5月のドイツ訪問記も、ようやく月内ギリギリに最後のフランクフルト・オペラでの「ドン・ジョヴァンニ」で締めくくりです。
フランクフルトには以前もメッセに商用で訪れたことがありましたが、オペラは観ていませんでした。フランクフルトと言うと、ビジネス面では大都市であり、ゲーテゆかりの地でもありますが、今まではあまりこの街へわざわざオペラを観にくるまでのモティヴェーションは高くはありませんでした。しかし、昨年の「オペラ・カンパニー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれるなど、近年セヴァスティアン・ヴァイグレが活きの良いオペラを聴かせるようで評価が高まっているのを耳にし、どうせFRA往復なんだから、一度見ておこうと思いカレンダーで確認すると、ちょうど聴きたいと思っていたクリスティアン・ゲアハーハーで「ドン・ジョヴェンニ」があったので、さっそくチケットを購入した次第です。
中央駅から市電でいかにもフランクフルトの下町と言った風情の一画を過ぎると、旅番組などでこの金融街の「顔」として出てくる欧州銀行の大きなユーロの看板が左手の角にみえます。市電の線路と道路を挟んだそのま真向いに、フランクフルトオペラのごく普通の建物があります。劇場内部も素っ気ないシンプルなもので、全面ブルーを基調にした内装は、なんだかつぶれたシネコンの址をそのまま使っているのか?と言うような印象です。平土間を含めて4層馬蹄形の、こじんまりとした印象の内部で、豪華な装飾はほとんどありません。舞台機構も多機能ではなさそうで、奈落もなさそうな印象でした。音響もとても期待できそうにはない雰囲気で、補助的にでもPAを使用しているようにも思えました。フランクフルトと言う都市の大きさと経済規模から見ると、やや釣り合いが取れていないような印象があります。ただ、ホワイエは賑やかな雰囲気で、先ほどの金融街を大きな窓の向こうの景色に見ながら、食事も楽しめるようになっています。ビジネス街の雰囲気も含めて、どうもこの街の雑多な雰囲気は、大阪のキタの雰囲気とよく似た印象を受けます。
ここでは、なにより見ものは実にイキのいい、キレの良い指揮ぶりのセヴァスティアン・ヴァイグレその人でした。この指揮姿をオペラグラスで見ているだけでも、飽きが来ないくらい、近年の若手~中堅クラスの指揮者のなかでは見ごたえのある指揮ぶりで、もちろん音楽も溌剌とした活きの良いモーツァルトでした。近年DVDで出たこのカンパニーの「リング全曲」も話題になったようですが、こうした中堅どころのオペラハウスの活躍も、額縁に入っていない生きたオペラを自分たちでつくる意識が高いドイツならではだと感じました。
歌手は、もちろんゲアハーハーがお目当てではあったのですが、こうした曲では彼ひとりと言うよりはむしろ他の歌手(下記)個々のレベルも高く、優れたアンサンブルとして楽しむことができた。女声三人とも極めて高いレベルの歌唱で、ドン・オッターヴィオもレジェーロな高音で役にうまく合っていた。衣装は古風なもので、クリストフ・ロイの新演出も奇をてらったものではないが、なぜかやたらと主役はじめ歌手たちが平土間の客席の扉から出てきて、通路で歌ったりしていた。ストーリー上、あまり深い意味はなさそうではあるが。
とにもかくにも、5月の3日から二週間、ウィーンからライプツィヒ、ドレスデン、ベルリン、フランクフルトと移動しながら、各地でのコンサートとオペラを無事に予定通り鑑賞することができた。この地で仕事を探し、ずっと暮らして行くと言うのは大変なことだろうとは思うが、仕事の赴任や留学などでで2,3年ほどの駐留で帰って来れるのが、いちばん望ましいパターンかなと思った。勿論、自分は変わらず漂泊の旅行者ではあるが。ビールはとにかく、ヴァイツェンの白ビールがうまくて、そればかり飲んでいた。(これにて2014年5月ドイツ訪問記を終わります。ありがとうございました。)
Don Giovanni Christian Gerhaher Donna Anna Brenda Rae Don Ottavio Martin Mitterrutzner
Komtur Robert Lloyd Donna Elvira Juanita Lascarro Leporello Simon Bailey
Masetto Björn Bürger Zerlina Grazia Doronzio
Komtur Robert Lloyd Donna Elvira Juanita Lascarro Leporello Simon Bailey
Masetto Björn Bürger Zerlina Grazia Doronzio