※ネタバレあっても知らねえ。ぶっ殺すぞ。
本当は一週間早く観るはずだったが、トム・クルーズのせいで一週間遅れた。女に「マーニーとどっちがいいですか? おれは『渇き。』ですが」と打診したら、「調べてみたら『渇き。』がおもしろそう。宮台さんも褒めていたし」と返答があった。なぜ女が宮台真司を信用するのかよくわからない。かといっておれに宮台さんを否定する理由なんてものもありはしない。おれたちは『渇き。』を観に行った。
おれは原作を読んでいる。原作との相違点などが気になる立場といえる。原作の持つ強烈なラーメンの獣臭さが脱臭されていたらどうしようかと思った。役所広司がよくある主人公の一線を越えないようなやつになっていたらどうしようと。
それは杞憂だったといっていい。役所広司は完全にクズでバイオレンスでダーティ・セックスなイカレ野郎だった。車もカローラからグロリアにランクアップしている。悪くない。車がドーンの連発には笑わせてもらった。妻夫木君あたりは原作よりキャラが立っていて愉快だった。理想のマイホーム幻想には、脳内で「なんで大和ハウスなんだ? 大和ハウスじゃないの?」とか聞こえてきて楽しかった。ずばりいいよ、この映画。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』とか見てる場合じゃねえよ。
とはいえ、「暴行」の意味するところでやや甘いかとは思った。原作の……元妻との電話で……一応ぼかしていえば、「ファインディング・ニモだと?」のところだ。「ファインディング・ニモ」だったのか。それに、元妻をやってしまうところで冷たいやつを……というのもある。オダギリジョーの妻子とのシーンについてもやや甘い。ただ、映画だけ観ればそうは思うまい。オダギリジョーの背景についても、さくっと理解しやすいように変更してしまうのも、ありといえばありだろう。
それでも分からない部分はあるだろうな、と思う。一瞬たりとも目が離せないテンポの映画。おれは好もしく思ったが、一瞬目を離したら(離すことができたら)、わけがわからないということにもなりかねない。見ていても、原作を圧縮ないし切り捨てているところもあるので(当たり前だが)、わからんところも出てくるだろう。実際のところ、見終えたあとに女から質問があった。
問・役所広司が警察を辞めた理由は?
……原作に準拠するならば、元妻の浮気相手をドーン→ボッコボコにした件を警察が内々に処理した引き換えに退職という形をとった。映画では冒頭付近で「よく免職にならなかった」云々の台詞があるが、やや説明不足か。
問・いったい役所広司は娘といつまで暮らしていたのかよくわからない。ずっと会っていない、なにも知らないというわりには「暴行」の年齢まで一緒にいたようだが?
……これの答えは、原作準拠ならば「義父の金で手に入ったマンションには嫌悪感があったし、警察の仕事が忙しくてほとんど家に寄りつかなかった」ということになろうか。女に原作本を渡してしまったので確かめられないが。仕事で家に帰れない(帰らない)回想のワンシーンがあってもよかったかもしれない。
問・3年前の「ぼく」がホテルに行けたのはわかるが、役所広司がホテルに行けたのは現実か? 妄想か?
……これは、えーと。ちょっとというか、原作から逸れたところにあるので、まるで自信がないけれども、ヤクザから聞いたんじゃねえのかなあ。
問・真犯人までどうやって辿り着いたの?
……それはまあ、なんというかおれも唐突な感じがしたのは否めない。原作によれば、まだ警察のコネがあるからなんとか、とかしか、むにゃむにゃ。
まあ、そんなところだろうか。そんな些事よりも、役所広司が失った大和ハウスのCM。そして、加奈子の……加奈子の復讐? あれ、なにかここで相違を感じる。最初の最初の死について、そうだったのだっけ。あるいは「暴行」のところについても……。原作本が手元にない。とはいえ、映画の中では一貫している。それはたぶん間違いない。どちらがリアルな加奈子だったろう。よくわからない。ただ、中谷美紀の言うように、ここにもここにも「無い」のだ。映画の加奈子はそうだった。その「無さ」、すなわち「渇き」が周囲の人間を引きずり込んでいく。引きずり込まれる人間もなにかが足りない人間たちだ。救いがない世界に救いがない。悪くない。
でんぱ組.incを聴きながらこれを書いている。やはり劇場で観ておいてよかった映画だと思い返す。圧倒的なスピードで引きずり回される。ノンストップ。ややスタイリッシュすぎる気もするが、それはそれでいい。もっとどっろどろの可能性もあったが、回想を含むボリュームを考えたら、こいつはミラビリスに処理されている。今からでも遅くはない。原作先だろうが後だろうが、とりあえず観られるうちに観ておいて損はねえよ。ねえよ、たぶんな。
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