長き夜のすさびに、何となき具足とりしたため、残し置かじと思ふ反古など破り棄つる中に、(徒然草) - 減点されない古文

長き夜のすさびに、何となき具足とりしたため、残し置かじと思ふ反古など破り棄つる中に、(徒然草)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

静かに思へば、よろづに過ぎにし方の恋しさのみぞせんかたなき。人静まりて後、長き夜のすさびに、何となき具足とりしたため、残し置かじと思ふ反古ほうごなどつる中に、亡き人の手習ひ、絵かきすさびたる、見出でたるこそ、ただ、その折の心地すれ。このごろある人の文だに、久しくなりて、いかなる折、いつの年なりけんと思ふは、あはれなるぞかし。手馴れし具足なども、心もなくて変はらず久しき、いと悲し。

徒然草

現代語訳

静かに物事を考えていると、万事過ぎ去ったことの恋しさだけはどうしようもない。人が寝静まった後、長い夜の慰みに、何というわけでもない道具を整理して、残しておくまいと思う使い古しの紙などを破り捨てる中に、亡くなった人の書いた文字や、絵を気ままに描いたものを見つけたときは、ただ、その人が生きていた時の気持になる。今生きている人の手紙さえ、(会わない期間が)長くなって、(この手紙は)どんな時、どの年であっただろうと思うのは、感慨深いものだよ。使い慣れた道具などでも、(当時をなつかしむ)心もなくて変化せずにいつまでもあるのは、たいそう悲しい。

ポイント

すさび 名詞

「すさび」は「名詞」です。「慰みごと」「気まぐれ」などと訳します。

動詞「すさぶ」は、「気ままにする」「慰み楽しむ」などという意味です。

その名詞版が「すさび」になります。

具足 名詞

「具足」は、名詞です。「道具」「武具」「家来」などを意味します。

「備わるもの」「備えるもの」「連れるもの」ということです。

「具足す」という動詞(サ行変格活用)としても使用します。

「具す」という動詞(サ行変格活用)とほぼ同じ意味ですが、「具す」がシンプルに「備わる」「備える」「連れる」といった意味であることに対して、「具足す」は、「十分にそなわり足りている」という意味になることがあります。

とりしたたむ 動詞(マ行下二段活用)

「とり」は接頭語で、「したため」は、動詞「したたむ」の連用形です。

「処理する」「整理する」「準備する」「片付ける」などの意味です。

「準備する」という意味では、類義語の「まうく」という動詞がよく使われます。

「したたむ」は、「きちんと整える」という意味合いで、準備にも片付けにも使用します。

じ 助動詞

「じ」は、助動詞「じ」の終止形です。ここでは「打消意志」の意味です。

「残しておくまい」「残しておかないようにしよう」などと訳します。

反古 名詞

「反古」は、名詞です。「反故」と書くこともあります。

「ほうご」「ほご」「ほうぐ」「ほぐ」などと読みます。

「紙」は貴重品でしたので、古くなったら反対にして使用しました。

書き損じた紙も、ひっくり返して使用したのですね。

そのことから、「反古(反故)」という語は、「書き損じた紙」を意味するようになり、やがて、「不要になった紙」「使い古しの紙」という意味を持ちました。

そのまま役に立たなくなった紙はいずれ捨てられますので、そのうち「破棄する」という意味でも用いれらるようになりました。

いまだと、「約束を反故にする」なんて言うよね。