一年戦争後、地球連邦軍が接収したMS-06 ザクⅡをベースに、自軍の資材や技術を投入して開発したMSが、RMS-106 ハイザックである。グリプス戦役においては、地球連邦軍、そしてティターンズにも配備され、主力の一翼を担った。RX-106 ハイザック試作型は、そのプロトタイプに位置するMSである。地球連邦軍によって設計・開発が行われた本機を元に、アナハイム・エレクトロニクス(AE)社の手で各パーツが量産に向けてシェイプされ、YRMS-106 ハイザック先行量産型として完成した。その後、RMS-106 ハイザックとして正式に量産され、さらにその後継機であるRMS-108 マラサイへと繋がっていった。つまり、このRX-106 ハイザック試作型は、「RX」という形式番号からもわかるとおり、AE社が関与する以前の、地球連邦軍の独自開発によるハイザックの前身機にあたる。ハイザック試作型は、地球連邦軍が一年戦争後に初めて手がけた本格的な新鋭機であり、ジェネレーターの変更など、量産化を前提とした設計の整理(結果的にはデチューンとなった)が行われる前の高性能機であった。そのため、生産されたうちの数機は、別稿で解説する水中用MSを開発するためのベース機として使用された。また、残された機体は他に、RX-106E ハイザック[ヴァナルガンド]に使用された例なども確認されている。ヴァナルガンドとは、新型の大気圏内飛行用MS(後にRX-160 バイアランへと発展)のテスト機として、TR計画で開発された飛行用強化装備であるイカロス・ユニットの試作パーツを組み込んで製作された機体である。
地球侵攻作戦において、地球各地に部隊を展開したジオン公国軍は、多様な環境に適応したMSの必要性に迫られた。それがMSの多様化を促す結果となったことは広く知られている。その中でも、水圏での運用を目的として開発された機体が、MS-06M ザク・マリンタイプである。MS-06F ザクⅡF型をベースとした水中用MSであり、バラストタンクやハイドロジェットエンジンの設置、関節部のシーリング等、様々な水中用の新規装備が搭載された。しかし、軍の要求性能を満たすには及ばず、試作機を含め数機が開発されただけに終わる。それでも本機で得られたデータが、水陸両用MSの発展に寄与したことは、MS開発史の中でも特筆すべきことと言えるだろう。また、一年戦争後、地球連邦軍は接収したザク・マリンタイプに近代化改修を施して使用している。このRX-106M マリン・ハイザックは、ザク・マリンタイプを元に、使用されているベース機をザクⅡから、当時、地球連邦軍で開発が進められていたRX-106 ハイザック試作型に変更した試作実験機である。全身の装甲形状や携行する武装、組み込まれた各種水中用装備の仕様は、ザク・マリンタイプと同規格のものに改修されている。ハイザック試作型のスペックを反映した、高性能な水中用MSとして完成するはずだったマリン・ハイザックだが、いくつかの理由により、奇しくもザク・マリンタイプと同様に、試作機が数機生産されただけに留まることになる。
マリン・ハイザックの量産化は断念された。当時、地球連邦軍が水中用MSの消極的だったことに加え、地球連邦軍の主流の座にあったティターンズでは、TR計画による水中用Gパーツ──後のTR-6 アクア・ハンブラビⅡ──が開発中であった。Gパーツとは装着により従来機の能力をアップさせる強化装備であり、そのGパーツと連動での運用を考えた場合、ベースとなるMSはザクを流用した従来機で十分との判断が下されたためである。そのような事情により量産中止に終わった本機だが、既に名称登録済みであった「マリン・ハイザック」という機体名だけはそのまま引継がれ、連邦仕様に改修されたMS-06Mにおいても使用されることとなる。本機の装備仕様はザク・マリンタイプに準ずるが、一方で地球連邦軍によって改良と追加装備が施された部分も存在する。そこで得られた技術は、後に続くザクをベースとした連邦製水中用MSの開発に生かされた。RAG-79 アクア・ジムとの共通装備である頭部ゴーグルは、RMS-188MD ザク・ダイバーのものと同様の形状で、技術的な繋がりを伺わせる。両腕部のマグネットハーケンや両脚のハイドロジェットパックは着脱式で、RMS-192M ザク・マリナーでも使用される装備である。また、バックパックは海軍主導で開発していた独自のタイプを搭載。その機構は、後のF90M ガンダムF90マリンタイプへと継承されるなど、ここで得られた技術が遙か後年に役立った好例と言える。なお、本機もまた他のティターンズ製MSと同様、後にレジオンの手に渡り、量産化の悲願を果たすこととなる。装備仕様は連邦機と基本的には同一であり、ベースであるレジオン鹵獲ハイザックに順じた近代化改修が施されている。