そのころ、街には靴の修理屋があった。
そのころ、街には修理されるに値する靴があった。
そのころ、街には修理されるに値する靴を履く男たちがいた。
そのころ、街には修理されるに値する靴を履く女たちがいた。
今ではもう、街には靴の修理屋がなくなってしまった。
今ではもう、街には修理されるに値する靴がなくなってしまった。
今ではもう、街には修理されるに値する靴を履くに値する男たちはいなくなってしまった。
今ではもう、街には修理されるに値する靴を履くに値する女たちもいなくなってしまった。
おれは安い靴を履いて、ずったらずったら街を歩いていく。
おれには靴の修理屋は無用。
おれにはなにかに値するものがない。
おれはただひたすら、安い靴を引きずって歩いていく。
そのころ、美しい靴に値した道があった。
そのころ、街は美しかった。
そのころ、街には靴の修理屋があった。
そのころ、街には靴を修理する人間がいた。