興奮で震える
2024年 11月 29日
昨夜のキーシンリサイタルは、素晴らしかったです。
ステージに現れた巨匠は、迎えられる拍手を確認して、席に着くなり演奏が始まります。
背中を丸めて頭を上下に振り、フォルテでは背中から腕を振りかざす、まるで子どもが弾いているようなスタイルに、初っぱなから引きました。
なぜなら、そんな演奏スタイルでは、普通は演奏にムラが出てしまうからです。
ところが、そんなことは全くなく、巨匠の思い描くベートーヴェンの世界というより、ベートーヴェンの感情が憑依したような凄みに、徐々に圧倒されます。
最初はその激しい演奏スタイルに閉口して目をつぶって聴いてみたりしていましたが、だんだんにその演奏スタイルにも目が慣れてきて、そしてそれもまた興奮へと導くキーシンの特徴のように思えてきました。
1楽章が終わり2楽章へ移る僅かな隙に、左手で椅子の高さ調整を大急ぎでします。
楽章で高さを変えるのはなかなか見ない光景なので、きっと1楽章の演奏途中に、椅子の高さに微妙な違和感があったのかもしれません。
ちょっと面白い光景でした。
ベートーヴェンの演奏が終わると、一度袖へ下がり再び登場して、次にショパンです。
ショパンの演奏が始まって、思いました。
あんなにも激しく頭を(上半身を)揺さぶっていても、一つもぶれることはありません。
演奏は至って慎重で真面目なんです。
集中が途中で途切れることはありません。
1音1音の繋がりを大切にして、目の前のアクロバティックなスタイルから鳴る音とは思えないくらいに、本当に丁寧です。
そうだ、だからキーシンの音源をよく参考にしていたんだ、というのを思い出しました。
そう、曲に対してあくまでも真摯に取り組むキーシンの演奏。
そして、演奏が終わると、拍手喝采にキラキラの笑顔で応えてくれ、本当にとても嬉しそうなお顔に子どものように無垢な方なのだろうと思いました。
2部はブラームスから始まります。
キーシンの演奏は、とかくゆっくりに感じますが、それは我々の耳が早弾きスタイルに慣れてしまっているからで、演奏を目の当たりにすると、早く弾くだけが凄いんじゃないんだと考えさせられます。
とはいえ、最後のプロコフィエフの迫力ったら・・・。
何かに取り憑かれたように、そして聴いている側もその演奏に瞬きすら惜しむほどに釘付けとなります。
素晴らしい。
演奏が終わると同時にブラボーの声。
拍手が止むことはありません。
拍手に促されアンコールは、3曲。
東京公演では4曲で、プログラムで取り上げた4人の作曲家たちの曲を演奏してくれたようですが、名古屋公演ではベートーヴェンをのぞく3人の作曲家たちから演奏してくれました。
それでもプロコフィエフの演奏のド迫力に皆これで終わりなんだと思ったら、ブラームスで静かに終了。
しかし、あまりのド迫力演奏で、ピアノの弦が限界を超え、アンコール最後のブラームスでは調弦のずれたピアノでの演奏でした。
おそらくは、その音を聴いて「これ以上の演奏は無理だ」と判断されたのかもしれません。
私は・・・
日をまたぐことなく、帰宅できました(笑)。
実は休憩後、2部の始まるときに、田所マルセルさんが客席にいらっしゃったのを見つけてしまいました。
演奏後、ホールを出るとお一人で歩いていらっしゃったので、厚かましくもお声かけさせていただきました。
バイト先ホール自主公演で、マルセルさんに演奏して頂いたときのことを覚えていてくださり、また、私のちょっとしたプレゼントまで覚えていてくださって、なんていい人なんだ!と感激です。
来月、マルセルさんのリサイタルへ行く予定ですので、それを伝えてお別れしました。
一瞬だけの会話でしたが、昨晩の幸せな気分といったら・・・一生分の幸せを味わった気がしました。
夫よ、すまぬ。
さ、来月は、アンドラシュシフとマルセルさんのリサイタルが連日となっていて、またしても体力勝負な月になりそうです。
その前に、明後日の着ぐるみも頑張りましょう。
by gorchan
| 2024-11-29 19:17
| 音楽・芸術・本
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