高校生の頃、NHK-FMで週末に「ウィークエンドジャズ」と言う番組が放送されていた。名前は忘れたが、女性がDJをしていたのを覚えている。当時はブラスバンド部でドラムを担当していたのだが、軽音楽をアレンジしたものやスーザのマーチばかりでつまらなく思っていた。そんな頃にその番組で紹介されるジャズと言うジャンルの様々な曲を聴いて、まさに自分が求めているのはジャズだったんだと言う事に気づいた。地方の純朴な高校生のことゆえ、バンドと言えば何とかのひとつ覚えの如く垢抜けないディープ・パープルのコピーバンドばかりで、ビートルズやイーグルスのコピーバンドなどは、まだしゃれていたほうだった。もちろん周囲にジャズのことがわかる友人などおらず、ひとり悶々と聴いていたが、スティービー・ワンダーの「サー・デューク」のブラスバンド編の楽譜を楽器屋で見つけ、部長にねじ込んでようやくその一曲だけは取り上げさせたのが精いっぱいだった。クラシックの世界ではカラヤンとBPOの全盛期、今から思うと旧東ドイツでもエテルナの名盤が次々と録音されていた時代だが、当時は知る由もなかった。
その番組で明確に記憶に残っているのが、1978年にコンコード・ジャズからリリースされた、白人ドラマーのルイ・ベルソン・クインテット演奏の「レインチェック」と「ザ・ソング・イズ・ユー」の2曲だった。前者はビリー・ストレイホーン、後者はジェローム・カーンの名曲で、ともにスタンダード・ナンバー。イタリア系白人ドラマーのルイ・ベルソンのジャズは、いかにも白人のジャズと言う感じで全く「暗さ」と言うものがなく、どこまでも陽気で楽天的、豪快なノリの良さが感じられ、入門編的にこの曲を聴いたことは、後で思うとラッキーなことだったかも知れない。小遣いの少ない高校生のことゆえ、高いLPをそう気安く何枚も買うのも難しく、FMのエアチェックと言うのは楽しい作業だった。後にCD時代になってから、あちこちでこのCDを探したがどこにも見当たらず、ネット時代になってかなり経ってからでも、このCDを見つけることができなかった。たまたまつきあいのあった大手レコード・ショップに勤める知人にダメもとで頼んでみたら、何か月か後になって、探し当てて持って来て頂いた。こういう時の感激は、ちょっと言葉では言い表せない。ルイ・ベルソンの派手なドラムに加え、テッド・ナッシュのアルトサックスのソロも活きが良い。