【新着】ヘルムート・コッホの天地創造旧盤(ハイドン)
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ヘルムート・コッホ(Helmut Koch)指揮のベルリン放送交響楽団、ベルリン放送大合唱団の演奏で、ハイドンのオラトリオ「天地創造」。ソロはバスのテオ・アダム(Theo Adam)は新盤と同じですが、ソプラノはインゲボルグ・ヴェングロール(Ingeborg Wenglor)、テノールはゲルハルト・ウンガー(Gerhard Unger)。歌手の格は新盤に劣るものではありません。録音は1960年8月、東ベルリンとだけ記載されています。新盤の1974年から遡ること14年前の録音。コッホ52歳の歳の録音。DENONの国内盤ですがライナーノーツによると原盤はAriola-Eurodisc GmbH Munichとのこと。
このアルバム、入手してビックリ。国内盤はあまり多く持ってないんですが、天地創造の詳細な楽曲解説と対訳が何時も紐解くハイドンの解説書の著者である大宮真琴さんのもの。これは素晴らしい。大宮真琴さんも95年に亡くなられてますので、今発売されるアルバムの解説としてそのまま掲載したDENONの酔眼ですね。これだけでも手に入れた価値があります。
インゲボルグ・ヴェングロールは旧東独出身のソプラノ。デッサウ州立歌劇場、ライプツィヒ州立歌劇場、ベリン国立歌劇場などで活躍した人。ネット上にもあまり情報はありません。昔のLPジャケットのイメージがネット上にありましたので貼っておきましょう。ジャケットから音楽が聴こえてきそうないい写真。
ゲルハルト・ウンガーは1916年ドイツ中央部のバート・ザルツンゲンの生まれテノール歌手。Wikipediaの情報によると今年7月4日に亡くなっています。ベルリンで音楽を学び、終戦の年からコンサートで歌うように。1947年にワイマールの歌劇場でオペラデビュー。その後1949年からベルリン国立歌劇場、51年からはバイロイトで歌うようになり、ニュルンンベルクのマイスタージンガーのダヴィットが看板役。カラヤン、ケンペ、クナ、ロズバウド、クーベリックなどと同役を録音するなど代表的な存在に。その他「後宮からの逃走」のペリドロ、「ボエーム」のロドルフォ、「魔笛」のモノスタトスなどがあたり役に。
CDプレイヤーにこのアルバムをかけてみると、予想した以上の音の瑞々しさ。歌手の違い以上のインパクトが。
Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
冒頭から図太い一撃。1960年の録音としては十分に瑞々しい響き。一聴して新盤よりもかっちりしたいい音に聴こえます。序奏の混沌の描写のコッホのコントロールも若々しく覇気とエネルギーが満ちあふれています。これには本当にビックリ。録音自体はかなり鮮明なもの。ソロの一発目、ラファエルのテオ・アダムは新盤よりすこし若返りますが、鋼のような張りは変わらず。オケとソロとコーラスが綺麗に分離してそれぞれ鮮明に定位します。
2曲目ウリエルのアリア、ゲルハルト・ウンガーは新盤のシュライアーの潔癖な透明感から、柔らかなのに芯のあるオペラティックなテノール。シュライアーに聴き劣りしません。つづくラファエルのレチタティーヴォ、「神は大空を造り」、レチタティーヴォなのに聴き応え十分。天地創造のポイントであるラファエルが引き締まっているのは重要なポイント。やはりテオ・アダムのラファエルは抜群ですね。
4曲目、ガブリエルのアリア「驚き喜んで」、ヴェングロールのソプラノはちょっと線が細く音程がふらつき気味。コケティッシュな感じのソプラノですね。こちらは新盤のレギーナ・ヴェルナーに軍配でしょうか。
8曲目のガブリエルのアリア「草は地にもえ」、線の細さはあるものの可憐な声で絶唱。そして第10曲から13曲に至るクライマックス、オケとコーラスは鮮明でコッホのコントロールは新盤よりもくっきり感をだして録音だけでなくフレージングも鮮明。オケの編成はわかりませんがおそらくこの旧盤のほうがコンパクトに聴こえます。それゆえスケール感は新盤に軍配といったところでしょうか。
第二部は新盤の聴き所でしたので、こちらも期待が高まります。第二部の最初の聴き所、ガブリエルのアリア「強い翼で」はオケの立体感溢れる伴奏に乗ってヴェングロールが声を振り絞り、つづくラファエルの惚れ惚れするような声でのレチタティーヴォ、そして第二部最初のクライマックスの2つの三重唱。際立つのは木管楽器の音色の美しさ。ハイドンの美しいメロディーに彩りを加えます。オーケストラのうねりの変化は新盤のように大きくないんですが、フレーズがくっきりと浮かび上がることでメロディーが鮮明に。CD1の最後の盛り上がりはなかなかのものです。
CDを変えて第二部の後半。ラファエルのレチタティーヴォをはさんでラファエルのアリア「天は輝きたり」はじっくり遅めのテンポでテオ・アダムの神々しい声を堪能。つづいてレチタティーヴォをはさんでウリエルのアリア「威厳と勇気と美しさをもって」もかなり遅めのテンポ。2曲とも小細工なしに歌を朗々と聴かせようということでしょう。ここから第二部のクライマックス。第一部同様リズム感を強調し、くっきりとメロディーを浮かびあがらせるコッホのコントロール。フレーズごとにきっちり表情をつけていくところは新盤にも共通するところですが本盤のほうがそのコントロールがカッチリしています。合唱「大いなるみわざは成就し」、三重唱「おお主よ、すべてがあなたを仰ぎ」を経て最後のアレルヤコーラスに。音響的は迫力もなかなかなんですが、フレーズで盛り上げる感じがコッホらしいところ。
そして最後の第三部。アダムとエヴァのデュエット、ヴェングロールはこのアルバム一番の絶唱。アダムはいつも通りの揺るぎなくタイトな歌唱。前半の掛け合いから一転、後半のコーラスが入って以降はオケに気合いが乗って迫力が増します。その後の普段あまり気に留めないアダムとエヴァのレチタティーヴォのエヴァの部分がなかなかいい。ヴェングロールは後半良くよくなってきました。続くデュエットでも声が良く伸びてアダムとのコントラストがくっきり。オケはゆったりに徹するようでオペラの伴奏のように歌手を支えます。最後の特徴的なメロディー現れても泰然としてあっさりいきます。終曲もゆったりしたテンポでくっきりメロディーラインを描きますが、最後は渾身のアーメンで終了。
数日間を空けて聴いたコッホの天地創造の新旧両盤。旧盤は新盤に劣るというものではなく、両者とも素晴らしい演奏と聴きました。オーケストラとコッホのコントロールは、新盤は雄大なスケール感を感じる演奏、旧盤は室内楽的なタイトな響きという違いがあります。歌手は両者ともバスのテオ・アダムが抜群。歴代の天地創造の演奏の中でもピカイチですね。テノールはほぼ互角、新盤のシュライアーは流石の出来ですが、旧盤のウンガーも悪くありません。ソプラノは新盤のレギーナ・ヴェルナーの方が安定して伸びやかな歌唱というところ。今回の旧盤も評価は[+++++]とします。好きな人は両方聴くべき価値が確かにあります。現代楽器の天地創造のアルバムとしては、ベルリンフィルの圧倒的な響きと名歌手ぞろいのカラヤン盤がまずはおすすめ盤ですが、コッホ盤は雄大なスケールと活き活きとしたスケールで聴かせる玄人好みの名盤。東西ベルリンに結集した音楽家のまさに夢の響宴のような存在。旧盤を聴き終えて再び新盤を聴くと、響きのおおらかさ、自然さと幽玄な響きが心を打ちます。コッホが旧盤の名録音を残したあと、新盤を録音したくなった気持ちが何となくつかめた気がします。より純粋な自然さと、旧盤に欠けていた雄大なスケール感。特に後半第二部、第三部の無為の自然な響きは時代を超えた永久の価値をもつレベルの絶対的名演です。
今回、ライムンドさんの旧盤情報をきっかけにコッホの両盤をじっくり聴き、その双方の素晴らしさをあらためて実感した次第。旧東独のオケ、ソリストの素晴らしい力量、そしてハイドンの天地創造のすばらしさをじっくり味わいました。今日は月末ゆえ、夜にはHaydn Disk of the Monthを決めて記事をアップします。
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