■レスリング金・鏡&文田、パラ射撃銅・水田が貴重体験
証券投資(とうし)普及のために制定された10月4日の「証券投資の日」にちなみ、「証券投資の日 前夜祭トークイベント」(日本証券業協会ほか主催)が同3日、都内で開催された。パリ五輪レスリング女子76キロ級で金メダルに輝いた鏡優翔(ゆうか、23)=サントリービバレッジソリューション=、同レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級金メダリストの文田健一郎(28)=ミキハウス=、パリ・パラリンピック射撃の混合エアライフル伏射で銅メダルを獲得した水田光夏(27)=白寿生科学研究所=がゲストとして出席。専門家とのトークセッションに臨み、証券投資への理解を深めた。
主催 日本証券業協会、日本取引所グループ、投資信託協会
後援 金融庁
■「機会なかった」
今夏、圧巻のパフォーマンスで日本列島を熱狂させた鏡、文田、水田。「やりたいな、とは思ってたけど勉強する機会がなかなかなかった」(文田)と証券投資への興味は以前から持っていたという3人のアスリートは、ファイナンシャルプランナー・大竹のり子さんとのトークセッションに入ると真剣な表情で聞き入った。
興味はありながら3選手が行動に移せなかった理由にあげたのは、知識が十分でないまま始めることでリスクを負ってしまうのではないか、という不安。「自分の勝手なイメージで『詳しくないと損する』みたいな。頭が良い人だけが得するイメージが先行して行動できてなかった」と文田が話せば、水田も「難しいイメージがあって。自分で勉強して、と思ったことはあるけど実際にしようとまでは考えなかったです」と振り返った。鏡は「やりたいけど知識がない、どうしようという段階です。今日も銀行から電話がかかってきて『興味ありませんか』と聞かれて、その機会がほしいと資料請求しました」と笑いを誘った。
そんな3人に大竹さんがアドバイスしたのは「長期・積立・分散投資」=表➀=。リスクとうまく付き合うためのキーワードで、金融商品の価格変動に一喜一憂せず、長い目で保有し続ける「長期投資」、毎月定期的に、1000円など一定金額ずつ買い付ける「積立投資(定時・定額購入方法)」、投資する先(資産)を分散させる「資産分散投資」に言及した。
積立投資は株価(基準価格)が安い時は多く、高い時は少なく購入することになり、結果として平均の購入価格が下がる、という利点を持つ。また資産分散投資に関して、大竹さんは「投資の世界には『一つのカゴに卵を盛るな』という格言があります」と紹介。あらかじめ複数のカゴに分けておくことで、リスクを最小限に抑えるという考え方を説明した。「安定的に(資産を)増やしていくための鉄則です。合い言葉みたいに覚えてください」との大竹さんの言葉に、3人は何度もうなずいていた。
■「イメージ違う」
続いてのトークテーマは「NISA(少額投資非課税制度)」。2014年にスタートすると「少額から投資が始められる」などと取り組みやすさと優遇措置の魅力で投資初心者から人気を集め、今年1月からはさらに内容が充実し、使い勝手が良くなった制度だ。
「NISAってご存じですか?」と大竹さんに尋ねられると、3人とも「×」の札をあげた。大竹さんは新NISAのポイントとして➀配当金や売買益が非課税(NISA口座を通じて上場株式や株式投資信託などに投資すると、本来は20.315%課税される配当金および売買益などが非課税)、➁制度が恒久化&非課税保有期間が無期限化、③自分のライフプランに合わせた資産形成が可能、の3点をあげて魅力をPRした=表➁=。詳しい説明を受けた文田は「思ってたよりイメージが違うというか…抑えるべきところを抑えたら」と納得の表情。「3つのポイントは忘れないようにしたい」と言葉に力を込めた。
専門家とのトークセッションを経て、みるみるうちに理解が深まっていった3選手。「投資先の会社を選ぶポイントは?」(鏡)「NISAの方が始めやすいですか?」(水田)などと大竹さんに質問する場面もあった。
最後のあいさつでは「本当に興味を持ったし、ちゃんと実践しようと思った。コツコツと積み立てながらNISAやってみようかなと思います」と鏡が宣言すると、文田は「自分とは違う世界の話、競技者として生きていくうえでは交わらない世界なのかなと遠ざけていたけど、きょう話を聞いて身近に感じた。積極的に知識を入れて自分の人生に活かしていきたい」と笑顔。水田も「難しい話だと思ってたけど、そんなに身構えることなく勉強して学んでいきたいなって思いました。射撃の競技も少しでも知ってもらえたかなと思う」と声を弾ませた。3人のメダリストにとってこの日の体験は、日々、競技と向き合うなかでは得られない貴重な時間となった。
■日証協専務理事に文田がタックル
今イベントでは証券投資にまつわるトークだけでなく、競技の魅力を来場者に体感してもらうための「アクションコンテンツ」を実施。レスリングメダリスト2人による豪華なタックル体験が行われた。
高速タックルが代名詞の鏡の前に名乗りを上げたのは、証券業界のマスコットキャラクター・とうしくん。自信満々!?のとうしくんに対して、鏡は「(普段の)2割です」と遠慮しながらも鋭いタックルを披露。一瞬の出来事に周囲はどよめき、水田は「初めて生で見たんですけど2割とは…」と驚きを隠せなかった。
続いて文田のタックルを受けてみたいと立候補したのは、日本証券業協会の松尾元信専務理事。文田は「肩車という技をやります」と宣言すると、松尾専務理事の懐に潜り込んで軽々と持ち上げた。腰から下を触れないグレコローマンならではの巧みな技術に会場からは大きな拍手が起き、文田は「レスリング選手以外と組み合う機会はない。貴重な経験でした」とはにかんだ。
■資金好循環で収益機会増を…金融庁・井藤英樹長官特別講演
証券投資の活用を含めた資産形成の視点は極めて重要と考えます。1月にNISA制度の抜本的な拡充を実施し、新NISA開始後、半年間のNISAの口座買付額は近年の年間買付額5兆円を大幅に上回る10兆円超となりました。長期・積立・分散投資の意義を正しくご理解頂き、よりよい資産形成を行って頂ければと考えております。
金融庁はこれまで、安定的な資産形成の支援をはじめ資産運用立国に向けた取り組みを進めております。今後も経済政策を引き続き発展させるとともに、地方への投資を含めて内外から投資を引き出す「投資大国の実現」を政策の大きな柱の1つとする方針が示されております。資金の好循環が実現することでスタートアップや地域の企業には「ビジネス機会」が、個人投資家には「収益の機会」が、従業員には「賃上げ」がもたらされる。それらの加速・拡大を目指すものであります。
◆文田 健一郎(ふみた・けんいちろう)1995年12月18日、山梨・韮崎市生まれ。28歳。ミキハウス所属。韮崎工時代は史上初の高校8冠を達成し、日体大4年時の2017年とミキハウス入り後の19年に世界選手権グレコローマンスタイル60キロ級優勝。五輪は21年東京で銀メダル、24年パリでは日本勢40年ぶりとなる金メダルを獲得。そり投げが得意で愛称は「猫レスラー」。168センチ。
◆鏡 優翔(かがみ・ゆうか)2001年9月14日、山形市生まれ。23歳。小学1年生でレスリングを始め、中学3年時にJOCエリートアカデミー入校。帝京高で全国高校総体を3連覇し、東洋大を経て今年4月にサントリービバレッジソリューション入社。世界選手権は76キロ級で初出場の22年に3位、23年に優勝。今夏のパリ五輪では最重量級で日本勢初の金メダルを獲得。167センチ。
◆水田 光夏(みずた・みか)1997年8月27日、東京・町田市生まれ。27歳。白寿生科学研究所所属。中学2年時に難病であるシャルコー・マリー・トゥース病と診断され、上肢(右ひじから先、左手の指先)と下肢(両ひざより先)の感覚がまひ。高校2年生で射撃競技と出会い、21年東京パラリンピックは32位で予選敗退。今夏のパリ・パラリンピックでは射撃で日本勢初のメダリストとなった。