待ち遠しい。

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木挽町のあだ討ち

木挽町のあだ討ち

2023/01/21 13:55

時代ミステリー

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

観衆の中、雪夜に舞う麗しの若衆が遂げた仇討ち。物々しいタイトルに反して幻想的な情景から始まったかと思うと、ひょうきんな木戸芸者のプロ語りはさすがに口が巧く、一章から読む手が止まらない。仇討ちの目撃者に訊いて回る人物の目的も、事の顛末もなかなかに見えてこない中でも、壮絶な人生をお芝居の様に魅せる目撃者達の語り口が、時代小説の堅苦しいイメージを打破した新感覚の時代ミステリー。

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墓じまいラプソディ

墓じまいラプソディ

2023/12/21 19:44

ユーモラスな墓問題小説

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

少子高齢化や、時代と共に変化する価値観により顕在化した「墓問題」を、多角的な視点から親しみやすく描いた、有意義なドタバタ墓騒動劇。
親子、兄弟、夫婦、偏に「家族」と括っても関係性はバラバラで、継いだ墓への思い入れも大きく違う。世代や性別ごとの価値観であったり、そういうものを超越した現実的かつ現在主義の意見など、それぞれの立場に寄り添っていて好感を持てた。不謹慎にならない適度なユーモアと、重々しくならない程好い説法で、心地好く読み進められた。
相容れない議論の終着点をどこに定めるか。沢山の人の意見を聞き、何度も話し合いを重ねる、時代が移っても変わる事ない交渉術も参考になり面白かった。

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ヨルノヒカリ

ヨルノヒカリ

2023/09/06 05:13

多様性

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

恋を知らない木綿子と家族がわからない光。欠けた感情に蓋をして生きてきた男女二人が、共同生活の中で少しずつ歩み寄り、あたたかい場所を紡ぎ出していく物語。
多様性やネグレクトを題材にした話が最近は増えた気がするが、人の数だけ考え方や価値観があって、作品の数だけ形の違う「傷」が描かれていると強く感じた。加害も被害も線引きが難しく、単純に気付けない場合や、心ともなく当事者だと認めたくない気持ちで発動する、自己防衛などの心理描写がとても痛々しくて心に響いた。
二人の周りは一見するといい人ばかりだが、燻る感情を上手く裡に隠せているだけで、誰もが不自由を抱えている。「普通」が人を傷付けてしまう可能性があるなら、寧ろ「多様性」という表現ももう違うのかもしれないと感じさせられた。
皆が皆、自分の必要性に怯えている不器用さが愛しかった。凝り固まった心を解してくれる穏やかな作品。

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ゴリラ裁判の日

2023/03/15 00:27

ゴリラと喜怒哀楽

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

保護区のジャングルで生まれ、研究者から学んだ「手話」で人とコミュニケーションをとる、ゴリラのローズ。アメリカの動物園で起きた実際の事件から着想を得た、「人間の定義」と「命の選択」を、豊かな感受性を持つゴリラの視点から描いた至高のエンターテインメント。
手話を駆使して夫の仇を討つべく裁判に挑むゴリラを描いた、コミカルなSF作品。ナックルウォーカーという名前など、細やかなユーモアに図らずも何度も笑わされた。そんな序盤の印象から、ジャングルでの開放的なゴリラの群れでの暮らしへ移ると、文字通り景色が一変した。無邪気なローズのゴリラ本来の気質と、人間から多くを吸収した事で生じた違和感とのジレンマを、目映いばかりの美しさで表していて、青春物語のような魅力も詰まっていた。
手話をするゴリラをも凌ぐ個性的なキャラ達は、作品の舞台でもあるアメリカ的な独特なセンスが反映されていて、とてもしっくりハマって心地好かった。
物語が進むにつれて、人かゴリラかの単純な問題ではなく、各々が持つメンタリティへと踏み込んでいく奥の深さには驚きの連続。人種や銃などの問題を違和感なく組み込んでいるのも巧いと思った。
ローズが人間らしい感情を見せる度に作中でも驚かれていたけれど、果たして思い遣りなどの感情は「人間らしい」のか。動物は伝える手段が少なく、私達人間が理解出来ていないだけで、感情だけで言ったら彼らの方が豊かなのではないか、と人間の傲りを痛感させられた。
アメリカの柔軟な考えが導く先の「線引き」を考えると、もし三回目の裁判があったら、また覆るのかもしれないと漠然と考えた。沢山笑えて温かい気持ちになる作品だったけど、後味は苦いものも残りました。

人を選ばずオススメ出来る作品です!

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分岐駅まほろし

分岐駅まほろし

2022/11/16 16:03

後悔と前進

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

過去の後悔に囚われ前を向けなくなった人達が、いくつかの条件を満たすとたどり着く不思議な駅。
「過去に戻れる」という王道設定の中でも、過去作『さよならの向う側』と共通して「条件」を付ける事でオリジナリティを見出だすのがとても巧い。仮に成功していても、紙一重の向上心と欲深さで、別のルートをたどった人生を見たくなる人間の好奇心を擽る作品。
選択ミスと思われるルートの中でも、変えられるものが沢山あるという事を教えてくれる、前向きなヒューマンファンタジー

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