『おろち』 - 法華狼の日記

法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『おろち』

鶴田法男監督、高橋洋脚本で、2008年に公開された、楳図かずお原作のホラー映画。GYAO!で視聴した。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00740/v12928/
終戦直後の世相を舞台に、映画界で活躍した女系家族の愛憎に満ちた顛末を、謎の少女「おろち」の視点で描く。
原作の第1話に、母娘の愛憎や劇中劇をとりいれて、一本の映画作品にしたてた。実写映画にしては、楳図かずお作品から印象が乖離していないところに好感を持った*1


かなり新しい作品だが、ホラーというより怪奇映画といったところ。さほどの恐怖は感じなかった。いわゆるJホラーらしい演出もいくつかあるが、どちらかというと古い洋館のロビーを中心とした、舞台劇のような作り。
何より、「おろち」が高い超常能力を持っているので危機らしい危機に見舞われず、その視点を通して見る観客としてもサスペンスを感じにくい。途中で「おろち」が眠りにつき、生身の少女として目ざめるのだが、そこでも憑依した「おろち」側の語りで物語が進む。だから、生身の少女が危機に陥っても、さほどのサスペンス性はない。これならば、目ざめた生身の少女が「おろち」だった自分はただの夢だったと思う描写で一貫しておけば、生身の少女の恐怖に同調してホラーらしさが生まれたかもしれない。
「おろち」が家族に好意を持つ動機もはっきりしない。もし映画がシリーズとして展開されたなら、狂言回しとして「おろち」を置く意味もあったのだが、良くも悪くもこの一作で完結している。


しかし、終戦直後の雰囲気を再現したロケやセット、作中の映画や歌詞が物語に重なりあう演出、どんでん返しをたたみかける展開は悪くない。誰もが秘密をかかえていて、その動機を読めはするが、それぞれの立場ならありうると納得させられるもの。
三十歳ころから肉体が崩壊する血統という怪奇設定も、一貫したルールを感じさせられるように構成されており、老化や劣化を比喩した物語として読めるだけの深みがある。映画界で広く活躍するような立場なら近代医学にすがるのではという疑問も、うまく作中で処理し、「おろち」をからめた展開に繋がっている。

*1:漂流教室』とか、本当にアレだったから……