アダム・フィッシャー/ハイドン・フィルの97番、102番
今日はハイドンといえばこの人、アダム・フィッシャーのアルバム。
HMV ONLINE / amazon / TOWER RECORDS
アダム・フィッシャー(Adam Fischer)指揮のオーストリア・ハンガリー・ハイドン・フィルハーモニー(Österreisch-Ungarische Haydn-Philharmonie)の演奏でハイドンの交響曲97番、序曲「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」、交響曲102番の3曲を収めたアルバム。収録は2006年9月14日から17日、アイゼンシュタットのハイドンザールでのセッション録音。レーベルはmDG。
このアルバムのライナーノーツにはハイドンザールのステージに立つアダム・フィッシャーとハイドンフィルのメンバーの素晴しい写真が収められているので、こちらも紹介しておきましょう。
アダム・フィッシャーと言えばこのウェブサイト。
アダム・フィッシャー&ハイドンフィルハーモニーファンクラブ
こちらはご存知の方も多いでしょう。
もちろん、当ブログでもアダム・フィッシャーのハイドンは何度が取りあげています。ドラティに次いでハイドンの交響曲全集を完成させた人として、ハイドンファンの皆様はおなじみの人でしょう。
2012/12/26 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャー/オーストリア・ハンガリー・ハイドン管弦楽団の哲学者、24番
2011/01/23 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャーのマーキュリー、悲しみ、告別
2010/01/24 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャー全集その後
アダム・フィッシャーといえば、当初Nimbus Recordsで全集の録音をはじめ、途中でNimbusの活動休止に伴い断念したかと思いきや、廉価盤勃興の祖、BRILLIANT CLASSICSからいきなりNimbus未発表の録音もまとめて全集として発売されビックリしたのが懐かしいですね。その全集後、今度はmDGレーベルからザロモンセットと序曲等をあしらったアルバムがSACDとしてリリースされ、ザロモンセットを再録音かと思いきや、今日取り上げる3枚目がリリースされた以降、次が出ていない状態かと思います。
上の哲学者と24番の記事で触れた通り、アダム・フィッシャーのハイドンの交響曲では、全集の完成にかなりの年数を要しており、録音年の古い曲では躍動感漲る素晴しい演奏が多いのに対し、後年になるほど、冷静さが目立つようになっていく傾向があります。今日取り上げるアルバムは2006年とかなり最近の録音で、しかもハイドンザールで収録したSACDということで、あらためてフィッシャーの最近のハイドン演奏を知る上では重要なものでしょう。
Hob.I:97 / Symphony No.97 [C] (1792)
SACDだけに録音は万全。ハイドンザールに響きわたる小編成オケの響きが鮮明にとらえられています。アダム・フィッシャーのコントロールは速めのテンポでキビキビした非常に精度の高いもの。前記事で聴いたマリス・ヤンソンスの演奏とは異なり、ハイドン演奏の伝統の延長にある演奏。アタックの力感をカッチリと出して、97番の楽興を畳み掛けるように実に上手く表現していきます。1楽章は見事な構築感。
続くアダージョはサラサラと軽めの表現と中間部の爆発の対比の構図を鮮明に表す事を狙ったのでしょう。ハイドンが仕組んだ機知を汲み取って、ホールにいるハイドンに伝えているよう。ハイドンの音楽を知り尽くしたフィッシャーならではの自在な表現。2楽章の終わり方一つとっても、かなりのこだわりがあるようです。
メヌエットも実に痛快。ティンパニの響かせ方が最高。メロディに潜んでいる遊び心がそこここに芽吹いてくるようすがよくわかります。鮮明な録音で各楽器の重なりも鮮明に分解され、フレーズひとつひとつが鮮明に浮かび上がります。録音の威力ですね。
フィナーレも機敏な演奏。リズムがキレて、フレーズのクッキリ度がさら上がります。ハイドンの書いた楽譜に仕込まれたリズムとメロディ、ウィット、演奏者や聴衆を驚かせようとした機知が鮮明に浮かび上がります。これぞハイドン。素晴しすぎます。97番のベスト。
Hob.XXVIII:13 / "L'anima del filosofo, ossia Orfeo ed Euridice" 「オルフェオとエウリディーチェ,または哲学者の魂」序曲 (1791)
劇的な序奏からはじまる曲。オペラの幕が上がる前の興奮をそのまま伝える演奏。まるでライヴを聴いているような素晴しい迫力と躍動感。これまた素晴しい。
Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
そして名曲102番。おだやかな曲想を踏まえてか、アダム・フィッシャーは97番ほどのキレを見せず、むしろニュートラルな表情を意識しているよう。アクセントとは逆に音を印象的に抑えるところを上手くつかって変化をつけていきます。ただ、徐々に盛り上がっていくのがこの曲の面白さ。そこを十分にふまえて徐々にアクセルを踏んでいくのがよくわかります。1楽章のフィニッシュに至ってオケがフルスロットルに。
2楽章のアダージョはハイドンの交響曲のアダージョの中でも穏やかな美しさが印象的な曲。古い演奏の中にもメロディーの美しさが印象的なものが多い名曲です。フィッシャーはメロディーの美しさを適度に表しながらも、終盤の爆発との対比を鮮明に演出して、メロディーの表現は抑え気味にします。これもハイドンを熟知したフィッシャーならではの表現。
メヌエットではハイドンフィルの意外に迫力のある音色が実に効果的。少し溜めて迫力を演出。中間部ののどかな響きをあえて室内楽的な手作り感あふれる雰囲気にまとめるあたり、ハイドンのディヴェルティメントを聴いているよう。
期待のフィナーレは、コミカルな導入からにクライマックスまでの躍動感溢れる盛り上げ方が聴き所。フレーズごとの表情付けの多彩な変化はアダム・フィッシャーならでは。流石に交響曲全集の録音を成し遂げている人ならではの経験が活きています。ハイドンの交響曲の面白さが詰まった曲であることがこの演奏でよくわかります。最後のテンポとトーンを落とすところは見事の一言。
アダム・フィッシャーのハイドンの交響曲の最新録音。ハイドンを知り尽くしたアダム・フィッシャーによって、ハイドンの交響曲の最高の演奏がハイドンザールでの素晴しい響きとともに鮮明な録音で収められた素晴しいプロダクション。久しぶりに取り出して聴いてみて、その素晴らしさにあらためて打たれました。3曲とも素晴しいのですが、特に97番はこの曲のベストと断定します。97番の面白さを最も上手く表現した演奏でしょう。評価は全曲[+++++]とします。ハイドンの交響曲の面白さを堪能です。
この続き、是非リリースしてほしいものです。
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アダム・フィッシャー(Adam Fischer)指揮のオーストリア・ハンガリー・ハイドン・フィルハーモニー(Österreisch-Ungarische Haydn-Philharmonie)の演奏でハイドンの交響曲97番、序曲「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」、交響曲102番の3曲を収めたアルバム。収録は2006年9月14日から17日、アイゼンシュタットのハイドンザールでのセッション録音。レーベルはmDG。
このアルバムのライナーノーツにはハイドンザールのステージに立つアダム・フィッシャーとハイドンフィルのメンバーの素晴しい写真が収められているので、こちらも紹介しておきましょう。
アダム・フィッシャーと言えばこのウェブサイト。
アダム・フィッシャー&ハイドンフィルハーモニーファンクラブ
こちらはご存知の方も多いでしょう。
もちろん、当ブログでもアダム・フィッシャーのハイドンは何度が取りあげています。ドラティに次いでハイドンの交響曲全集を完成させた人として、ハイドンファンの皆様はおなじみの人でしょう。
2012/12/26 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャー/オーストリア・ハンガリー・ハイドン管弦楽団の哲学者、24番
2011/01/23 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャーのマーキュリー、悲しみ、告別
2010/01/24 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャー全集その後
アダム・フィッシャーといえば、当初Nimbus Recordsで全集の録音をはじめ、途中でNimbusの活動休止に伴い断念したかと思いきや、廉価盤勃興の祖、BRILLIANT CLASSICSからいきなりNimbus未発表の録音もまとめて全集として発売されビックリしたのが懐かしいですね。その全集後、今度はmDGレーベルからザロモンセットと序曲等をあしらったアルバムがSACDとしてリリースされ、ザロモンセットを再録音かと思いきや、今日取り上げる3枚目がリリースされた以降、次が出ていない状態かと思います。
上の哲学者と24番の記事で触れた通り、アダム・フィッシャーのハイドンの交響曲では、全集の完成にかなりの年数を要しており、録音年の古い曲では躍動感漲る素晴しい演奏が多いのに対し、後年になるほど、冷静さが目立つようになっていく傾向があります。今日取り上げるアルバムは2006年とかなり最近の録音で、しかもハイドンザールで収録したSACDということで、あらためてフィッシャーの最近のハイドン演奏を知る上では重要なものでしょう。
Hob.I:97 / Symphony No.97 [C] (1792)
SACDだけに録音は万全。ハイドンザールに響きわたる小編成オケの響きが鮮明にとらえられています。アダム・フィッシャーのコントロールは速めのテンポでキビキビした非常に精度の高いもの。前記事で聴いたマリス・ヤンソンスの演奏とは異なり、ハイドン演奏の伝統の延長にある演奏。アタックの力感をカッチリと出して、97番の楽興を畳み掛けるように実に上手く表現していきます。1楽章は見事な構築感。
続くアダージョはサラサラと軽めの表現と中間部の爆発の対比の構図を鮮明に表す事を狙ったのでしょう。ハイドンが仕組んだ機知を汲み取って、ホールにいるハイドンに伝えているよう。ハイドンの音楽を知り尽くしたフィッシャーならではの自在な表現。2楽章の終わり方一つとっても、かなりのこだわりがあるようです。
メヌエットも実に痛快。ティンパニの響かせ方が最高。メロディに潜んでいる遊び心がそこここに芽吹いてくるようすがよくわかります。鮮明な録音で各楽器の重なりも鮮明に分解され、フレーズひとつひとつが鮮明に浮かび上がります。録音の威力ですね。
フィナーレも機敏な演奏。リズムがキレて、フレーズのクッキリ度がさら上がります。ハイドンの書いた楽譜に仕込まれたリズムとメロディ、ウィット、演奏者や聴衆を驚かせようとした機知が鮮明に浮かび上がります。これぞハイドン。素晴しすぎます。97番のベスト。
Hob.XXVIII:13 / "L'anima del filosofo, ossia Orfeo ed Euridice" 「オルフェオとエウリディーチェ,または哲学者の魂」序曲 (1791)
劇的な序奏からはじまる曲。オペラの幕が上がる前の興奮をそのまま伝える演奏。まるでライヴを聴いているような素晴しい迫力と躍動感。これまた素晴しい。
Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
そして名曲102番。おだやかな曲想を踏まえてか、アダム・フィッシャーは97番ほどのキレを見せず、むしろニュートラルな表情を意識しているよう。アクセントとは逆に音を印象的に抑えるところを上手くつかって変化をつけていきます。ただ、徐々に盛り上がっていくのがこの曲の面白さ。そこを十分にふまえて徐々にアクセルを踏んでいくのがよくわかります。1楽章のフィニッシュに至ってオケがフルスロットルに。
2楽章のアダージョはハイドンの交響曲のアダージョの中でも穏やかな美しさが印象的な曲。古い演奏の中にもメロディーの美しさが印象的なものが多い名曲です。フィッシャーはメロディーの美しさを適度に表しながらも、終盤の爆発との対比を鮮明に演出して、メロディーの表現は抑え気味にします。これもハイドンを熟知したフィッシャーならではの表現。
メヌエットではハイドンフィルの意外に迫力のある音色が実に効果的。少し溜めて迫力を演出。中間部ののどかな響きをあえて室内楽的な手作り感あふれる雰囲気にまとめるあたり、ハイドンのディヴェルティメントを聴いているよう。
期待のフィナーレは、コミカルな導入からにクライマックスまでの躍動感溢れる盛り上げ方が聴き所。フレーズごとの表情付けの多彩な変化はアダム・フィッシャーならでは。流石に交響曲全集の録音を成し遂げている人ならではの経験が活きています。ハイドンの交響曲の面白さが詰まった曲であることがこの演奏でよくわかります。最後のテンポとトーンを落とすところは見事の一言。
アダム・フィッシャーのハイドンの交響曲の最新録音。ハイドンを知り尽くしたアダム・フィッシャーによって、ハイドンの交響曲の最高の演奏がハイドンザールでの素晴しい響きとともに鮮明な録音で収められた素晴しいプロダクション。久しぶりに取り出して聴いてみて、その素晴らしさにあらためて打たれました。3曲とも素晴しいのですが、特に97番はこの曲のベストと断定します。97番の面白さを最も上手く表現した演奏でしょう。評価は全曲[+++++]とします。ハイドンの交響曲の面白さを堪能です。
この続き、是非リリースしてほしいものです。
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