ヨハネス・ゴリツキの「薬剤師」全曲(ハイドン)
珍しくオペラを取り上げます。ちょうどハイドンの声楽曲の所有盤リストの整理をしていて、いろいろ聴き直していたら、目からウロコの名演奏盤だったということで、あらためて聴き直した次第。
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ヨハネス・ゴリツキ(Johannes Goritzki)指揮のノイス・ドイツ室内アカデミー(Deutsche Kammerakademie Neuss am Rhein)の演奏によるハイドンの歌劇「薬剤師(Lo Speziale)」全曲。収録は1999年1月、ドイチュランド・ラジオ・ケルンの放送センター大ホールでのセッション録音。レーベルはBERLIN Classics。
思い立って先週から、オラトリオの四季の所有盤リストのメンテナンスをしており、四季がひと段落。そして続くオペラのリストの誤り探しをしながら、いろいろなアルバムのつまみ聴きをしていました。初期のオペラ「薬剤師」は手元にDVDを含めて全曲盤が4種ありますが、それぞれ聞いてみると、今日取り上げるアルバムが格別にスバラシイことがわかりました。ハイドンのオペラは日本ではかなりマイナー。ちょいあとのモーツァルトのオペラに比べると日本での聴かれ方は天と地ほど違い、ハイドンのオペラを聴く機会はほとんど無きに等しいほどでしょう。愛聴するヴァイオリン協奏曲でさえ、モーツァルトに比べるとかなりマイナーな存在。これではいけません。ということで、勇気をもってオペラのアルバムを取り上げる次第。
この「薬剤師」というオペラ、作曲は1768年ということで、シュトルム・ウント・ドラング期の真っ最中に書かれたもの。この年エステルハーザ宮廷歌劇場か完成し、そのこけら落としのために作曲されたもの。筋は薬剤師センプローニオとそのイケメン助手メンゴーネ、恋敵のヴォルピーノの3人がヒロインのグリレッタの心を射止めようとするドタバタ劇。3幕物ですが、このアルバムはCD1枚に収まるコンパクトなもの。音楽はまさにハイドンらしい晴朗、快活で変化に富んだ素晴らしいもの。
指揮者のゴリツキは、ハイドン好きな人の間では知られた人でしょう。cpoからハイドンの弟、ミヒャエル・ハイドンの交響曲集を何枚もリリースしている人。指揮者であり、チェロ奏者でもあるそう。彼のウェブサイトがありましたのでリンクしておきましょう。
Johannes Goritzki
教育者といしてはスイス南部のルガーノにあるイタリア語スイス音楽院やロンドンの王立音楽大学で教えているとのこと。ディスコグラフィーを見ると、ミヒャエル・ハイドン以外にもいろいろなアルバムがリリースされており、ヨーロッパでは知られた存在であることがわかります。
歌手は以下のとおり。初めて聴く人ばかりで、有名どころではありませんが、聴く限り皆素晴らしい歌唱。
薬剤師センプローニオ:ジュゼッペ・モリーノ(Giuseppe Morino)テノール
助手メンゴーネ:ハウケ・メラー(Hauke Möller)テノール
グリレッタ:バーバラ・メザロス(Barbara Meszaros)ソプラノ
ヴォルピーノ:アリソン・ブラウナー(Alison Browner)ソプラノ
テノール2人とソプラノ2人というシンプルな配役。しかも敵役の金持ちな若者ヴォルピーノがソプラノというのが変わった構成でしょうか。ケルビーノのような存在ということでしょう。
Hob.XXVIII:3 / "Lo speziale" 「薬剤師」 (1768)
序曲は馴染みのあるもの。幕が上がる前のざわめきがつたわる快活かつスリリングな入り。録音もキレ良く問題ありません。第一幕は薬の調合をする助手のメンゴーネと薬剤師のセンプローニオとのやり取りから入り、そこにメンゴーネの恋敵のヴォルピーノが現れます。密かにグリレッタの心をつかみたいセンプローニオ、愛し合うメンゴーネとグリレッタ、ライバルヴォルピーノの間のやり取り。軽快かつ滑稽な音楽とともに進むレチタチィーヴヴォ。トラック4の薬剤師センプローニオのアリアはモリーノの朗々とした歌が見事。続いてトラック6のメンゴーネのアリアもテノール版の夜の女王のアリアのような聴かせどころがあり、実に愉快。メラーもコミカルな歌いぶりがなかなか素晴らしいです。そしていよいよヒロイン、グリレッタの登場。レチタティーヴォを挟んで、これまた素晴らしいアリア! なんと美しいメロディーの連続。癒しに満ちた素晴らしい音楽。ソプラノのバーバラ・メザロスはコケティッシュな魅力のある声。つづいてグリレッタと二人きりになって気持ちを打ち明けたものの、あしらわれたヴォルピーノの恨み節のアリア。そして第一幕の最後のメンゴーネ、グリレッタ、センプローニオの三重唱。ようやくメンゴーネとグリレッタの恋人どうしが2人きりになろうとしたところに、センプローニオが入ってきて大混乱。このトラックの音楽、実によくできていて面白い。場面転換の緊張感と3人の美しい歌唱が渾然一体となった素晴らしい音楽。
第二幕はセンプローニオとヴォルピーノがグリレッタの心をつかもうと挽回を企むストーリー。グリレッタは恋人メンゴーネの態度が煮え切らないことに業を煮やし、ヴォルピーノと結婚すると言い出して大喧嘩。その隙を狙ってセンプローニオがグリレッタとの結婚証書を作るともちかけますが、偽の公証人がそれぞれ新郎の欄にそれぞれの名を書こうとして大混乱するという筋。比較的わかりやすいドタバタ劇ですが、これまた音楽が面白くて、一気に聴き進められます。ゴリツキはオペラを得意としているのか、ミヒャエル・ハイドンの交響曲集の時の演奏以上に間の取り方が巧みで、展開の面白さがしっかり描けています。第二幕でもヴォルピーノ、センプローニオ、グリレッタのアリアを経て、最後に4重唱でクライマックスに至ります。ここでもトラック20の4重唱が素晴らしい充実度。ゆったりと始まり、混乱を経て、クライマックスに。
第三幕はいきなりトルコ趣味の音楽から入ります。トルコでペストが大流行して、王様が高額で薬剤師を雇うとの話をヴォルピーノが持ってきて、センプローニオはすっかりトルコに行く気に。すっかりその気になったセンプローニオが、ヴォルピーノの企みにもかかわらず、仲直りしたメンゴーネとグリレッタの結婚をあっさりオッケーしてしまい大団円。最後は愛の神を皆で称えてハッピーエンドという筋です。やはりポイントは入りのトルコ趣味の音楽の独特の表情と、最後の4重唱。ここでもメリハリのある音楽で劇のストーリーがくっきりと浮かび上がります。
ヨハネス・ゴリツキによるハイドンの初期の傑作オペラ「薬剤師」全曲。いまいち地味な存在のハイドンのオペラの入門盤として絶好の1枚です。実に表情豊かなオケに隙のない4人の歌唱。特にアリアの美しさや3重唱、4重唱のなどの音楽の面白さは群を抜いたもの。これはハイドンの交響曲や弦楽四重奏好きな方にも好まれる素晴らしい音楽だと思います。手に入るのは輸入盤のみで、このアルバムに限ってはライナーノーツの歌詞も原語のイタリア語とドイツ語訳のみ。手元の別のアルバムに英語訳があるのでなんとなく筋はわかりますが、この辺が敷居を高くしているかもしれませんね。だまされたと思ってこのオペラの素晴らしい音楽に触れていただきたいものです。評価は[+++++]です。「薬剤師」の決定盤はこのアルバムです。
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ヨハネス・ゴリツキ(Johannes Goritzki)指揮のノイス・ドイツ室内アカデミー(Deutsche Kammerakademie Neuss am Rhein)の演奏によるハイドンの歌劇「薬剤師(Lo Speziale)」全曲。収録は1999年1月、ドイチュランド・ラジオ・ケルンの放送センター大ホールでのセッション録音。レーベルはBERLIN Classics。
思い立って先週から、オラトリオの四季の所有盤リストのメンテナンスをしており、四季がひと段落。そして続くオペラのリストの誤り探しをしながら、いろいろなアルバムのつまみ聴きをしていました。初期のオペラ「薬剤師」は手元にDVDを含めて全曲盤が4種ありますが、それぞれ聞いてみると、今日取り上げるアルバムが格別にスバラシイことがわかりました。ハイドンのオペラは日本ではかなりマイナー。ちょいあとのモーツァルトのオペラに比べると日本での聴かれ方は天と地ほど違い、ハイドンのオペラを聴く機会はほとんど無きに等しいほどでしょう。愛聴するヴァイオリン協奏曲でさえ、モーツァルトに比べるとかなりマイナーな存在。これではいけません。ということで、勇気をもってオペラのアルバムを取り上げる次第。
この「薬剤師」というオペラ、作曲は1768年ということで、シュトルム・ウント・ドラング期の真っ最中に書かれたもの。この年エステルハーザ宮廷歌劇場か完成し、そのこけら落としのために作曲されたもの。筋は薬剤師センプローニオとそのイケメン助手メンゴーネ、恋敵のヴォルピーノの3人がヒロインのグリレッタの心を射止めようとするドタバタ劇。3幕物ですが、このアルバムはCD1枚に収まるコンパクトなもの。音楽はまさにハイドンらしい晴朗、快活で変化に富んだ素晴らしいもの。
指揮者のゴリツキは、ハイドン好きな人の間では知られた人でしょう。cpoからハイドンの弟、ミヒャエル・ハイドンの交響曲集を何枚もリリースしている人。指揮者であり、チェロ奏者でもあるそう。彼のウェブサイトがありましたのでリンクしておきましょう。
Johannes Goritzki
教育者といしてはスイス南部のルガーノにあるイタリア語スイス音楽院やロンドンの王立音楽大学で教えているとのこと。ディスコグラフィーを見ると、ミヒャエル・ハイドン以外にもいろいろなアルバムがリリースされており、ヨーロッパでは知られた存在であることがわかります。
歌手は以下のとおり。初めて聴く人ばかりで、有名どころではありませんが、聴く限り皆素晴らしい歌唱。
薬剤師センプローニオ:ジュゼッペ・モリーノ(Giuseppe Morino)テノール
助手メンゴーネ:ハウケ・メラー(Hauke Möller)テノール
グリレッタ:バーバラ・メザロス(Barbara Meszaros)ソプラノ
ヴォルピーノ:アリソン・ブラウナー(Alison Browner)ソプラノ
テノール2人とソプラノ2人というシンプルな配役。しかも敵役の金持ちな若者ヴォルピーノがソプラノというのが変わった構成でしょうか。ケルビーノのような存在ということでしょう。
Hob.XXVIII:3 / "Lo speziale" 「薬剤師」 (1768)
序曲は馴染みのあるもの。幕が上がる前のざわめきがつたわる快活かつスリリングな入り。録音もキレ良く問題ありません。第一幕は薬の調合をする助手のメンゴーネと薬剤師のセンプローニオとのやり取りから入り、そこにメンゴーネの恋敵のヴォルピーノが現れます。密かにグリレッタの心をつかみたいセンプローニオ、愛し合うメンゴーネとグリレッタ、ライバルヴォルピーノの間のやり取り。軽快かつ滑稽な音楽とともに進むレチタチィーヴヴォ。トラック4の薬剤師センプローニオのアリアはモリーノの朗々とした歌が見事。続いてトラック6のメンゴーネのアリアもテノール版の夜の女王のアリアのような聴かせどころがあり、実に愉快。メラーもコミカルな歌いぶりがなかなか素晴らしいです。そしていよいよヒロイン、グリレッタの登場。レチタティーヴォを挟んで、これまた素晴らしいアリア! なんと美しいメロディーの連続。癒しに満ちた素晴らしい音楽。ソプラノのバーバラ・メザロスはコケティッシュな魅力のある声。つづいてグリレッタと二人きりになって気持ちを打ち明けたものの、あしらわれたヴォルピーノの恨み節のアリア。そして第一幕の最後のメンゴーネ、グリレッタ、センプローニオの三重唱。ようやくメンゴーネとグリレッタの恋人どうしが2人きりになろうとしたところに、センプローニオが入ってきて大混乱。このトラックの音楽、実によくできていて面白い。場面転換の緊張感と3人の美しい歌唱が渾然一体となった素晴らしい音楽。
第二幕はセンプローニオとヴォルピーノがグリレッタの心をつかもうと挽回を企むストーリー。グリレッタは恋人メンゴーネの態度が煮え切らないことに業を煮やし、ヴォルピーノと結婚すると言い出して大喧嘩。その隙を狙ってセンプローニオがグリレッタとの結婚証書を作るともちかけますが、偽の公証人がそれぞれ新郎の欄にそれぞれの名を書こうとして大混乱するという筋。比較的わかりやすいドタバタ劇ですが、これまた音楽が面白くて、一気に聴き進められます。ゴリツキはオペラを得意としているのか、ミヒャエル・ハイドンの交響曲集の時の演奏以上に間の取り方が巧みで、展開の面白さがしっかり描けています。第二幕でもヴォルピーノ、センプローニオ、グリレッタのアリアを経て、最後に4重唱でクライマックスに至ります。ここでもトラック20の4重唱が素晴らしい充実度。ゆったりと始まり、混乱を経て、クライマックスに。
第三幕はいきなりトルコ趣味の音楽から入ります。トルコでペストが大流行して、王様が高額で薬剤師を雇うとの話をヴォルピーノが持ってきて、センプローニオはすっかりトルコに行く気に。すっかりその気になったセンプローニオが、ヴォルピーノの企みにもかかわらず、仲直りしたメンゴーネとグリレッタの結婚をあっさりオッケーしてしまい大団円。最後は愛の神を皆で称えてハッピーエンドという筋です。やはりポイントは入りのトルコ趣味の音楽の独特の表情と、最後の4重唱。ここでもメリハリのある音楽で劇のストーリーがくっきりと浮かび上がります。
ヨハネス・ゴリツキによるハイドンの初期の傑作オペラ「薬剤師」全曲。いまいち地味な存在のハイドンのオペラの入門盤として絶好の1枚です。実に表情豊かなオケに隙のない4人の歌唱。特にアリアの美しさや3重唱、4重唱のなどの音楽の面白さは群を抜いたもの。これはハイドンの交響曲や弦楽四重奏好きな方にも好まれる素晴らしい音楽だと思います。手に入るのは輸入盤のみで、このアルバムに限ってはライナーノーツの歌詞も原語のイタリア語とドイツ語訳のみ。手元の別のアルバムに英語訳があるのでなんとなく筋はわかりますが、この辺が敷居を高くしているかもしれませんね。だまされたと思ってこのオペラの素晴らしい音楽に触れていただきたいものです。評価は[+++++]です。「薬剤師」の決定盤はこのアルバムです。
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