フェンリス・ヴォルフは、準サイコミュを搭載したドーベン・ウルフの発展型となる強化人間専用機として開発された。兵員の数に劣るアクシズは、人工ニュータイプともいえる強化人間の育成に力を注いでいた。PP(Power PSYCHO=パワーサイコ)部隊と呼ばれる少女たちのチームもそのひとつである。この部隊はムンスキーの懐刀的な存在として運用された。彼は、アクシズにおいて派閥を持ち、のちにジオンマーズに合流した元ジオン士官である。強化人間である少女たちは、アクシズの開拓に従事した両親の元に生まれたが、親を事故で失った孤児で、肉体的・精神的な強化に加え、強力なニュータイプ能力を付与されている。しかし、その反面、精神的な幼さを残しており、ムンスキーを親として従うように刷り込みがなされている。チェスターJr.艦隊の火星降下作戦においては、ストンリーをリーダーとして3名の少女がフェンリス・ヴォルフに搭乗、フォボス港攻略に投入された。なお、ビグ・ザムールに搭乗するヌマーシュもPP部隊のひとりである。本機の数々のサイコミュ兵装の性能を十分に発揮するには、彼女たちは必要不可欠な存在となる。その意味では、ムンスキーにとって彼女たちはフェンリス・ヴォルフの重要なサイコミュ兵装のひとつである。
リーベン・ヴォルフは、その原型機であるAMX-014 ドーベン・ウルフとフレームを同じくしている。本機は、装備品をオプション選択式にすることにより、一般兵からベテラン兵まで、練度の異なる兵士であっても効果的な運用が可能となった。また、各種オプションによって、支援をはじめとする特殊任務にまで対応する機能を有していた。そして、このリーベン・ヴォルフをベースとして、強化人間の運用に特化したオプションを装備した仕様が、このフェンリス・ヴォルフである。本機は、第四世代MSの代表的な期待であるドーベン・ウルフをベースにAMX-015 ゲーマルクの長所を取り入れ、融合させた仕様でもある。原型となったドーベン・ウルフは、有線式ビーム・ハンドやインコムなど、ニュータイプでなくとも使用できる有線制御式の準サイコミュ兵装を搭載していた。そして、これらの装備はリーベン・ヴォルフのオプションとしても開発されていた。この強化人間仕様機では、さらにそれを一歩進めたニュータイプ専用のサイコミュと無線遠隔操作のサイコミュ兵装を搭載している。前腕部を40m級の巨大MSサイズの巨大な拳へと換装。これはクィン・マンサと同等の機能を有している。また、この前腕部は射出して掌部分に装備されたメガ粒子砲によるオールレンジ攻撃に加え、巨大ビームサーベルの展開、そして拳そのものを用いた近接攻撃も可能。また、胸部には、ゲーマルクと同型の高出力なハイパー・メガ粒子砲を搭載。股間部に収納されたバレルを展開・接続することでロングレンジ砲としても運用可能となっている。背中には巨大なマザー・ファンネルを装備する。これはアクシズで開発された強化人間のMS、AMX-015 ゲーマルクに搭載されていたものと同じ装備である。マザー・ファンネルとは、大型のビット兵器であると同時に、内部にチルド・ファンネルと呼ばれる小型のファンネルを搭載したファンネル・コンテナの一種である。マザー・ファンネル自体も無線式攻撃端末として使用されるが、それ以外にもうひとつ、大きな特徴を有している。それが、感応波の中継機能である。これによりファンネルの展開範囲が大幅に拡大し、オールレンジ攻撃をより効果的に運用できるようになった。これらのサイコミュ兵装を遠隔操作するために、頭部には巨大なサイコミュ・アンテナが備えられている。そして全身各所には、高機動用の装備が取り付けられている。これは高速機動での戦闘に対応したもので、高い対G能力を持つ強化人間の搭乗を前提としたものである。背中にはドーベン・ウルフのバインダーをさらに高出力化した巨大なバインダーを装備。これは、ネオ・ジオンが配備したRMS-099B シュツルム・ディアスの装備と同じ技術系譜に属する武装であり、バインダー先端にはメガ粒子砲を内蔵している。このようにリーベン・ヴォルフの各種装備は、独立したオプション式として設計されている。そのため、同じ系統の武装を開発する際に参考にしやすいという利点もあった。脚部は大型のブースター・ユニットに換装されている。これは、フェンリス・ヴォルフの構造上の大きな特徴であった。このブースター・ユニットは、ジェットとロケットの切り替え式で、サブ・フライト・システム(SFS)との連動により大気圏内でも短時間の飛行可能。これらの推進ユニットによって巨大な出力を生み出し高速機動戦を可能にする。また、各装備はリーベン・ヴォルフにも装備が可能となっている。巨大なサイコミュアームと脚の無い異様なその外観は、一年戦争においてジオン公国軍が開発したニュータイプ用試作MS、MSN-01 サイコミュ高機動試験用ザクを髣髴とさせる。この機体はRX-78 ガンダムを大破させたことで知られるニュータイプ専用専用機、MSN-02 ジオングへと繋がるMSであり、フェンリス・ヴォルフもまたジオングのその機体コンセプトやその戦闘方法——NT専用機として高速機動での遠隔攻撃——を引き継いだ機体といえる。また、「TR計画」においてもギガンティック形態が同じ位置づけの対抗形態として存在する。ニュータイプ専用機としてこの仕様は有用であり、のちにもネオ・ジオン残党によって同じ仕様の機体が試作された例が知られる。