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たあまるさんのレビュー一覧

投稿者:たあまる

736 件中 1 件~ 15 件を表示
羊と鋼の森

羊と鋼の森

2018/05/21 23:03

うっかりすると涙が出そうなくらい

10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

宮下奈都『羊と鋼の森』を手したのは、話題になったからではなく、なんとなく表紙に惹かれたから。
読んでみると、調律師の物語でした。
タイトルは、ピアノのことなんですね。
音楽の素養がないので読みこなせたかどうかはあやしいのですが、読んで幸せな気持ちになれる本でした。
「本屋大賞」に選ばれるのも頷けます。
心に残ったフレーズ2つ。
 「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。」
 少女の弾くピアノの音色について、「ただ、やさしくて、美しくて、うっかりすると涙が出そうなくらい素直に胸に響く。」

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楽園のカンヴァス

楽園のカンヴァス

2018/05/05 23:36

「この絵の中に、君の友だちがいる。」

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

大原美術館のシーンで始まり、ニューヨーク近代美術館で終わる物語。
 「美術ミステリー」とされているけど、殺人や犯罪は出てきません。絵画のナゾを追う話です。アンリ・ルソーの作品がいわば主人公なんですが、読んでる間、その絵を一度も見ませんでした。それでも、この物語を十二分に楽しめました。あるいは、見ない方が想像をふくらませられてよかったのかもしれません。
 美術作品に接するにあたって、主人公の一人、織絵の父の言葉が心に残ります。
「この絵の中に、君の友だちがいる。そう思って見ればいい。それが君にとっての名作だ。」
 たとえば「10億円もらったら何に使いますか」みたいな問いにはうまく答えられません。海外旅行には行きたくないし、車はいらないし、広い家は管理が大変そうだし、美酒も美食もそんなに入らないし……。
 でも、原田マハの本を読んでいて、ひとつ思いつきました。大人気の美術展を一日貸し切りにして、独占で楽しむ。これはどうでしょう。
 印象派をはじめとして、最近の日本の美術展っていつも混んでいるイメージがあります。平日だって混んでます。マイペースで静かにゆっくり見られたら、いいだろうなあ。いくらぐらいかかるのかなあ。お金を積んでも、そういうのは公立美術館では無理なのかなあ。それに、金にモノを言わせてそんなことするのは下品かなあ。でもそれを言うなら、名画が高額になるのも下品だよね。悩むところだ。まあ、そんな大金、だれもくれないからいいけどさ。

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また、桜の国で

また、桜の国で

2020/02/17 09:32

「真実を残す」という勝利

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ナチスドイツにまつわる話や、ホロコーストの本は、いろいろあるけど、
この本は、ポーランド。
分割されたとか、ドイツに侵略されたとか、
おぼろげで断片的な知識はあっても、具体的なイメージは出来ない国。
それが、実は日本との絆があった。
国家と民族の運命という大きなものを、
一人の青年の目から見ると、
味気ない歴史でなく、熱くて切ない物語になる。
戦争の醜さ恐ろしさ、非人間性が詳細に描かれ、
知らずにすませてはいけない世界が見えてくる。
大きな流れの中では無力な人間も、「真実を残す」という勝利なら得られる。
あとに続く者は、残された真実をしっかり受け止めて、生かさなければ。

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海の見える理髪店

海の見える理髪店

2019/06/28 23:19

お風呂で読んで、よかった

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「海の見える理髪店」。
題名を見ただけで、なんだか気持ちよさそうな、青を基調とした風景が目に浮かぶ。
のんびり、ゆったりできそうな。
でも、読んでみると、そんなのんきなことばかり言っていられない。
大きな大きな失敗をしてしまった人生。
ふりかえりたくない、直視したくない過去がある人生。
しんどい現実が目の前にあり、ちょっとうれしくなる過去がよみがえる。
無力で小さな、本来守られるべき存在が、ちっとも大切にされない現実のつらさ。
「時計が刻む時間はひとつじゃない。この世にはいろいろな別々の時間がある。」
さいごの「成人式」にやられた。
こんな作品を読んでる自分の顔を、ひとには見せられない。
途中までもそうだけど、後半のドタバタになっても、こみあげるものは変わらない。
郁美ちゃんと仲間達のふるまいが泣かせるじゃないか。
お風呂で半身浴しながら読んだのが正解。
だれにも顔を見られないし、すぐ顔を洗えるしね。

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戦争は女の顔をしていない 1

戦争は女の顔をしていない 1

2020/10/30 09:40

たかがマンガと言わせない

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

これは異色のマンガです。
ロシアの本が原作。
原作者は、ノーベル文学賞を、ジャーナリストとして初めて受賞した女性。
描かれるのは、第二次世界大戦にソ連兵として従軍した女性たち。
500人にのぼる彼女らの証言をマンガ化したのがこの作品です。
原作が出たのは知ってたけど、
ロシア語からの翻訳って、めんどくさそうという先入観があって手にしていませんでした。
マンガで読めるのは、幸せです。
あの大戦で戦死者が一番多いのは、ソ連でした。
私たちは、日本の戦争だけでなく、さまざまな戦争に目を向ける必要があります。
しっかりした原作に基づくこのマンガは、たかがマンガと言わせない力を持っています。

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たゆたえども沈まず

たゆたえども沈まず

2020/07/14 22:25

研究者じゃないから

8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

研究者じゃないから、
何が史実でどれがフィクションかわからない。
ゴッホファンじゃないから、
どの絵のことを言ってるのか、
あぼろげにしかわからない。
でも、物語は楽しめる。
兄弟の苦悩や哀しさやよろこびは、
実在の人物がどうであるかにかかわらず、
この物語の中では息づいている。
それを味わうには、
美術的知識がなくても、
史実に疎くても、大丈夫。
そう、小説を楽しむ、その姿勢さえあれば。

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焼けあとのちかい

焼けあとのちかい

2020/03/16 07:22

この世に「絶対」はない、が、……

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

近現代史に詳しく、著書も発言も多い半藤一利の、初の絵本です。
自身の東京大空襲の体験が中心ですが、
戦前・戦時下の東京下町のくらしが丁寧に語られ、
空襲に至る道筋がよく分かるようになっています。

空襲を何とか生きのびた著者が得た教訓は、
「この世に「絶対」はない」ということ。
その筆者が、あえて「絶対」という言葉をつかって伝えたいこと、
それが書かれています。

歴史には詳しい著者だけに、内容がしっかりしています。
たとえば、猛獣処分のことは、
戦争が始まって変わっていった世相の説明の部分に、
英語禁止や犬猫の処分と並列して書かれてあります。
不要な説明はなく「動物園のライオンやゾウ、クマやトラなどは殺されました。」と書いてあるだけです。
空襲の始まりよりも、4場面も前のことです。
このあたりの記述は、当時を体験し、
しかも反省的に歴史を研究している人ならではの確かさです。

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へいわとせんそう

へいわとせんそう

2019/07/14 19:43

子どもは子どもなりに 大人は大人なりに

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この絵本は、19センチ四方の正方形。
扉を開くと、見開きの画面になっています。
「へいわの~」と「せんそうの~」を対比する構成です。
次のページが「へいわのワタシ」と「せんそうのワタシ」。
こういう調子で、「チチ」「ハハ」「かぞく」「どうぐ」「ぎょうれつ」「き」 (樹木のことです)
「うみ」「まち」「よる」「くも」と続き、
「せんそうのくも」のページだけは、キノコ雲の白黒写真です。
そこでページ構成が変わり、左に文字だけで「みかたのかお」、
右は表紙と同じ顔のイラスト。
めくると、「てきのかお」。
ところが イラストはほぼ同じ顔(服の襟の形だけちがう)です。
続いて、見開き2ページにわたって朝日のイラスト。
「みかたのあさ」「てきのあさ」。
次の「みかたのあかちゃん」「てきのあかちゃん」は、左右同じイラスト。
これでおしまい。
裏表紙は、表紙の顔の後頭部のイラストです。
平和の姿、戦争の姿の対比。
でも、戦争をする者同士は、実は同じじゃないか、
何を殺し合うことがある?
子どもは子どもなりに
大人は大人なりに
感じて考えられる絵本です。

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革命前夜

革命前夜

2020/06/15 10:39

最後まで読むと面白い

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

はじめのうちは、なかなかなじめなかった。
主人公の持っている音楽の世界に
なかなか入れなかった。
でも、音楽は横目で見つつ読み進めると、
だんだん作品世界になじんできた。
カタカナの人名にもなれてくるしね。
壁の崩壊、西と東の融合、という
歴史的な結節点を別の角度から見る。
青春の一つのあがきやもがきと重ね合わせて。
そういう面白さがあった。

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危険なビーナス

危険なビーナス

2019/11/03 10:14

意外な犯人と、納得いく説明

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

やっぱり東野圭吾はおもしろい。
複雑な家族と行方不明の弟。
ただものではない魅力的な「弟の妻」。
相続を巡るあやしい一族。
ちょっと気になる職場のパートナー。
そして、さすが理系作家の東野圭吾だけあって、
脳医学だか精神医学だかが絡むし、数学も絡む。
あ、生物学もか。
意外な犯人と、納得いく説明がちゃんとある。
科学への賛美と、科学を盲信したり科学至上主義になったりへの警鐘も併存する。
やっぱり東野圭吾の作品は、読ませるなあ。
ひとつだけ文句を言えば、カーリーヘアの美女って
具体的にどんな女性を想像したらいいんだろう?
ちょっとわからん。
映像化したらどうなるのかしら。

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アンと青春

アンと青春

2019/06/18 21:03

食を愛し、食を楽しみ、食を大切にする

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

デパ地下に出店している和菓子屋でバイトしている梅本杏子(きょうこ)が主人公の『和菓子のアン』の続篇が『アンと青春』。
作者は坂木司。
ウィキペディアのこの人の紹介に「お仕事系日常の謎小説」とあるのは、言い得て妙。
自分に自信が持てないアン(杏子の「杏」の読み方を変えると「あん」)が、人にいろいろたずねて、悩みながらも、和菓子に絡む謎を解いていく話です。
アンのいいところはいろいろあるけど、いちばんは、食を愛し、食を楽しみ、食を大切にするところだと思います。

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「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜

「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜

2020/02/04 22:51

憂いは、ますます深くなりそう

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

軽い文体は、週刊誌のお気楽コラム風だが、着目点や問題指摘は鋭い。
資料の扱いもきちんとしているようだ。
昨今の「日本スゴイ」本のブームを憂えて書いた本だが、その憂いは、改元騒ぎやオリンピックやなんかで、ますます深くなりそうである。
「神国にっぽん」と謳われたころの本を笑って斬り捨ててゆくうちに、笑えない現代の風潮が見えてくる。
国家総動員体制と現在のブラック企業は通底する、とか80年前も日の丸掲揚キャンペーンがあったとか。
「日本人でスゴイ人がいる」ことは「日本人はスゴイ」とは、また別の話であるって、これぐらいの論理はきちんとわきまえようよ、っていうことですね。
そんなまちがいを、私たちのずっと上の世代はやっちゃった。
間違いをくり返したら、2回目の方が罪が重いよ。

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この世の春 上

この世の春 上

2019/12/09 10:37

そこに闇がある

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

波乱を含みつつ、のどかな風景から話が始まる。
おいおい登場してくる人物たちが、
それぞれに何かを抱えているようだ。
多紀の人物造形が魅力的で、
お鈴を描くのもうまい。
他の人物もそれぞれに魅力的である。
そして、隠されている大きな謎。
解いてしまったら、索漠としたやるせないものなのかもしれない。
しかし、そこに闇があるのを忘れさせないのが宮部作品であり、
その闇を解き明かす面白さがこの先に待ってるのか、
闇に直面するつらさが待っているのか。
もしつらさが待っているとしても、
まわりの人物の明るさ、暖かさが、ささえになってくれる。

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字のないはがき

字のないはがき

2019/06/16 15:34

現代の小学生にも寄り添える

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

向田邦子の名エッセイが、ついに絵本になった。
「字のない葉書」は、原作のエッセイそのものを、平和教育の教材に出来ないかなあと、考えていました。
でも、ちょっと小学生にはなじみにくいかな、と思っていました。
それが絵本になったらなんとかなるのではないか、と手に取ると、なんと……角田光代がリライトして、西加奈子が絵をつけてる!
これは現代の小学生にも寄り添える内容になっているだろう、と思って読むと、期待通りでした。
読後は、かわいそうだったね、家族の絆は大事だね、で終わるのではなく、そんな小さな子をかわいそうな目に遭わせたのはだれなのか、家族の絆を壊したり利用しようとしたのはだれなのか、というのをしっかり考えないと、この絵本の意味はなくなります。
大人が読んで感動して、子どもにもしっかり感じさせて考えさせたい絵本です。

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世界の果てのこどもたち

世界の果てのこどもたち

2019/05/26 10:26

戦争を知りたい人に、おすすめ

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ある中学校で教材に使ったという話を聞いて読んでみた『世界の果てのこどもたち』。中脇初枝という人の本は初めてです。
「満洲」のお寺で、ひとつのおむすびをわけあって食べた3人の女の子たち。
一人は戦災孤児になり、一人は中国残留孤児になり、一人は在日朝鮮人として、それぞれに戦後を生きてきた。
40年ぶりに再会した彼女らは会話が出来なかった。
残留孤児の一人は日本語を忘れていたので。
再会の喜びと話せない哀しみ。
語り尽くせない苦労を背負った彼女たちは、しかしそれをマイナスのエネルギーにはせずに、プラスの力に変えていく。
戦争の実体験がない書き手でも、戦争をここまで描ける。
いや、体験がないからこそ、彼女たちの生き方に普遍性を与えることができたのではないかな。
戦争を知りたい人に、おすすめの本です。

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