マーティン・パールマン/ボストン・バロックによる天地創造(ハイドン) - ハイドン–オラトリオ

作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のアルバム収集とレビュー。音楽、旅、温泉、お酒など気ままに綴ります。

マーティン・パールマン/ボストン・バロックによる天地創造(ハイドン)

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12月最初の記事はハイドンの最高傑作「天地創造」の最近リリースされたアルバム。

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HMV ONLINE

マーティン・パールマン(Martin Pearlman)指揮のボストン・バロック(Boston Baroque)の演奏によるハイドンの「天地創造」を収めたSACD。収録は2011年10月19日、20日、22日、23日、アメリカボストン近郊のウースター(Worcester)にあるメカニクスホールでのセッション録音。レーベルはイギリスのオーディオメーカーLINN。

このアルバムは最近HMV ONLINEで見つけて購入したものですが、なぜかamazonやTOWER TECORDSで検索しても引っかかりません。ジャケット写真は火山から溶岩が噴出する、まさに天地創造を想起させるもの。指揮者のパールマンもオケのボストン・バロックも聴いた事のない団体だったんですが、2011年と最新の録音かつ、溶岩ドバーのインパクトあるジャケット写真ということで、躊躇なく発注しました。

ということで指揮者とオケを紹介しておきましょう。

指揮者のマーティン・パールマンは1945年、シカゴ生まれの指揮者、ハープシコード奏者、作曲家で古楽を得意としている人。イリノイ州のオークパークで育ち、作曲、ヴァイオリン、ピアノ、音楽理論などを学び、コーネル大学で学位を取得。その後オランダに渡り、アムステルダムでグスタフ・レオンハルトにハープシコードを師事。イエール大学で学んだ後、1973年にこのアルバムの演奏を担当するボストン・バロック(当初はバンケット・ムジカーレと呼ばれていた)を設立し、北米で最初の古楽器による演奏を行った楽団ということになっています。ボストン・バロックはオペラや声楽曲の古楽器による世界初演、アメリカ初演となる演奏を重ね、モーツァルト、バッハ、ヘンデル、モンテヴェルディなどの作曲家の作品も含まれています。録音では高音質の録音で知られたTELARCに多くの作品の録音を残しています。TELARCの録音にはバッハからモーツァルトの有名曲の録音がそろっており、TERARCレーベルの一翼を担う存在であることが窺えます。

このアルバムの収録場所であるメカニクス・ホールは非常に美しいホール。こちらもホールのウェブサイトへのリンクを張っておきましょう。

Mechanics Hall - Concert Hall, Weddings, Banquet Hall

このアルバムのソリストは以下のとおり。おそらく3人とも初めて聴く人。

ソプラノ:アマンダ・フォーサイス(Amanda Forsythe)
テノール:キース・ジェイムソン(Keith Jameson)
バス・バリトン:ケヴィン・ディーズ(Kevin Deas)

そして合唱はボストン・バロックの合唱団でライナーノーツのリストによると総勢25名と程よい規模のもの。

久々に聴く天地創造の新録音ゆえ、緊張が走ります。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
第一部
流石に最新のSACDらしく自然な音場が広がります。第1曲の冒頭からの流れは古楽器の小編成オケながら、淡々とオーソドックスな展開で、自然な録音も相俟って迫力ある入り。曲ごとの表情付けなどはほとんど感じず、文字通り淡々と進めていきます。ウリエル役のキース・ジェイムソンはアメリカのテノールらしく、正確なテンポと美しい響きを持った歌唱。こちらも個性はほとんど感じずかっちりと曲を歌っていきます。ラファエル役のケヴィン・ディースも同様、個性よりは正確、清潔な歌唱が信条。これは指揮のパールマンの好みでしょうか。特にリズム感はキリッと締まって正確な印象を強くしています。肝心のガブリエルのアマンダ・フォーサイスもまさに前の二人と特徴が重なります。歌手、合唱、ソロのすべてに張りつめる引き締まったリズム感と、ある意味表情付けを抑えたプレーンな解釈がパールマンの意図でしょうか。まさに演奏見本のような転換。過度に劇的にもならず、淡々と曲を進めていく事で曲の壮大さを描こうという事でしょう。曲をすすめても抜群の安定感は揺らぎません。いつも気になる第一部のガブリエルのアリアは、フォーサイスの可憐な美声が楽しめますが、パールマンのコントロールにより聴き所にもかかわらず、淡々とすすめることで、さっぱりとした印象です。
このあと第一部のクライマックスへむけた第10曲から第13曲までのながれは、良くそろった正確なオケと合唱、ソロのアンサンブルの聴かせどころ。響きに陰りがなく、全編健康的に聴こえるのがパールマンのコントロールの特徴でしょう。それだけに曲自体の展開に集中できます。ちょっと違和感があるのが定位感。SACDマルチチャネルで聴くとそれなりなんでしょうが、我が家の正統派2チャンネル(つまり普通のステレオ)で聴くと特に歌手がとらえどころのない定位感。精度と迫力は十分なので2チャンネルへのミックスダウンの問題でしょう。

第二部
第一部はちょっととらえどころのない演奏という印象でしたが、美しい曲の連発である第二部は、パールマンの演奏の特徴が活きて、美しい曲が適度な緊張感で次々と奏でられる様子を楽しめます。1楽章のクライマックスで感じた定位感の違和感も第二部ではほとんど気になりません。このアルバムではDISC1とDISC2の切り替えが第二部の終わりに設定されているので、第二部は一気に聴き通せますが、この一体感はなかなかのもの。第一部でとらえどころがないと思った要素は、ここぞという時の踏み込みや表情のメリハリが今ひとつ弱いところでしたが、第二部ではそれがかえって音楽の一体感を感じさせる事に。歌手も全員素晴らしい安定感。特に天地創造のキーとなるラファエルのディースの図太いバスの響きはこの演奏のポイントになりますね。第二部を聴くうちにパールマンの真意がつかめたような気がします。第二部のクライマックのハレルヤコーラスは適度な盛り上がりのなかにじわりと伝わる暖かさ。

第三部
こうなると第三部が非常に期待が持てます。出だしのウリエルのレチタティーヴォは抑えた表情の美しさ、ジェイムソンの甘いテノールと金管楽器の響きが絶妙な美しさ。そしてアダムとエヴァのデュエットは二人の声の美しさもさることながら、オケと合唱を含むアンサンブルが極上の音楽を紡ぎ出します。最初のデュエットのクライマックスも適度に抑えて、音楽の熟成を感じさせるもの。最初淡々としたと感じたパールマンのスタイルは、淡々とではありますが、大曲を曲自体に語らせるような一貫した抑えた表情であることがわかります。第三部に至り、その真意がよくわかりました。レチタティーヴォをはさんで2つ目のアダムとエヴァのデュエットも聴き所。そして最後の34曲に至っても、盛り上がりは適度で、指揮者もオケもソロも非常に冷静に曲を的確に盛り上げていくところは流石。

マーティン・パールマンとボストン・バロックによる天地創造は全曲通して非常に精度の高い、良くコントロールされた演奏でした。特にオケの精度は抜群。かなりのテクニシャン揃いだと思います。歌手も皆粒ぞろいで欠点らしい欠点はありません。この演奏のポイントはパールマンのコントロールによる誠実な演奏でしょう。以前取りあげたシュライアー指揮のものにスタンスは似ていますが、こちらは古楽器の雅やかさが感じられる演奏。評価は最初は[++++]としようかと思いましたが、この精度とスタンスは素晴らしいものということで[+++++]を進呈します。

引越し後の我が家の環境には父のつかっていたマランツのSA-15S1というSACDがありますので、以前と違ってSACDの良さは聴き取れるようになりましたが、流石にマルチチャネルの再生環境はありませんので、このアルバムの録音上の真価はわかりません。マルチチャネルからすばらしい響きが聴き取れれば、このアルバムの価値はさらに上がるでしょう。環境をお持ちの方、是非感想をお聞かせください。

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オーディオセットは今までリビングルームにありましたが、引越し後は専用の部屋に昇格しました。まだまだ片付け中です(笑)

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