ジョーン・サザーランドとデニス・ブレインの共演 - ハイドン–声楽曲

作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のアルバム収集とレビュー。音楽、旅、温泉、お酒など気ままに綴ります。

ジョーン・サザーランドとデニス・ブレインの共演

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旅日記にかまけてレビューをお休みしておりました。しばらくレビューから遠ざかっていたので、リハビリを兼ねて、短い曲を取りあげましょう。

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HMV ONLINEicon / amazon

ジョーン・サザーランド(Joan Sutherland)、エイプリル・カンテロ(April Cantelo)のソプラノ、レイモンド・ニルソン(Raymond Nilsson)のテノール、サー・チャールズ・マッケラス(Sir Charles Mackerras)指揮のゴールズブロウ管弦楽団(現イギリス室内管弦楽団)の演奏による、ハイドンの2人のソプラノとテノールのための三重唱"Pieto di me, Benigni Dei"などを収めたアルバム。ホルンの独奏にはなんと、デニス・ブレイン(Denis Brain)が登場。この曲の収録は1956年12月17日、BBCとだけ書かれているのでBBCのスタジオででしょうか、拍手などはありませんが、解説によるとライヴのようです。

久しぶりの歌曲のアルバム。しかもハイドンを歌うというイメージがあまりなかったジョーン・サザーランドの歌。もちろん、サザーランドとハイドンという組み合わせの珍しさから手に入れた次第。

ジョーン・サザーランドは1926年、オーストラリアのシドニー生まれのソプラノ歌手。両親はスコットランド出身とのこと。ソプラノ歌手だった母の影響でソプラノを学び始め、事務職につく傍らシドニー音楽院でドラマティックソプラノの才能を見いだされます。1947年に歌手デビュー、1952年にはロイヤル・オペラ・ハウスで「魔笛」の第一の侍女役でデビューしました。その後リチャード・ボニングにベル・カント・ソプラノの能力を見いだされ、ベル・カントの道を歩み始めました。1952年にリチャード・ボニングと結婚。その後「ランメルモールのルチア」、「夢遊病の女」、「清教徒」、「セラミラーデ」などをレパートリーとしていったそう。イタリアではラ・ステュペンダ(La Stupenda「とてつもない声を持つ女」)と賞賛される存在になりました。1970年代以降は声が衰え始め、1992年にオペラから引退、亡くなったのは2010年と最近のことです。

調べたところ、サザーランドはボニングの指揮でハイドンの「哲学者の魂、オルフェオとエウリディーチェ」のエウリディーチェを歌ったアルバムがあり、手元にもありました。ハイドンとは縁遠いイメージだったのは単なる私の先入観でした。

もう一人のソプラノ、エイプリル・カンテロは1928年生まれとサザーランドと同世代のソプラノ。コリン・ディヴィスの最初の奥さんだったとのこと。

Hob.XXVb:5 / Trio "Pieto di me, Benigni Dei" [Es] (????)
13分ほどのハイドンの晴朗な曲調が特徴の管弦楽伴奏付きの三重唱曲。手元の大宮真琴さんの「新版ハイドン」の曲目リストに曲は載っているものの、作曲年代の表記はありません。マッケラスの振るオケは、精度は粗いものの、オペラのような高揚感があるリズミカルないい伴奏。音程はちょっとふらつき気味ですが、存在感のあるホルンの演奏はデニス・ブレイン。音はモノラルで時代なりのものですが、なぜか雰囲気のあるいい演奏。序奏でのホルンと木管の掛け合いだけでもなかなかの風情。歌はサザーランドのソプラノから入りますが、いきなり艶があり、良く転がる素晴しいソプラノで抜群の存在感。特に高音の声量と伸びは流石です。不思議と歌に余裕があり、華麗な余韻が残ります。この曲では歌手以上にホルンが大活躍。テノールのレイモンド・ニルソンが続きます。サザーランドと似て、転がるようすが滑らかで、若々しい透明感のある美しい声を響かせます。またホルンをはさみ、今度はエイプリル・カンテロのソプラノ。サーザーランドよりも少し陰のある声質。転がるような曲調は一貫していますが、滑らかさはサザーランドに敵いません。後半は3人が絡み合いながら展開していきますが、祝祭感溢れる曲調の部分と、少し陰がさす部分の表現の変化の綾を楽しみます。終盤の3人のアンサンブルは聴き応えがあります。良く聴くと見事な構成感を感じる名曲ですね。最後はテープの伸びか音程がちょっと下がってしまいますが、この演奏の面白さを損なうものではありません。やはりサザーランドの存在感は見事。デニス・ブレインも張り合います。

Hob.XXVIII:13 / "L'anima del filosofo, ossia Orfeo ed Euridice" 「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」 (1791)
つづいて、解説によれば歌劇「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」からの一節"Se ti perdo"。こちらはサザーランドとオーケストラによる演奏。前曲のテンポのよい感じから一転、まさにオペラの一場面。マッケラスの棒はなかなか劇的。サザーランドのソプラノが時に鋼のような強さで刺さります。流石に名ソプラノと言われただけの人。強さ、しなやかさ、輝きとどれをとっても圧倒的。オペラ好きの人が唸るわけがわかります。ただただサザーランドの美声に打たれます。

ハイドンの曲を集中して聴いていましたが、このアルバムには他にモーツァルトの「エクスラーテ・ユビラーテ」、「後宮からの逃走」からの一節、ベルリーニの「ノルマ」からの一節、ヘンデルの「アルチーナ」からの一節、ドニゼッティの「ランモルメールのルチア」からの一節などが収められており、念のため他の曲を聴き始めてあまりのソプラノの輝きに腰を抜かしました。「ノルマ」や「アルチーナ」、「ルチア」はサザーランドのソプラノのパワーが炸裂。ソプラノとはこれほどの輝きのあるものなのかと衝撃を受けるような圧倒的な歌唱。むせ返るような香しさ。花の香りにに包まれるような幸せな時間。人の声の美しさの極限を聴いたような気分にさせられます。オペラ好きな人をノックアウトする破壊力。「アルチーナ」、「ルチア」の最後には熱狂しすぎて半狂乱となった観客の嵐のような拍手とブラヴォーが収められています。まさに事件のようならライヴ。

ハイドンの曲も素晴しいのですが、やはり20世紀最高のソプラノと言われただけあって、このアルバムに収められた曲はどれも素晴しいものです。ハイドンやモーツァルトは他の曲を聴いてから聴くと、牙を剥かない、古典の秩序を守った貞操あるサザーランドの姿だったことがわかります。これはこれで素晴しいものです。ハイドンの2曲の評価は[+++++]をつけます。また一枚家宝となるアルバムに出会えました。

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2 Comments

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Haydn2009

No title

ピエタは、音源があったのですね。
ハイドンの曲で、音源化している曲はほぼ全て所有
していると自負してましたが、まだ、私の知らない
音源化している曲がある事をうれしく思います。

早速HMVに注文してしまいました。
在庫がないので、半月ほどかかるようですが。
どんな曲か、配送されてくるのが楽しみです。

いつもハイドンの音源情報をありがとうございます。

  • 2013/06/15 (Sat) 11:52
  • REPLY

Daisy

Re: No title

Haydn2009さん、コメントありがとうございます。
この曲、何気に名曲だと思います。録音もモノラルですし、状態が良い訳ではありませんが、この演奏から伝わってくる熱気は素晴しいものです。この曲の録音が増えないのは楽譜が流通していないからなのでしょうかね。こう言ったマイナーなハイドンの曲は研究者でもなければ、その成り立ちや位置づけを知る事は出来ないのでしょうが、楽しむと言う視点では十分にハイドンの魅力を感じられる素晴しい曲だと思います。
ネットをちょっと調べても他の音源はないようですね。もしかしたら貴重な録音なのかもしれません。

  • 2013/06/16 (Sun) 12:50
  • REPLY