夏の日の夕暮れ時。おおかた二週間降り続いていた雨も上がり、ようやく夏らしい黄昏れに窓外の木の緑が、ゆっくりと暮れなずんで行く。この20数年で、玄関先に涼しげな木陰をつくってくれる樹木の枝も大きく伸び、二階の窓先を豊かな緑で覆ってくれるようになった。毎年、落ち葉となって散り積もると日々の掃き掃除が大変で、連日大きなビニール袋が枯葉でいっぱいになってしまうけれども、それでも春夏に目に潤いを与えてくれる大きく茂った緑があるだけで、こころが安らぐ。
酒は、ふだんはあまり晩酌などはしないほうだが、こういう心地よい夕暮れ時には、よく冷えたリースリングとかシャルドネで軽いサンドウィッチで済ませるのもいいけれども、たまにはバーボンでオン・ザ・ロックというのも、懐かしい寛ぎを思い起こさせる。ウィスキーはもうここ20年くらいは、オールド・パーとかバランタインとかのスコッチウィスキーとか、飲み慣れたサントリーのローヤルなんかが定番になっていたけれど、たまには若い頃から慣れ親しんだアーリータイムズやエインシャントエイジの世話になることもある。昔から安くて買いやすいウィスキーの代名詞だった。学生時代によく行った、大阪梅田の「バーボンハウス」という有名なライブハウスなんかに、たまにふらりとひとりで訪れてカウンターのスツールに腰かけて「アーリー。ロックで。」とか注文すると、カウンターの手前にグラスを滑らせる溝が通してあって、その端から店員が「行くよ!」と言ってグラスをこちらに向けて勢いよく滑り出させてくれるのが独特のサービスだった。背の高いグラスは安定感が悪いので不向きだけど、ロックグラスは重めで重心が低いから、こういうのがよく似合ったのだ。まあ、西部劇のオマージュなんだな。
で、そういう時には音楽もやっぱりアメリカンなロックがよく似合って、イーグルスとかドゥービー・ブラザースとかウェストコーストの曲がよく似合うんだけど、もちろん本物の彼らがそんなライブハウスでやるわけではないので、イメージとしてはセンチメンタルシティロマンスという名古屋の老舗バンドとか、憂歌団とかがぴったりな感じだった。
コロナ自粛期間中は、クラシックやオペラは自宅でもあまり聴く気になれなくて、こうした軽いウェストコーストや、ジャズギターに耳を傾けることが多かった。ジャズのなかでもギターは結構よく聴いたほうで、バップの源流のチャーリー・クリスチャンからジャンゴ・ラインハルト、ウェス・モンゴメリーをはじめ、ジョー・パスやグラント・グリーン、ジム・ホール、ケニー・バレル、バーニー・ケッセル、タル・ファーロウ、ハーブ・エリスなんかはLPでよく聴いた。近年ではダイアナ・クラールのアルバムで弾いていたラッセル・マローンなんかが、落ち着いてしっくりと聴かせるタイプで悪くない。ジョン・スコフィールドのような強烈な個性とか粘りみたいなものはあまりなくて、割と正統派でさらりと聴き流せるほうかな。BGM? 以前だと、軽めだとBGMっぽいとかイージーリスニング的だとか文句のひとつも言っていただろうけど、最近は、それも悪くないんじゃないの?と、角が取れて来ているのか。もう何年も前のアルバムで、全編ストリングス付きのスロー・バラードばかりを収録した「ハートストリングス」というCDが Verve から出ていた。バーボンをオン・ザ・ロックでチビチビとやりながらこういうのを聴いていると、心地よく夏の夜が更けていく。