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投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
明治の時代に密室で起こった一家惨殺事件。黒星続きの弁護士と破天荒な新聞記者の、なんとも頼りのないタッグが驚愕の真実を暴いていく、歴史の闇を感じる時代長編ミステリ。
本題にたどり着くまでが少し遠回りのように感じたが、その紆余曲折がこの時代を、そしてこの事件の大きな謎を解く伏線になっていたとは。時代設定と登場人物の職業や特性、すべてがすべてこの作品に不可欠で、読み切った時には過不足のないあまりに完璧なミステリに言葉を失った。
時代モノが好きな人、ミステリが好きな人、変人探偵モノが好きな人、法廷モノが好きな人―――幅広い層が楽しめる要素が詰まっているが、整然としているのも魅力。理不尽な時代に思いを馳せ、歴史の無常を感じられる一冊。
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鬼★5 明治時代にタイムスリップ! 徹底した弾圧の時代、新聞記者と弁護士の熱い闘い #明治殺人法廷
■あらすじ
明治20年、新聞記者の筑波新十郎は、自由民権運動の活動家を排除する保安条例のため東京から退去を命じられ、大阪に流れ着く。一方、大阪で駆け出しの代言人(現在の弁護士)だった迫丸孝平は、日々未熟な司法と生活に苦しんでいた。
ある日、質屋一家が惨殺されるという殺人事件が発生。折しも国や警察が強い時代、犯行に及んだとは思われない容疑者がむりやり逮捕されてしまった。真相と正義を追い求めるため、二人は立ち上がる…
■きっと読みたくなるレビュー
鬼★5 明治時代の社会派法廷ミステリー。激推し、これはおもろいっすよ。
そのまま明治時代にタイムスリップしたような体験ができる一冊で、当時の街並みや人々の生活をはじめ、政治や社会の混乱が手に取るようにわかる。プロットも演出も重厚で、エンタメ作品としてめっちゃ面白い。謎解きも不思議で不気味だし、練り練られた真相に、もはや感動しました。
特に推したいのはバランスが優れている点。歴史小説ではあるのですが、必要以上に史実や説話を持ち込むのではなく、あくまでベースやスパイスにしている程合い。それらを法廷劇、ミステリーとしてエンタメに昇華させ、作品全体を抜群に輝かしているです。『大鞠家殺人事件』も重厚感あふれる作品で好きでしたが、個人的には本作のほうがより好みですね。
さて本作の主人公のひとり、弁護士の迫丸孝平。まだ司法制度はもちろん、政府すら安定していない明治時代の混乱期ですよ。事件の現場検証すら重要視されておらず、状況証拠だけで人権など関係なく逮捕されてしまう。当然、この時代には科学捜査も法医学もない。
こんなんでどうやって容疑者の弁護なんてやるんすか、無理だろ…
そしてもう一人の主人公である新聞記者の筑波新十郎。現代では表現や言論の自由が担保されてますが、明治20年では大日本帝国憲法すらできていない。民権運動につながる媒体や運動は当たり前のように弾圧される社会情勢。
こんなんでどうやってジャーナリズムなんてやるんすか、無理だろ…
現代では考えられない環境なんですが、それでも二人は容疑者のために法律とペンで戦っていく。前向きで元気が一番の新十郎と、弱気でふがいないけど勉強家の迫丸。こんなにも熱い奴らと仕事ができたら幸せだろうなぁ。二人をみてると今の自分の仕事ぶりを振り返らずにはいられないんすよ。時代は違えど仕事に対する想いは学ぶところが多かったです。
物語の後半は法廷ミステリーになるんですが、完全に鬼アツ! 臨場感もエグくって、まるで傍聴席にいるかのよう。現代とは全く違う裁判に驚かされ、検証方法にも驚かされ、さらに斜め上にいく展開にまた驚かされる。もう凄いし面白いし、何も言うことがない。もう読んで欲しい!
ミステリーの真相も丁寧で綿密だったなぁ~ 特に日本人であるならば、この事件の背景を体験すべきだと思いました。間違いなく今年を代表するミステリーですね、控え目に言って必読です。
■ぜっさん��しポイント
本作で特に好きなのは、主要人物以外の登場人物なんです。口は悪いが人情溢れる賄い老女のお吉、幼馴染で気っ風がいい芸者の琴鶴、現代の価値観に近いアメリカ人の医者テイラー。
この未熟な時代でも、価値観とプライドをもって自分らしく胸を張って生きている。困っている人がいたら手を差し伸べてあげる、正しいことをすべきという意思、なんて人間らしいんでしょうか。
たしかに辛い事件ではありました。しかし彼らのおかげで、この時代の人々も、きっと優しく生きていたんだろうと癒されることができたのです。
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『大鞠家殺人事件』で昭和の大量殺人を描いた芦辺拓が再びその大胆な筆を振るって魅せる。語りの巧みさも相まって、物語が進むにつれて面白さは加速度的に跳ね上がり、最後まで読む頃には、この殺人法廷が誰の罪を問う裁判なのかが判然とし、冗長に思われた前半の情報量やタイトルの秀逸さに膝を打つ。
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明治21年の質屋六人惨殺、しかも密室殺人事件の、法廷ミステリです。この時期の裁判は、未だ被告人を「弁護」することさえ発想の外だった時期でした。筋書きは出来てるので、刑事裁判事件はよほどの重大事案でも1日で結審するのが通常。裁判長が「弁護人、質問をさし許すぞ」とか「黙りおろう!」とか言って、江戸時代のお白洲習慣が引き継いでいた頃です。主人公2人の弁護と探訪記者は困難を極めます。
ただ、如何せん、わたくしが本書を紐解いた訳はミステリ謎解きにはありません。単(ひとえ)に明治20年代初めの大日本帝国憲法発布前夜の日本の姿に個人的に大いに興味を持ったからに他ありません。
市井の趣味人たる私の今の「専門」は考古学弥生時代後期ではありますが、大学時代の「専門」は日本思想史でございます。威張ることでは無く、反対に恥ずかしい事ばかり乍ら中江兆民を少しばかし齧った身としては、兆民が明治21年、保安条令で大阪にやってきた(東京放逐された)ばかりの「東雲(しののめ)新聞」主筆としての「生の」様子が描かれるのは、人は知らず、胸早鐘打つ心持なのでございます。何となれば、この時代のこの人物を描く小説が極端に少ないからであります。
ずっと疑問であったのですが、どうして時の政府は東京から自由民権論者や新聞人を処払いするだけで、明治帝国体制を完成せしむと判断出来たのか?判明したのは、条令公布の日には、悪名高き三島通庸始めとする警察・軍隊総出で対応したということ。当時政府の総力を使って、自由民権論者は蟻一匹残らず、帝都から放逐したのだということです。大阪の声は東京までには、日本までには届かない。これが1920年段階の日本の姿だった訳でございます。
大阪中之島から堂島川を越え、四ツ橋筋を北に行った角地に、商家を借り受けた体の東雲新聞社があったそうです。主人公・筑波新十郎は東京を逐われて其処の記者になります。新米代言人(弁護士)迫丸孝平と共に、質屋6人惨殺事件で容疑をかけられた少年の裁判を支援することになります。
明治の20年間、江戸の悪弊絶ち難く、されども自由の気風は更に絶ち難く、幸徳秋水少年や、宮武外骨の若き日の姿を見させてもらって満足しております。田辺聖子さんのお爺さんの少年の日の姿も出てくるというおまけもあります。
autumn522akiさんのレビュー読んで取り寄せました。ありがとうございました♪
来週は大学の同窓会があって、その序でに山口から出雲方面に旅をする計画を立てていて、旅に集中するため、来週初めの3日間のレビューはお休みします。水曜日のレビューをアップするかどうかは決めてません。という事で、暫く休んでいるからと言って病気なんだろうか?どうなんだ?とかご心配無用です(←するか-_-メ)。