日本復権のチャンスはまだあるか
2018/05/06 14:58
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投稿者:キック - この投稿者のレビュー一覧を見る
積読本の消化。
半導体業界版「失敗の本質」です。湯之上氏は、半導体業界で冷や飯を食わされた経歴を持つだけあって、舌鋒鋭く、問題点を的確に捉えた力作でした。
かつて世界一だった日本の半導体業界は、今や見る影もありません。私はサムスンの模倣にやられたとばかり思っていましたが、技術の過信・トップランナの驕り・内向き経営・無能な官僚等々の日本の問題の方が大きかったようです。また、技術の標準化やモジュール化に弱いというのが日本人の特長のようで、全世界的に電気自動車へのシフトが予想される中、クルマ業界の将来も心配です。
ところで、エルピーダメモリやルネサステクノロジがまだ元気だった頃、私は半導体業界の法人担当で、両社とも取引先でした。典型的な装置産業ですので、借入金比率が高いことには納得していましたが、利益率が低い原因は、説明を何度聞いても理解できませんでした。今回、本書を読んで氷解しました。
過度に高品質を目指す方針(良いものを作れば売れるとの思い込み)がガラパゴス化していることに気が付かなかったようです。一方、パラダイムシフトは定期的に起きるとのことで、日本復権のチャンスはまだあると信じたいです。
半導体産業の裏側を分かりやすく解説した良書
2015/02/02 18:26
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投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
1980年代に世界をリードした日本の半導体産業。ところが現在では日立とNECのDRAMの合弁会社エルピーダメモリーは経営破綻し、日立、三菱、NECのマイコンを経営統合したルネサスエレクトロニクスも倒産寸前まで追い込まれるなど、当時の面影はありません。
日本の半導体産業が世界一であった1980年代に日立に入社し、その凋落を目の当たりにしてきた著者が半導体産業の裏側とその凋落の理由を解説。
半導体とはどのように製造されるのか?、なぜマイコンの世界シェアNo.1のルネサスが赤字なのか?、東日本大震災でルネサス那珂工場が被災した時、代替生産がなぜできなかったのか?、日本が強い技術分野と弱い技術分野とは?、日本のテレビ産業の凋落の原因はなにか?、など興味深い視点からの解説は製造企業に身をおいた著者ならではの分かりやすさです。
述べられているさまざまな論点のなかでも「各工程の部分最適を求めるあまり、製造工程全体としての全体最適が実現できていない」という現象は大企業に限らず、中小企業でも忘れてはならない視点だと再確認させられました。
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冒頭に著者の経歴が披露されている。京都大学大学院を卒業後、日立製作所で半導体の開発に従事し、その後日本の半導体産業の崩壊により、日立を希望退職した。
本来の自分の能力からしてこんなハズではなかった。自分は優秀だが、半導体に関わる経営者・政府がバカだから、こんな結果になってしまったという出だしに、違和感を感じるが、その後の話の展開はそれなりに面白い。
サブタイトルには「ゼロ戦・半導体・テレビ」となっているが、殆ど著者の体験に基づく半導体の話が中心である。
日本の半導体企業は高性能大型コンピュータで養われた高品質のモノづくりに、こだわり過ぎて、安価に作る事を忘れた。
サムソンは高品質を追究するのではなく、パソコン対応の汎用製品を安価に作る事を追究し、その結果が現在の日韓の差になっていると。
面白かったのは、半導体の製造工程について詳しく述べている箇所でした。
半導体製造装置は、よりミクロンの世界へ行くにしたがって、同じメーカーの製造装置でさえ機差(機種による差異)がかなり出るので、設計行程と量産工程との機種が違っていると、量産に移行するのにかなりの時間を必要とし、また歩留まりに影響する。
日立とNECの合併会社のエルピーダメモリは、それぞれ製造装置のメーカーが違っていたので、現場では大混乱を起こして、歩留まりが全然上がらなかったというのは、現場にいた人間ならではのレポートです。
また、半導体製造装置の露光装置で機差が少ないのはオランダのASMLで、今や完全にニコンに代わりトップシェアだそうです。
ただ、半導体各社がいくら発注者(この場合トヨタ等の自動車業界)の要求とは言え、コストや歩留まりを無視して、赤字でも欠陥ゼロにこだわったというのは、本当にそうなのだろうかという疑問が湧く。製造業に携わった者であれば、コストダウン・歩留まり向上は必須の命題で、著者の説明には納得がいかないのではないだろうか。
私は歴史的な円高が汎用製品でのコスト競争力をなくし、高付加価値ではあるが、汎用品のように大量生産出来ない分野へ行かざるを得なかった悲劇ではないだろうかと思うのだが・・・
では、これからどうするか?
著者はサムソンのように模倣に徹して安価なものを作ることに専念せよと。
過去の日本企業がそうであったし、マイクロソフトや過去にはローマ文明しかり。人類の発展そのものが、模倣であった。
そんな単純だろうかと、疑問を感じるが、「模倣で成功した企業は、オリジナルを凌ぐ解決策を見つけ出している」というシェンカーの言葉の引用が印象的であった。
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日本のものづくりの凋落についての分析は説得力ある。いつも、湯之上さんの説は面白い。
無理に対策まで考えることなかったと思う。イノベーション(新結合)を模倣と言い換えてもな、、、。
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日経新聞のレビューの評価が高かったので買った。実に面白かった。粗筋を急いで追って斜め読みしたので。二周目はじっくり読みたい。
なぜ日本の半導体産業は凋落したのか?が日立の技術者としての筆者の経験を交えて語られ。読みやすく、スピード感もある。敗北の要因は多岐に渡る。しかし、際立つのは日本全体に蔓延る「病理」とも言うべきものだ。それは、世界のマーケットを無視したガラパゴス気質であったり、高度技術に拘泥した、戦略と決断の欠如でもある。冒頭、「半導体の敗北はゼロ戦の敗北に重なる」と著者は指摘する。しかし、読み進める内に、その敗北はむしろ、太平洋戦争の敗北それ自体とも重なってくるように思われた。「リーダーシップの欠如」「戦略なき組織」。メーカーが事業提携、統合を繰り返し複数の頭が衝突し合う様は、陸軍と海軍の抗争と重なる。日本軍は、空軍という新しい組織を作ることができなかった。陸軍と海軍がどんなに戦術や開発を進めても、空軍の設立という全体最適は生まれてこなかった。日立やNEC、東芝といった大企業が各々の開発を進めても、時代の要請に応える大胆な戦略は生まれてこなかったのはそれに似ているように思う。各々の強みを組み合わせれば勝てたかも知れないが、それは叶わなかった。各社が迷走する内に、サムスンの大胆な投資戦略の前に敗れたのである。
日本企業の迷走に纏わる挿話は、悲劇の極みだ。ルネサスは「絶対に壊れないマイコン」をトヨタに納めた。しかし、その無謀な要求に応えた対価は、価格と利益率の猛烈な下落だった。トヨタが完全に「価格決定権」を握っていたからだ。まさに、下請の構造である。猛烈なエネルギーが、全く収益に貢献しなかったのだ。あるいは、生産性の話。「歩留まり」と呼ばれる生産性の指数を日本メーカーは限りなく100にすることを求めた。一方で、サムスンは80程度で妥協し、別の開発エネルギーを注いだ。80を90に上げるのは、80まで引き上げる労力と比べ途方もなく労力がいる。企業の目的は匠になることではない。効率性の追求と、それに基づく収益の追求である。戦略などという言葉を持ち出すまでもなかったのかもしれない。それは、優秀な学生が、相対評価のクラスの中でA+を狙って潰し合う様にも似ている。そうした優秀な人々が、再び企業の中で出世競争と開発競争に凌ぎを削って潰しあっていたのかもしれない。狹い会社、日本のマーケットの中で壮絶な自滅合戦を繰り広げていたのだ。
マーケティングの話も面白い。サムスンがインドで販売したのは、「鍵付き、予備バッテリーつき」の冷蔵庫だった。盗難と、停電がインドで多かったからである。サムスンは、それを日本の冷蔵庫の半額で販売した。聞けばなるほど、そしてとても単純なアイデアである。技術も要らない。鍵とバッテリーを取り付けただけなのだから。日本が負けたのは、こうした戦場だ。戦艦ヤマトが大砲を撃ち合う決戦ではなく、山岳地帯のゲリラ戦である。太平洋戦争の構図と全く一緒だ。世紀の技術の結晶は、戦場に投入されるまでもなく敗れたのだ。
他にも興味深いテーマは尽きない。例えば、半導体復活のために立ち上げられた数々の国家プロジェクト。何十、何百億という国税が投入されたが、それは尽く失敗した。参加企業の貴重な人員が非効率なプロジェクトに費やされた。本書に寄れば、開発テーマ自体がグズグズだったという。予算が下りたがテーマが決まっていない。一度決めたら変更できない。茶番の極みである。
そうした失敗への反省もなく、ルネサスは再び経産相の手に落ちた。産業革新機構で有る。ルネサスのマイコン技術を流出させたくないトヨタを、産業革新機構が国税を投じて支援する構図だ。ある意味、仕方のないことなのかもしれない。故障しない神のマイコンが敵の手中に落ち、価格が上がったらトヨタの競争力は失われるに違いないし、それは、確実に日本の経済を悪化させるだろう。もう、あと戻りできないのかもしれない。執念の技術を易く買い続けたツケが、彼らの怨念が牙を剥いているのかもしれない。アイロニーである。そして、そのツケを払っているのは、トヨタのユーザーではない人々までもが知らず知らずの内に払わされているのだ。
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安く作れない!のが日本のモノづくりの欠点
イノベーションは「技術革新」ではなく「発明と市場との新結合」
2013/12/07図書館から借用;12/08平塚までの電車と箱根湯本から新宿までの電車で読了
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元日立の半導体設計者である湯之上隆氏の最新刊。何冊も読んだが今回も本当に面白い。星5つ。
半導体、電機をはじめとする日本のものづくりが敗戦したのは、世の中の変化パラダイム・シフトに対応することができず、顧客の注文に忠実に耳を傾けるあまり、性能や品質は劣るが『安い、小さい、使いやすい』などの特徴を持った破壊的技術に駆逐される、いわゆるイノベーションのジレンマに陥ったことが原因であると指摘する。今回は、これが当初はアメリカの戦闘機を圧倒していたにも関らず、海軍の言うとおりの仕様である軽さを追求し過ぎたて撃たれ弱いボディとなり、最終的にはアメリカの戦闘機に負けてしまう零戦と同じであると斬る。DRAMも、SOCも、マイコンも、メインフレームやトヨタから要求される過剰な品質を満たしつづけ、遂にはコスト競争で駆逐されていったからだ。
勝ち組サムソンとマーケティング力の違いを比較して、彼らが最も優秀な人員をマーケティング部門に配属し、世界のあらゆる地域に1年間済ませ、現地を調査させ、現地目線のマーケティング戦略を組むことは有名だ。一方日本の会社はマーケティングを軽視しており、単なる市場調査や市場統計に終わっており、市場創造には繋がっていないという。模倣の特性を進化させて活かす能力を持つ企業を、模倣を意味する『イミテーション』と革新を意味する『イノベーター』を融合して『イモベーター』というが、まさにこれがサムスンにピッタリという。単なる猿真似だけでは生き残れるはずは無く、著者はイモベーター、サムスンを高く評価する。
最後に日本が生き残るための提案がなされている。元々日本の強みは、製造技術に競争力の源泉があり、すり合わせ技術、持続的技術が必要な分野で成功してきた。模倣力を取り戻し、イモベーターとして稼げと檄を飛ばして締めくくっている。
世界の半導体の巨人についてもまとめられている・
インテルの全CEOオッテリーニが、スティーブ・ジョブズが初代iPhoneのプロセッサの製造を依頼した際、まさかそれほど売れると思っていなかったため断っていたようだ。結局代わりにサムソンが製造することになり、サムソンの半導体は膨大な利益をあげた。自他共に認める『ファーストフォロワー』であるサムソンは、ここで模倣力を発揮し、『GALAXY』で世界ナンバーワンの売上につなげた。もしインテルが引き受けていれば世界半導体のパワーバランスは今とは違うものとなっていただろう。しかし、さらなる模倣を恐れたのか、アップルはこのiPhoneのプロセッサの製造をサムソンから台湾のTSMCに切り替えた。インテルはその後FPGAのアルテラののファウンドリービジネスをとった。サムソンは台湾滅亡計画の最後の対象としてUMCの次にTSMCのファウンドリービジネスをターゲットとしている。今後の、この3者の行方は目が離せないが、日本半導体の名前がでてこない。
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日経の書評で見て。半導体のプロだけあって、その解説は面白い。が、他の部分は『イノベーションのジレンマ』をはじめとする他の本の受け売りが多い。サマリーとして何冊分もの知見が一冊で読めるのはいいが、それぞれの本に良さがあり、オリジナルを読んだ方がいいような。入門としてはいいかな。
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著者は、日立の半導体設計の担当だった人で、日本の半導体の衰退がなぜ起こったかを分析して、その理由を明確にしている。
産業のコメといわれた半導体(DRAM)は、成長が著しい分野だったが、過剰な品質の高耐久性のある半導体を出してある間に、低コストの安い製品に駆逐されてしまったことがよくわかる本だった。部分最適化は得意だが目的が不明確で全体最適化が不得意なことや、技術だけに特化した哲学をもつことは零戦以来の日本の伝統だとも言える。その意味では、これからどうするべきかの指針にもなると思う。
ただ、題名は零戦、テレビなども載っているが、内容は半導体のことが8~9割占めているので、そのつもりで読むとよいと思った。
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面白かった!
半導体の話が8割なものの、日本企業がなぜ海外企業に負けてるのかを的確にとらえていたと思う。
特に装置メーカーシェアと標準化、モジュール化の話は、半導体業界だけの
話ではなく、他業界にも良く当てはまる。
また、NEC系と日立系の技術開発の認識の違いや、担当工程割の違いなど、普段そちらの企業の方と一緒に仕事をする関係上、妙に納得する点が多々あった。
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類似テーマの名著、山本七平の「日本はなぜ敗れるのか」に引けを取らない面白さとリアルなインプリケーションの深さと普遍性からいうとどの業界にいる方に対しても「今個人的に一番おすすめしたい一冊」。
2013年秋から妙にサムスン凋落を囃し上げる快哉が鳴り響いてはおりますが、結果論としての生き残った、生き残っていない、勝った、負けたというところで溜飲を下げているようじゃなぁ、と危機感をよけい強めてしまいます。日本の産業がどういう戦略(あるいは「戦い方」)を選ぶにしても、何が弱みでライバル企業はどう分析し、具体的に何をどうしたのかくらいは目をそらさずにいる勇気の有無を問われる内容です。喉元過ぎて熱さを明日には忘れてしまうんじゃないかしらん、とつながった首の皮一枚が明日もつながっているのか、飛び散った返り血はどんな痕を残しているのか・・・為替レートが「修正」されただけで浮かれてないで脳に汗をかかねばいけないなと反省いたしました。
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JBプレスで連載している日本半導体・敗戦から復興へのシリーズが面白い。そこで10月発刊のこの本が反響を呼んでいると有ったので読んでみた。「失敗の本質」の産業版だなあというのが感想だ。
イノベーションを技術革新と訳すのがそもそも間違いじゃないか?経済学者のシュンペーターはイノベーションを「イノベーションとは発明と市場の新結合」と定義しており、著者はもっとシンプルに「イノベーションとは爆発的に普及した新製品」と定義している。まあ著者の定義だと中毒の山寨機もイノベーションになるのでそれはどうかと思うが、ある意味ではそれも正しい。個人的にはトヨタ生産方式など商品ではなくてもイノベーションと呼んでいいものはあると思う。
題名には零戦があがっているが三菱と中島飛行機では同じ零戦と言いながら互換性が無かったらしい。著者の定義ではこういう匠の技はいくら技術が優れていてもイノベーションにはならない。匠の技は爆発的な新製品は生まない。
サムスンの半導体開発チームは現行100ナノとして次世代は95ナノ、90ナノなどを同時並行で開発する。そして、開発が成功したチームがそのまま量産を担当する。このメリットは開発のときから量産化を見据えて開発する事と、強烈な競争原理が働くことだろう。100ナノチームは新たに微細化の開発を担当することになる。そして、競争に負けるとはじき出されるサムスンでは責任者は現場に詳しい現役の開発者に近い。
対するエルピーダでは量産には新技術を用いず、完璧主義の変わりに担当が細分化され技術者も多く、立ち上げに時間がかかるNECと新製品開発には能力があるが量産化ではなかなか歩留まりを上げる事が出来ない日立が組んだ。この時現場の技術者に最も評価が高かったのが三菱の技術者でこれはコミュニケーション能力と調整能力が高くうまくすりあわせができたからだ。著者はルネサスに対し新製品開発は日立、量産化前のすり合せと条件だしを三菱、量産化はNEC出身者が担当すればいいのではと提案したそうだが顧みられることはなかった。実際には日立、NECのたすきがけ人事が行われたのだ。
マーケティングの発想も日系企業と、サムスンでは全く違う。最も優秀な人を大量にマーケティングを担当させるサムスンに対し、日本のある大手メーカーではマーケティングに廻されるのは左遷と捉えられてたらしい。イノベーションの解釈の違いが最も顕著に出た例だと思う。サムスンはかなりグレーな事もやっており、普通には手に入らない資料やサンプルも入手できていると言うのだが、結局それは情報を流す元大手企業の社員がいると言う事だ。
2007年1月、同志社大勤務の著者を呼び出したルネサスのある幹部は講演と執筆活動をやめろと迫る。この幹部が言うには日経マイクロデバイスがさんざんDRAMをやめてSOC(システムオンチップ)へ舵を切れと言った事が日本の半導体産業をミスリードしたのだと。そして著者にもお前の正だと言うような事を言い、とどめがこうだ。「SOC最大手のTIが微細化をやめたと言ってるんだぞ、俺たちルネサスはどうしたらよいというんだ?この発表以来、ルネサス中が大騒ぎになっている。」護送船団方式に慣れ、自分で考える事が出来なくなってしまった人が幹部では従業員もたまったもんじゃないだろう。
この40年間売り上げランキングベストテンに入り続けた企業はTIのみ、そして20年間としてもこれに東芝とインテルを含めた計3社しか無い。最近ではインテルすらも危ないと見られている。PCではマイクロソフトと組んで無敵のインテルだったがスマホ/タブレットへの変化を読めず、この分野では出遅れている。2012年スマホ用プロッセサーのシェアはクアルコムが36%、アップルが20%、サムスンが11%でインテルのシェアは0.2%しかない。
では日本の半導体産業が全滅かと言うとそうではなく、すり合せの部分では相変わらず強い。標準化、モジュール化はうまくいかず、インテグレートはうまいと言う零戦以来の伝統でもある。液晶テレビなんかも似たような傾向があるが。
車載用半導体で圧倒的なシェアを持ちながら交渉力を発揮できず低利益に甘んじたルネサスもちょっと交渉力があればもっと利益が高くてもおかしくなかった。
著者の指摘で最も重要な点は、技術では勝ったが販売で負けたのではなく、低価格化や量産化(特にスピード、コスト面で)という技術面で日本がサムスンなどに負けたと言うところだろう。ニッチの世界では匠の技もいい。しかしイノベーションを起こすには大きな市場を相手にしないとできない。技術の捉え方が狭かったということなのだろう。
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今まで多くの日本脅威論を読んできましたが、その多くは製造業の実態をご存じない方が書いたものであり、一方で、日本のモノづくりがいまだ健在であるという本を読んで自分を安心させてきました。
特に、ものづくりにおいて、最終製品では外国勢に負けていても、材料や半製品、製造装置のシェアは高く、これが日本の強さであるという論調に私は日本の底力を見ていたつもりです。
この本は、それらを十分に揺らぐほど衝撃的でした。この本の著者は私より3歳程年上で、日立製作所で半導体研究や製造技術に拘った、中身を良く知った方です。彼がはぜ1980年代には世界一だった半導体行が、現在ではそれを思い出せないほど惨めな姿になってしまったのかを解説しています。
また半導体製造は、装置を買ってくればすぐにできるような簡単な技術ではなく、韓国・台湾勢が、当初はリストラされた日本人技術者を上手に使って学び改良したということも解説しています。
著者によれば、今の日本企業の姿は、太平洋戦争時のゼロ戦の栄光と転落と同じだとしています。現在では、日本に残されている優位性のある技術は存在しているものの、かなり少なくなってきているようです。
最後に日本が甦るための条件を示していますが、パラダイム変換をおこす必要があり、一度何かが起きて、現在の既得権益を握っている人達が退場しない限り難しいなと思いました。現在は、まさに戦争に突入していった頃に似ているようですね。
以下は気になったポイントです。
・世界最高品質、シェア一位の企業が凋落するには共通する原因がある、それは、パラダイムシフトに対応できず「イノベーションのジレンマ」に陥った、つまり、既存顧客の要求に忠実に耳を傾けるあまり、性能や品質に劣るが「安い、小さい、使いやすい」特徴を持った破壊的技術に駆逐されること(p13)
・技術力には、高位品質をつくる・高性能をつくる・低コストでつくる・短時間でつくる技術等、様々な評価軸がある、ひとつの評価軸において高いだけで「日本の技術力は高い」というのは大きな間違い(p22)
・創造とは「無から有を生み出す」のではない、「2つ以上の事柄を統合する、一種の模倣能力」(p25)
・AMAT(アプライドマテリアルズ)は、1992年以降、半導体製造装置で世界一、2013.9.24に世界3位の東京エレクトロンと統合発表した(p32)
・オバマ大統領の製造業輸出5倍計画は、再生エネルギーによるグリーン革命は失敗したが、3Dプリンター、ロボティックス、脳科学、サイバーセキュリティ産業は大進歩、シェール・オイル革命も追い風(p33)
・半導体製造には、多くの要素技術を精密にすり合わせるインテグレーション技術と、歩留まりを向上させる量産技術が必要である(p58)
・日本半導体メーカは、大型コンピュータ用に製造した25年保証の高品質DRAMを、PCに転売したが、明らかに過剰品質であった(p63)
・製造工程の洗浄液に互換性がないという事実、これがエルピーダのDRAMシェアを低下させた原因(p7��)
・日立、NEC出身者のほとんどが「経営、戦略、コストで負けた」と言ったのに対して、三菱出身者は、「安くつくる技術に問題があった」ことを認めていた(p82)
・後から考えると、日立が新技術の研究開発を行い、三菱がインテグレーション技術を担当、NECが量産工場の生産技術に専念すれば良かったかもしれない(p86)
・サムスン電子では、開発から量産へ、またはその逆がありチームが入れ替わる。最初から量産立ち上げを視野に入れて歩留まりを向上しやすい工程フローを構築する必要がある、日立では、研究所・開発センター・量産工場とヒエラルキーがある(p94)
・会社組織では、人間は能力の極限まで出世する、すると有能な平社員も無能な中間管理職となる、こうなるとあらゆる職責を果たせない無能な人間によって占められる。仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われる。ピーターの法則(p101)
・東日本大震災の影響を最も受けたのは、トヨタ(特にプリウス)であった。茨城県にある那珂工場が直接被害を受けたから、トヨタのマイコン:ECU(機能の90%を制御)を作っていた(p148)
・ルネサスの那珂工場はラインの稼働率を上げるために、利益の出ないECUを作らざるを得なかった(p159)
・シュムペーターは、イノベーションとは発明と市場の新結合とした、つまり、爆発的に普及した新製品、普及が大事なのであって、技術が革新的かどうかは一切関係ない、ここが日本人が誤解しているポイント(p170)
・サムスンにとって、マーケティングとは「市場創造」である、これも日本では誤解されている、市場統計・市場調査と考えている(p179,180)
・インテルは iPhone用プロセッサ製造を断り、韓国サムスン電子が製造することになった、これによりファンドリービジネスで3年間で10位から3位に躍進した(p201)
・日本が弱体化した分野には共通要因がある、標準化・プラットフォーム化・モジュール化がしやすい分野(露光装置、ドライエッチング、検査装置、成膜装置)である、一方で、ハードウェアと液体材料の摺合せに必要な部分はドキュメント化ができない暗黙知が多く、標準化・モジュール化が難しい(p217,223)
・日本半導体メーカが、微細性・精度を強調するのに対して、韓国・台湾半導体メーカは、スループット(時間当たりウエハ処理数)である(p219)
・1台40-50億円もする装置を、導入から9-14日で製造に使うか、40日弱も無駄な性能試験をやるか、この差が高コストにつながる(p223)
・新市場の発明をするには、誰かの幸せに役立たなければならない、市場ができる前に、その幸せがイメージ(何をどうかえたいか)できなければならない(p243)
2013年12月15日作成
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エルピーダの話は、いくつかの合併を経験した僕の勤める会社にもあてはまる。異文化の融合って簡単じゃないものだ。日本企業はかつては自分たちも模写を通して成長してきたのに、今や模写される側。自身の強みを理解して、積極的に国際展開しないとダメですね。うちにこもっている場合じゃない。
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日立製作所で半導体技術者として従事していた筆者が、創造的模倣能力を取り戻すことによりイノベーション(発明と市場との新結合)を起こすことの重要性を主張する一冊。メモ。(1)日本の成功パターンには以下の3つの特徴がある。①製造工程に競争力の源泉がある産業。TQCやカイゼンにより製造効率が向上し、競争力となる産業。②高度な摺り合せ(インテグラル)技術が必要な産業。多くの要素技術を組み合わせて総合的な摺り合せを必要とする産業。③持続的技術が必要な産業。(2)日本の半導体製造装置産業において共振化(共退化)が分野がある、日本が強い分野、大日本スクリーンの洗浄・完走、東京エレクトロンのコータデベロッパ、CMPの荏原製作所等、ハードウエアと液体材料のデリケートな組み合わせが求められる分野、目標が明確かつ繊細な摺り合せが必要な技術では強い。(3)イモベーター。対比するイノベーターは自ら生み出した現在価値の2.2%しか獲得していない。(4)模倣は起床で複雑な戦略能力。イノベーションそのものを生み出すのに必要な能力。(5)どんな技術も商品も誰かの幸せの役に立たねばならない。だから新市場が出来る前にはその幸せがイメージできる、問題の発明が出来ねばならない。…半導体と電機産業の再生の田縁には、経営者と技術者のエースが海外、新興国に滞在して問題を発明し、創造的模倣を発揮すること。