コリー二事件を心に刻む国
夏休みの最後にようやっと映画『コリー二事件』(原題:Der Fall Collini、英題: The Collini Case)を観た。
→https://collini-movie.com/
友人が薦めていただけあって、物凄く奥深い作品だった。今年のマイベスト1だ。
機械工業会社の社長ハンス・マイヤーを見るも無残な形で殺した犯人ファブリツィオ・コリー二(フランコ・ネロ演じる[めちゃくちゃ懐かしい])の罪状を問う裁判で被告の国選弁護人を引き受けたのは、弁護士に成り立てのカスパー・ライネン(エリアス・ムバレク演じる)。しかし彼は殺された男のことを後から知る。幼少のころから世話になり、多大な教育の支援や自動車の贈与(ヴィンテージのメルセデス・ベンツ)も受けていたのだ。
彼は事態に慌てる。それでも、仕事は仕事と、割り切って進めることにする。
しかし、家族同然の間柄(というより恋仲)だった孫娘ヨハンナ(アレクサンドラ・マリア・ララ演じる[ちょっと勝気な美女])からは、恩を仇で返すのかと詰め寄られ、心が揺れ動く。
簡単な事件と思って取り組んでいったが、被告は何もしゃべらない。ドイツの法律に従って、謀殺(残虐な故意の殺人、欲・快楽・人種憎悪といった主観的動機による殺人:このばあいは終身刑になる)として処理されようとしていたなか、彼は、殺されたマイヤーとコリー二の関係を突き止める。
そして知る。ナチスドイツの親衛隊(SS)などによる無差別に殺害というものは、1968年の法令改正(ドレーアー法:秩序違反法施工法とそれに伴う刑法の一部改正法)で謀殺ではなく、故殺(主観的動機ではなく唆されたり、謀殺者の手助けをしての殺人:この場合は5~15年の自由剥奪刑になる)として扱われることになったことを。
「いやあ、その人から殺せと言われたので自分では不承不承殺したのです」という言い訳が通じるようになるのだ。
映画のほうは何とも哀しい結末なのだけれど、観終えたあとに、ああ、こういう他責の抗弁というのが、古今東西、そしてこの日本の政界にもはびこっているなあ、とずっしりと心に重くのしかかった。
「その国との間の戦後処理は、いついつの両国合意で終わったことになっている」
「検事総長にしようと思っていた人が賭けマージャンの常習犯だったとは知らなかったので、みんなに言われて推挙しました」
「だってこんなにコロナが拡散するとは思わなかったので、緊急事態宣言をもう一度出すのは止めておきました」
「生活保護を必要とする弱者がそんなにいるとは思わなかったので、法律の適用を見送りました」
自分の公私のさまざまな場面でも、それと同じようなロジックで、僕も自らの不始末の言い訳をしていたりすることもある。
こんな世の中。この世知辛い現代。
こういうなかに、この作品をドイツ人が作り上げたということの価値はとても大きい。
自らの意思ではなかったという隠れ蓑で言い訳をしている大きな罪から小さな罪まで、今の世の中に依然として蔓延しているあらゆる事柄に警鐘を鳴らすものだと思った。
■スタッフ
監督: マルコ・クロイツパイントナー
原作: フェルディナント・フォン・シーラッハ
脚本: クリスチアン・チューベルト 、 ロバート・ゴールド 、 イェンス・フレデリック・オットー
音楽: ベン・ルーカス・ボイセン
■キャスト
Casper Leinen: エリアス・ムバレク
Johanna Meyer: アレクサンドラ・マリア・ララ
Prof. Dr. Richard Mattinger: ハイナー・ラウターバッハ
Fabrizio Collini: フランコ・ネロ
Hans Meyer: マンフレッド・ザパトカ
Young Hans Meyer: ジャニス・ニーヴナー
Senior Prosecutor Dr. Reimers: ライナー・ボック
Presiding Judge: カトリン・シュトリーベック
Nina: ピア・シュトゥツェンシュタイン
■製作
ドイツ、2019年
■作品トレイラー(ドイツ語版)。
→https://youtu.be/Lm91j2-0CvI
■作品トレイラー(日本公開版)。
→https://youtu.be/pd_E2vNfGKw
→https://collini-movie.com/
友人が薦めていただけあって、物凄く奥深い作品だった。今年のマイベスト1だ。
機械工業会社の社長ハンス・マイヤーを見るも無残な形で殺した犯人ファブリツィオ・コリー二(フランコ・ネロ演じる[めちゃくちゃ懐かしい])の罪状を問う裁判で被告の国選弁護人を引き受けたのは、弁護士に成り立てのカスパー・ライネン(エリアス・ムバレク演じる)。しかし彼は殺された男のことを後から知る。幼少のころから世話になり、多大な教育の支援や自動車の贈与(ヴィンテージのメルセデス・ベンツ)も受けていたのだ。
彼は事態に慌てる。それでも、仕事は仕事と、割り切って進めることにする。
しかし、家族同然の間柄(というより恋仲)だった孫娘ヨハンナ(アレクサンドラ・マリア・ララ演じる[ちょっと勝気な美女])からは、恩を仇で返すのかと詰め寄られ、心が揺れ動く。
簡単な事件と思って取り組んでいったが、被告は何もしゃべらない。ドイツの法律に従って、謀殺(残虐な故意の殺人、欲・快楽・人種憎悪といった主観的動機による殺人:このばあいは終身刑になる)として処理されようとしていたなか、彼は、殺されたマイヤーとコリー二の関係を突き止める。
そして知る。ナチスドイツの親衛隊(SS)などによる無差別に殺害というものは、1968年の法令改正(ドレーアー法:秩序違反法施工法とそれに伴う刑法の一部改正法)で謀殺ではなく、故殺(主観的動機ではなく唆されたり、謀殺者の手助けをしての殺人:この場合は5~15年の自由剥奪刑になる)として扱われることになったことを。
「いやあ、その人から殺せと言われたので自分では不承不承殺したのです」という言い訳が通じるようになるのだ。
映画のほうは何とも哀しい結末なのだけれど、観終えたあとに、ああ、こういう他責の抗弁というのが、古今東西、そしてこの日本の政界にもはびこっているなあ、とずっしりと心に重くのしかかった。
「その国との間の戦後処理は、いついつの両国合意で終わったことになっている」
「検事総長にしようと思っていた人が賭けマージャンの常習犯だったとは知らなかったので、みんなに言われて推挙しました」
「だってこんなにコロナが拡散するとは思わなかったので、緊急事態宣言をもう一度出すのは止めておきました」
「生活保護を必要とする弱者がそんなにいるとは思わなかったので、法律の適用を見送りました」
自分の公私のさまざまな場面でも、それと同じようなロジックで、僕も自らの不始末の言い訳をしていたりすることもある。
こんな世の中。この世知辛い現代。
こういうなかに、この作品をドイツ人が作り上げたということの価値はとても大きい。
自らの意思ではなかったという隠れ蓑で言い訳をしている大きな罪から小さな罪まで、今の世の中に依然として蔓延しているあらゆる事柄に警鐘を鳴らすものだと思った。
■スタッフ
監督: マルコ・クロイツパイントナー
原作: フェルディナント・フォン・シーラッハ
脚本: クリスチアン・チューベルト 、 ロバート・ゴールド 、 イェンス・フレデリック・オットー
音楽: ベン・ルーカス・ボイセン
■キャスト
Casper Leinen: エリアス・ムバレク
Johanna Meyer: アレクサンドラ・マリア・ララ
Prof. Dr. Richard Mattinger: ハイナー・ラウターバッハ
Fabrizio Collini: フランコ・ネロ
Hans Meyer: マンフレッド・ザパトカ
Young Hans Meyer: ジャニス・ニーヴナー
Senior Prosecutor Dr. Reimers: ライナー・ボック
Presiding Judge: カトリン・シュトリーベック
Nina: ピア・シュトゥツェンシュタイン
■製作
ドイツ、2019年
■作品トレイラー(ドイツ語版)。
→https://youtu.be/Lm91j2-0CvI
■作品トレイラー(日本公開版)。
→https://youtu.be/pd_E2vNfGKw
by k_hankichi
| 2020-08-18 06:52
| 映画
|
Trackback
|
Comments(2)
Commented
by
maru33340 at 2020-08-18 09:46
これは本当に素晴らしい映画。
僕も2020年ベスト3入りは確実なり。
僕も2020年ベスト3入りは確実なり。
Commented
by
k_hankichi at 2020-08-18 10:16
maruさん、紹介ありがとう!どの俳優も素晴らしかったし。音楽も良かった。
音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です
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